「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
伝説のままでいて欲しかった・・・・・・Faust


伝説的な1stアルバム。透明ジャケットに透明ビニール。
残念ながらおれが持ってたのは何度目かの再発モノで紙ジャケに通常の黒ビニール盤でした。


 ファウスト、っちゅうてももぉ今では知らん人の方が圧倒的に多いだろうと思う。往年のドイツの前衛的でいながらちょっと人を食ったような姿勢を貫いたバンド、っちゅうのがまぁ一般的に知られてるトコだろう。
 その音楽は知らなくても、上に掲げた手のレントゲン写真を大写しにしたジャケットは意外にいろんなところに出てくるので、これを見られたことのある方はケッコー多いかも知れない。コイツがデビューアルバムだ。ファウストとはドイツ語で「拳骨」(英語で言うたらフィストやね)、だからこんなジャケットなのだ。

 これのオリジナル版はとにかく凝ってて、透明のジャケットの中に透明ビニール盤が収められていたらしい・・・・・・らしい、っちゅうのは紙スリーブに写真印刷したモノに透明ビニール盤突っ込んだ(つまりジャケットなし)のがオリジナルって言われてたような気もするからだ。どれが真のオリジナルかはおれも未だに良く分からんのだけど、かつてはマニアックな中古レコード屋なんかでたまに「店宝」として非売品で飾られてたり、とんでもないプライスタグが付けられたりしてたモンだ。ちなみにこのコンセプトを丸パクリしたのがEP−4の「マルチレベル・ホラーキー」だったりするのも昔の話になっちゃったな〜(笑)。あぁ、もうすぐ5月21日だな。

 彼らはカンやノイ!、グルグル、クラフトヴェルクといった一連の「クラウトロック」の流れの中で語られることが多い。登場も71年だから、まぁその辺と大体カブッてるのも事実だ。音楽性についても分かりやすいテクノになる前の実験集団としてのクラフトヴェルク、やノイ!との共通点はワリと強いように思う・・・・・・が、やっぱそれらの中でも突き抜けてファウストはヘンだった。ここでユニークっちゅうたらホメ言葉になっちゃうよね。あくまで「ヘン」なのである。後、これは仄聞だけど、ワリと狭いドイツのミュージックシーンの中では各グループのメンバーは結構流動的だったり、オーバーラップしてたりするんだが、彼らは殆ど他のバンドとの交流はなかったらしい・・・・・・あ!スラップ・ハピーとは仲良かったみたいだね。

 ともあれそのヘンさ加減は畢竟、ひたすらロックを解体したり戯画化することにのみ全精力を注いだような、力の向ける方向がちょと間違っとりゃぁせんかい!?ってツッコミ入れたくなるところにあると思う。解体の後の再構築ならまだ分かるが、壊してそこで終わり、おちょくってそこで終わりに聴こえてしまうような作品が多い。冒頭に「人を食ったような」と書いたのはそぉゆうコトだ。
 そんな作品ばっかしをウヴェ・ネッテルベックって兄貴分をリーダーに、若者とはいえエエ歳こいたニーチャンが6人も7人も、田舎の廃校を借り切って共同生活送りながら作り上げてったのである。その音源は膨大な量に上るという。

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 「サティスファクション」や「オール・ユー・ニーズ・ラブ」が断片的に挟まれたイントロから延々と(あるいはダラダラと垂れ流しのように)、サイケなようなフォークなようなクラシックなような奇妙な楽曲の断片のコラージュ(・・・・・・っちゅうても律義に自分たちで演奏してんだけどね、笑)が延々と続く1stは、発売から50年近く経った今聴いても正直何をしたかったのか良く分からない。たしかにあの当時としてはかなりブッ飛んだ音であったことは間違いない。でも、序破急とか起承転結とか緩急ってなメリハリが全編通してどこにもないんですよ。最後まで聴き通すのは結構キツかったりするのも事実だ。
 多分、バロウズなんかに影響を受けてカットアップメソッドを音楽で実践しようとしたことまでは、ニブいおれにも分かる。ただ、出鱈目の向こうに奇蹟的で強烈なテンションとか深い意味やら感動が生まれてこそのカットアップちゃうんかい!?って思いません?何かそこが決定的に欠けてるんですわ。
 その後神格化されることで1stは名盤となりおおせたけど、改めて今、冷静に突き放して聴いてみると、かなり見掛け倒しなアルバムではなかったかと思う。事実、ドイツ国内ではほとんど売れなかったみたいだ。

 ポリドールから当時の日本円にして3千万円、現在の価値に換算すれば軽く1億円以上っちゅう法外な契約金をもらってたんで、このままぢゃサスガに彼らもヤバいと思ったに違いない。2作目”So Far”はヤタケタに解体するばかりな1stとは異なり、随分楽曲としての構築性が感じられる・・・・・・が、結果的には以前も書いた通りで、思い切りひねくれたヴェルベッツへのオマージュ以上にはならなかった。
 まぁ実際にはフリージャズ始めジャズロック的なアプローチやら、R&B、正調ポップ、ノイズ、クラシックギターでエチュード弾いたようなんとか、頑張ってカラフル、かつ1stよりは遥かに分かりやすく整理して仕上げてあるんだけど、彼らの場合、どこをどうしても「意表を衝いたドラマチックな展開」とはなってくれない。木に竹継いだようなチグハグ感とキッチュ感が終始付きまとってしまう。さらに高揚感もノリもグルーヴもない。あくまでノッペリと、まるで熱気に乏しい演奏が彼らの身上だろう。
 何故ならやはり彼ら(あるいはリーダーのウヴェ)の根っ子にあったのは「解体への意思」とか「戯画化」なのであって、醒め切った目線で様々な音楽のイデオムやコンテクストを見てたからだろう。もはやこれは芸風と呼んでも良いかも知れない。
 とは申せこの2枚目、表面的にはある程度聴きやすさもあって、ミニマルミュージック的な執拗なまでの反復パターンが耳に残る佳作揃いっちゃ佳作揃いなので、最初に聞く一枚としてはこのアルバムは結構オススメかも知れない・・・・・・しかしヤッパシ八ッ橋、これも発売当初は全く売れなかったんだそうな。

 その後はレーベルを変えて(引導渡されて、笑)、ホンマに寄せ集め感満載の”The Faust Tapes”(勘違いしたイギリスのスノッブな連中の間で少し人気出たんで、慌ててプロモ盤として詰め合わせを作ってみたんだそうな、笑)、さらに”W”と出して解散する。実際には”W”の製作途中でバンドとしては空中分解してたみたいなんで、合宿期間を入れても4年ほどの短い活動期間だった。
 最後のライブでは楽器を演奏せずにステージで卓球してたなんてエピソードが残るけど、実際はピンボールの機械とシンセサイザーを繋いだような明和電機ばりのマシンを操作してたらしい。僅かに残る初期の頃のライブの模様を見ると、何か80年代以降にノイズ連中の間で一般化した、テーブルの上にゴチャゴチャと楽器だかエフェクターだか並べてグリグリ操作しまくるようなスタイルを10年も早くやってたことが分かる。

 ・・・・・・そして彼らは伝説となった。左翼臭プンプンで小難しい音ばかりを出すR.I.O系のレコメンデッドレコーズが、過去の作品を引き受けてリリースし続けたのも若干神格化の後押しになったかもしれない。日本でもそうだけど、右翼=アタマが悪い/左翼=インテリ、ってなイメージがあるみたいだ。

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 ・・・・・・で、だ。

 そこでスッパリ止しときゃぁ伝説のままだったろう・・・・・・その後のポストパンク、ノイズ・インダストリアル、オルタナティヴのあまりに早過ぎた先駆者(事実、スロビング・グリッスルは「第2のファウスト」なんて呼ばれた)と言われ、様々な刷り込みをされた状態で聴かれる音楽として、その謎めいた活動やメンバー構成までも含めて。

 ところが再結成しちゃったんだな、これが。確か94年だったと思う。何とそれから25年、アルバムだって7枚も8枚も出して、恐るべきことに今なお細く長く活動してたりする。YouTubeにも沢山ライブの模様が上げられてる。既に来日公演も2回やってる。オリジナルメンバーは現時点ではもう二人しか残ってない。オーガナイザーのウヴェはそもそもこの再結成には関わってなかったようだけど、10年ちょっと前に亡くなっている。
 言っちゃなんだが「昔の名前で出ています」っちゅうだけで、手垢の付きまくった如何にもな「古典的アヴァンギャルド」(笑)を飽きもせずやってるだけにおれには聴こえる。そりゃたしかに「継続は力なり」ですよ。でもそれやったらそもそも解散すな、っちゅうこっちゃね。実にダッセェ。その後、ご無沙汰してる間にもっとすごいのが沢山登場し、新たな地平を切り拓いてるんですよ、そらまぁやって来るオーディエンスは、その名前で来てるだけだから何でもエエっちゃ何でもエエんだけど、こんなんをしつこくパーマネントにやるなよな〜、ってやっぱし思っちゃう。

 いや、ほんなコトゆうたかてオマエだってディス・ヒートの再結成ライブ行ってたやんけ!って言われちゃいそうだが、ありゃ「期間限定」ってコトだからまだ救われてたと思う。同窓会のようにセルフ・トリビュートであることを良く分かってやってるから良かったのだ。だから「これはディス・ヒートではない」ってな風に謳ってたのだ。
 ・・・・・・って、そんな精神論は置いとこう。とにかくツマランのんですわ、再結成後のファウストって。平たく言やぁそぉゆうコトだ。
 それはまるで尖った玄人受けする芸でかつてブレイクした芸人が、しばらく消息不明とかナントカ、如何にもな消え方で何年も音沙汰なかったのがカムバックして、昔のままの芸でやるならまだしも、なまじ新しいネタやろうとしたのが、今のセンスに全く付いて行けなくなってるような感じ・・・・・・とでも言えばお判りいただけるだろうか。

 良いんだ、別に。かつてのメンバーが集まって久々に音出してみようか、なんてのは微笑ましくもあって悪い話ではない。しかし、昔の名前はやっぱ名乗っては欲しくないなぁ〜・・・・・・。

 ・・・・・・要はおらぁ寂しいんですよ。想い出が台無しにされたみたいでさ。


おれのフェバリットは”W”っす。”KrautRock”は最高のドラッグソングやね。

2019.05.06

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