「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
世も末な夜に・・・・・・THIS IS NOT THIS HEAT 2018.10.31 at Daikanyama UNIT




前売券購入で貰ったポストカードとチケット(いずれも両面)

 まるで冗談のように実現してしまった、ディス・ヒートのセルフトリビュートバンドの来日である。春過ぎくらいにその情報初めて知った時、おらぁ絶対ガセだと思ったもん。
 オマケに呼んだのは過去数々のライブでドタキャン連発で悪名高いあの「英国音楽/VINYL JAPAN」だ。新宿の外れ、「えびそば・一幻」の上にある店舗に行ったら分かるが、ココにそんな招聘する実力あるんかいな?ってついつい不安になってしまうような、昔ながらのやや寂れた雰囲気のフツーの中古レコード屋さんだ。営業もかなりアバウトで、開店時間キッチリに開いてることの方が珍しかったりする(笑)。

 噂だけど、なんでもC・ヘイワードとT・ムーアのデュオで以前来日するハズだったのが、直前のフランス公演の時に生ガキ食ってアタッて寝込んでしまい、それでドタキャンになったお詫びだとか埋め合わせだとかで、今回この編成での来日が決まったらしい。

 ちなみに決して再結成でないことはオリジナルメンバーの二人も断言してるみたいだ。オリジナルメンバーのG・ウィリアムズが鬼籍に入ってしまい、でもって3人揃ってこそのディス・ヒートっちゅうのにひじょうな拘りを持ってるみたいで、再結成は絶対にやらんのだ・・・・・・と。
 そんなんで如何にもイギリス人らしいひねくれたユーモアに満ちた「これはディス・ヒートではない」っちゅうバンドは、あくまで今年一杯までの期間限定ユニットである。趣旨としては、若いミュージシャンたちと一緒になって、かつての曲をテープとか使わず、かつて偶発的にもたらされた音まで含めて可能な限りバンドとしてライブで再現してみましょ、ってな試みらしい。だから新曲もやらない、と。
 まぁぶっちゃけ、何のかんので色々と精力的に活動してるヘイワードさんとは異なり、バレンさんの方はこれまでどうやって過ごしてきたのか良く分からないから、生活支援的な意味合いもあるのかなぁ?なんておらぁ思っちゃったけどね。

 オリジナルのディス・ヒートがどれだけスゴい存在だったかについては、過去に一度、拙文でもまとめてるんで、そちらを参照していただければと思う。ここではもうクドクド宮藤官九郎とは書かない。

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 日本一スカした街である代官山の駅から旧・青山通りに下ったところにあるUNITは、今では随分少なくなってしまったマイナー・アングラ系の拠点の一つと言えるライブハウスだ。Open18:00、Start:19:00で、開場の頃には表の歩道に、どうだろ?150人くらいが既に並んでた。かつてフールズメイトとかで見たような顔もチラホラ見える。一方で今は堅気になってリーマン仕事を定時で上がって駆け付けるようなケースも多かったみたいで、客はその後もダラダラと増え続けてって、最終的には300人くらいは入ったろうか。おれも含めて頭頂部の寂しくなった人が多く、いささか切ない気分になってしまう。それにしても、どうしてこぉゆうライブって会場も開演も必ず遅れるんだろうねぇ?キチンと定刻通りにやれよ、っていつも思うぞ。

 開演時間をしばらく過ぎて客電が落ちるとすぐに”Testcard”がピキピキピポポポって流され始める。これがまた長いんだわ。ループをさらにループさせてどないすんねんな。みんな辛抱強いっちゅうか牛のようにジッと黙って聴いてる。パンク全盛期の大阪のハコだったら「早よせぇ〜!ボケーッ!」とか「何カッコ付けとんぢゃぁ〜!?」とか絶対ヤジが飛んでたろうな(笑)。
 それにしてもステージの狭いコト!ドラムセットが2台にアンプが4〜5台、キーボード、ギターやベース類、林立するマイクスタンド等でギュウギュウ詰め、殆ど動けるスペースが残ってない。

 そぉこぉする内にヘイワードさんを先頭にゾロゾロとメンバー登場。チャコールグレーのジャケット着て、至ってフツーの爺さんだ。一方のバレンさんは若い頃と変わらぬ長身痩躯、金壺まなこに伸びまくったモジャモジャ髭とツバなしの丸い帽子が中央アジアあたりの年老いた羊飼いみたい。どっちもまぁこれから爆音演奏するっちゅうよりは、失業保険の給付でも受けに行くような雰囲気だったりする(笑)。あとのメンバーは4人で今回の活動が始まった頃より2人くらい減ってる。脱退したのか、あるいはひょっとしたらステージがあまりに狭いんで今回の来日公演では間引いたのかも知れない。
 ”Testcard”に続く曲はもぉこれっきゃないってカンジで、当然のように”Horizontal Hold”がドッカーンと始る。客はココで総立ち・・・・・・と書きたいトコだが、初めからオールスタンディングなんで、「ウォ〜!」とか「ワァ〜!」とか一斉に歓声が上がって人の波が揺れるくらいだった(笑)。揺れる沢山の薄くなったオツム。

 余分なMCもなく、またライブを重ねて段々とコンビネーションが良くなってるのか、曲と曲の間も殆ど取ることなくほぼノンストップで演奏はガンガン進む。タイコに歌にピアニカに・・・・・・と、まるで食い倒れ太郎なヘイワードさんの芸風は若い頃と全く変わらない。いやもぉもうすぐ70に手が届こうかっちゅうジーサンのタイコではなかったな、ありゃ。オープンハンドのため身体の左側にも多くの金物や追加のフロアタム置いた変わったセットで、バスドラは全力踏みでズコズコとヌケまくり、スネアは手首の返しなんてわしゃ知りませんと言わんばかりのリムショット連発、シンバル乱れ打ちで、も一人の若い方のタイコがコンパクトな3点セットアップでサポートに徹してるのがちょと可哀想になったほどだ。
 印象的だったのはベースにキーボードに歌にと同じくらいマルチに大活躍の若ハゲのニーチャン。かなりアンサンブルのキーパーソンとなっていた。気になって後から調べてみたら、なんとドゥーム/ドローンの雄・SUNN O)))にも参加してるんやんか。

 後の曲順は酔いが回ったのもあって忘れた。”Rainforest”、”Twilight Furniture”、”S.P.Q.R.”、”Health & Efficiency”、”Paper Hat”、”24 Track Loop”といったヘヴィリスナーにはお馴染みの曲が目の前で演奏されて行く。"Fall of Saigon"は真ん中辺りでやったかな?”Testcard”よりもこっちのイントロ引っ張った方が良かったと思うんだけど・・・・・・基本的にはヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンヨンって8分刻みでAの単音が5度やらオクターブ絡めて鳴ってるトコに、重いタイコとお経みたいな合唱が乗っかってるだけのシンプル極まりない曲なのに、ホンマ名曲やで、これは。
 そう、今になって改めて気付いたんだが、彼等の歌のある曲ってどれも全部合唱なのである。けっこう音程外したりしてるし、和声でもなんでもないんだけど、AメロもBメロもサビもない掴み所のあるようなないような不思議なメロディラインを、楽器演奏しながら全員で一生懸命歌う(今回は半数くらいだったが)のは、案外重要な彼等の個性だったのかも知れない。

 オーディエンスの反応が良かったことに気を良くしたのか、結局、2時間近くやって、アンコールまでキッチリこなしたのには驚いた。さらに驚いたのは日本人ファンへのサービスなのか?これまたイギリス人のひねくれたユーモアなのか、何と2ndアルバム”Deceit”のラスト・チューンである”Hi-Baku-Sho(被爆症)”をアンコールナンバーに持って来たってコトだ。ドラムレスで環境音楽+チャルメラみたいなアレ。みんな、ポカーンとしてた。

 全編を通して言えたことは、若い実力派ミュージシャンを加えたことで、とてもフィジカルで強靭、そしてテクニカルな演奏だった、ってコトだ。言っちゃぁ悪いが、ぶっちゃけ現役時代のディス・ヒートのライブって、僅かに残る音源から判断するにかなりヘロヘロだったりしたのだ。手数を繰り出しながらひたすら突っ走るタイコに、ギターとベースは追い付いてくのがやっとこさってなカンジで、テクニック的にもノリ的にも今一歩こなれてなかったのである・・・・・・もちろんその不安定さや拙さこそが、緊張感と生々しさを生んでたことは事実なんだろうが。
 それが今回は極めてタイト、かつバンドとしてのグルーヴも充分に感じられた。平たく言うととてもロックしてたのである。決して明るい音楽ではない・・・・・・どころかクラい曲が大半なのに、みんな和気藹々と楽しそうでさえあった。かつて「ロックミュージック」が爛熟を極めた時代に、その解体と再構築、さらには異化に憑かれたように取り組み、そしてそんな「ロックミュージック」が解体され尽くした(あるいは消費され尽くした)この現代に、あくまでバンド、あくまでライブ、そしてあくまで機械に頼らない(ちょっとだけルーパーとかシーケンサは使ってたけど、笑)アナログな手法で生演奏を行う・・・・・・偏屈極まりない。反骨精神が服着て歩いてるようなモンだ(笑)。どこまでもややこしいアプローチが好きなのかも知れないな。

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 以前、ディス・ヒートについて書いた文章の終わりでおれはこぉ書いた。

 ------彼らまでが再結成するようになっちゃ世の中おしまいだとは思うけど。

 厳密には再結成ではないとは申せ、結果的には何ともまぁ予言的な文章であった。何故ならば東急からJRへの乗り換えで降りた渋谷の駅ではまさに連日報道されてる通りの、ハロウィンの狂騒の世も末な光景が広がっていたのである。だからホンマに再結成したりなんかしたらタイヘンだ。米中戦争くらい始まるかも知れない(笑)。


も一人右端にクラリネット兼ギターのニーチャンがいました。

2018.11.04

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