「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
二兎を追う者一兎も得ず・・・・・・フランジャーの記憶


BigJamのフランジャー。平べったくて隣のマクソンのオーバードライブと高さが合わず、踏みにくかった。

www.effectsdatabase.com/より

 最近、ギターエフェクターとしてはすっかりマイナーな存在になったエフェクターの一つに、「フランジャー」ってのが挙げられると思う。

 もちろんあれこれ何十種類もテンコ盛りのマルチエフェクターの中にはシッカリ今でも入ってたりはするんだけど、あまりこれを積極的に使おうって人もいないだろうし、ましてや単体で敢えてこれを買おうって人は、シューゲイザーとかノイジシャンとか、かなり特殊なカテゴリーの人に限られるのではないだろうか。
 ちなみに逆のパターンもあって、一時期はほぼ忘れられかけてたのに近年やたらと高人気なのがファズだ。ディストーションだオーバードライヴだと、チューブアンプにちょっとでも近付くべく、よりナチュラルでウォームな歪みが追及されて、ジージー・モーモーと人工的でノイジーなファズはスッカリ過去の遺物となってたのが、今はブティック系っちゅうかガレージ系っちゅうか、トンでもない値段のモノが驚くほどあちこちから売り出されてる。

 フランジャーってそもそもどんなエフェクターかを御存じない人だって今はいるかも知れないんで、最初にザックリ説明しておくと、フェイザーとコーラスを2ケイチにしたようなものと言える。ぢゃぁフェイザーって何だ?っちゅうたら、元はレスリースピーカーを目指したもののちょっと違っちゃって、ショワーンってうねるような所謂「ジェットサウンド」が出せるモノ、コーラスは微妙な若干のチューニングのズレと音の遅延を人工的に作って原音と合わせることで音に厚みと揺れを加えるモノ、ってコトになる。レスリースピーカーっちゅうのはホーン型のスピーカーを回転させてそのドップラー効果を利用して揺れを出すものだから、むしろ近いのはコーラスだろう。また製品によってはリングモジュレーター的な使い方も出来て、スチールドラムみたいな音が出せるのもある。実のところ、機械の回路的にフランジャーはフェイザーよりもコーラスに近いらしいが、電気回路にはトンと疎いんで良く分からない。
 大体「フランジ」ってのが良く分からない。そうそう、電車や汽車の車輪でレールにチャンと乗っかるように内側で出っ張った部分のコトをフランジって呼ぶ。これがあるから脱線せずに走れるのだ。想像するに「ヘリ」とか「フチ」(どっちも漢字で書くと「縁」だな、笑)みたいなモンを指すんだろうと思うけど、そぉゆう効果を与えるモノだからフランジャー・・・・・・????う〜む、さらにワケが分からんなぁ〜。

 コイツが70年代の終わりくらいからだったかなぁ〜、従来は到底手の出せる価格でなかったのが、中高生でもまだ手の届く値段で提供されるようになったこともあってメチャクチャ人気が出たのだった。理由はカンタン、一粒で二度三度美味しい、ってな謳い文句にあんまし金のない連中がみんなコロッと釣られたからだ。だってフェイザー・コーラスにリングモジュレーターまでが1台にビルトインされてんねんで、メッチャお得やんか♪と。
 そんなんでビンボなおれも、なけなしの小遣いをはたいてMAXONのオーバードライヴの次に買ったのが上に挙げたBigJamのフランジャーだった。たしか1万ナンボだったと思う・・・・・・って、ここまで書いて想い出した。以前にも書いたよね(笑)。

 ついでだからこの薄倖のエフェクターブランド、BigJamについても触れておこう。たしかエーストーンで有名な日本ハモンドから出された一群のストンプボックスで、特徴としては踏みやすさのために平べったかったコト、フットスイッチがゴムシートの下に隠れた電子スイッチだったコト、そしてコントロールがグラフィックイコライザーみたいなスライド式に統一されてたってコトが挙げられる。今から思えば他に類例のない、オリジナリティのカタマリの意欲的な作りではあった。でもたしか日本ハモンド、メーカーとしてはこの頃で既にいささか落ち目で、それを自覚してたのか当時はBOSSよりちょっと安いMAXONのさらにちょと安い値付け(笑)で、出た当初は結構売れたように思う。思えばあの頃はAMDEKとか、もちょっと後になるけどヤマハやトーカイ、あるいはメイド・イン・バングラデシュなアリオンとか、エフェクターへの新規参入が続いてた時代ではあった。

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 ・・・・・・で、どうしてフランジャーがあの当時売れまくったのか?それは多分、従来のハードロックに代わってクロスオーバー(今で言うフュージョン)だとか、AOR、ウェストコーストなんて音がハヤり始めたことと無関係ではないと思う。ハードロックでそれまでエフェクターっちゅうたら、ペダルワウとかマエストロのエコープレックスとかそんなんが定番で、揺らし系はそんなに使われてなかったし、使われてもココ一発のギミック、要は飛び道具的に使われることが多かった。
 それが薄く軽く掛けっ放しで、例えば16分のチャカポコしたカッティングにはコンプ+オートワウ+フェイザー、伸びやかでメロディアスなソロにはオーバードライブ+フェイザーorコーラス、クリアなアルペジオとかにはコンプ+コーラスな〜んて風に使われた音楽が広まったのだ。コーラス内蔵のギーターアンプの傑作・JCが出たのが75年だから、そんなんも影響してるのかな?どうなんやろ?

 しかしながら、どれも単体で買うと高い。まぁフェイザーはそこまでしなかったとは申せ、コーラスは結構なお値段だったのだ。当時から名作の誉れ高かったのは、JCから該当部分の回路を切り出したと言われる、まるで鉄下駄みたいなCE−1だったんだけど、2万ナンボとか、とてもガキの分際でカンタンに手を出せるお値段ではなかった。あれは特別としてもマクソンとかで1万数千円はしてたと思う。

 そこでフランジャーである。だって一粒で二度三度美味しいのである。実際のところ、決してクロスオーバーその他の世界でフランジャーが使われてたワケではない。少なくとも日本国内では、そぉゆう音楽が流行り始めて揺らし系の音が一般的になる中で、フェイザーやコーラスの代替品として広まった、っちゅうのが正解ではなかったかと思ってる。

 あぁ、せっかくだからコンプ、ことコンプレッサーについてちょっと触れとくと、これも最近ではあんまし使われなくなったエフェクターだな。ヘタクソにとっては実は救世主のような存在なんだけど、効果としては最も地味な「全体の音の粒を揃え、サスティンを伸ばす」ってコトをしてくれるだけ、っちゃだけだモンな。昔は歪み系の前にコレを咬ませるのはほぼお約束に近かったんだけど、タッチが余りにも平板になって生々しさが失せるのが飽きられたか、最近はあんまし使われなくなってしまった気がする・・・・・・ってーか、みんなピッキングが巧くなってバラツキが少なくなってんのかもね。でもピックアップの馬力が大きくて直結だとタッチの差が出やすいベースの世界では、今もケッコー前段に置かれてることが多いかも知れない。

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 肝心のフランジャーの音はどうだったか?大事なのはそこやね。

 ワクワクしながらおれも箱を開けましたよ。買ったのはどこだったかなぁ?もう覚えてないけど、いつも入り浸ってた北野田にあったK・G・Countryではなく、たしか阿倍野のアポロビルの2階の三木楽器だったような気がする。早速、説明書にあったセッティング例に沿って当時愛用のPiggyのアンプからあれこれ色んな音を出してみる。おお!なるほど!シュワーン!ってなフェイザーっぽい音、柔らかでモエッとしたコーラスっぽい音、キンコンしたリングモジュレータっぽい音・・・・・・たしかに出るやんか。ワハハハ、おもろいおもろい。

 そうして2週間くらいが過ぎ、ようやく冷静になったおれは気付いたのだった。実はどれも「っぽい」だけで、どこまで行ってもやはりそれぞれ専用のエフェクターとはちょと違う音である、ってコトにだ。
 フェイザーとして考えるとちょと倍音が一昔前のSF映画のSEみたいでスペイシーすぎる、コーラスとして考えるとクセとかアクが強くクドすぎる、リングモジュレータとしては効きが上品すぎる・・・・・・要するにフランジャーはフランジャーの音だった、と申し上げるしかない。大体、様々な音が出せるっちゅうたって、いちいちしゃがみ込んでツマミ弄ってセッティング変更なんてしとれんしねぇ・・・・・・やってたけど(笑)。
 

 二兎を追う者一兎も得ずって諺はフランジャーのためにあるんぢゃないかって思ったのだった。

 その内、中途半端なコーラスってなセッティングにほぼ固定され、大学入ってしばらくした頃に出たアリアプロの激安マルチエフェクターに乗り換えるまでは、基本の音はこのMAXONのオーバードライヴ+このフランジャーっちゅう、シンプルっちゃぁ聞こえは良いが、要は当時としてもかなり貧弱極まりない構成は続いたのだった。でもそれで何度かライブやったりもしてる。最後は河原町御池を上がった辺りにあった中古楽器専門店に下取りに出したような気がするな。大切に取って置けば良かったかも・・・・・・。

 今にして思えばフランジャーって、足許ではなく手許に置いて操作するような使い方をすべきエフェクターだったんだろうと思う。コンプやコーラスみたいに軽くさりげなく音の土台として掛けるにはムリがあるし、足で踏んでON/OFFするだけの使い方だと折角の多彩な機能を活かし切れない。そのエグいまでの変調幅をグリグリ目一杯に使ってシンセ並みに奇妙な音を出す方がふさわしい。とにかく微妙なセッティングがむつかしく、ちょっと弄るだけでエラく音色が変化するのがフランジャーらしさなんだから、手でムチャクチャやる、と。
 何ちゅうかフェイザーやコーラスがフツーのタバスコだとするならば、フランジャーはブレアのデス・ソースみたいなモン、って言えるだろう(笑)。加減がむつかしくてちょっとでも掛け過ぎると大変な目に遭う。

 実際、元祖変態ギタリスト、A・ブリューはそんな風にフランジャーを操作して、例えば左手で弦をグリッサンドすると同時に右手でグイッとツマミを回すとかして、件のゾウさんサウンドに代表される奇妙な音のあれこれを作ってたらしい。型に捕らわれない発想力とそれを形にする創意工夫の点でやっぱスゴかった、っちゅうこっちゃね。さらにスゴいのは、如何にも「フランジャー使ってます!」みたいな音にはなってないことだろう。何せフランジャーってクセが強いから、ありきたりな使い方だと「あ〜はいはい、フランジャーっすねぇ〜・・・・・・で、それが何か!?」ってな音にしかなってくれないのだ。手品はタネが分かっちゃ元も子もない。それが許されて芸風になるのはゼンジー北京かマギー司郎だけですわ。

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 今はもうフランジャーどころか揺らし系の定番であるコーラスでさえ殆ど使わなくなってしまった。ブースターにペダルワウ、殆ど踏まないコンプ、歪み2ヶは気分で切り替えて、コーラスもまぁ挟んではいるけど基本OFF、最後段に咬ましたデジタルディレイもまぁ殆どOFFになってる。実にシンプルなモンである・・・・・・ってーか歪みも大抵アンプ側で、殆どブースターしか使ってないんぢゃないかな?どれもトゥルーバイパスではないし、余計な回路通して信号劣化するだけだから潔く外した方が良いのかも?ってな状態だ。
 結局、バンドやるならともかく、あれこれ弄くり回したってそれでギターが上達するワケではないし、むしろ今の延々と16分音符の連続で指板の上を行ったり来たりするようなバッハの独奏曲をシンネリと練習する上では障碍にさえなってしまうのだ。とにかくシッカリ深く歪ませて、それでトーン絞ってフロントピックアップでピヨヨ〜ッと単純に太くてシルキーな歪みが出せればそれだけでもぉ十分なんである。

 余談だけどフランジャーみたいな音をフランジャーを使わずに出す、ってコトが出来る。きつく歪ませてリアピックアップで盛大にハーモニクスが出るようにしといて、低音弦の開放とかを左手で軽く触れる程度にナット位置でミュートしながら、ピッキング位置をブリッジ近くから12フレットあたりまで段々変化させて行くと原音にピキポキパキペキ♪キンコンカンコン♪色んな倍音が混じって似たような感じになる。左手のミュート位置を動かしてっても似たような感じになる。ディレイやリバーブなんか加えるとさらに似た感じになる。EやAで終わる曲なんかだと瞬間芸で使えるのでたまにやってたな。

 畢竟、「エフェクター」っちゅうだけあって音に効果を加えるのが本来の目的である以上、あまりに些事に拘ってあれこれ悩んだ挙句、掛けっ放しなんてのは効果もヘチマも無くなってしまうではないか?ってのが今のおれの考えだ。最も多用するであろう基本の歪みとかクリーンはぶっちゃけギターとアンプ、後はせいぜいブースターだけでも追い込めば音は作れる。どこかに必ずスィートスポットはあるんだろうし。
 だからエフェクターを並べるんなら、いっそ所謂「飛び道具」なビットクラッシャーみたいにエグエグのファズ、あるいはメチャクチャなディレイとかグシャグシャのワウ・トレモロ、ルーパー、フェーザー、ワーミィーの類に、それこそフランジャーなんかを沢山並べて轟音ノイズ大会やった方が楽しいんぢゃないかな?


目下最も欲しいエフェクターの一つであるZ.VEXの”FuzzFactory”。コレ、かなりアタマおかしい製品っすよ笑)。

https://www.zvex.com/より

2020.06.23

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