「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
実は良質でキャッチーなんだけどね・・・・・・The Sex Pistols


有名なショットの一つ。今気付いたんだが、シドはダサいマンボズボンみたいなの穿いてる(笑)。
加えて、アンプのイコライジングがムチャクチャ(笑)。

http://songaday-day.blogspot.com/より

 俗に「企画バンド」と呼ばれるのがある。一山当てるためにプロデューサーや音楽事務所主導でメンバーが揃えられたりするようなバンド・グループのコトを指しており、自発的にメンバーが集まってバンドやグループになってくのからすると、ちょっと軽く見られる傾向がある。日本では伝説の「ずうとるび」以来、お笑い芸人による企画バンドやグループが何故か多い。ダウンタウンの「ゲイシャ・ガールズ」、とんねるずの「野猿」、ウンナンの「ブラックビスケッツ」等々、枚挙に暇が無かったりする。最近だと小籔とくっきーのいる「ジェニー・ハイ」だろうか。
 ・・・・・・って、まぁこの辺はみんな企画であることに自覚的でお祭り気分なトコがあるんで、ワリと救われてるような気がする。

 一山当てる、ったって必ずしも一発屋ばかりってワケではない。アイドル路線は厳しいけれど、歌唱力や声量はあるからロック路線で引っ張りゃ行けるんぢゃねぇの、ってな感じで作られるケースもある。この場合、バックはスタジオ系のテクニシャンが集められることが多い。古くは「ジュディ・アンド・マリー」とか「リンドバーグ」、最近では「ベビー・メタル」がそんな感じだな。
 もちょっと変わったトコではアイドルやら女優でメジャーにやってんのに、さらにプロダクションが欲かいたか、本人にアーティスト魂が目覚めたか(笑)、バンドをデッチ上げさせるケースもある。菊池桃子の黒歴史と言われる「ラ・ムー」なんかがそうだ。最近だと瀧本美織の「LAGOON」か・・・・・・これも相当の黒歴史だな(笑)。

 映画にもなった浅野いにおの「ソラニン」でもそぉいったエピソードが出て来て、主人公のミュージシャン志望のニーチャンは企画バンドをやる誘いを断ってメジャーデビューを逃がし、他にも色んな失意の続く中、ようやく前を向いてこうとした途端に事故死する。

 ・・・・・・やっぱ企画バンドってイメージ悪いのだな。

 ともあれそんな世に数多ある企画バンドで、空前の成功を収めたのがセックス・ピストルズだったのではないかとおれは思ってる。

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 誰が何と言おうと、セックス・ピストルズはマルコム・マクラレンっちゅう稀代の傾いたイカサマ野郎の傀儡に過ぎなかった。ホンマこの人ムチャクチャで、何でも良いから世の中をアッと言わせてひと山当てることしか考えてなかった。そんな彼がニューヨーク・ドールズで失敗し、ブティックもイマイチ鳴かず飛ばずの状況の中、起死回生か満を持してかは知らんけど、ドーンとブチ上げた思い付きの結実がピストルズである。
 傀儡として何がダメだったかと言えば、ジョニー・ロットン(ジョン・ライドン)の才気がマルコムの予想以上にあり余りすぎてたってコトだろう。もぉちょっと凡庸で愚鈍で素直で、暴れるしか能のないようなのをボーカルに据えておけば、恐らくはもうあと数年はバンドとして続いてたように思う。
 現にジョニー脱退後、気は良いけどアタマの悪いキャラを地で行くようなギターのスティーブ・ジョーンズとタイコのポール・クックは、マルコムから命ぜられるままに、ブラジルに亡命してた大列車強盗のジジィやムチャクチャ胡散臭いナチの残党を無理矢理ボーカルに入れたりしながら延命を図ったのだから。ドラッグ入れてないと気弱なクセにオッチョコチョイでイチビリのシャバいキャラで、そもそもマトモに楽器が弾けないシド・ビシャスにしたって無理矢理「マイ・ウェイ」歌わされる始末だ。どうせマルコムは耳元でネットリ囁いたんだろう、「シド君さぁ〜、頑張ったらパウダースノーみたいに真っ白の上モノあげるからさぁ〜♪」とかなんとか(笑)。これを企画バンドと言わずして何と言おう?

 実のところ、ツンツン頭、安全ピン、鋲打ち革ジャン等に代表される、その後世界を席巻したパンクファッションにしたって決して彼等のオリジナルではなかったりする。もちろんラディカルに異化させた点では大いに評価は出来るとは申せ、それまでのグラムやニュヨークアンダーグラウンドの剽窃・・・・・・もとい発展形だった。しかしそれはその後の世界を席巻した。
 全ての様式は降って湧いたようには始まらない。どこかで地続きであると共に、真のオリジネイターは案外マイナーなままだったりするものなのだ。まぁ、会社なんかもそうだよね・・・・・・話が逸れた。

 ともあれ色んな偶然と幸運が重なって彼等は爆発的に売れ、そしてアッちゅう間に空中分解した。マトモな形で残ったのは、余りにも有名なデビュー・アルバムにしてラストアルバムの「勝手にしやがれ」だけだ。
 しかし、それにしたって中身は全然マトモではない。レコーディングが始まるのと前後して殆どの曲を書いたベースのグレン・マトロックが追い出され、後釜のシドはマジで楽器が弾けなかったために、仕方なくスティーブが大半の曲でベース弾いてる始末である。それより何より曲の書けるヤツがいなくちゃバンドはおハナシにならない。初めから終わってるっちゃ終わってたのである。それが現実だった。

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 ・・・・・・で、セックス・ピストルズの楽曲って実際のところどうなんだろ?っちゅうのが本日のテーマだ。

 結論はタイトル通りで、かなり良質でキャッチーな佳曲揃いだとおれは思ってる。まことに社業の発展に貢献するところ大であった(笑)可哀想なグレンの功績は本当に大きいと言えるだろう。実は歌詞にしたってケッコー沢山彼が書いてたりするのだ。そいでもってプロデューサーはあの加藤ミカを間男したのでも有名な(笑)、イギリスの誇るクリス・トーマスで、実際にはアレンジャーみたいなコトまでやってシッカリしたアルバムに仕上げたのだった。曲の配列もかなり周到に計算されており、本気で仕掛けて行こうとしてたことが伺える。一聴どころか百聴に耐える。
 どの曲も3コードのシンプルなロックンロールパターンを基本にしながら、覚えやすく親しみやすいメロディー、意外に曲ごとに異なる細かいアレンジ、アルバム全体としての統一感・・・・・・立派にロックアルバムしてるのである。

 間違いなくグレンにはコンポーザーとしての才能があった。ぢゃぁ、彼がクビにならずにそのままベーシストとして残ってたら、バンドはここまで不朽の存在となりえたか?っちゅうとこれまたビミョーな気がしてる。何故なら彼は、ムチャクチャであれば何でもOKみたいなパンクの世界の人間としては少々マトモで真面目過ぎたし、器用過ぎたし、これまでの音楽の枠組みに捉われ過ぎてもいた。極めてオーソドックスな努力の人なのだ。

 マルコムにはそもそも音楽でどぉこぉなんて気持ちはこれっぽっちも無かった。何でも良いから鬼面人驚かすことをしでかしてひと山当てさえすりゃ何でも良かったのだ。
 スティーブ(多分、ピート・タウンゼント大好き)とポール(多分、チャーリー・ワッツ大好き)は音楽やって食えるんならまぁいいかってなトコだろう(・・・・・・他に特技もないし、笑)が、中身はどぉでも良かった。ヘビメタやれ、ちゅうてたら不承不承ながらもやってたに違いない。同じく何でも良いからひと山当てて成り上がって、労働者階級から抜け出せさえすりゃそれで良かったのだ。
 ジョニーはその後のP.i.Lの活動から分かるように、ひと山は当てたいけれど、手垢の付いたロックンロールには興味も拘りも無くて、よじれて繊細で狷介固陋で束縛されることが大嫌いなアーティスト志向だった。要はめんどくさいタイプやね(笑)。あくまでおれの想像だけど、ピストルズなんて初めから踏み台くらいに思ってて、マルコムのことは終始どこか冷ややかに見てたのかも知れない。

 そんなんだからもしグレンが辞めさせられることもなく、順調にピストルズがアルバムをその後もリリースしてたら、それなりにバンドのイニシアティヴは彼が握ることになってただろうから、逆にその立ち位置はロックの歴史の中ではさほど大したモンにはなってなかったろう。尖がってはいるものの、まぁ結局はモッズとかパブロックの系譜の中で語られる一群のバンドの中の一つくらいに収まってたような気がしてならない。実際、その後のリッチ・キッズがそうであるように。

 音楽ってそんなモンなのだ。

 スキャンダラスでセンセーショナルな言動とは裏腹の、ポップでメロディアス、むしろオーソドックスで平明とさえ言っても良い楽曲、その危ういバランスは、畢竟ジョニーのクセだらけのボーカルが繋いでるだけだった。どぉあがこうがそんなのが永く続くものではなかったとおれは思う。アルバム全体を通してキチンと聴いたことのある人は案外少ないようにも思うので、是非冷静に聴いてみることをお勧めする。

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 アルバムが出てわずか3ヶ月後のアメリカツアーの途中でバンドは崩壊する。いい加減アホらしくなったジョニーが「い〜ちぬ〜けた〜!」って辞めちゃうのである。最後のライブとなったウィンターランド公演はフルセットがユーチューブで観ることができるのだが、相変わらず巻き舌でまくし立てて歌うスタイルはソツなくキッチリこなしてるものの、間奏や曲間で手持無沙汰になった時の何とも醒め切った無表情は明らかに熱気と精彩を欠いていることが良く分かる。
 引き算するとリハの期間を入れても実質2年ちょっとくらいの活動期間に過ぎなかった。後はもうひと絞りゼニを落としてもらうための付け足しだ。ホンマに刹那的な連中だ、スゥィンドルだ。そして後には僅か十数曲の楽曲(殆どはグレンが作った)と膨大な伝説(半分くらいはシドが作った、笑)が残った。

 上記公演の最後にジョニーは有名なセリフを吐いてる。マルコム・マクラレンっちゅう胡乱で怪しい服屋のオッチャンのカッコいい口上に乗せられて熱に浮かされたようにやって来て、何だかんだで結局はショービジネスの中で消費される捨て駒に過ぎなかったコトに気付いて、でも目の前の押し寄せるオーディエンスはアホみたいにノリノリで楽しそうで・・・・・・あ〜も〜ウンザリだ!沢山だ!ってな気分だったんだろう。

 ------騙された気分はどうだい?(Ever Get the Feelin' You've Been Cheated ?)

2018.06.11

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