「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
プアマンズ・ミニムーグ・・・・・・KORG"MS-20"頌


廉価版シンセサイザーとはいえ不朽の傑作だと思う。音の太さはピカイチ!(画像は復刻版)

https://icon.jp/より

 「プアマンズ」って言葉には蔑称ばかりでなく尊称も含まれてるような気がする。

 有名なトコだとプアマンズ・ポルシェ、ってのがまず挙げられるかな?実は何を以てプアマンズとするかはいろいろあるんだけど、一般的には356の廉価版みたいなVWのカルマン・ギアだろう。取り敢えず空冷の水平対向エンジンをRRで搭載したスポーツカーだもんな。しかし馬力は初期型で半分くらいしかなかったハズだ。しかし、カルマンギアにはカルマンギアで熱狂的なファンが多いのも事実で、プアマンズ・ポルシェと言われつつ独自の世界が展開されてる。あぁそうだ、912っちゅうて見た目は911のまんまで小さいエンジンに乗せ換えたのもあったりするな。これがもぉ見た目だけで全然走らんらしい。こっちの方がモロにプアマンズかもしれない。

 マツダにはプアマンズと呼ばれたのが2つある。一つはRX-7。こっちもポルシェで、あまりに924〜944に似てたので、発売当初はプアマンズ944などと陰口叩かれてたが、本家がイマイチ鳴かず飛ばずだった一方で、唯一無二のロータリーエンジンと素晴らしい動力性能のおかげで段々そう呼ばれなくなって独自のステータスまでをも勝ち得た、まことに稀有な経過を辿ったケースだろう。そしてもう1台が今でもたまに見かけるベリーサ。こちらはプアマンズ・ミニなんてちょっと呼ばれてた記憶がある。不運にも、丁度ミニブランドがBMWに移って最初のモデルが出た頃と重なっちゃったのだ。でもベリーサ、実は小さな高級車を目指した、ナカナカ上質で志の高いクルマだったから、見た目だけをミニっぽくした本家よりよっぽど硬派だったと思うけどな。

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 さて、本日は古いシンセサイザーのお話なんだけど、シンセの世界に燦然と輝く名機っちゃぁやっぱし、1971年に発売されたミニムーグだろう。最近では「モーグ」なんて呼ばれるようになっちゃった。でも昔は「ム」で通ってたんで、レトロなおれはそれで押し通すことにする。
 いやもぉキーボードのいる有名バンドで使わなかったトコないんぢゃないの?ってくらい、プログレやハードロック、あるいはクロスオーバー(フュージョンは元はそう呼ばれてた)華やかりし頃はコイツが雛壇状に積まれたキーボード群のてっぺんに鎮座してるのはお約束だった。
 コントロールパネルが可動式になってて、プレイヤーに向けて角度付けて立てることが出来るのが最大の特徴で、性能的にはもちろん今とは比べ物にならない。大体、モノフォニックっちゅうて単音しか出せないのである。キーボードの数だって少ない。しかし、独特の太くて金管楽器に近いようなフォンフォン・ブニュブニュした如何にもシンセらしい音がその後の各社のベンチマークになったのは間違いなかろう。

 おれが楽器に興味を持ち始めたのは、その何年か後、シーケンシャルサーキットのポリフォニックの名作・プロフェット5だとか、オーバーハイム、アープ・オデッセイなんかが目の玉の飛び出すような値段で売られてた時代と前後してる。一方でクラフトヴェルクから実験性を削ぎ落して分かりやすく再定義し直したようなYMOのテクノポップが世間を席巻した時代なんかもオーバーラップしてる。電子音楽の大衆化が一気に進み始めた時代、って言えるだろう。
 ちょっと品揃えの良い楽器屋に行けば、必ずと言って良いほどそんなんにアテられたおれと同年代の中高生が店頭にある試奏用のシンセで「ライディーン」とか「東風」のイントロ弾いてたりもした。そんな彼らが弾いてるのは、もちろん上に挙げたようなハイエンドなシンセではない。ヨユーで100万超えるモン、誰がどこの馬の骨とも知れんガキに触らせるか!?ってね。

 当時、シンセ入門機の三傑はローランドの”SH−1”、ヤマハの”CS−10”、そしてコルグ”MS−10”でシノギを削っていた。どれもモノフォニックで1VCO+1VCF+1VCAという信号系統1本のシンプルな造りだが、各社それぞれエンベロープコントロールを独立させたり、外部入力端子を持たせたり、スライドコントローラにしたり・・・・・・と工夫していた。見た目にしてもフラットにしてサイズや可搬性を重視したようなローランド、やはりエレクトーンからの流れかちょっとパネルをスラントさせたヤマハ、まるで実験室の機材のような、あるいはアコーディオンを置いたような(笑)コルグ・・・・・・と、外観でも一生懸命他社との差別化を図ろうとしてたのが微笑ましい。そんな中でとりわけミニムーグを意識してたのはコルグだったように思う。

 しかしブランド知名度で言うなら前2つは圧倒的であり、ちょっとマイナーなコルグは値段と中身で勝負!と言わんばかりに、2〜3万安い値付けであっただけでなく、回路の接続順を変えたりできるジャックの並んだパッチコントロールまで備えてたのである。そしてここが最大のポイントなのだが、実は1つ上のモデルになるMS−20をほぼ同じ価格にしてたのだった。つまり、同じ値段で格上でっせ・・・・・・と。要するにMS−10は客寄せチョー廉価版のアテ馬に過ぎず、真の対抗馬はMS−20だったちゅうワケだ。

 MS−20の何が1ランク上かっちゅうと、要は上に挙げた信号系統を2本備えてるだけでなく、テンコ盛りのパッチパネルに音源からは独立したリングモジュレータやピンク/ホワイトノイズのジェネレータ、さらには鍵盤とは別にトリガースイッチまで備えてたことである。他社と比べて異常に音作りの幅が広く、どんな音でも出せる印象だった。実際、当時コルグが出してた無料ファンジンに、「キーボードで吹き荒れる嵐の音を出しながらトリガースイッチで雷の音を出してみましょう」なんてあったが、なるほどこんな芸当が1台でやれてしまうのはMS−20だけだったと言えるだろう。
 加えて2系統の音源による音色のツヤとか太さが圧倒的だった。音って、正弦波とか矩形波とか基本波形があってそれがさらにゴニョノゴニョ変調してできてんだけど、すごく大雑把に言うと、基本波形以外の波形やら倍音といったいわば「雑味」が混ざらないと、音叉みたいにクリアなだけで味も素っ気もななくなってしまいがちなのである。だから、この「2系統」ってのにはとても大きな意味があったのだ。
 それで言うと、ミニムーグは3VCOなんだけど、ぶっちゃけコルグの方が太いように思ってた・・・・・・っちゅうかベンチマークとしたミニムーグをさらに過激にブチュブチュブヨブヨ言わせるような音の方向性がMS−20で、逆に選の細い音は苦手としてた記憶がある。どうだろ?音の太さではローランドがいっちゃん細かったかなぁ?

 しかし、所詮おれ、あるいは当時の周囲の友人たちも含めてみんなアオいガキだった。何にも分かっちゃいなかった。所詮はモノフォニック、やっぱポリフォニックの方が良いよな〜、鍵盤少ないよな〜、どんなけ頑張ったってホンモノの楽器の音でないよな〜、玩具だよな〜・・・・・・ってな風に思ってたのである。拝欧丸出しで、憧れはやはり冒頭の舶来系で、国産のここいらのは文化祭でハモンドのつもりのエレクトーンの上に置かれるのが関の山だと、ハナッから思い込んでたのだった・・・・・・バカだなぁ〜、つくづくバカだ。当時に戻れたら殴り倒してやりたいくらいにバカだ。

 畢竟、音楽は機材ではないのである。まずは今あるものからどれだけ引き出し、どこまで自分の世界を作るかってコトから音楽は始まるのだ。

 オチを言っちゃうと、何とその後大学に入ってハマりまくったDAFだのリエゾンだのといったドイツ系エレクトロはみんな、MS−20を駆使して音作り(特にベースライン)をしてたのだった・・・・・・ってコトは。シーケンサーはこのシリーズの一党のSQ−10だろう。残念なコトにそのことを知ったのはもっと後、会社員になって何年も経ち、インターネットが普及してからのことである。それまではコニー・プランクにミニムーグ借りてやってたんかな?って思ってたもん(笑)。
 ともあれこれ以上は無いってくらいにシンプルかつチープな機材である。だけど、それを逆手に取ったかのような、特徴的な音色を最大限活かした骨太で肉感的なベースラインがどれだけハウスだとかEBMだとか、その後の世界のエレクトロ系音楽の潮流に影響を及ぼしたかについては今更申し上げるまでもなかろう。

 プアマンズ・ミニムーグは本家ミニムーグ以上の存在となったのである。

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 コルグにとってもこの歴史的名作であるMS−20は数あるシンセの中でも特別な存在であるようで、これまでにもミニサイズ版、アプリ版、組み立てキット版等々、様々な形で復刻して来ているが、ついに発表40周年記念とやらで完全復刻版がリリースされるらしい。それもオリジナルにはなかった黒・白・青・緑の筐体4色展開。正直、かなり欲しい(笑)。欲しいが、扱いがむつかしいことはもう間違いない。イージーオペレートなら、現代のデジタル機の方が100倍ラクだろう。

 何がむつかしいって、アナログ機ゆえに苦労して作った音色をセーヴしとけないのである。リアルタイムでツマミをグリグリ回して大胆な変調を加えられるのがアナログ機の最大のメリットなのとトレードオフっちゅうこっちゃね。だから昔は、手書きのセッティングシートみたいなのを拵えて、次の曲の前にチマチマと設定を変更したりしてたんだけど、そこがやはりアナログ、どしたってキッチリとは再現出来ない。

 それに、所有欲を満たしたいのならともかく、音楽をやりたいのなら、ムリにこんなヴィンテージマシンでなくたって音楽はやれる。手持ちのDAWに無料VSTのソフトシンセや音源類・エフェクターを駆使するだけでほぼどうにかなるだろう。VOLCAだってMIDIコントローラだって転がってんだし。

 繰り返す。音楽は機材ではないのである。まずは今あるものからどれだけ引き出し、どこまで自分の世界を作るかってコトから音楽は始まるのだ・・・・・・ま、あらゆる表現の道具がそうなんだけどさ。
 それは例えばハウスミュージックがローランドのTR−808やTB−303といったその時点ではかなり時代遅れの、それも完動品かどうかも怪しいリズムボックス/シーケンサと、チープな4トラMTRを駆使して生まれたこと、電気グルーヴの石野卓球が誕生日祝いだか進学祝いだかで買ってもらったSH−1を弄り倒して音楽の道に入ったなんてエピソードを挙げるだけで十分だろう。

 ・・・・・・でもやっぱ欲しいな、MS−20(笑)。

 そして最後に今回これを書こうと思い立った訃報に一言・・・・・・R.I.P Gabi Delgado−Lopez !!


これは最廉価版のMS−10。コントロールパネルがちょと寂しいだけでなく、鍵盤数も少ない(笑)。

ひじょうにレアな拡張モジュールのMS−50。

https://www.amazon.ca/,https://www.proun.net/より

2020.05.29

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