「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
不都合な真実・・・・・・或いはタイコに関する覚書


「シェルの真円度」!?はぁ!?何ですかそれ?なスゴいセット。「ぐでたま」みたい(笑)。
ドイツの「Trixon Speedfire」といって、VOX傘下で60年代に出たものらしい。


https://precisiondrum.com/より

 ここんとこ三行ブログで繰り返しネタにしてる通り、おらぁ最近つとにタイコ熱が上がっている。もぉヒートアップっちゅうても良いくらいにタイコが欲しい・・・・・・って、以前にタイコのセットをゲットしたとかオマエゆうてたやろ!?とツッコミ入れられそうだな。
 言い訳になるがあれは売り飛ばしてしまったのだ。子供たちが成長して家が手狭になる中で、ナンボ小さなセットとは申せ、積み上げると結構な場所を食う。オマケに欠品だらけなので、バラでチマチマ不足分を買い揃えてくとそれなりに結構なお値段になってしまう。そんなんでスネア以外はクローゼットの奥に仕舞われ、邪魔だ邪魔だとヨメに疎んじられとうとうドナドナの憂き目に遭うことになってしまったのだった。

 残念ながら、弦楽器はある程度できても、打楽器は皆目できないのが正直なところだ。でも、それでもやっぱし欲しい。手足をバラバラに動かす楽器だから、脳への良い刺激にもなって、この歳で始めればちょっとはボケ防止にもなってくれるかもしれないしね・・・・・・寂しいなぁ〜(笑)。

 そんな豪華絢爛な多点セットが欲しいワケではない。ぶっちゃけおらぁあのフィルイン、所謂「オカズ」っちゅうてスットコトトントテテテンビッシャン♪などと曲中に入るのが昔からとにかくダサく思えて嫌いで、そんな「タム回しがどぉこぉ」とかにちっとも興味が湧かない。せいぜい拍のアタマにクラッシュとかスプラッシュ叩いたり、ちょっとロールやフラムを入れてりゃそれで充分ぢゃね!?くらいにさえ思ってる。基本的にキックとハイハット、スネアのコンビネーションだけで色んなパターン刻むのがカッコいいのである。そんなんだから本当はその3つだけあれば済むのかも知れない。
 とは申せそれぢゃぁ余りにヴィジュアルが殺風景過ぎるんで最小限度、以前にも書いた通りでそこに1タム1フロアを加えたミニマムな3点セットで充分、っちゅうこっちゃね。あぁ、でも金物はちょっと沢山欲しいかな?ハイハットは当然としてクラッシュライドにクラッシュにチャイナ、スプラッシュ、ベル、最近流行の穴の開いたのや多角形、スパイラル、ゴング、鉄板、クルマのコイルスプリング、ドリル、ランマ・・・・・・ってノイバウテンかよ!?(笑)。ともあれ金物は色々あった方が絶対に楽しいよね!?

 ・・・・・・ここまで読まれて既視感を持たれた方は正しい。読み返してみると、以前のタイコの駄文と内容も言い回しも殆ど変ってないのである。ホント、おれって進歩がねぇや。それともあれか!?歳取ると繰り言が多くなるっていうヤツか!?(笑)

 さてさて、各社のタイコのカタログを眺めてると、プロ用の高いのからビギナー用の普及品価格のまで、大体4〜5グレードくらいに分かれてる。高いセグメントになるとやれメイプルだバーチだブビンガだカポールだ、と使用する木で細かくシリーズ化されてたりもする。そして高いのは手の込んだグラデーションでシースルー、さらにはラメを混ぜ込んだラッカー塗装なんかが施されており、木目も相俟ってそれはそれは大層美しく、見るからに高級そうだ。いやいや、マジでむちゃくちゃ高いんだわ、これが。

 その価格差には驚くほどの開きがあって、安いのが2セット、ドラム椅子からスティックまで一式揃えて買えるくらいの値段で、高いのだとバスドラが1ヶしか買えないとか、もぉ笑えるくらいにとんでもなく違う。格差社会どころの騒ぎとちゃいまっせ。そりゃぁ方や日本国内製造でさらには受注生産、片や東南アジアで大量ロット生産だから、原材料費以上にあれやこれやコストが乗っかってるのは分かるけど、すごい値段の違いだ。
 昔ならともかく今はおれもある程度の小銭は出来たんだし、ムリクリに安いので辛抱するほどではない。でもだからって奢侈に流れて無駄にお金を費やすのもいささか面白くない。コストフォーヴァリュー、っちゅうんですか、値段と中身はある程度は釣り合ってて欲しいとは思う。
 この場合の「中身」とは、要するに「音」そのものだろう。それも1個づつ試しに叩いてボンとかドンとか出る音ではなく、演奏を通じてまとまった形で出される音。

 今日はそんなことについて、ネットであれこれ調べてるうちに段々と見えてきたことを整理して纏めたものだ。だから引用・参照ばかりで、おれ自身の知見は殆ど出て来ないことを最初にお断りしておく。もしおれと同じような状況であれこれ迷ってる人がいて、購入の一助にでもなれれば嬉しい。

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 疑問の最初の萌芽は、学生時代のバンドでだった。練習場所には古ぼけたドラムセットがあった。今はスッカリ見掛けなくなったヘアラインシルバーの化粧板が貼られた廉価モデルだ。メーカーはどこだったか忘れた。思えば昔は安物ドラムのカラーってなぜかヘアラインシルバーと相場が決まってたな。何でやろ?
 そりゃぁもぉヒドいセットでしたよ。ガムテープの痕だらけの皮は伸びまくりで、タムのボトムは当時はまだ流行の残滓があったメロタムに倣ったのか、あるいは裏皮代をケチったのか(笑)、ラグだけ残して取っ払われてシングルヘッドになってる。バスドラもフロントをフープごと外したのは良いとして、つっかい棒が無いモンだからタムの重みで何となく撓んで楕円形になってるような代物だった。「ドラムで何より大事なのはシェルの真円度です」なんて謳ってたメーカーが見たら卒倒するだろうな(笑)。
 部屋の隅に立て掛けられてた10枚ほどのシンバルがまたどれもチャチくて、素材的に安い真鍮製なのは当然として、もぉベコベコに波打って歪んでるわヒビは入りまくりだわ欠けてるわ穴かじってるわで、ドイツもコイツもペション♪ってなナサケない音しか発しない。仕方なく、今で言うスタックの2枚重ねなんかやってそれらしい音にしたりしてたもんだ。
 しかし、だ。そんな悲惨なセットでも、メンバー唯一のテクニシャンだったタイコのI田が、昔の水道の蛇口みたいなチューニングキーでチョコチョコ弄って叩くとそれなりに聴こえたのだ。音色よりもグルーヴ感が大事なコトをおれは身を以て知った。

 また、西部講堂のオールナイトとか観に行くと沢山バンドが出て来る。中堅クラス以上はチャンと自分のドラムセット持ち込んでゴッソリ組み替えるんだけど、有象無象の連中はそのままスネア交換するくらいで同じセットを使い回す。だから、スネア以外は同じ音になるハズである。
 それがそうはならない。やはり巧いタイコ、下手なタイコが歴然と分かるし、実際使われてたタイコがどれほどのグレードかは知らないけれど、あんまし音色そのものに良いも悪いも感じなかったのが正直なトコだ。やっぱグルーヴ感あってこそのタイコなのである。

 あれから30年以上が過ぎ、最近おれはようつべで面白い動画を見付けた。”$700 Drums VS $5,000 Drums”ってので、激安ドラムと高級ドラムを同じ曲で叩き較べてみましょう、ってな企画である。ちなみにこの値段、シンバル込みでなので本体だけだと400ドル/3,500ドルらしい。凡そ9倍違う。ちなみに条件を揃えるために皮は同じモノにしてるそうだ。
 判断はみなさんでやって欲しいが、何度聴き直してもおれには、タイコ本体でそんなに有意な差異が感じられなかったのだった。スネアは他より違いを感じたけれど、それは優劣っちゅうよりは好みの問題って気がする。どっちも別に悪くはない。
 ただ、シンバルには明らかに差があって、トップシンバルのベル音のヌケ、クラッシュのキレなんかは、明らかに安物では全然足りてない。全体的に音が甲高いだけでなく、細く薄っぺらで軽い。ところが不思議なことにチャイナなんかは、むしろ安物の方がおれ的にはチャイナらしいトラッシュ感を強く感じたのも事実だ。

 ・・・・・・そんなモンなんですわ。

 イギリス製で”TRAPS”って変わったドラムがある。元々は”FLATS”ってブランドだったんだけど、そこが倒産して、権利が買い取られて最近になって生産を再開したモノだ。胴が無く、フープと皮一枚だけで出来たペラペラで、畳むと超コンパクトになるのがウリとなってる。かつて一世を風靡したロートタムをさらにシンプルにしたようなモンである。
 ・・・・・・で、そこの宣伝文句にこんなセリフがある。「『ドラムサウンドの80%はヘッドから来る事を証明する』という開発者の考えを立証した究極のポータブル・アコースティックドラムです」・・・・・・と。個人的には可搬性のために開発されたんとちゃうんか!?と言いたいが(笑)。
 実は店でちょっとコイツを叩いたことがある。たしかに音は素直なタイコの音だったが、如何せん皮一枚で響く部分が少ないせいか音が若干小さいのと、何となくクセが無さすぎていささか味気なく、冷たいような気がした。おそらくそれが足りない20%なんだろう。

 気になってさらにネットをうろついてると、山北弘一さんってプロドラマーの方のブログに、こんな記述があるのを見付けた。ちょっと長いけど引用してみる。

ドラムの音の半分以上は「皮」で決まります。次に音に影響するのはフープ、その次がシェルです。皮はそれ自体が振動して音が出ますから、文句なしに音の「本体」です。個人的な感覚では、皮の音が全体の6割〜7割くらいだと思います。リムショットすればフープも音を発しますから、フープも「本体の一部」です。フープは全体の2割くらいでしょうか。フープを交換すれば音は変わりますが、僕の感覚ではこれはイコライザで高域をいじるような感覚です。では、シェルはどうでしょうか。シェルそのものも叩けば音が出ますが、どんなに多く見積もっても、シェルの音は全体の1割〜2割くらいだと思います・・・・・・
http://blog.livedoor.jp/yamakitak/archives/1445577.html

 この方はプロだから、おれみたいな素人とは比べ物にならないくらい優れた耳と経験をお持ちだろう。そんな人が値としては1〜2割低いものの、TRAPSと同じ意見を述べてるのだ。
 ただ、この後に続いてシッカリ、「残りの1〜2割が音楽には大事なんです」ってな風に述べられてる。プロだからメーカーからエンドース契約なんかも受けておられるだろうし、大人なんだろう。

 もちょっと過激なトコだと、”Weckllover Drums Laboratory”というサイトに次のような主張があるのを見付けた。

結局のところタムの音色は
  @どんな口径のタムをどんなピッチにチューニングするか
  Aトップとボトムのピッチバランス
  Bどんなヘッドを張るか(特に打面)
  Cどんなマフリングを施すか
この4つで大方は決まってしまいます。つまり、
  *胴の深さ
  *シェルの材質
  *ベアリングエッジの形態
  *リムの材質
といった要素が音色に与える影響は微々たるものです。ましてやメーカーによる違いはほとんどありません。
あのサウンドはラディックだから、ソナーだからなどというのは迷信です。
https://weckllover.amebaownd.com/posts/2474098

 この方はプロではなく単なるマニアのようで、各方面に忖度する必要ないからハッキリ書いてるな(笑)。でも実際にオーディオファイルや波形分析した結果等も載せてるので、いささか主張が過激で偏固な印象を与える欠点こそあれ、決して間違ってはないと思う。

 要は皮をキチンとチューニングする、それが最大の基本にしてファクターだ、っちゅうのがみなさんに共通する意見だ。材がどうだの厚いの薄いの深いの浅いのはそっから先のビミョーな話なんだろう。でもまぁ音楽なんだから、そこのビミョーさへの拘りに神が宿ることだってある。

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 ・・・・・・では一体全体、高いタイコは何がどう決定的に違うんだろう?

 結局は見た目の高級感に加えて、あとは耐久性だけなんぢゃないかとおれは思う。見た目はもう言わずもがなだろう。耐久性とは、特にハードウェア全般だと一目瞭然で分かることだけど、大抵は高い方がゴツく、シッカリ拵えてある。これはもう間違いない。
 木の材質だって音色がどうこう言う以前に、硬いメイプルやブビンガの方が柔らかいポプラやバスウッド、ラワン(最近はあまり使われなくなった)なんかよりは頑丈だし、経年変化にも強かろう。胴なんて何せ厚さ1mmとか駅弁のフタの経木みたいな薄い板を何枚か重ねて丸めて、厚くてもせいぜい8mmくらいに圧力かけながら接着したモンなんだから。薄いのだとこれが4mmとかになる。マジでペラペラだ。
 あるいは耐朽性の問題もあるかも知れない。木材辞典を見ると分かるんだけど、要は高い材ってその特性に、希少性、硬い軟らかい、木目が美しい、反りにくいとかだけでなく、虫が付きにくいとか製材時に毛羽立ちにくいとか腐食しにくいってのが挙げられてることが多い。
 フープだって1.6mm厚の鉄板プレスするのと2.3mm厚プレスするのでは後者の方が大変だろうが、その分、チューニングで少々締め上げたって曲がったりしにくいだろう。ダイキャストや切削ともなればもっと大掛かりな砂型とか機械が必要になるが、さらに頑丈にもなるだろう。クルマの鉄チンホィールとアルミ鍛造ホィールの違いと同じだ。

 楽器とはいえやはり工業製品、要は硬くて加工しにくい(・・・・・・だから歩留まりも悪いって考えられる)けど丈夫で長持ちな材で手間暇かけて作ったか、軟らかくて加工しやすいけどヤワですぐに壊れそうな材でチャチャッと作ったか、その違いのように思えてきた。ハハ、まるで御影石と大谷石の違いみたいだな(笑)。

 こうしてカラクリが見えて来ると、DWに端を発する最近の薄胴ブームもどことなく胡散臭いような気がして来る。ホンネでは薄くすることでウォームでふくよかでオープンな鳴りがどうこう・・・・・・なんかではサラサラなく、薄く華奢にして耐久性を落とすことで買い替えサイクルを早めようとしてるんぢゃないか?ってコトだ。原材料費だってケチれる。ソニータイマーみたいやな(笑)。だって厚さ5mmとか、迂闊に皮を締めすぎるとシェルがラグあたりから内側に窄まるように座屈して割れてしまうくらい繊細やで。
 スネアなんかはだから昔は鉄板使ってたんだと思う(ウッドスネアが一般化するのは実は、合板の剛性化技術が向上する70年代半ば以降からで、それまではメタルの方が定番だった)。木ではあのタムより遥かに高いテンションに材が負けてしまうのだ。元はランプシェードを流用して作られてたらしい(スネアが14インチなのもそのため。たまたまそのサイズだっただけ)けど、それは要するに木ぢゃ強度的にどうにもならなくて困りあぐねて、手頃で丈夫なのを探した結果ではないかとおれは想像してる。
 ジャズのバスドラに小口径の18インチが多用されるのだって、実は音のためなんかではなく、50年代のニューヨークあたりのミュージシャンが、ハコからハコへの移動に使うタクシーのトランクに入るよう工夫して小さいのを作ったのが嚆矢だ。タイムマシンでパールのリズムトラベラー持ってって見せたら泣いて喜ぶのではなかろうか(笑)。

 ・・・・・・そろそろ答えは出たようだ。

 要は引っ叩く道具なんだしビギナーなんだし、宣伝文句の美辞麗句に踊らされず、質実剛健、丈夫で長持ちなのを買えば良いだけの話だ。曰く、「前に飛ぶ」、「縦に飛ぶ」、「マイク乗りが良い」、「スティックが食い込むような心地良さ」、「落ち着いた倍音」・・・・・・etc、全然無視しちゃっても構わないのではないか。最後の「落ち着いた倍音」なんてホンマひどいよね。出荷時点でピンスト張ってりゃぁ、そらなんだって落ち着くさ。何ならハイドロにすればもっと落ち着くぜ。
 だから3点部分は、時流に逆行するけどシッカリした厚手のシェル、スネアも昔ながらのメタルでそれも1.5mmとか、スタンド類もパイプ径が太く、出来るだけ脚の座りが良くて、グラグラせずネジの緩みにくいモノ、ほいでもって塗装や仕上げが美しく、置いてても気分の良いモノを選ぶ・・・・・・それだけだ。それで結果的に価格が高くなるなら仕方ないやんか、と。

 どうでしょう?この考え方。


大きな可能性を感じるTRAPSのセット。ドラムにおけるスタインバーガーだな。
でも所有する喜びには欠けるよな・・・・・・。


2018.12.08

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