「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
小さな奇蹟・ドラム編・・・・・・ネギドラム訪問記


最近出されたアルダーシェルのモデル。クラシカルなルックスがシブい。

 初めてその名前を知ったのはもぉずいぶん昔、以前紹介した南海高野線・北野田駅近く、長崎屋の裏手の喫茶店二階にあった「KG・Country」って小さな楽器屋でだった。思えばおれ、高校1年の夏の終わりくらいから卒業までの約2年少々、ヒマなときはズーッと楽器屋なのに殆ど楽器のない、この奇妙な店に入り浸ってたなぁ〜。まだギターだって買ったばかりでロクに弾けもしないのに、カタログ基地外だったせいでやたら情報量だけは増えてってた時代だ。
 その日、何の話からそんな流れになったのかは今ではもぉまったく想い出せないが、要はギターは国産メーカーが沢山あるのにタイコは少ないっすねぇ〜、ってな感じだったように思う。

 当時のタイコはパールとヤマハが二強で、そこに追い付け追い越せでタマが頑張ってたようなイメージがある。ポリスが登場してS・コープランドがタマを叩いてるの見て(タムにでっかく「Fuck Off You Cunt、お・ま・ん・こ」って書いてあったアレね、笑)、おれはなんだかんだでまだ駆け出しだし、パンク/NW系で三文安く見られてパールとかヤマハが契約してくれへんのかな?なんて思ってた・・・・・・記憶違いならゴメンナサイ。でも、実際モデルのラインナップやカラリング、ハードウェアなんかにしても、タマってちょっとばかし二社に後れを取ってる印象があったんっすよ。
 ともあれ、所詮は音楽や楽器に目覚めたばかりのアオいガキ、その程度の浅薄な知識しかなかったワケですわ。

 そしたら店主のコジマさんが、それこそグレイシーやらムラヤマやら黎明期の日本のタイコからのブランドの変遷をあれこれ話し始めて、今はむしろ昔に較べて淘汰されて減っちゃったコト、ヤマハは自分で作らず、下請けがあって大阪で作ってるコト(←その後のサカエのことやってんね!)等々、弦楽器以外の知識もハンパないコトを知らされたのだった。その話の中でネギドラムの名前が出て来たのである。

 ------あんなぁ〜、「ネギ」っちゅうてメッチャ小さいドラム屋があってなぁ・・・・・・知らんやろ?
 ------ネギ!?変わった名前っすねぇ〜。
 ------ココがやな、滅多に出回らんのやけどホンマにエエねんわ!ラディックとかグレッチもビックリやで。
 ------へぇ〜っ!(・・・・・・ってラディックやグレッチの実物も殆ど見たことなかったんだけど、笑)

 そらまぁ良く考えずともギターにだって今はルシアーって呼ぶんでしたっけ?ハンドメイドの工房系があるくらいなんだから、タイコにだって職人気質の工房あっても不思議ではないような気がしたが、ともあれ若い頃の刷り込みとは恐ろしい。その時点でおれの中には「ネギドラム=国産ハンドメイドの超高級品」ってイメージがスッカリ出来てしまったのである。ひねくれてるようで意外にアテられやすいんですわ、おれ。

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 MFTに乗り換えて、まだ思う存分撮りまくれてない。そんなんで今回は満を持しての伊良湖行きだったのに、発達して東進する湾岸低気圧のせいで朝からこの季節にしてはケッコー本降りの雨だわチョー寒いわで、当初プロットしてた訪問予定地の大幅変更を余儀なくされてしまった。さぁどぉしよう!?

 マップピンだらけで大変なことになってるGoogleMyMapを開いて改めて眺めてみる。いずれにせよ浜松で下りて1号バイパスで海沿いを西に向かうんだから、下りたあたりで時間をツブすのが吉だろうと思ってみると、中田島砂丘とダルマ寺ってトコにマップピンが置かれてある。何時の間こんなところに目星付けたんだろう?まぁエエか。
 でも雨の砂丘なんて絵にならんだろうし、寒いだけだろうし・・・・・・そうだ!楽器博物館って駅近くにあったよな、それから駅周辺で有名な餃子食えば良かろう。あ!そうだそうだ!浜松にはネギドラムあるやん。製造直売みたいなことやってるってホームページで見たことあるから一度覗いてみるか。

 ググッてみると住所はすぐに判明する。それをGoogleMyMapにコピペしてプロットしてみると・・・・・・うわ!なんと!目指すダルマ寺から100mくらいしか離れてないぢゃあーりま温泉!なんて駄洒落トバしてる場合ではない。ちょっと背筋が寒くなった。
 ホントどれだけ意味があるのかないのかさえ良く分からない、こうしたシンクロニシティがおれにはしばしば起こる。盛ろうとしてフカシこいてんぢゃないよ。先日の同色・同メーカー・同素材・同グレードのフロアタムをポコッと見付けたんにしてもそうだけど、マジで起きるのだ。

 駅前のアクトシティって大きなビルの一角にある楽器博物館はとても愉しめた。古今東西の様々な楽器は見てて飽きないし、楽器っちゅう存在が実は永遠の現在進行形で、今でも変化し続けてるんだってコトを教えられたように思う。唯一残念なのは、体験コーナーにロクな楽器がなかったってコトくらいだろう。巨大ガムランのフルセットとか置いてくれたら楽しいのに。
 電気楽器・電子楽器なんかも胸アツなコレクションが見られた。近年ヤマハ傘下に入ったせいか意外にコルグ製品の展示が多く、懐かしのMSシリーズやシグマなんてーのは同時代を過ごした者にとっては感涙モノだろう。ともあれ帰りしなに売店で思わず玩具のカリンバを買ってしまったくらい愉しめる博物館だった。

 依然降りしきる雨の中、次に向かったのは駅を挟んで反対側にある餃子の名店「むつぎく」である。開店前なのに既に30人くらい行列が出来てる。手際の良いことに並んでるところに注文を訊きに来る。聞き耳立ててると多くの人がサイドメニューのラーメンやホルモン焼きを頼んでるんで、ついつい最近の地道なダイエットのコトも忘れておれたちも注文。
 味の方は餃子は言うに及ばず、古典的なラーメンも濃い味噌ダレのホルモン焼きもマジでどれも美味かった。ぶっちゃけ最近は駅ナカにも出店した有名店の「石松」より美味いと思った・・・・・・で、いよいよネギドラムだ。

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 民家と田圃が混在する町はずれ、表通りから恐ろしく狭い道を奥に入ったトコに、「ND’s Garage」ことネギドラムの小さな店舗兼スタジオ兼工場はあった。グレーのトタン張りの巨大な箱みたいな建物だ。角のショウウインドウにタイコが置かれてなければここがドラム屋さんってコトも分からないだろう。

 何となく恐る恐るドアを開けて入る。そんなに中は広くない。入ってすぐのラックに出荷待ちなのか在庫なのか、ビニール袋を被せられたスネアが何十台も立ててあり、あとは大分叩き込んだ痕跡の見られる4点セットと、明らかに出来立てホヤホヤの不思議な淡い藤色メタリックっちゅう素晴らしくビビッドなカラーの20インチと18インチのそれぞれ3点セットが置かれてあるのが目に付く。後は雑然とスタンドやらなんやらハードウェア類に、なぜか三脚に乗っかったビデオカメラ。

 年配の女性が迎えてくれて、「今ちょっとバタバタしてるんですけど、すぐに下りて来ますから〜」などと言う。いやいやいやいや、こちらは酔狂にも東京からやって来たっちゅうだけの単なるヒヤカシに過ぎないし、どだいタイコを我流で叩き始めてまだ数ヶ月、基本のエイトでさえヨレまくるようなド素人なのだ。ハンドメイドの工房に足を踏み入れられただけでもありがたいくらいであって、謙遜でもなんでもなく、そんなお時間を取らせちゃ申し訳ない。だから本気で固辞したにも関わらず、しばらくすると社長というか店主というか、齢の頃はおれと同じくらいの大柄でヒゲ面のオッチャンがドスドスと2階から現れたのだった。

 時間にすればせいぜい20分くらいだったろうか、奥にある6畳ほどのスタジオに入らせてもらって、実際に叩かせてもらい、サイズからは想像の付かない出音のデカさと良くヌケる低音に驚いたコト、「5分だけ良いですか?」と言われて10分以上(笑)、ドラムについてのいろんな講義(?)を聴いたコト、最近よく使うアガチス材はしっかり乾かしたメイプルの音がするコト、楽器の中で最も音量をコントロールできるのがドラムであるコト、リズムとは?グルーヴとは?ドライヴとは?フロアタムの意味、ライドは止めるためのモノ、クラッシュは埋めるためのモノ、「おんしょく」と「ねいろ」のコト、オモテとウラ、陰と陽・・・・・・etc、何かもぉ圧倒されっぱなしで、本当に熱心に話していただいたのに申し訳ないんだけど、話されることの2割くらいしか理解できなかった。スンマセン。

 ともあれとても濃密な時間を過ごさせていただいたのだった。クルマに戻ると、中で待ってたヨメは眠りこけてる(笑)。

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 以前も触れたように、「タイコの音の大半は皮(ヘッド)とそのチューニングで決まる」っちゅう説があって、それをおれはかなり正しいのではないかと思ってる。フープやシェルの材質、作り方、マウント方法等の影響はもちろんゼロではないにせよ、かなり小さい。そしてあらゆる楽器がそうであるように、上手な人が安物鳴らすのとヘタクソが上等鳴らすのとでは前者が圧倒的に良い音に聴こえる。
 しかし、「だから何だって良いんだよ・・・・・・」などとニヒルに嘯く気は毛頭ない。その僅か数パーセントの差異に拘って拘って拘り抜くコトこそが、或いは音に神を宿らせるかも知れないからだ。

 いきなりやって来た見ず知らずのおれに社長が一生懸命に語られたことにしたって、全部が全部ホンマに合理的で普遍性をもって正しいのか?っちゅうたらぶっちゃけ良く分からないし、拵えるタイコにだってその時々での出来・不出来もあるかも知れないし、ユーザーの趣向と合う/合わないってな相性っちゅうのもあるだろう。

 ・・・・・・でも、そんな是非はどうだって良いのだ。

 地方都市の町はずれで、ひたすらドラムとそれが鳴らされる音楽のことだけを考えて、あーでもないこーでもないと呻吟しながら素材や造りを試し、ガレージメーカーゆえにそりゃぁ大手に較べたら小回りは利くかも知れないけど、間違いなく圧倒的に貧弱な資金力や制作環境の中、とことん情熱と拘りを傾注して一台一台をハンドメイドで作ってる人がいる。
 生ドラムってマーケット自体が元々大して広くないコトに加え、核家族化の進展でそもそも生ドラムを置ける住環境が減少する中、ほんな飛ぶように売れるものでもないだろうし、さほど大儲けしてるようにも見えないけれど、それでも信念と自分なりの思想を持ってコツコツとコンスタントに新作を出し続ける人がいる。
 そのこと自体に、音の奥底に至る道がある。何もブランドとしての希少性なんてセコい話をしたいのではない。分かりやすく言えばプロダクツに「念が籠もってる」っちゅうこっちゃね。そこが大切なのだ。

 自分の技量も顧みず、絶対にいつかは一つ拵えてもらいたいと真剣に思ってしまった。もちろんエイトの基本パターンもマトモに叩けない今のおれでは豚に真珠・猫に小判で宝の持ち腐れだろうが。でもホンマ、実物見て叩いたら、ごっつエエ感じやったんっすよ。何だか、チャリについてまだロクに知らないガキの分際で、伝説のビルダーが最後に作ったっちゅうビゴーレの10数本のラグレスフレームのうちの1本を買った、あの時の感覚を想い出した。
 フルセットはかなりなお値段がするから、まぁスネア1個だけ、とかになるんだろうけどさ・・・・・・あ、でも最近は頑張って小径の3点セットで10万切るような低価格なのも出してたりするんだった。上に掲げた画像が正にそれだ。シンプルで古風なラグとナチュラルステインのカラーが激シブで、ひじょうに高級感がある。これなら置き場所はともかく、何とか買えそうだよな。

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 肝心のダルマ寺は、脱力系B級観光の香りのする、それはそれでとても面白いトコだった。名前の通り、とにかく本堂の屋根から内陣からダルマだらけ。何でそれで虚空蔵なのかも良く分からないけど、近郷近在の信心を広く集めてるようで、2月の大祭には沢山の屋台が並び、数万人の参詣客が押し寄せるらしい。

 しっかしホンマ、何でこの寺をプロットしてたんだろ?おれ。ダルマか虚空蔵かどっちか知らんけど、これが啓示とかお導きってヤツなのかな?ネギドラムを買っちゃえ買っちゃえ、っちゅう・・・・・・ハハハ、そんな誘惑するなんて仏ぢゃなくて悪魔やんか(笑)。

2020.03.19

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