「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
フレットレスの誘惑


初期ポリスではフレットレスの8弦、っちゅう変態仕様を使ってたスティング。

https://www.12stringbass.net/より

 一度は挑戦してみたいなぁ〜って思いながら結局ズーッと手を出せないままになってる楽器の一つに、フレットレスベースがある。

 ウッドベース(コントラバス)見たら分かるように、ベースっちゅうのは本来フレットのない楽器なんだけど、ことエレキベースに関しては、元祖はフレット付き(フレッテッド)だったりする。若干形を変えながらも今なおフェンダーの定番中の定番モデルである「プレシジョン・ベース」がそれで、フレットが打たれてるのが標準仕様だった。誰でも容易に正しいピッチで演奏することが出来るのを売り文句に「プレシジョン(精度)」って名前になったのだ。レオ・フェンダーってホンマ常識や習慣に捕らわれない自由な精神を持った、近代の電気楽器の世界に於ける真のイノベーターだった。

 そんなんでエレキベースの世界ではフレットがあるのが逆に常識になってったんだけど、再びそこに革命家が現れる。言うまでもなくジャコ・パストリアスだ。何とまぁわざわざペンチでフレットぶっこ抜いて、フレットレスには向かないと言われてたラウンドワウンドの弦張って、でもそのままだとゴリゴリ指板が削れちゃうからってんで硬化樹脂を分厚く塗りたくって、さらには何故かピックガードを取っ払ってカスタマイズしたサンバーストのジャズベースはそれまでのベースの常識を覆した。
 フレットを抜いた跡の線やポジションマークが残るので、のっぺらぼうな指板よりも格段に押弦が容易になるメリットがある。誰の証言だったか忘れたけど、どっかのステージにジャコが飛び入り出演した時、たまたま楽屋に誰かの器材でツルンとしたネックのベースとフレット付きと2本あって、みんなてっきり前者を手に取ると思ってたら、そっちは一顧だにしなかった、ってエピソードを読んだことがある。
 余談だが、このあまりにも有名なベース”Bass of Doom”は、精神疾患に加え、ドラッグやらアルコールやらで悲惨を極めた最晩年、前後不覚になって大暴れした勢いでバキバキにぶっ壊しちゃったらしい。まぁもぉ本人もかなり病んでバキバキに壊れてたんだろう。没後、凄腕リペアマンによって修復され、現在はメタリカのベースの人が預かってるみたいだけど、どんな感じなんかねぇ?
 さらに余談だが、このネックは元は別の黒いジャズベに付いてたのをサンバーストのとスワップしたもので、その残った片割れの方は現在、世界有数のジャコパスフリークで知られる歌舞伎役者の中村梅ジャコ、こと梅雀が所有している。歌舞伎役者なんだからお金持ちだろうに、それでも購入を躊躇、逡巡しちゃうくらいの大枚叩いて入手したらしい。ちなみにこの人、実はジャズ・フュージョン系ベーシストで食ってけるくらいに巧い・・・・・・っちゅうか生まれたんが歌舞伎の家柄だったんで、仕方なくその道に行ったんだとか。

 個人的に衝撃的だったのは、スティングが初期ポリスで使用してたフレットレスの8弦ベースだったな。当時は複弦ベースがちょっと流行った時代だったとは申せ、フレットレスにそれ、っちゅうんはかなり異様な感じがした。
 最初期はエンドース契約でもあったのか、まったく似合わないエクスプローラーシェイプのハマー製、その後はイバニーズのを使ってた。仕様的にはグレコの”GO”と同じヤツ。彼はジャズ畑から上がって来たせいで、どうやらノッペラボウタイプの指板が好きみたいだ。しかし当然ながらポジションは取りにくいし、さらにはロングスケールの8弦だと押弦しにくい。そんなんを何とピック弾きでピョンピョン飛び跳ねたりしつつ歌いつつ弾きまくるのである・・・・・・まぁ、実は使う音数はワリと少ないし、同じパターンの繰り返しが大半だし、比較的、感覚を掴みやすいローポジションが主体でのフレージングなんだけどね。
 ともあれそれであのパンキッシュで疾走感溢れる(・・・・・・実際かなりツッコミ気味な、笑)ポリスでの演奏を行ってたワケだ。ゴリゴリと単音8分とかもフレットレス。それまでフレットレスなんてジャズとかそぉゆうカテゴリーの人がボヨォ〜ン・ブニョ〜ン、ペボボボってハッキリしないアタックでメロウに弾くもんだと思い込んでたガキの蒙を啓いてくれた、っちゅう点で忘れられない。
 近年はオリジナルの57年のプレシジョンとかフレット付きを弾くことが増えたけど、おれのイメージはやっぱし80年前後のフレットレスのイメージのままだ。

 こうしたミュージシャンを見てて、おれの中には「エレキでフレットレスベースって何かスゴく革新的でカッコいいモノ」って刷り込みがされちゃったんだろうと思う。

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 さて、おれは技量面で言うとベースは弾けなくはない、ってなナサケないレベルだ。指弾きなんてのもロクに出来ない。当然ながら今で言うところのスラップ、昔で言うチョッパーも出来ない。そもそもベースはベースっちゅうくらいで、低音出てナンボと思ってるからヤル気もない(笑)。4弦でさえそんな体たらくだから、5弦や6弦といった多弦ベースなんて手を出そうとも思わない。フツーにオーソドックスな弦4本のを、ギターで使ってるジャズタイプよりは大きな尖ったオニギリピックでデンデン弾くのが関の山なのである。
 強いて言うなら、弦の数が少ないせいなのか、フレットの間隔が広いせいなのか、ベースだとどの弦でもすぐに音程が分かるのが若干のアドヴァンテージかも知れない。この辺が根本的におれのアタマの悪いトコで、ギターは何年経っても各弦での音程がすぐに出て来なかったりするんですわ。

 そんなんで何がフレットレスぢゃ!?百万年早くってよ!ってディスられることは百も承知の上で、やっぱしちょっとやってみたいなぁ〜、って思ってしまうのだ。思うのは自由だから許してくださいな。
 実際フレット付きに較べると、フレットレスはキチッと音程のポイントを指で押さえないとアカンので、その分むつかしい。ちょっとズレると音程が#したり♭したりしてキモチ悪いのだ。そらまぁスケールの短いヴァイオリンなんかよりはまだちょっとはアロワンスあるかな?とも思うが、やはりハイポジションになるほどに正確な運指と押弦が必要になって来る。

 一方でメリットもある。かなり弦高を下げられるんで何となくネック握ったカンジでは弾きやすく感じる、グリッサンドやスライドが滑らかで柔らかく綺麗に聞こえる、少々ネックが反っても指板の樹脂を重ね塗りしたりして補正できる(笑)・・・・・・等々。さらにはおれにゃぁ逆立ちしてもムリだけど、耳とウデの良い人ならば、純正率を意識して弾く、なんてぇ高等テクニックを披露することだって出来るだろう。
 当然ながらおれの場合、のっぺらぼうタイプの指板ではなく、ジャコパスのようにフレットマーカーが入ってるのが必須条件になるのは間違いない。ただ厄介なのは、それでも正確なピッチを求めるならば最後の最後は現物合わせになるってコトだろう。フレットマーカーの真上を押さえたからって、音程が保証されてるワケではない。あくまで目安だ・・・・・・まぁ、音感のないおれには殆ど関係ないけど。

 要するにフレットレスベースってのはかなり敷居が高い。それでも1本持ってブシブシ弾き倒してみたい。一言で言って「憧れ」っちゅうヤツなんだろう。

 やっぱシェイプはジャズベースかなぁ?実際ストラップで肩から提げて構えてみると、ジャズベってバランス的にスゴく良く考えられてんだわ。音的にいささか重低音に弱いのが玉にキズとは申せ、ベースの究極の形の一つではないかって気がする。色やボディ・指板材はどぉでも良いや。でもラワンはさすがにイヤかも。アクティヴ・サーキットなんてとんでもない。2V1Tでパッシヴのフツーの。弦はどうしよう?メロウなトーンが身上の黒い毛糸みたいなナイロンやフラットワウンドも面白いかも知れないけど、思いっきりスライドしたら吉本新喜劇の高石太の当たり芸、「熱う〜!!熱う〜!!」になりそうな気もするな(笑)。
 後はネックがヤワなのだけは勘弁してほしいくらいで、他はホンマどぉでもいい。フェンダー製で無くたって構わない。そんな逆巻きペグとかスパイラルサドルとかヘッド裏のストラップピンとかアース線がどぉとかロゴがヒーとかハーとか・・・・・・細かい仕様にも拘らない。フレットレスでさえあれば。

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 これ打ってる画面の裏で立ち上がってるブラウザには、楽器検索サイトが開いてる。一時期よりは沈静化したのか、フレットレスの品揃えは若干減ってるような気もする。それに元祖フェンダーよりも、他のブランドの変わった形のが多くてあまり食指が動かされない。音や値段どうこうの前に、形がどうも気に入らないな。
 一方で中古市場はフェンダージャパンを筆頭に、ジャコパスのコピー品で、サンバースト/ローズ指板仕様のが相当数が出てたりする。挑戦はしてみたものの、歯が立たずに断念した人がそれだけ世の中に多いってコトなんだろう。

 ・・・・・・後は、クリックボタンをチョコッと押すだけなんだが(笑)。 


フレットレスベースを広めた立役者っちゃぁやはりジャコパス。提げ方がものすごく身体にフィットしてる感じ。

https://venicemagftl.com/より

2020.09.20

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