「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
「TRAP SET」へまっしぐら


その後スリンガーランドに買収されたリーディの1930年代製セット。

同じく1930年代のラディックのセットらしい。

https://www.pinterest.jp/、http://vintagedrumstalk.com/より
 何でも頑張ってみるモンだなぁ〜、ってつくづく思う。

 ホンの少しづつながら、タイコは上達してきている。そんなダブルだとかダウンアップだとかの高等テクニックは使えないにせよ、まぁまぁキックとスネアとハイハットの組み合わせで8ビートを色々叩けるようにはなって来た。ただ、根気とスタミナがないんで淡々と何十分もリズムをキープする、ってのができない。もしタイコでバンドやるんなら1曲2分以内だな・・・・・・でもハードコアとかテンポの極端に速いのは無理だし、どうしよう?(笑)

 で、最初は20BD−12TT−14FTのひじょうにシブい3点セットからだったのに、16のフロアを見付けたあたりから自制心のタガが外れ始めて、暴走が始まってしまった。あ〜ぁ、もぉ引き返せない。今日は軽くそんなハナシだ。

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 恐ろしいコトに、セットはすくすくと成長を続け、ちょっともぉ収拾の付かない大変なコトになりつつある。ヴィジュアル的にハードロックの王道である1バス1タム2フロアの基本形まで崩す気はないとは申せ、コチャコチャしたのがあれこれ増えて、シンバルだってハイハットにライド、クラッシュ2枚でスッキリ・シンプルに行くはずだったのがあにはからんや!シンバルホルダを追加したことで小物趣味が顕現してしまったのである。

 今の構成を列挙すると20BD−12TT−14・16FTの4点+14×5スネアって基本に、現品処分特価だった10×6インチのサイドスネアとディスコンで投げ売りになってた6+8のタマのミニティンプってのがくっ付いてる。シンバルも14HH−20R−16・18CRは基本だからまぁ良いとして、ハイハットの上にはボンゾばりのハイハットタンバリン、タム側の16クラッシュの上には裏返しで仏壇の鈴みたいな音のする6スプラッシュ、18の上にはエクステンションロッド増設してトラッシーな8のスタック、そいでもって正面には安物でコワ〜ンっちゅうばっかしで全然パシュッとヌケてくれない10スプラッシュなんかがシンバルホルダにセットされてる。ついでに言うと、ミニティンプが押し込まれたせいで、シングルタムなのにライドシンバルは右端に押しやられてしまった。
 つまり叩くところが16ヶ所もあるワケだ。シンプルな3点セットにライドとクラッシュ1枚づつ(ビートルズのセットみたいなのね)なら、タイコが4ヶ所、金物3ヶ所で7ヶ所だから2倍以上、チャーリー・ワッツはクラッシュが一枚多いから8ヶ所で2倍ちょうどである。

 ・・・・・・明らかに多過ぎる。自分の技量を考えるとこれはもぉ神をも畏れぬ大罪に近い。手も足も2本づつしかないのに、嬉しそうにこんなに並べてどぉすんねん。
 オマケにミニティンプみたいなオモチャにまでサイレントのメッシュヘッドを張るのもアホらしくてそのままにしたから、叩いててスゴく音量バランスが悪い。メインのバスドラやスネアの音はひじょうに小さいのに、陽気なラテンパーカッションみたいな音のこれだけデカいのである。シンバル類もそうで、メインは細かい穴の開いたサイレントにしたが、スプラッシュ類はそのままなので、要は本来控え目なアクセントに使うべき音色の方が遥かにデカい、っちゅうねじれて異様な状態になってる。これを文字に起こすと以下のようなカンジだ。

 ドンタン♪ドドタン♪ドンタン♪カカカカコンココ♪シャーン♪チーン♪バンッ♪コワ〜ン♪

 ・・・・・・最早発狂したチンドン屋に近いで、これ(笑)。

 ロクに技術が備わってないのに多点セットにすることには、実際リスクもある。叩いてて「次ドコやったっけ!?」って迷いも出るし、極端な小径はミスヒットしやすいし、さらには置かれた場所と身体との距離の遠近も増える。これらは全て僅かながらモタッたりハシッたりしてリズムが崩れる原因となるだけでなく、それがヘンな手クセになって身に付いてしまいがちでもある。自分で叩いてて分かるんだから、人サマが聴いたらもぉボロボロだろう。
 まずは限られたヒットポイントを正確なテンポとリズムでなるだけバラつきの出ないように均一に叩く・・・・・・実はこれがスゴくむつかしく、そして大切な基礎だ。アクセント付けたり、タメ効かせたりして叩くなんて二の次三の次だ。まずは基本のジャストビートの習得が必要だし、それには粘り強い練習が必要なのである。初心者向けキットがシンプルなセットになってるのはそれはそれでワケがある、ちゅうこっちゃね。分かってはいたんだ、いたんだよ。

 でもさぁ〜、おらぁもぉ別にミュージシャン目指してるワケではないんっすよ。ボケ防止のための老いの手遊び・・・・・・とまで卑屈になっても仕方なかろうが、まぁ自分が愉しめたらそれで良しなのである。求道的になる必要はどこにもない。それにおれって生来の小物フェチなんだから、チマチマとあれこれくっ付けたくなるんです。

 挙句の果てにこの良く分からないセットが出来上がりつつある。ミニティンプなんてハイハット側に置き場所ないから、タムとフロアタムの間にセットされてて、左手の音の高い方から右の低い方に並べる、っちゅう原則からはハズレまくりになってたりする始末だ・・・・・・まぁ、その分カウベル代わりに叩けたりもするんだが。
 いやマジ、音的にもガムテでミュートした大きいサイズのカウベルにちょっと似てるんですよ。これの4ツ打ちにシンプルなキックとスネア絡めるとグラファンとか70年代バンドがやってたような曲のイントロがすぐできて楽しい・・・・・・何のハナシやったっけ?(笑)

 ・・・・・・そんなこんなで最近になって、いささか開き直り気味な疑問に至った。

 それは、一般に流布され、おれ自身も何となく信じ込んでた「シンプルで古典的なセット」っちゅうのんが、そんなホンマに伝統と格式に裏打ちされたモノなんだろうか?ってコトだ。さっきも名前を挙げたビートルズやストーンズ、あるいはヴェンチャーズのセットのイメージが原初の姿だって、おれたちゃ勝手に思い込んでるんぢゃないか?ってコトだ。だって、もちょっと時代的に古いバディ・リッチとか、かなりの多点セット叩いてたりするし・・・・・・。
 それで気になって持ち前の検索癖を発揮してググリまくってるうちに、おれは「TRAP SET」って存在に辿り着いたのだった。

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 一人であれこれ叩けるようにタイコや金物が組み合わされるようになってまだ100年ちょっとらしい。それぞれのタイコやシンバルには相応の古い歴史があるが、アウトフィトのセットとしてはまだまだ楽器の世界では新参者なのである。ちなみに何でそうなったかっちゅうと、一人で叩いた方がドサ回りのステージでギャラの取り分が多くなったから、っちゅうセコくも切実な理由があったんだそうな。口減らしツールやったんやね、ドラムセットって(笑)。
 そうしてそれまではリズム隊っちゅうたら幼稚園の合奏みたいに何人かで演奏するのが普通だったのが、特にバスドラを足で踏めるキックペダルをラディックが開発したことなんかをターニングポイントにして現在のドラムセットの源流みたいなのが出来た。これが1900年代初頭のコトらしい。ハイハットはもちょっと遅くて、日本で言えば昭和の初めころに登場した仕組だったりする。何とこれもラディックの発明。やるやん!ルードヴィッヒ!
 こうして現代に繋がる近代的なドラムセットのスタイルにちょっと近くなった・・・・・・が、今のバスドラ・タム・フロアタム・スネアって基本形になるまでにはまだ20年くらいを要した。で、そんな現代的スタイルが出来上がるまでの、あれこれ試行錯誤してた黎明期・過渡期のドラムセットのことを「TRAP SET」と呼ぶのである。年代にすると遅くとも1940年代くらいまで、つまり大方「プリ・ウォー」なんて呼ばれる戦前の時代のハナシですな。

 それはともかくトラップセット、見てるともぉこれがメッチャ自由で楽しいんですわ。何でもアリアリアリのアリ、喰いタン・後付け・赤五・花牌の世界やね(笑)。

 まずは冒頭の1枚目の画像を見てほしい。こんなんが1930年代のちょっと豪華なドラムセットの姿だったりする。タム、どこにあります?木魚並んでますやん(ちなみに木魚って英語でもマンマ”Wooden Fish”って呼ぶ)。ハイハットは既に今に近い形して立ってるけど、スネアはなんぼレギュラーグリップの時代だったとは申せメチャクチャ傾けてセットされてるし、シンバル小さいし、フロアタムのあるべき場所には祭の和太鼓っぽいのが立てて置かれてある・・・・・・って実はこれ、「チャイニーズ・タム」って呼ばれる中国からの輸入品だったみたい。どうやら初期のドラムにはオリエンタル志向みたいなんがあったようだ。
 2枚目は別のセットだけど、プレイヤー側から見た状態。ウッドブロックにカウベル、トライアングル、さっきのより小さいデンデン太鼓みたいなチャイニーズ・タムが2ケ、相変わらず木魚もあるし、シロフォンまである。そしてスネアはやっぱし傾き過ぎだし。
 要は思い付くままに色んな叩く系の鳴り物をかき集めたようなのが原初のドラムセットだった、ってコトだ。もっと言うと、鳴ってとにかく最低限の拍が出せれば何でも良かった。現代のようにドラムとベースがリズム隊に特化して腹に響くビートを前面に打ち出して機能するっちゅうスタイル以前は、バンド全体のグルーヴみたいなのがまずあって、その一員としてドラムが存在してたから、ちょっと今とはタイコの役割とか立ち位置が違ってた、ってのもある。だからSE担当的な役割もかなり担ってたみたいである。

 ともあれ、トラップセットの無節操な賑々しさからすれば、おれのセットなんてまだまだ甘い。全然足許にも及ばない。児戯に等しいレベルだ。

 ただトラップセット、見てお分かりの通り何だかチャチだし、統一感なくてバラバラだし、チューニングできるのがバスドラとスネアしかない。リベットで張られた和太鼓の皮は湿度の変化に弱いのにチューニングできないし、それどころか皮が破れたら交換するのも一苦労だ。こんなんぢゃ何かあったら仕事にならない。だから、現代のようなタムタムやフロアタムが発明され、取って代わられてったのである。ちなみにチューニングできるタムやフロアタムを最初にリリースしたのは、「DUPLEX(デュプレックス)」ってメーカーで、1940年前後のコトらしい。

 結局、ドラムで今の3点セットみたいな形が確立したのはもっと遅く、戦争が終わってしばらくした1950年代初頭あたりからのコトなんだけど、シンプルな形になったのにはこれまた合理的なワケがいくつかある。
 1つはプレイヤー側の事情だ。戦争も終わって街が歓楽の賑わいを取り戻す中、ミュージシャンたちもあっちに呼ばれこっちに呼ばれと忙しくなって、それで準備や片付け、メンテナンスがしやすく、壊れにくくて丈夫な道具が求められる中で自然と定まってったのである。もちろん、従来の多種多様過ぎる音色が、モダンジャズやロックンロールで求められる「反復するビート感」にはあまり必要とされなくなった、ってな音楽的理由も若干はあるだろうが。
 もう一つにはメーカー側の都合もある。いろんなサイズ作るにはそれだけ合板をプレスする窯の型が必要だし、フープとか金物の種類だって沢山必要になるし、もちろん工程だって複雑化するだろう。そしてそれらはすべてコストに跳ね返る。それは戦後の西側諸国に到来した空前の大衆化と消費社会にはいささか馴染まない。まずはバンバン作ってバンバン売らねばならない。だから言うなれば20−12−14の3点セットとは超の付く規格品、時代は少し異なるが、ドラムにおけるT型フォードみたいなモンだったのだ。 タムやフロアタムはそうした合理主義の産物、ってコトである。バスドラやスネアと同じ構造で、同じようにチューニング出来て便利やんか、と。
 特に50年代の半ば過ぎくらいに、現在でも世界のトップブランドであるレモが出した、プラスチック製の皮である「ウェザーキング」がそんな流れをさらに後押ししたと言えるだろう。その名は、天候によって伸び縮みせず安定してるから「天気の王」って付けられたのだ。オマケに従来の天然素材と違って工業的に安く大量生産が可能だし、丈夫で破れにくいと来てる・・・・・・もぉ、作るのに手間暇かかるわ、輸入するまで時間掛かるわ、取引相手は共産主義の敵国になっちゃってるわ、さらにはメンテも大変な木魚や和太鼓(・・・・・・クドいようだが、正式には「チャイニーズ・タム」、ね)に出る幕はなかった。

 こうして見て行くと、おれたちが勝手に思い込んでた、「基本形であるシンプルな3点セット」が現代の多種多様で時に満艦飾なタイコに複雑化してった・・・・・・ってな流れの認識はまったくの間違い、元々はゴタゴタしてたのが第二次世界大戦を挟んで、音楽の大衆化と共に工業製品としての規格品の画一的な明快さを身に付け、そしてまた元のゴタゴタした感じに戻りつつある、っちゅう認識が正解だろう。
 また、おれたちが古典的でシブいと思ってるこのミニマムな組み合わせは、当時の若いミュージシャンからすれば全然逆、時代の最先端を行く合理的でクールなモノに映ってたのだ。

 ここまでクドクド書けばもぉお分かりだろう。おれのドラムセットがだんだんややこしくなってったのは、むしろその原初の姿に戻って行こうとする自然な流れだった、ってコトを・・・・・・言い訳もここまで理論武装すると楽しいな(笑)。
 「TRAP」とは「罠」ではなく、「CONTRAPTION」のスラングらしい。その意味は「ヘンテコリンな仕掛け」なんだそうな・・・・・・しかし今のおれは罠にかかった獲物のように、完全にこの奇妙だけど自由闊達な組み合わせの魅力に捕らわれてしまってたりする。

 ・・・・・・実は以前台湾に行ったときに買った、赤い胴のタイコが棚に転がってる。若干サイズは小さいし、土産の安物でプラボディだけど、見た目は正にヴィンテージのトラップセットに付いてた赤い胴のと瓜二つだ。あぁ、オリエンタルっちゃぁモロッコ土産に貰った「カルカバ」っちゅう鉄のカスタネットもある。これまた土産用の粗悪品でガッシャンガッシャン、実に風情のない音がする。
 かめへんかめへん!全然十分!こいつらもセットに組み込もうか?組み込むにはしかし、何かエスカッションみたいなんが必要だしどうしよう?・・・・・・目下あれこれ思案中だったりする今日この頃だ。



【※附記1】
60年代くらいまでのドラムのカタログを見てると、ちょっと上級グレードのセットにはカウベルとウッドブロックがセットに組み込まれてることが多い。これまでおれは、上手くなってラテンとかやることを考えて付けてあるのかな?って思ってたが、どうやらこれはトラップセットの退化した名残、ってのが実態らしい。
【※附記2】
その後さらに調べたところ、木魚については日本製だったみたいである。中国大陸も当時、日本が占領してたし、ひょっとしたらタムやフロアタムが生まれた背景には、第二次世界大戦でアメリカへの輸入が途絶えたことが大きく影響してるのかも知れない。もし戦争がなかったら、今でも木魚はフツーにバスドラの上に並んでたりして(笑)。


昨年、107才の天寿を全うした、近代ドラム史の生き証人にして元祖女性ドラマーの一人・ヴァイオラ・スミスの若い頃の雄姿。
トラップセットが現代のドラムセットに移り変わってく過程が何となく分かる・・・・・・しかしとんねるずの遥か昔に「白い和太鼓」があったとは!(笑)。

https://janejanejane.com/より

2021.01.15

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