「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
立ち位置の問題


ピンクフロイドの1972年、ポンペイ遺跡でのライブ

 思えばバンドやってた頃、ギターのおれはあまり深く考えることなくステージの左(つまり観客から見て右側)、俗に「上手側」っちゅう方に立ってた。一方、何度かサポートで呼ばれて友人のバンドでベース弾いたときは下手側に立ってた。技術的にはどっちも下手だけど(笑)。
 そもそもギターアンプやベースアンプがどこ行ってもそんな風に置かれてあるし、ワザワザ動かすのもめんどくさいし、ま、そぉゆうモンなんだろうなぁ〜、って特段気に留めることもなかったのだ。

 しかしあれから幾星霜・・・・・・って大袈裟やな(笑)、改めて考えてみると何でそうなってるのか、そんな決まりでもあるのかサッパリ見当が付かない。そのことについてユル〜く考えてみようっちゅうのが今日のテーマだ。

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 たしかにバンドの各担当の立ち位置を考えると、ギターが上手側、ベースが下手側っちゅうのが圧倒的に多い。例外をむしろ探した方が手っ取り早いような気がする。

 まず3人バンド。ジミヘンは一貫して下手側に立ってた。これはおそらく彼がギッチョだったことに由来するのではないかと思う。狭いステージで上手側に立つと、ギターとベースのヘッド同士がぶつかってしまう惧れがあるからだ。ただ、ギッチョってことではブラック・サバスはどぉか?っちゅうと、トニー・アイオミは上手側なんだよな〜、これが。
 あと、カナダの雄・ラッシュも通常と逆の立ち方してる。これもおそらくは合理的な理由あってではないかとおれは睨んでる。ベースのゲディ・リーはベースでルート音弾きながら左手でキーボード弾きつつ歌う、なんちゅうもぉ食い倒れ太郎もビックリな芸風で知られる(ついでに言うと、足ではムーグ・タウラスを踏んでたりする、笑)んだけど、そんなんだから下手側に立っちゃうとキーボードがステージの真ん中に来て邪魔だった、っちゅうのが実態ではなかろうか。
 珍しいケースでは昨年、奇蹟の再結成(笑)&来日公演を観に行ったディス・ヒート。僅かに残る初期のライヴの模様を見ると、ドラムが下手側、ベースが真ん中、ギターが上手側になってる。昨年の公演でもヘイワードはん、下手側にドラム置いてたし、フレッド・マーの後任で入ったマサカでも、かなり下手寄りにセッティングしてるし、何か拘りがあるのかも知れない。
 ELPはそもそもギターがいなかったっちゅうのあるし、グレッグ・レイクはたまにベースをアコギに持ち替えてたから、ここで俎上に上げるにはちょっとビミョーではあるんだが、まぁベースが上手側っちゅうパターンに属するだろう。あぁ、トリオ時代のトーキング・ヘッズも通常とは逆だったな。
 変わったトコでは「ワル」を最早ギャグのネタにしてた感のあるモーターヘッド。彼らは時代によって立ち位置が違う。80年中盤くらいまではレミーが下手側だったのが、その後上手側に立つようになった。

 4人バンドはどうか?ピンク・フロイドは再初期の頃からベースのロジャー・ウォータースが上手側に立ってた。意外なトコではチープ・トリック。ナゼか一貫して逆の立ち位置だ。理由は良く分からない。NYアンダーグラウンドの雄・ラモーンズも逆だけど、メンバー全員同じ恰好なんで、まぁどうでも良いかも知れないな(笑)。Dr.フィールグッドも逆位置だったっけ?
 そもそもドラムレスでバンドとしてのフォーメーションがやや不明瞭なTGも逆だったりする。クラフトワークになるともぉアータ、横一列どころか全員シンセサイザーやんけ(笑)・・・・・・と、あまり特殊な例はさておき、とにかくやはりギターは上手側、ベースは下手側が圧倒的に多いように思う。

 5人以上はどうか?おれの永遠のフェバリット、ジェネシスは初期の頃は何とギター・ベース両方下手側である(ドラムとキーボードが上手側に並ぶのも珍しい)。まぁこれも真ん中でピーター・ガブリエルが色々やるから他のメンバーが仕方なく隅に退いた、っちゅうんが正解ではないかと思ってる。そぉいやプログレ系ではイエスも昔から逆の立ち位置だったな。変わったトコではボストン、逆の立ち位置に加えて、ギター3人が前で一列になってでリーダーのトム・ショルツは最も下手に立ち、ベースは上手後方にいる。

 こうして列挙していくと、「何だぁ〜!意外に多いやん!」って思われる向きも多いかも知れないが、とんでもない勘違いである。これまで世の中にどれだけ沢山のバンドが現れて来たと思てまんねん鶴は千年!?ホント、ギターが下手側、ベースが上手側っちゅうのはかなりのレアケースと言えるだろう。

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 では、ギターが上手側・ベースが下手側になるのがデフォっちゅうその理由だ。とにかくこれが良く分からない。演奏しやすさで言うと、リズム隊が目くばせしやすいのはベース上手側だろう。だってドラムって通常ちょっと身体が上手向きになるもん。

 一説にはビートルズがルーツって説があるらしい。なるほどベースのポール松川もギッチョだから、ジミヘンと同じ理屈で下手側に立つのが演奏しやすいし、事実、下手に立ってる。しかし、現役時代のライブの写真見ると、ジョージ・ハリスンもまた下手側に立ってることが殆どで、彼が上手側なのは末期の頃くらいなのである(・・・・・・どこに居ても影が薄くてあまり変わらなかったっちゅう説もあるが、笑)。加えて、解散後のウィングス以降の画像を見ると、何とポール松川は上手側に立つようになってたりするのだ。リッケンバッカー#4000ベースはメイプル材で頑丈だから、少々ぶつかっても大丈夫ってコトなんだろうか?(笑)。

 あくまで個人的な推論、っちゅう前置き付きで言うと、おれはただもうこの並びが「自然」だったからではないか?って思ってる。言うまでもなく基本的にはベースは低音、ギターは高音をつかさどる楽器なんだけど、グラフの軸とかノブの回転方向とか、色んな高低の並びってのは基本的に左側が低い(余談だが、だから逆に効くRATのフィルターは使いにくいのだ)。ドラムセットは叩く方からすれば逆だけど、聴く方からすると基本は向かって左がフロアタム、右に行くほど高い音のを並べるのが一般的だ。

 ならば下手側にベースが来るのは、音の配置としては至極自然な流れのような気がしません!?

 加えて、これも当然アテ推量なんだけど、PAやレコーディング機器の問題もあったのではないかと思う。ロック、っちゅうモンが急速に進歩した60年代は、今みたいな巨大な卓やマルチトラックレコーディング、あるいはきめ細かなグラフィックイコライザー等の機器類がまだまだ未整備だった時代でもあった。そんな時代にはシンプルにベースやフロアタム等の低音系は左、ギターやスネア、ハイハット等の高音は右ってな具合に。ある程度音域で固まってくれてた方が何かと都合が良かったんぢゃないか?ってコトだ。

 話は若干逸れるが、ドラムのレコーディング技術の古典的メソッドに「グリン・ジョンズ・テクニック」っちゅうのがある。これなんて、現代の全ての叩くモノにマイキングするのから比べると、もぉメチャクチャ素朴である。バスドラの前に1本、スネアの真上の高いトコに1本、フロアタムとライドシンバルの辺りに1本・・・・・・の計3本しかマイクを使わない。
 何を言いたいか?っちゅうと、こんなんでも登場したのが60年代終わりくらいだから、それ以前は推して知るべしってコトだ。どれだけ「マイクで音を拾う」っちゅうのが貧弱な環境だったか自ずと分かるだろう(・・・・・・って、グリンなんちゃらは音的には別に劣ってはない。自然な定位感や空気感、生々しさの点では今の録音環境でやるより優れてるとも言われるくらいだ)。

 ホンマ何の根拠もなく言ってるんでまったく自信ないけれど、何かその辺にも理由ありそうな気がしません!?

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 しかし、立ち位置がどぉとかこぉとか、太平楽並べてられるのも過去の話になりつつあるような気がする。

 どだい「バンド」なんちゅう「何人かで揃って音を出す」ってなスタイルそのものが今や随分と下火になりつつあるのだ。ライブで髪振り乱して汗まみれになって演奏する、なんてのもあんまし流行らない。
 PCにトラック仕込んで、若干のMIDIコントローラーその他を並べとけば、一人でもライブはやれちゃうんだしさ。いや、歌モノもボカロにやらせりゃ無人のライブだって可能だ。いやいや、そこまでしてライブやる必要なんてない(笑)。部屋の隅にビデオカメラ仕掛けてユーチューブにアップロードすれば済むハナシだ。すべての楽器も、エフェクターも、いやもぉアンプの箱鳴りも空気感も残響も、全部PCの筐体の中でヴァーチャルに完結させることが可能な時代なのだ。

 ・・・・・・でもなんかツマンナイよね、寂しいよね、味気ないよね、冷たいよね、それって。ま、おれがロートルのオッサンなだけなんだろうけどさ。


かなり初期のチープ・トリックのライヴ

2019.08.10

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