「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
小径ドラムの明日


ゴールドスパークルが激シブなカタリナジャズクラブ。色は毎年のように変更されるのが特徴、
https://www.keymusic.com/より

 いつぐらいからだろう?タイコの世界では小径セットが大流行である。タイコ専門店の店頭の目立つ場所が小径セットで占められてるコトも少なくない。

 小径セットの定義が明確に決まってるワケではないけれど、概ねバスドラのサイズが18インチ以下なら小径って呼ばれる。しかし這えば立て、立てば歩めの何とやらで、年々歳々小径化は進んでおり、16インチの登場に驚いてたら15インチが出て、14インチになり、チャンとダブルヘッドでシェルを備えたタイコとしては、多分ネギの13インチ(約32cm)ってのが現時点での最小サイズではないかと思う。シングルヘッドでシェルがないのでは、パールのリズムトラベラーライトっちゅうのが12インチで最小なんだけど、最早タンバリンを足許にセットしたようにしか見えず、音も実際そんなんなんで、こりゃもぉちょっと一般的なドラムの範疇からはハズレてると言わざるを得ない。ちなみに良く店頭で投げ売りになってるMAXTONEの子供用の玩具セットでも14インチある。だから小径ってのがどれだけ小さいかお分かりいただけるかと思う。その内、バスドラ6インチ、タムが2インチ、フロアが4インチとか、スティックをヘッドに正確にヒットさせることもままならいくらい小さいセットが出たりして(笑)。

 小径セットの特徴としては小さいだけでなく、構成もミニマムになってることが挙げられるだろう。大半は3点セットばかりで、多点キットやツーバスなんてのは見たことがない。シンバルもそんなんでライドとクラッシュが各1枚みたいなんが多い。逆にどこか多点セット作ったらバカバカしくて面白いかも知れないな。14インチのツーバスに6・8・10のタム、12・13のフロアとかさ(笑)。

 いやまぁ実際、タイコの役割の最も根本は何か?っちゅうたら、時間の流れを確実にリズムに刻んでウネリやノリを作って行くことにあるワケで、音色がどぉこぉ、見た目の迫力があれこれなど言わないのであれば、カスタネットやタンバリンだけでも役割は果たせるのである。ヘビメタバンドがそれだと絵にならないだろうが(笑)。

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 その先駆けは、上に画像を掲げたグレッチの「カタリナ・ジャズクラブ」辺りではなかったかと思う。実のところ、名前が名門・グレッチっちゅうだけで、あんまし造りは良くないという噂も根強い。まぁ材にしたってマホガニーっちゃぁ聞こえは良いけど、アタマに「アジアン」って付く・・・・・・要するにラワン材みたいなヤツだし、ハードウェアも脆いとかナントカ・・・・・・って、一番最初に出回り始めた頃は18インチセットが4万円台で買えたくらいだから、文句言う方が悪いわ!贅沢ヌかしてんぢゃねぇ!ビンボー人!っちゅう気もするけどね(笑)。
 最初に出たのが12−14−18インチで、その名の通り如何にもジャズ向けでっせってカンジで、俗にジャングルと呼ばれる16インチはしばらく後に追加された記憶がある。ソナーもサファリだマティーニだと小径が今ではやたらと充実してるけど、Force2001シリーズの頃はなかった気がするから、もちょっと後だったかなぁ?忘れちゃったい。
 そのうち国産各社も商機ありと睨んだか、続々と参入して今に至るってトコだろう。唯一ちょっと距離を置いてる感じがするのはヤマハで、手の込んだヒップ・ギグやカクテルはとうに廃版、マヌ・カチェ監修モデルで16インチセットとかボップキットとかあるにはあるんだけど、価格設定とか安易に小径で安売りはしまへんで、っちゅう態度を見せてる。意外になまでに充実してるのはパールで、正統派のが2種類、リズムトラベラーを筆頭にナナメ上行くようなのが4種類も出てる。

 目下の売れ筋は間違いなくラディックの「ブレイク・ビーツ」だろう。「ラディック」っちゅう強力なネームヴァリューとステータス性があってドヤ顔できて、クエストラブの監修で、10−13−16とかなりコンパクトで、4色展開と色のヴァリエーションも豊富なところに毎年限定カラーが出されて、オマケに安っぽいながらも仕舞える巾着袋まで付けて実勢価格が4万円切ってりゃ、そらもぉ売れるん当然やわな〜、っちゅう内容だ。別にスタンドやシンバル付けて何とか10万円以内で収まってしまう。スネアは敢えて小径化せず標準の14インチなのも良く考えられてる。あんまし小さいとリムショットやりにくいモンね。もちろん、材やハードウェアはそれなりなんだけどさ。

 実のところ、実際に並べた小径セットがそこまで場所取らないかっちゅうたら、そうでもない。余りにもバスドラが小さいとペダル、っちゅうかビーターと合わなくなって来るんで、通常は下にリフターってウマを咬ませて持ち上げるから高さは意外にあるし、それにそもそも人間の身体のサイズがドラムに合わせて縮むワケぢゃないから、ドラムのサイズだけでチマチマ置いてたらマトモに叩けなくなってしまう。

 ・・・・・・ヨタ話が長くなってしまった。今回おれが書きたいのは、どんな理由でどんな人に小径セットは支えられてんだろう?ってコトだった。

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 まずは狭い家にでも何とか置ける、ってのは最大の理由だろう。しかし、住宅事情が悪いのはウサギ小屋な日本とか一部であり、諸外国の家庭がどこもそんなにタイコの置き場所に困ってるとは思えない。一方で小径セットブームはケッコー世界的なモノであり、どうにもスペースの問題だけでは説明が付かない気がしてる。

 そうして考えると第一に、小径セット特有の音が軽さが逆に重宝されてるのではないか?って気がする。いやもうフツーのチューニングだとどうしても低音成分が弱い。ショートスケールのベースがどんだけアンプを弄ろうとなんか音が軽いのと同じ理屈だ。そりゃぁ皮をベロンベロンに張れば低音は出なくはないが、これも弦楽器を例に取るなら弦のゲージを変えないままダウンチューニングするようなモンで、マトモに使えなくなってしまう。やはり音程に合うだけの口径はどしたって必要なのだ。

 ・・・・・・ってコトはやはり近年、タイコではあんまし重低音過ぎない音が好まれてるんだろう。そう考えてくと、ロックの退潮とエレクトロ系のハウスやテクノ、クラブミュージック等の台頭が考えられる。
 そこですぐに想い出されるのが、エレクトロ系で多用されてるローランドのTR−808に代表されるような如何にもなリズムボックスの音だ。これがホンマにショボかった。バスドラは「トッ♪」とか「ブッ♪」、スネアは「パ♪」とか「タ♪」ってなカンジで、要は低域が欠けてディケイの極端に短いパルスっぽい音で、間違っても「ドゥンッ♪」とか「ダシッ♪」と深くは鳴ってくれない。空気感が皆無な音だ。
 そんな音と、小径セットはワリと近い所にいるし、親和性も高いので人気が出た、っちゅうのは大いにありうるように思う。

 あとエレクトロ系の特徴としては、キックとスネア、ハイハット主体でオカズが殆ど入らない無機質な反復リズムパターンが挙げられる(・・・・・・そらまぁ機械だもんな、笑)。だからタム回しとかでスットコダラタタストトンビッシャンみたいなんは必要とされてない。つまり生のタイコを導入するにしても多点キットでゴタゴタ並んだようなのは求められないのだ。
 小径セットが基本シンプルなのは、レトロさからだけではなく、現代の音楽のニーズからもそんなんで充分だからだろう。

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 次に考えられるのは、電子ドラムからの移行組だ。家の中で生ドラム鳴らすのはやっぱし近所迷惑で憚られる、ってんで何となく電子ドラムを選んでしまう人は近年とても多いハズだ。でもってアンプ通さずにヘッドホンで鳴らせば、ホンマ見事にサイレントになる(それでもペダルの振動とかは残るけどね)。音色はスイッチポンでいろいろ選べるから、狭いハコの中でのジャズみたいなんからリバーヴをバリバリに効かせたアリーナでのラウドなロック、はたまたラテンまで瞬時に切り替えれるのは、電子ドラムならではの楽しさだと思うし、DTM等にも線繋ぐだけなんで便利だ。

 ただ、一言で言ってしまうとヤッパシ八ッ橋味気ない。これまたギターを例に挙げるならば、マルチエフェクターが便利だけど何だかどこかウソ臭いのと同じで、手足の動きに対してどうにも出音にリニア感がない。生々しさに欠ける(・・・・・・そらそうやわな、笑)。その辺を何とかすべくメーカーも頑張ってて、ヘッドはただのゴム板から、メッシュとは申せチャンとした皮になり、センサー技術だってドンドン向上はしてきてるものの、やはり追い付けてはいないのが現時点での状況である。

 そんなんやったらいっそ、フツーに生ドラムの方が楽しいやんか、って思う人はそれなりに存在する。しかし近所への騒音が気になるくらいだから、住んでるのは防音室を備えた大きい一戸建てでもなければ人里離れた家でもなかろう。そんなこんなでコンパクトで気分的に音も小さそうな小径セットに走ってしまう・・・・・・と。
 ただ、サイズが小さいから音も小さそう、っちゅうのはとんでもない勘違いで、通常サイズが「バカデカい音」とするなら、小径は「デカい音」くらいで、音色の差ほどには音量は変化しない。そんなんでどうせメッシュヘッドや消音パッドが必要になる。ならば初めから自分の欲しいサイズを買った方が賢明と言えるだろう・・・・・・だからおらぁ大好きな20インチにしたのだ。ヘッヘッヘ。

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 3つ目は置物、あるいはインテリアとしてのニーズだ。往々にして「床の間」ってディスられるケースやけどね。ある程度の年齢以上で、かつてはリスナーに徹するだけでプレイヤーではなかったものの、何となく老後の趣味が欲しくなった人なんかでありがちだ。それなりに思慮分別のある常識人が多いので、26インチツーバスにエイトタム(笑)とかの無茶は決してしない。あくまで家のリビングや書斎にあってもさりげなく、さほど邪魔にならない程度、客人たちをドン引きにせず、意外に趣味人だったんだねぇ、と思わせる程度が欲しいのである。

 元々さほど楽器が好きだったワケでもないから、ブランド名聞いたことあるくらいでヲタク的な知識はない。一方で、それなりに財力はあったりするから、店員の勧めに素直に従ってホイホイ揃えたりする。楽器屋からすれば上客と言えるタイプだな。
 上記のブレイク・ビーツにZBTとはいえジルジャン、何故かペダルはDWなんて組み合わせだったりしたら、このケースを疑って良いと思われる・・・・・・ハハ、ちょっとイヤミ過ぎました?(笑)。

 カフェとかやってて、ライブスペースのために選ぶ人もいるだろう。何となくだけど小径ブーム以降、確かに店のフロアの隅っこにドラムを置くような店は増えた気がするもんな。あと、子供のためではあるが、玩具でお茶を濁さず、長く使えることを考えて買うなんて〜のもあるだろうが、このケースでは結局はパールならロードショウ、タマならインペリアルスター、ヤマハならライディーンといった、シンバルもハードウェアも全部コミで実勢価格6〜7万で買えるビギナークラスに落ち着くことが多いかも知れない。意外に小径セットは高く付くし、タムは1個だし、カラーリングもシブいのが多いからね。

 もちろん、音量の小ささゆえにアコースティック系で選ぶ、あるいはストリートでのライブのために可搬性を重視して選ぶってなケースもあるだろう。けど、ただこぉいった人は器材に詳しかったりするんで出来合いのセット物では買わず、有り合わせの古い手持ちをDIYで巧みに改造したりして、見た目はちょっとアレでも中身は実戦的に組み上げてたりすることが多いように思う。

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 ウダウダ書き並べたけど、ぶっちゃけおれも小径ドラムには興味津々・・・・・・どころか欲しくて堪らなかったりする。もちろん、現在のセットで既に部屋は一杯いっぱいなんで、これ以上増やすなんてどこをどぉ工夫したって無理に決まってるんだけど、でももし、何らかの幸運が舞い降りて広大な部屋が手に入り、セットを拡張できるようになったら、実は密かに温めてるプランがあるのだ。

 いや、そんな大枚をはたこうってんではない。全然逆。古いセットを中古で買って改造するのである。慎ましやかなモンっしょ!?例えば最もポピュラーな12−13−16−22の4点とかを安く仕入れて、16フロアはバスドラ、12タムはフロアに転用する。タムはまぁ何でもいいんでどっかから拾ってくる(笑)。そして残った22と13は既にあるフロアと組み合わせれば小径セットとは逆にワンサイズ大きめで、シンプルかつパンキッシュななロックキットとして十分に使える。つまり1セットから2セット拵えようってなアイデアだ。パールのスタンダードメイプルならとにかくタマ数が多く、驚くほどの安値で出回ってるし、作りの統一まで図れるだろう。

 そのまま使うなんて多分、しない。サンダーやらドリルといった日曜大工の工具なんかも買って、リフィニッシュなんかにも挑戦してみたい。そしたらカラーだってキッチリ合わせられて万々歳だ。

 ・・・・・・神様、仏様!お願いしますよぉぉ〜!


子供用の玩具で良く売られてるMAXTONE。これでも14インチ。

2020.06.09

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