「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
才能の有無・・・・・・・Nocturnal Emissions


4thのジャケット。タイトルだけはいつもちょっと気が利いてるのに、中身はどれもサッパリなのが特徴(笑)。

 ・・・・・・いやはやなんとも、ぶっちゃけこうして一稿を割くべきかどうかさえも迷ってしまうナンギな存在がノクターナル・エミッションズ(以下NE)なのである。アタマに”The”は付いたり付かなかったりするが、付いてない方が多いかな。

 とは申せ蓼食う虫も好き好き、好きな人にはゴメンナサイ、っちゅうしかない。しかし、おれ的にはノイズ/インダストリアル系の連中の中では名前通ってるワリにしょうもないんの筆頭格がNEではなかろうかと思ってる。後はまぁMBことマウリツィオ・ビアンキかな?このしょうもなさもまぁヤバいほどに凄まじい。

 NEは要するにスロビング・グリッスル以降、雨後の筍のようにボコボコ現れたフォロワー/エピゴーネンの一つである。「ポスト・インダストリアル」等とも総称される一群の音だ。シンセ、リズムボックス、テープコラージュなんかをベースにした暗くて思わせぶりな音を作って、とにかく不吉で縁起でもない荒れたモノクロのジャケットに収めてハイ!いっちょアガリ!みたいなお手軽さがウケに受けて、伝染病の蔓延の如く世界中に広まったのだ。
 結成時期はハッキリしないが多分、80年前後だろう。ナイジェル・エアーズっちゅうニーチャンとそのアニキ、後にアニキのヨメになるキャロライン・Kってネーチャンの3人、と何がインダストリアルやねん!?家族の内職そのものやんけ!(笑)みたいなメンツで始まったが、数年後にはほぼナイジェルのソロプロジェクトになってたんとちゃうかったけかな?
 名前の意味は「毎晩の射精」・・・・・・いやもぉ苦笑してしまうくらい、実にベタで直截なネーミングですわ。TG好きだったんはよぉ〜く分かるけどさぁ、ミーハーにも程がある。もちょっとヒネリとか思い付かんかったモンなんかねぇ。

 ・・・・・・っちゅうか、このベタさ加減、ツメが甘いどころかそもそも「ツメって何ですのん?」みたいな、何とも一味足りないアバウトな感じこそが、NEのある意味真骨頂なのかも知れない。この点で極北の存在と言える(笑)。今回はそんなNEについて。

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 彼等の音楽には「意外性」や「切り返しの妙」みたいなモノがこれっぽっちも感じられない。そりゃまぁ腐ってもノイズなんだから、当然そこそこやかましいんだけど、どれだけ聴き込んでもハッとさせられる点がいっかな見付からない。ひたすらダル・・・・・・だからってドゥーム系みたいな極端に遅いテンポとかそんなんではない。決して垂れ流しでもなく、一応どころかかなり楽曲として構築的にやろうとしてるフシは伺えて、ツクパカツクパカ♪賑やかにリズムボックスが鳴ってたり、それなりにギャーギャー喚いてみたり、ハーシュノイズでキーキーガーガーやったり、テンポ速かったり、あれこれ工夫はしてるみたい・・・・・・なのに、少しも感心するところがない。半分寝惚けながらノイズミュージックを作りました〜、みたいなユルさが全編に漂ってるのだ。

 要するに「毒」とか「キレ」っちゅうんが無いのである。毒やキレの定義ってひじょうにむつかしいんだけど、まぁ「一瞬でも良いから人を惹き込ませる何か」とでも言うしかなかろう。

 何がそんなにダメなのか?まずはハヤリの後追いに終始してオリジナリティに欠け、広がりが感じられないことが挙げられる。1stの”Tissue of Lies(嘘の塊)”や2nd”Fruiting Body(子実体)”は、TG”2nd Annual Report”にキャブスっぽいチープなリズムボックスを咬ませた「だけ」のヘナヘナのアプローチ。もぉちょっと独自色を盛り込むなり、ズバッと思い切って暴れてりゃぁちったぁマシだったろうに、ヘンにちんまりと行儀良く収まってるのが弱々しくて情けない。
 こらアカンわ〜って我ながら思ったか、あるいはハーシュノイズ/パワーノイズの台頭にアテられたか、3rdの”Drowning in a Sea of Bliss(祝福の海に溺れて)”では、モロにWhiteHouse/ComOrgっぽい方向に一部シフトはしてみたものの、やはり思い切りが悪くて中途半端さだけが印象に残る。ハーシュなんてチョコッと取り入れたって仕方ないやん。これなら本家聴いた方がエエって誰だって思う。
 それでハッちゃけようとでも思ったか、4th”Viral Shedding(ウィルス排出)”ではラテンとノイズの果敢な融合を試みたりもする・・・・・・なるほど、アイデアとしては面白い。面白いが、音楽として優れてるかどうかは無論、別物である。結果としては単に珍妙なネタに留まったのが如何にも彼等らしい。でも、この4枚目は今聴くとそれなりにヴァリエーションに富んでて、見事なまでに駄作揃いな彼等のアルバムの中では一番面白いと思う。
 もぉちょっと落ち着いて作り込めば良いのに、と要らぬ老婆心を出したくなるが、粗製濫造気味に同年、5th”Befehlsnotstand(なんか法律用語みたい)”をリリース。メタルパーカッションが流行り出した、ってコトでSPKのマネっぽいのが加わる一方で、ノイズでレゲェみたいな無茶もやっててちょっと楽しい。さらに矢継ぎ早にカセットアルバムとかも出してたんとちゃうかなぁ?・・・・・・当時はそもそも流通量の知れてる自主制作の中でも、特にカセットテープでのリリースはさらに本数が少ないから極東の日本では入手困難で、おれは聴いてない。たしか懇意にしてたレコード屋に1本だけ入荷したものの、金なくてどぉしよう?って思ってるうちに売れちゃってた気がする。
 ともあれ、生地をチャンと捏ねてない饂飩がボソボソで美味くないのと同じ伝で、この「作り込みの不足」こそが彼等の2番目のダメさだろう。まぁNEだけでなく、この当時ノイズ系の連中はどんな理由があったのか、ドイツもコイツも概して多作だった。思い付きをシャッと録音してパッとリリースする、みたいなんが多かったんだが、そんな瞬間芸でアタマ一つ抜け出すには、やはりセンスってモンが不可欠なのだ。

 そんなこんなで今度は12インチ”No Sacrifice/Uprising”がリリースされる。たしか能書きに「どこやらの炭鉱労働者の闘争に連帯して」みたいなことを謡ってはいたが、中身は?っちゅうたら、一足先にディスコ路線に転向してそれなりにメジャー進出を果たしてたSPKが羨ましかったのか、同じようなダンスミュージックへの華麗なる転身・・・・・・とは彼等のことだから出来るワケもなく(笑)、”Metal Dance”の恐ろしく野暮ったい劣化コピーみたいな出来栄えだった。
 いやホンマ、買って帰ってプレイヤーに針を落としてパッパパッパパパ♪パッパッパァ〜ッ♪っておめでたくも何の工夫もないシンセのリフが流れ出した時、おらぁステレオ引っくり返したくなったもん(笑)。デンデンデンデン♪ダンダンダンダン♪ドンドンドンドン♪ドッドッドッドッ♪ってアホみたいなリズムボックスのフィルインのセンスがこれまたヒドい(笑)。”Metal Dance”と聴き比べてみると、才能の有無ってのがどれほど露骨で残酷なモノであるかお分かりいただけると思う。「雲泥の差」とか「月とスッポン」とはこぉゆうのを言うんだろうなぁ〜・・・・・・それでもまぁ余りにヒドすぎてここまで鮮烈に脳裏に刻まれたんだから、それなりに傑作なのかも知れない(笑)。

 ともあれ無性にバカバカしくなって、これを最後におれはNEに付き合うのを止めた。無能に対して高いお布施払って(・・・・・・輸入盤代のコトね)も時間と金のムダだ。見限った、っちゅうこっちゃね。そうして30何年が過ぎた。

 それが・・・・・・何とまぁ未だに現役でやってたりするのである。

 この世代のしつこさには実に恐るべきものがあって、新作のリリースは2006年頃を最後に途絶えてるもののノクターナル・エミッションズとしては一応は継続中で公式サイトもあるし、どうやらデジタル・サンプリングに目覚めたみたいで、ナイジェル・エアーズの本人名義でDAWのループ音源なんかもリリースしてたりする。しばらく前、宅録にハマッてた時に楽器屋で見付けてのけぞるくらいに驚いた記憶があるが、手を出す気にはついぞなれんかった(笑)。何本売れたんだろうねぇ???他にも何かサントラに参加したり、楽曲を舞台に提供したり、マコトに御同慶の至り、本国ではそれなりにマイナー界の大御所になって活躍してはるみたいである。

 機を見るに敏で、無節操かつミーハーにトレンドを追っ掛け、貪欲に取り入れはするものの決して先見性はなく、まるでハンミョウのように流行の3ヶ月だけ先(笑)をチョロチョロ行くようなダサさやショボさには、ちょっと近田春夫を思い出させるものがある。そう、ナイジェル・エアーズって、ノイズ/インダストリアル系の近田春夫みたいなモンなんだろう。

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 才能ないだのセンスないだの散々ボロクソにディスっといて今更言うな!って言われそうだが、その楽曲の数々はどうにも好きになれない一方で、そうして大好きなコトに没頭して、ひたすら粘り強く邁進し続けるナイジェル・エアーズのアティテュードそのものはケッコー好きかも知れない。何か本人の近影見ても、こぉゆうジャンルの人にありがちなトガッてイカれた雰囲気ではなく、無邪気な子供みたいに物事に夢中になってる良い人っぽいカンジがある。継続は力なり、虚仮の一念岩をも通す、好きこそものの上手なれ、もう年齢も60代も半ばくらいで今更鞍替えするワケにも行かんだろうし、いつか大きなヤマを当てる日を夢見て頑張ってくださいね。

 ・・・・・・って、「アンタ、才能無いんだからさぁ〜、もぉ好い加減諦めて止したら?」って親切な誰かが引導渡してやれや、って気もしてるんだけどさ(笑)。


後世に残る駄作ではないかと思う(笑)12インチEP、”No Sacrifice/Uprising”

2020.12.13

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