「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
二階建てシンバル萌え


イアン・ペイス。”Highway Star”録音中のショットらしい。トップシンバルが二階建てなのが分かる。

 6〜70年代くらいのハードウェア類がいささかチャチかった時代のドラムセットが、見てる分にはスッキリしてて好きだ。

 でもやっぱ、その後のラウドに激しくなる一方のロックミュージックでは、折れたり曲がったり、あるいは倒れたり揺れたりして役不足だったんだろう。その後は各社競うようにしてドンドンとヘビーデューティー化が進んでったような気がする。パイプの径は太くなり、脚はフラットベースから三脚タイプ、シングルレッグからダブルレッグ、ブームスタンドもカウンターウェイト付けたりなんかして、スゴく物々しくなってった。それで足許で互いの脚が干渉してチャンと置けない、な〜んて困ったコトさえ起きて来て、挙句行き着いた先が多分、ラックマウントだったように思う。

 今から思えば、90年代くらいまではタイコのセットにしたって、高騰する一方のバブル経済に歩調を合わせたかのような時代で、とにかく多点キットが多かった・・・・・・っちゅうか、3点セットなんかだともぉそれだけで「あ〜、ジャズね」とか「あ〜、パンクやね」ってな具合のレッテル貼られちゃうようなカンジがあったと思う。「多点キットにあらずんばマトモなロックにあらず」みたいな(笑)。
 だから俵屋宗達の雷神みたいにエイト・タムやらロート・タムをズラァ〜ッと並べるのは、ちょっと功成り名を遂げた(笑)バンドの当然の嗜みみたいな感じだった。

 それがどうだ!?スッカリ今はスッキリしちゃった。まぁ、とは申せ日本の3点セットだらけの状況は、これはこれで少し行きすぎなのかも知れないけれど、世界的に見てもせいぜいタム3つ、フロア2つくらいまでのシンプルなセットが主流だ。今でも満艦飾でしぶとくやってるの、V系バンドくらいなんとちゃうかな?そのせいかラックマウントも今は全然流行らず、電子ドラムで使われるくらいになってしまった。

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 それはさておき、二階建てシンバルの話だった・・・・・・あ〜、これ、おれの勝手なネーミングですから。正式にどう呼ばれてるのかは知らない。
 最近流行りのスタックで2段重ねにしてバシ!とかガシャ!とかトラッシーな音を出すとかではなく、1本のストレートスタンドの中間部分に1枚、通常の先っちょの部分に1枚載せるやり方のコトだ。

 有名な例では、何と今や最後のオリジナルメンバーとなってしまったディープ・パープルのイアン・ペイスがラディックのエンドーサーだった時代にそんなセットアップをしてた。彼はこの二階建てにかなり拘りがあるみたいで、パールに移った今でもブームスタンド2本を使ってそれっぽくセッティングしてたりする。
 実際は他にも色々居て、下に挙げたジンジャー・ベイカー以外に、ピンクフロイドのニック・メイスン、ヤマハになる前のコージー・パウエル、ラッシュのニール・パートなんかも昔はこの二階建てシンバル派で、スタンドの本数を絞ってた。探せばもっと出て来るだろう。

 画像を見てみると、下の段のシンバルは特にフェルト等で押さえられることもなく、シンバル・ホールをスタンドが貫通してるだけなので、固定されてはないようだ。見えないけど、ひょっとしたらシンバルの下にはフェルト敷いてあるのかも知れないが。
 まぁとにかく思いっきり叩いたら揺れるどころか暴れんまくるんとちゃうか、って心配になるほどの華奢さだ。またフツーは穴を齧らせないように(鉄よりブロンズや真鍮は軟らかいから)、シンバルの当たる部分には筒状のナイロンブッシュみたいなのが嵌められてるけど、そんなのもなさそうだ・・・・・・ってそもそも、シンバルホールを通せるようなスタンドってどんだけ細いねん!?
 要は乱暴に2段のシンバルスタンドの継ぎ手のところにシンバルを載せてるだけなんだと思う。だから、下のシンバルはどれも高さが同じだったりするし、当然ながら水平セッティングしかできない。

 ・・・・・・で、不思議なことにみなさん当時のラディックを使ってる人ばっかしなのである。ラディックのスタンドが他社より細かったからできたんだろうか?でも、グレッチやプレミア、ロジャース、スリンガーランド等々、あの頃ブイブイ言わせてた他社にしたって写真で見る限りではさほどの違いは感じられない。みんなあの頃のは華奢だと思う。あるいはラディックだけが何らかのオプションパーツを売ってたんだろうか?詳しい人がいたら教えて欲しいモンだ。

 ハッキリした記憶はないけれど、パールやヤマハ、あるいはタマといった国産メーカーが世界を席巻するのと入れ替わるようにして、この二階建てシンバルのスタイル、多分70年代の半ばくらいまでには見かけなくなったように思う。

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 しかし、おらぁこの二階建てシンバルのスタイルが大好きなのだ。理由は多分、「貧弱な道具を何とか工夫して賑やかにしてる感じ」みたいなんがいたく心の琴線に響くんだろう。ちょっとゴチャついたシンプルさ、とでも言おうか・・・・・・論旨ムチャクチャやな(笑)。いやまぁ実際は上に書いた通り真逆で、なるだけ沢山のシンバルを少ないスタンドに纏めようってコトなんだろうけど、ロックに目覚めたばかりの中坊のガキにはそう映ってしまったのだ。まるで勘違い、アホそのものやね。
 しかし、刷り込みとは恐ろしい。最初にこの二階建てシンバルに、賑やかでやかましいロックらしさみたいなんを看取してしまって以来、どうにもロックのシンバルセッティングはどっかこうあって欲しいのだ。

 今回、小さいながらもマトモなドラムセットを買って、ちょっと拘ったのがスタンドの細さだった。あの当時の頼りなさげで今にも倒れそうな感じは、現在主流のブッといスタンドではどうにも雰囲気出ない。
 よっしゃぁ〜!次は2階建てシンバルやで!と思ったものの、目下入手可能なスタンドではたとえシンバルホールにパイプを通せても、下の段があまりに低くなってしまう。具体的に言うと、バスドラの上の縁くらいだから50cm少々って高さだ。スネアやフロアタムの打面よりはるかに低い(笑)。カッコ良い悪い以前にマトモに使えないのである。

 唯一、セイビアンから「シンバル・スタッカー」っちゅうて、スタンドの先を延長する細身でシンプルなロッドが出てるんだけど、これがもぉメッチャ短い。15cmくらいしかない。こんなんで大きなのを2枚載せたら、下の方にスティックが入らんではないか(笑)。あくまでこれは、スプラッシュとかベルとか、せいぜい8インチくらいまでの小さいのを大きなシンバルの上にチョコンと載せるためだけのパーツみたいだ。

 二階建てにするってだけならパーツは他にも存在するのだけど、どれもゴツかったり、要らん可動部分が多かったりして、往年の「あの感じ」にはどうにもなってくれなさそうだ。「あの感じ」っちゅう曖昧な表現が大好きそうなカノウプスあたりなら、ひょっとしたら商品化しそうな気もするが、そこまでは待ってらんない。

 まぁロクに叩けもしないんだし、取り敢えずはシンプルにストレートスタンド3本に1枚づつで行くしかなさそうな今日この頃なのである・・・・・・いやこれだってかなりシブいと自画自賛してるんだけどね。


手当たり次第に二階建てにしちゃったかのような”クリーム”時代のジンジャー・ベイカー。水平のタムがシブい。R.I.P.

2019.10.21

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