「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
中古相場の怪


ギターだとこうしたムックまで充実してるんですよ。

https://www.shinko-music.co.jp/より

 めでたくドラムセットのオーナーになれただけでなく、中古品を異常なくらいの破格値でゲットできたので、随分安く済んでしまった。まっことありがてぇ話で御座いまする旦那さまぁ〜、なんであるが、どうも今一つ釈然としない点がある。いやまぁ、安く買えたのに文句言ったって始まらないコトは重々承知の上で申し上げると、ナンボなんでもドラムの中古相場が低すぎるような気がしてるのである。そりゃぁたしかに50年代グレッチとか60年代ラディックあたりだけは別格で、すんげぇプライスタグが付いてるけれど、国産、それも2000年台以前の製品については異常に値落ちが激しい。20年で減価償却だとか、あるいは賞味期限でも迎えるんだろうか?

 所謂「ロック」な楽器の基本は言うまでもなくエレキギターだろう。その次がエレキベース、ほいでもってタイコがありゃぁバンドはやれてしまう。ワハハ、おれ、マジで「ライブアット四畳半」が現実に近付きつつあるな(笑)・・・・・・ってそれはともかく、だから圧倒的に流通量が多いのがやはりギターであることは今更申し上げる必要もない。実際、おれにしたってギターの保有数がいっちゃん多い。ベースはギターに較べりゃ随分少なくなるが、それでもタイコと比べりゃムチャクチャに市場に出回ってる。

 しかしながら中古相場で見た場合、元の定価から見ての価格下落率はドラムがもぉ圧倒的である。つい先日も、かなり古くて見た目の状態は悪いとは申せ、国産時代のパールのメイプルで22−12−13−16の4点セットが僅か3万円で投げ売りされてるのを発見した。しゃんむぁんいぇん!激安の極北、マックストーンとかプレテクでも買えへん、って。
 スペック的にはタムホルダー以外ほぼ何も変わってない現行品だと30何万円する代物である。実勢価格でも値切って22〜3万はするハズだ。1/7〜1/10の値段はどう考えたって安い。だってヘッドさえ新品に張り替えれば音はちょっとも変わらんのですよ。ヘッドなんて消耗品なんだし、どうせ新品買ったってその内あーでもないこーでもないって言い出して交換するんだしさ。弦みたいなモンっすよ。

 これまでにも書いた通り、国産ドラムメーカーの部品供給体制は割とシッカリしてるんで、錆びたパーツはいくらでも安価に交換が効くし、ヨタッてしまったカバリングは、ちょっと器用な人ならDIYで張り替えることだって可能だ。ましてや、個人的にその事実にどれほどの重要性があるのかは大いに疑問に思ってはいるものの、これだって立派なメイド・イン・ジャパンでっせ。30年くらいは軽く経ってんだからジャパン・ヴィンテージでっせ。
 ギターなんてもぉその当時のヤツでちょっと状態良ければプレミア価格が付いてたりするのに、哀れなるかよ妹のおきよでタイコはこのザマだ。ついさっきも中古楽器屋覗いてたら、トーカイの80年前後のレスポールが当時の定価より高い15万円でブラ下げられてるのを見掛けた。まぁ、これは特殊な例とは思うけど、クズブランドや余程のエントリーモデルでなければ、大抵は当時の定価の7割くらいの値付けに収まってるケースが多い。

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 しかし考えても見て欲しい。ジャパンメイドの楽器が海外のミュージシャンにマトモに評価され、使われ始めたのは、ギターではなくてドラムからだった。そりゃぁこれにはもちろんメーカー側のナリフリ構わぬエンドース契約の大攻勢があったとは申せ、70年代のかなり早い時期からパール・ヤマハ、若干遅れてタマ、ってなカンジで、国産ブランドのドラムをライブやレコーディングで使うミュージシャンが増加の一途を辿っていたのは厳然たる事実である。ウソだと思うなら、各メーカーのカタログのアーカイヴサイトを見ればイッパツで分かる。

 一方でギターはどうだったか?70年代前半のけっこう早くからガンガンにメインで使ってたのはサンタナのヤマハ・SGくらいなモンだ。グヤトーンがムリヤリ(!?)ロリー・ギャラガーに手渡したマロリー、グレコがミック・ラルフスのシグネチャーとして気合入れたMRなんてのもそりゃぁたしかにあったけど、実際にどれだけ実戦で使用されたかはかなり怪しい。リッチー・ブラックモアがコンサートの最後での破壊専用にグレコを調達してたのは有名なハナシだが、本物より頑丈に出来てて壊しにくかったとかナントカ(笑)。大好きなチープ・トリックの武道館ライヴのジャケットにはグレコの青いミラージュ抱えるリック・ニールセンが写ってるけど、あれもまぁ大人のお付き合い、っちゅうヤツだろう。それが77年である。

 要するに、ギター・ベースについては海外ではさほどプロミュージシャンからの支持を得られてなかったワケだ。そりゃそうだ。かつて日本製エレキで輸出されてたのは専らステューデントモデル・・・・・・といやぁ聞こえは良いが、まぁ粗悪な子供騙しのようなオモチャが大半だったのだから。使用アーティストが増え始めるのはドラムに遅れること7〜8年、70年代も終わり近く、アメリカでのタカミネの大成功あたりからではなかろうか。何を言いたいかっちゅうと、ジャパンメイドとしてのブランド性やステイタス性を世界的に獲得したのはドラムの方が遥かに早かった、ってコトだ。

 しかし、タマ数の少なさ・・・・・・即ち希少性だってあるにも拘わらず国産ドラムの中古相場はメチャ安い。いやいや、これでも最近ちょっとは上がって来た方かも知れない。その理由は、っちゅうと、メッシュヘッド張って、サイレントシンバルを組み合わせてなら自宅で鳴らせるってワザがある程度世の中に知られて来て、以前よりかは引き合いが増えて来てるかららしい。ハハ、なんだぁ〜!結局おれもそんな一人やったんやね。
 そんなんでちょっと前までは十把一絡げで扱われてた中から、ヤマハのYD−9000シリーズなんかはアタマ一つ抜け出して、ややプレミア価格になりつつあったりもする。しかしそれでも、ギターやベースに較べれば盛り上がりには全然欠けてる。

 阿呆なおれもここでようやく分かった。「価格とは需要と供給で決まる」っちゅう常識以前の大原則がここでも生きていたのだ。ナンボ珍奇で高価で手間ヒマかかって上質なモノだって、誰も欲しがらなければ、それはまったくの無価値なのである。

 ギターやベースはドラムに較べれば部屋にあっても邪魔になんない。また、アンプ次第で出音が小さくできたりもするし、気軽に練習でスタジオに持ってくこともできる。また、若い時にやってた、な〜んてウデに覚えのある人口も圧倒的に多い。
 一方のドラムっちゅうと、電子ドラムの普及、或いはX−JAPANの奮闘もあってか(笑)、今でこそ憧れる層もやや増えたように思うけど、かつてはベースよりもさらに縁の下の力持ち的な存在だった。そんな目立たないワリには習得がむつかしいコト、ハデなセットにしようとするとものすごくコストが掛かるコト、そして自宅で練習しようにも爆音なコト、気軽に持ち運びできないコト(未だかつて街中でドラムセットをゴロゴロ引っ張ってる人なんて見たことないもんね、笑)等々の理由から、そもそもやってた人もやってる人もやろうっちゅう人も少ない。バンドメンバーでいっちゃん苦労するのはだからドラマー探しなのだ。

 供給も少なければ、そもそもの需要も少ないのですよ、タイコって。

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 しかし、意外な事実に気付いた。おれがタイコを買ったと聞き、さらに室内で叩けるカラクリを知るに及んで俄然、「それだったらおれも買ってみようかなぁ〜?」って言い出す人がムチャクチャ多いのである。フォークやらロックやらジャンルはともかく、かつて一度はギター弾いたことがある人が殆どなんだけど、少なからずドラムに興味だけは持ってたのだ。そして彼等のセリフの最後は判で捺したように決まってる。「ドラムってカッコいいし憧れるよねぇ〜。昔、やってみたかったんだよ。思い切り叩けたら楽しいだろうねぇ〜」である。
 そう、叩いてみたい、所有してみたいって人は世の中にスゴく沢山いる。ただ、消音の仕掛けが劇的に進化してることを知らないだけなのだ。そんな彼等なんだけど一方で不思議なくらい共通する事象として、電子ドラムにはも一つ食指が動かない、って事実もある。どうやら如何にもアコースティックドラムの代用品っぽいのと、多数の配線を伴う電気仕掛けが何となく敷居が高そうに見えるかららしい。ついでに言うと、テクノ時代のヒョンヒョンヒョヒョンって間抜けなシンドラのイメージが強いってのもあったりするみたいだ。

 ・・・・・・これってモロにビジネスの世界で言うところのチャンスロスであり、潜在需要の掘り起こしってぇのに失敗してるのではなかろうか?

 最大の阻害要因が音量の馬鹿デカさにあることは間違いなかろう。可搬性の悪さは気にしなくても良い。大体きょう日、ドラム叩けるんなら叩いてみたいよね、な〜んてのたまう人の多くは中年以上の人で自宅で叩くコトしか考えてないからだ。そして価格はむしろ少々高くたって良いのではなかろうか。だって小金持ちが多いんだモン。ナンボ家が狭いっちゅうたかて、子供たちが独立しちゃって空き部屋が出来てるような人も多いんだから、極端に小口径なジャングルとかボップサイズにする必要はない。

 こうして考えると、子供用ドラムと大差ないサイズの3点セットをオッサン向けに売ろうとするドラムメーカーの販売戦略は大いに間違ってる。メッシュヘッドとサイレントシンバルを標準装備にした通常サイズのキットをメインにするのだ。素材は安っぽいポプラなんか使ってちゃダメだ。オッサンが高級素材としてドヤ顔しやすいメイプルかバーチ、塗装もラッカー、或いはカバリングならビートルズ世代も多いだろうからブラックオイスターなんかでインテリアとの親和性やかつての憧れの実現を全面的に打ち出す。
 シンバルもココはひたすら分かりやすく、パイステ2002とかAジルでサイレントヴァージョンを頼んで作ってもらうようにする。素材はムダに豪華にブロンズだ。パイステはB8のシートブロンズがアイデンティティだけど、もぉ分かりやすくB20のキャストにしてもらったらより分かりやすい。いやもぉ音色はどぉだって良いから(笑)。
 そしてオッサンの朝の必読誌である日経新聞なんかに、ドーンと一面広告を打つのである。中高年の物欲ヲタが好む「特選街」なんかでも良いかも知れないし、往年の二光の通販みたいにして、文春や新潮の裏表紙あたりに広告出すのも妙案だろう。

 断言しても構わない。これでかなりの数が売れるハズだ。そうして裾野が広がれば、現在の不当なまでに安い中古のタイコ相場はいっぺんに跳ね上がるだろう。

 ・・・・・・んん〜、やっぱそりゃ困るな。アカンわ。
 2セット目が安く揃えられなくなるではないか(笑)。


笑っちゃうくらいに小さいラディック”ブレイクビーツ”。オッサンによく売れてるらしい。

2020.02.12

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