「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
行き着く先はメロトロン!?


1971年、多分「こわれもの」をレコーディング中のイエス。手前にドーンとある白いのがメロトロン。
奥にリック・ウェイクマンが見えるが、フェンダーのアンプヘッドには前任者のTONYってステンシルがあるのがナゾ。


https://twitter.com/より

 思えばエレキギターやベースがもぉ70年以上に亘って殆どその姿だけでなく、動作原理も変えることなく続いてるのに対して、電気仕掛けの鍵盤楽器の世界はひじょうに栄枯盛衰が激しいように思う。まぁ、電気仕掛けのタイコもかな?シモンズとかどこに消えたんやろね?
 おれが中古とは申せ、メッシュヘッドで殆どマトモな音は出せないとは申せ、それでも敢えてアコースティックな生ドラムを買ったのにはそんな理由も含まれる。だってさぁ〜、買ってすぐに陳腐化したら悔しいですやん悲しいですやん。ちなみにいきなり余談だけど、タイコに脚が3本生えたフロアタムって現代の楽器の中で最も何も変わっておらず、極めて改良がむつかしいモノの一つらしいね。たしかに古いカタログ見ても、あれだけは今とほぼほぼ同じだもんな。

 閑話休題。さて、そうして彗星のように現れては泡沫のように消えて行った鍵盤楽器群の中でも、極め付けの徒花みたいな存在だったのがメロトロンではなかろうか。そらまぁ最近(・・・・・・っちゅうてももぉ30年以上前になるけど)だったらシンクラヴィアとかフェアライトなんかもそんな感じかも知れないが、ありゃ大層なだけで中身はとてもチャンとしてた。

 メロトロンは世紀の怪作のクセに、一世を風靡したところが面白いのである。

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 メロトロンの仕組みについては例によって例の如くウィキ読んでもらえたら詳しく書いてあるんで、ココではザッとしか説明しない。一言で言うとひじょうに原始的なテープ式サンプリングキーボードである。30幾つの鍵盤それぞれに1本づつテープがセットされており、鍵盤押すとスイッチが入ってテープが再生されて音が出るのだ(ちなみに鍵盤を離すと巻き戻される)。つまり各鍵盤には各音階が録音されたテープが収まってるワケだ。音色については実際はオプションで交換用テープが存在して、様々なヴァリエーションがあったみたいなんだけど、レコードとかでよく使われてたのはフルート・バイオリン・合唱あたりだったかな。

 しっかしまぁ何だかんだでロクでもない楽器ではあった。まず、テープなんで出せる音の長さに限りがある(・・・・・・っちゅうか音源も実際の音だからエンドレスには続かへんわな)。7秒とも8秒とも言われ、ピンクフロイドが2台並べてロングトーンを出してたのはワリと有名だった。また、鍵盤押さえてもすぐに音が出ないんで、速いフレーズが弾けないし、立ち上がりでちょっと♭する。当時の映像とかよぉーく見てると、キーボーディストたちはメロトロンだけはかなり丁寧に弾いてることが多い。多分、立ち上がりが遅いのを少しでもカバーするために、若干ツッコミ気味に鍵盤を押下してたんだろう。だから例えばCANのイルミン・シュミットみたいなツンツンツクツク・ピレパレポロピレってな弾き方では音が出ないんぢゃないかって気がする。知らんけど。
 一度に沢山鍵盤押さえるとモーターがテープの抵抗に負けてやっぱし♭するわ、テープの走行にバラツキがあるのか、元々の録音が合ってないのか、和音を弾くとどことなくちょっとズレてて調子っぱずれな感じがあるわ、S/N比が悪いだけでなく音自体がローファイだわ、そいでもってメチャクチャに重いわ、すぐブッ壊れるわ・・・・・・実際、おれ自身は実機を見たのがこれまでに数度で、ましてや弾いたことなんてないから仄聞ばっかしなんだけど、原理からして、なるほどさもありなんではあるわな。

 そんなんだったけど、それでも当時としては劇的にお手軽だったのだ。コイツを使わずに曲にストリングセクションを加えようと思ったら、実際にそれだけの人数のヴァイオリニストを引っ張って来なくちゃなんない。合唱隊だって同じだ。人を動員して拘束すればそれだけ手間も人件費も掛かるのである。ライブツアーともなれば、宿泊費やメシ代なんかも出してやらなくちゃいけない・・・・・・ならば多少どころか相当のアラにだって目をつぶろう、ってのが人情ってモンだろう。同じ理由で色んな効果音を各鍵盤に割り当てて、SE専用マシンとしても結構重宝されてたと言われる。

 しかしながら、それらの欠点もひっくるめて唯一無二のメロトロンの個性となってたのも一方で事実だろう。独特のピッチの不安定さとそれがもたらす和音でのこれまた独特のコーラス/ヴィブラート効果、押さえた分だけ音が鳴ることによる音の分厚さ(多分、ちょっとオーバードライブ気味になってコンプレッション掛かってたのかな?)、実際に録音した音を再生してるからそらまぁリアルなんだけど、なんかヤッパシちょっと違うビミョーにパチモンな感じ・・・・・・プログレ黄金時代の音を特徴付ける最大のファクターはコイツだった、っちゅうても過言ではないと思う。

  メロトロンの特性っちゅうか、欠陥が良く表れてる例としては、初期ジェネシスの小品”Seven Stones”の最後、4:20〜あたりからを挙げときたい。難しいフレーズでもないし、曲のテンポだってトロいにも拘わらず、ビミョーにメロトロンが付いて行けてないだけでなく、音程が僅かに♭してるのが分かるハズだ・・・・・・まぁ、重いとか壊れやすいは聴いてるだけぢゃ分からんけど(笑)。
 ここでマメをブッ込むと、このアルバム”Nursery Cryme”から導入されたメロトロン、何とキング・クリムゾンのイアン・マクドナルドから中古で譲ってもらったものだったらしい。たしかに当時はマイナーな新人バンドに過ぎなかった彼等にバカ高い新品を買う余裕なんてなかったはずだし、結構信憑性は高い噂のような気がしてる・・・・・・ならば、「宮殿」で聴かれるメロトロンと全く同じ個体やったってコトやけど、チョーシ悪くなってマトモに動かんようになったから売りトバしたんとちゃうんかぁ!?(笑)。

 メロトロンが最も活用されてたのは60年代後半から70年代半ば過ぎあたり、ってトコだと思う。世界を席巻した、って表現があながち大袈裟でないくらいに広く使われまくったのだった。別にプログレだけでなく、ありとあらゆるポピュラーミュージックに使われ、日本の歌謡曲のアルバムなんかでも聴くことが出来る。そして一気に消えてった。
 実を言うと、やれイタリアぢゃオランダぢゃフランスぢゃ・・・・・・と、プログレムーヴメントはまるで疫病のように拡散し、その後「ユーロ・ロック」・「シンフォ・ロック」なんて呼ばれ方もされるようになった有象無象の連中の中には、しつこく80年代以降も使い続けてるのがいるし、むつこいくらいにメロトロンを大フューチャーしまくってるのは、むしろそっちの方に多いような気もするのだけど、過ぎたるは猶及ばざるが如しであまり感心しない。何事もメリハリは大事、っちゅうこっちゃね。

 まぁ、こんなあちこち問題だらけの製品、新しい技術が出れば秒殺で駆逐されるのはそりゃもう理の当然ってモンだろう。

 早くも70年代早くには元祖ストリングアンサンブルと言える、「ソリーナ」が登場してるし、その後のメイド・イン・ジャパン台頭の中でポリフォニックでメロトロンがカバーしてた辺りの音色がそこそこ出せる美味い・安い・早いな機種が続々と出て来て、我が世の春を謳歌してたメロトロンはアッちゅう間に淘汰されて行ったのだ。ハッキリ言おう。今でも拘って使ってるヤツはただのモノ好きかヲタクだけである。
 80年頃だったか、謎めいたケルトの組み紐紋様のジャケットでいきなり復活したクリムゾンだって、大仰なメロトロンなんてとっくにお払い箱で(フリップ翁はメロトロンの使い手としてもかなり有名)、ステージにはローランドのサターンか何か、初心者向けの安くてちっこいキーボードが1台置かれてるだけだったもん。まぁ、当時の御大はローランドとエンドース契約でもあったのか、ギターはGR−303だし、アンプはJC−120だし、ついでのオマケでもらったのをシッカリ活用してただけなんかも知れないが(笑)。
 逆にそのさらに5年くらい後かな?フールズメイトの編集長だった北村昌士が、止しときゃエエのに自分でもオルタナ系やりたくなっちゃって「YBO2」ってバンド始めたんだけど、ライヴでメロトロン弾いてるの見て、おらぁ何とも薄ら寒い気持ちになったのを想い出す。時代はもっと進んでおり、メロトロンでやれたことなんてもぉその辺の適当なキーボードで大体やれる時代になってたのである。彼等の音楽自体もエピゴーネンの域を全く出ない実にイケてないもので、所詮はクッサい思い入れだらけのプログレ崩れ(・・・・・・おれもそうなんだけどな、笑)なのと、これ見よがしでコケ脅しな道具から入ってる時点でもぉ年寄りの冷や水感炸裂で、オルタナもNWもパンクもクソもあらへんやん!ダサッ!って思えたのだ。それなら素直にプログレトリビュートバンドでもやってろや、と。

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 メロトロンの隆盛は一過性のモノだったけど、その後に与えた影響はひじょうに大きかった。例えば現代のプリセット型キーボードの音色配列。安いカシオトーンの音色のチョイスだってメロトロンからの流れが僅かながら感じられる。ピアノやオルガンが最初なのは分かるとして、その後にストリングスとかフルート、クワイヤなんかが並んでるのはやはりメロトロンあったればこそだろう。
 実際の音をそのまま録音して再生することで楽器にするっちゅうアイデアにしたって、磁気テープではあまりに問題多すぎたけど、デジタルサンプラーの登場によってようやくマトモな実用性を獲得した。あとはビット数をどれだけ上げるか?くらいだろう。虎は死んでも皮残す、思想自体はキッチリ生き残って大きく花開いたのだ。
 極端な例を挙げると、あのドンガラガッチャンなノイバウテンだって、レコーディングでは90年代くらいには実際のジャンクではなく、サンプラーに移行してる。でもライヴの時だけはお客さんを楽しませるために今でもワザとガラクタ使ってんだ、ってなコトをインタビューで言ってた。功成り名を遂げて人間が丸くなったのか、サービス精神旺盛やんか(笑)。

 ただ、繰り返し言うと、たしかにメロトロンにはメロトロンとしての独特の個性があったのは間違いなく、今なおその音を偏愛する人は多いのも事実だ。そんなんもあってか現在はDAWのVST音源に優れたのが色々ある。有名なのはやはり「M−TRON」だろうか。オリジナルのちょっと不安定で不完全でローファイなトコを見事にシミュレートしてる。たしかマニア感涙の本家ドンズバなデザインの外部MIDIコントローラの鍵盤なんてのもあったハズだ。
 いやまぁマジで良く出来てまっせ、これ。過去の有名な楽曲をこれで再現プレイしてるのがネット上にいくつもあるけど、ハッキシゆうておれにゃぁ全然違いが分かりませんもん。
 ちなみにM−TRONは有償音源だけど、アマチュア天国なVSTだけに世界中の奇特なヲタク共がシコシコ頑張って拵えた無料のも各種あって、おれもいくつか試しに使ったことがある。まぁ、別の意味でローファイでチープな音(笑)とは申せ、それはそれで味あるし、実用上も全然問題なくイケると思う。

 そうして、今やメロトロンどころかあらゆるスタンダロンのキーボードが本当に必要なのかさえ判然としない時代になっちゃった。

 PCに鍵盤型のMIDIコントローラがあれば、過去の様々な機種は、100%完璧ではないにせよそこそこ再現できてしまう。予算があればタッチセンサー付きの外付け鍵盤で、昔はやろうにも不可能だった音の強弱をつけたりなんてことさえできる。いや〜、画面上でパラメータ修正して音色を弄るなんてやってられないよ、っちゅうんなら、それらをノブで回して変更できる「フィジカルコントローラ」っちゅうのを別途買い足せばまぁなんとかなる(ある程度キーボードにビルトインされたタイプももちろんある)。それなりにどれもお金は掛かるけど、昔のコストからしたら冗談抜きで1/100くらいで済んじゃう。
 後はオーディオインターフェースで出力して、アンプでもミキサーでも繋げばお仕舞いだ。PCに処理能力があれば複数の鍵盤を繋ぎ込んで、左手でメロトロン、右手でハモンドなんてのもホホイのホイてやれちゃうる。能力足りなきゃPC増やせば良い・・・・・・いやいや、実のところますます進むハードの高性能化により、PCでさえあんまし要らない。タブレットやスマホでも実際かなりなコトは出来る。そう、先日取り上げたMS−20+SQ−10くらいならi−Pad用のアプリがコルグ純正で3,680円で売られてるんだし。

 ・・・・・・実にいい時代になったモンではある。

 その一方で、人の手によって演奏される音楽の面白さって最早、偶発性とか非再現性、あるいは不安定さや稚拙さにしか残されてないようにも思える。もちろん、だからってアナログだ〜っ!なんちゅう気はサラサラないし、巨大田舎豆腐みたいなメロトロンだって欲しいとも思わない。どだいおれの住まう安普請のマンションの床では、重量に耐えきれずに抜けるかもしれんもん(笑)。

 でも思う。人力の音楽ってモンの今後の姿を占う上で、どうしようもない欠点まで含めたメロトロンの様々な特性って、まったく意図的ではなかったにせよ案外予見的だったのではあるまいか?・・・・・・と。

2020.06.13

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