「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
挫折/失意/呪縛・・・・・・The Stalin


初期のライブの模様。

http://stalinz.blog.fc2.com/より

 春くらいのことだったか、かねてから膵臓癌であることを公表し闘病中だった遠藤ミチロウが亡くなった、ってニュースが全国紙にも出てた。

 いろんな部位の癌が克服されつつある現代においても、膵臓はそもそも発見自体が遅れがちで、見付かった時には手遅れになってるコトが多く、ひじょうに厄介と言われる。またかなり前から膠原病を患ってたそうで、自分がそう長くないことはどうやら分かっており、それで「ジ・エンド」なんて名前のバンドを始めたりしてたんだろう。

 享年68歳、それをまだまだ早いと見るかどうかはともかく、「ん!?そんなに歳行ってたんだったっけ?」って感じた人がぶっちゃけ世の中には多かったのではなかろうか?なるほどスキャンダラスなスターリンでのライブの模様が女性週刊誌を中心に取り上げられたのが80年代初頭のことだったし、まぁ大体そのようなムチャクチャやらかすのはやっぱし二十歳前後だろ!?って大抵の人は思い込んでるだろうから、おおむね一回りくらい上ブレしてる感がある。

 昔から知ってるヤツは知ってたことで、実際、遠藤ミチロウのスターリンでのデビューは30にもなってからと、ロックミュージシャンとしてはかなりの遅咲きだったのだ。これは30をとうに過ぎてワイヤーを結成したB・C・ギルバート並みの遅さと言えるだろう。
 ぢゃぁそれまで何してたんか?っちゅうと、まぁ要はモノにならないままあれこれやってた、っちゅうのが正解だろう。学生運動にクビ突っ込んだり、当時はハプニングと呼ばれてた突発的パフォーマンスやったり(間違いなく彼はダダカンを知ってたと思うな)、いろんなイベント企画ブチ上げたり、プロモーターみたいなことやったり、ローディーやったり、ロック喫茶やったり、ヒッピーになって世界を放浪したり、弾き語りのフォーク歌手やったり、裏本男優やったり・・・・・・まぁ、そんなニーチャン/ネーチャンがゴマンと溢れてた時代ではあったが。

 ・・・・・・って、それらのエピソードを借り物の知識の開陳で列挙したいワケではない。また実のところ、存命中からスターリン、また遠藤ミチロウ自身についてはさすがにメディアの寵児だっただけあって、いろんなインタビューでミチロウ本人が語り尽くしてる感もあるし、特におれ自身も何か個人的に接点があったワケではないんで、目新しいネタを期待されても困ってしまう。

 そらまぁたしかに日本の中では大好きなバンドの一つではあったとは申せ、どだいおれはそこまでムチャクチャに聴き込んだっちゅうほどスターリンの熱心なリスナーではなかったのだ。ただ60年代末、まさに新左翼運動が珍左翼に変質して行くあたりに多感な学生時代を過ごし、いささか遅れて世に出て来て、80年代当時ですでにかなり苔が生えてレトロな響きを持ってた数々の左翼用語を散りばめた、意外に内省的で知的、かつアイロニカルな歌を、パンク〜ハードコアの演奏に乗せてシャウトするそのスタイルは極めて特異・・・・・・いやむしろ奇妙でさえあり、そこが最も引っ掛かったところだった。

 こぉ言うとミもフタもないどころか、スターリン原理主義者(・・・・・・あ、それこそスターリニストか!?笑)みたいなコアなファンからはシバキ倒されるかも知れないけれど、その楽曲よりも遠藤ミチロウという存在に惹かれるものがあったのだ。

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 そんな言い方するのにはワケがある。だってパンクなんてモン、極論すれば「姿勢の問題」なのであって、音楽そのものは「パワーコード主体のシンプルでヘタで乱暴なロック」ってだけなのだ。たまたまマルコム・マクラレンっちゅう野心家がジョン・ライドン(・・・・・・おっと、当時はジョニー・ロットンだったな)っちゅう稀代のトリックスターを見い出し、セックス・ピストルズっちゅう体裁で分かりやすく、既にイギリス国内で一定のマーケットのあったパブロックを、見た目も含めてさらに尖ったカッコにしてムーヴメントとして仕掛けたのが、取っ付きやすいこともあってブワ〜ッとウケただけでなく、膨大な数のフォロワーを生み出した・・・・・・ホント、それだけのコトだ。ただ、ここまで燎原の火のように世界中に広まるとは、マルコム自身も予想してなかったろう。

 だから畢竟どれもこれも金太郎飴で似通ってた。それでもビミョーな違いはあって、古典的ロックンロールのイデオムを振り掛けてたんがオリジナルだとすれば、極端に速くしたんがハードコア〜Oiであり、ムダにおどろおどろしくシアトリカルにしたんがポジパン、って括ってしまえる。乱暴だがそれが実態だった。
 スターリンの曲の数々はハードコアくらいまでのエッセンスを巧妙に取り込んではいたけれど、音楽そのものにさほどのオリジナリティはなかった。いや、むしろ音楽は不要な冒険なんてせず、「すでに了解された」スタイルである必要があった、と言った方が良いのかも知れない。

 遠藤自身はスタイルなんてホントはどうでも良かったのではなかろうか。ただ、センセーショナルに打って出るには今はパンクだ、って思っただけだろう。あくまでおれの推論だけど、彼はシーンの中心にいながら実はそんなに深くパンクにハマって聴いたことさえなかったんぢゃないかと思ってる。ただ一方で遅れて来た分、それ以前の様々なスタイルの音楽を幅広く、膨大な分量で聴いており、充分すぎる程のバックボーンがあったのは間違いない。

 激しいメンバーチェンジを繰り返した挙句、5年かそこらで初期スターリンは解散し、その後グラムっぽくなったり、フォークの弾き語りになったり(そぉいやぁ、「GNP」・・・・・・グロテスク・ニュー・ポップなんて名乗った時もあったな)、ってな活動からも分かるように、あくまで彼は「コトバの人」だった。そこが分からないアホ共が無節操な変節漢呼ばわりしてただけだ。音楽はあくまでコトバを載せる土台っちゅうか、料理における食器みたいなモンだったとおれは思ってる。もちろん皿や丼は不可欠な存在ではあるし、漆塗りの味噌汁椀に冷製スープが入ってたり、マイセン焼の皿に餃子や焼売が乗っかってたりしちゃおかしなことになるけれど、当然ながら圧倒的に比重は料理の方にある。

 ああ、これは書いておく必要があるかも知れない。当時のスターリンは盛り上がるパンクシーンの中ではいささか浮いた存在だったように思う。あまり他のパンクバンドに与することもなく、いくつも似たり寄ったりのバンドが出演するようなライブにツルんで加わることもなく、自分たちだけでガーッと突っ走ってた感があった。
 もっと有り体に言うなら、いきなりスキャンダラスなステージパフォーマンスをウリに登場して、チマチマ・イジイジやってる連中を尻目にアッちゅう間にシーンの中心に躍り出た、ってのがいっちゃん近い表現かも知れない。
 そんなんでとっととメジャーデビュー(・・・・・・っちゅうたかて徳間音工やったけどね、笑)した彼等に対して、インディーズ・・・・・・要は自主制作に生きがいを感じてたような連中は、半ば嫉妬交じりで嫌ってさえもいた印象がある。

 今になって若いライターが「パンクのレジェンド」とか書いて持ち上げてたりするけど、ホンマに当時の状況調べた上で書いてるのか?って訊きたくなるな。

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 あとは簡潔に書く。

 多分、彼が元々なりたかったのは詩人だったんだろう。そして詩で以て革命を起こしたかった・・・・・・革命っちゅうとどうしても共産主義革命を想像しちゃうが、そうではない。平たく言えばコトバで世の中を変えたかった。そう、彼にとってのヒーローであり、思想家っちゅうにはあまりに抒情的だった吉本隆明みたいに。
 でも、そうは問屋が卸し蕎麦は太めの田舎蕎麦、っちゅうヤツで簡単にはなれなかった。彼のスターリンに至るまでの活動は、如何にも若者らしい挫折と失意の中での悪あがきの連続に他ならない。そして「愛してなかったら済まされないのさ/愛していても済まされないのさ」と、とことん自分の呪縛と向き合って、キレと泥臭さの同居する独特の言葉にしてきた。それが父母であり、学生運動を始めとする6〜70年代の様々なムーヴメントであり、また言葉そのもであったことは言を俟たない。またここは強調しても良いと思うが、その向き合い方はあくまで明るく、ポジティヴだった。

 何としぶとく、不器用で、純粋で、誠実で、蔵するところのない透徹した生き方であることか。
 そんな生き方にちょっとだけ足を踏み入れながら、結局ヘタレで出来なかったおれは、本当に羨ましい。

 さて最後に余談を一つ。

 今回、あれこれネットで知った事柄でいっちゃん面白かったのは、かつてミチロウの父ちゃんが岩手の雲上の楽園・松尾鉱山の診療所でレントゲン技師(鉱山には塵肺のリスクがあるからレントゲンが昔から重要なのだ)をやってて、その時に応募した歌詞が「松尾鉱山音頭」として採用されたことがある、ってエピソードだった。戦前のコトらしい。
 最晩年の彼が「ジ・エンド」とは別に、民謡パンクバンド(!?)「羊歯明神」の名義で音頭に取り組んでたのは(・・・・・・あんましノリが音頭になってないのはご愛敬として)、彼なりの父親への「落とし前」の意味もあったのかも知れない。


これは非常階段との合体ユニット”スター階段”のライブの模様。

http://lamosca.cocolog-nifty.com/より

2019.08.16

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