「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
続々・たかがピック、されどピック・・・・・・あるいはコネタ覚え書き


おれの持ってるヘルコのフラットピックはこの5種類。

 30年以上に及んだピックの世界の彷徨も、実はもう数年前に収まっており、今はスッカリ憑き物が落ちたように落ち着いている。

 というのも、思い立って岐阜の池田工業ってトコにオーダーしたウルテムのジャズタイプが100枚あって、そればっかし使ってるのだ。ホントこれは弾きやすいし、音も良く、手に持った感じもツルッとしてるのに吸い付きが良くてシックリ来る。ウルテムっちゅうのは鼈甲をベンチマークとしたら、人工のピック素材としては一つの到達点ではなかろうか。耐摩耗性にたいへん優れてることに加え、年々所謂「撫で弾き」のクセが付いて来てるので、多分死ぬまでもつだろう。それでもまぁ、たまに気分転換に他のを手に取るコトはあるが、乗り換えようって気にまではならない。

 ・・・・・・とは申せ、相変わらず使いもしない純粋なコレクションとしてのピックは我ながら呆れるくらいに増え続けており、先日、拙サイトのピックコレクションのページを久しぶりに更新したりもしてる。ただ、気分任せで体系だってやってることでもないので、背取りした昔のデッドストック品についてはどんな氏素性か分からないままになってるのが多く、その辺が少し気懸りでもあった。

 今回は、ネットをウロウロする内に偶然辿り着いた色んなピックに纏わるコネタ集みたいなモンで、お話としてはあまり一貫性がないことを始めにお断りさせていただくコトにする。取り敢えずは気楽に読んで頂けると嬉しい。

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 まずはヘルコのピックについてだ。おれが持ってるオーバルを細長くしたような緑のは、2枚とも件のオッチャンの店のケースの底から出て来たモノだが、これについてようやっと詳細が判明した。ちなみに「ヘルコ」ではなく「ハーコ」って発音するのが本当は正しいらしい。しかし、オールドスクールなおれはやっぱし「ヘルコ」の方が馴染みがあるんで、おっさんの我儘でヘルコで押し通させてくださいな。

 ブツとしては1966年以前のモノらしい。コレクターからは”ガーストリィ・グリーン”の愛称で呼ばれており、e−Bayとかでは5枚セットで50ドルとか60ドルとかケッコーなプレミア付いてたりするのには驚いた。アメリカのマニアの裾野は広いわ。直訳すると「キショク悪い緑」ってコトになる・・・・・・マンマやんけ!ベタやなぁ〜!(笑)

 ともあれおれの歳とさほど変わらないヴィンテージ品だったんだね、コレ。大事にしよ〜っと。

 そいでもって、小さい方の型番が#401、大きいベロンとした方が#405ってコトも判明した。現在一般的なティアドロップタイプは#403、何と昔はオニギリタイプもあって#407、巨大トライアングルが#409となっている。ヘルコはこの緑のナイロンピック始めるまでは鼈甲セルロイドにコルクの滑り止めを貼ったのを作ってたようだ。ナイロンピックについてもその後いろいろ変遷はあるが、真っ白(ダイナマイトホワイト)とか真っ青(ブガブルー・・・・・・ブガッティの青?)、黄土色のが発売されてたコトもある。

 また、芋づるで判明したのは、白い平行四辺形の謎のピック。ブランドは未だ不明のままだけど、あのシェイプ自体は”トラペゾイド(台形)”と呼ばれ、50年代くらいまではそれなりに一般的だった、ってコトだ。セルロイド時代のヘルコにも存在してたのである。
 さらに驚くべきは、ヘルコは日本でのノックダウン生産も行ってたらしい。素材的にどれなのか、いつ頃までなのかは良く分からないが、それには小さく”JAPAN”の刻印が入ってるようである。

 メーカーとしてのヘルコはもう現存しておらず、今ではジム・ダンロップの一ブランドに過ぎない。しかし、往年のレヴェルのプラモデルもビックリなバリだらけな上に、ロットによっては厚みが不揃い(特に薄い金色の方がヒドい)っちゅう粗悪な品質の割に、多くの有名ギタリストが使ってたこともあってか根強い人気があって、この数年、復刻版がリリースされたりもしてる。
 入手したそれも含めてここでかなり断定的に言えるのは、表面の滑り止め加工としてついてるブツブツについてだ。元々は両面ともブツブツがない。ロゴがエンボスの滑り止めになってるだけであとはツルンとしてる。訳知りなサイトが昔のヘルコにはブツブツ無かったが、その代わり素材がザラッとしてた・・・・・・な〜んて見て来たようなウソ書いてるけど、そんなことは断じてない。ナイロンピックの普通のツルツルである。
 その後、片面にのみブツブツの突起が作られた。有名ギタリストがこぞって使ってたのは恐らくこの時代辺りの製品ではなかろうかとおれは推測するが、そのブツブツは現行品に比べるとかなり小さい。さらにその後小さいブツブツのままで両面に突起が作られ、そして現在の大きなブツブツに至ってる。切り替わった時期までは残念ながら不明であるが、滑らないためには細かい努力を重ねてたのだ。
 ちなみに硬さを示す数字は今は50と75しかないが、かつては40とか55なんてのも存在したし、またナイロンで上記の型番以外のシェイプも存在してた時期があるみたいだ。また、ひじょうに数は少ないものの、ヘルコベースでのシグネチャーピックも存在する。ああ、そういやつい最近、尼崎の工房である”Sago”から新作で出たナイロンも、ちょっと品質が良過ぎる気もするけどひょっとしたら特注のヘルコかも知れない。

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 ・・・・・・で、そんなヘルコを愛用してたと言われるロリー・ギャラガーからも色んなことが見えてきた。まずはかつて中埜商会(現在のピックボーイ)から出てた、恐らくは勝手に名乗ってただけ(笑)のシグネチャーのシェイプはそのままに、いろいろ権利関係がうるさくなってきたことを悟ってか彼の名前だけを消した白いピックを調べてて、”maybe i will”ってサイトにあった画像から、意外なモノの氏素性が判明した。謎のソフト・ミディアム・ハードが1枚になった手裏剣型ピックについてだ。


ヘルコとは似ても似つかぬ中埜のR・ギャラガーモデル。元々は真っ赤だった記憶があるのだが・・・・・・


 何のこっちゃない。コレ、中埜商会の70年代前半くらいの「アンノン・ピック」って代物だったのである。ついでに同じような素材で似た作りのオニギリも「アンノン」シリーズの一つであることが判明。他には雨滴型(要はティアドロップね)なんかもあったらしい・・・・・・シブいなぁ〜、雨滴型(笑)。たしかに良く見ると真ん中に”n”の形したロゴがあるやんけ。

 それにしても「アンノン」の意味がさっぱり分からない。いくら当時「アンノン族」なんて言葉が流行ってたとは申せ、ナンボ何でも「アンアン・ノンノ」ではないと思う。
 ここからはまったくおれの当てずっぽうだけなんだけど、おそらくは”Unknown”のコトではないかと睨んでる。「未知の」って意味だし、それなら何となくシックリ来る。また、当時の中埜は「雨滴型」から分かるように余程の年寄りがキャッチコピーを書いてたのか、外来語の延ばす音を省略してたりする。「リッチ・ブラックモア」には笑っちゃった。金持ちなのか!?(笑)・・・・・・なもんで、アンノウン⇒アンノーン⇒アンノンと推理した次第だ。誰か正解知ってる人いたら教えてほしい。


何だか金沢の「つじうら」みたいにも見えるな(笑)。

 ・・・・・・で、さらに驚いたことには、一時期ギブソンの純正ピックとしてこの手裏剣型が存在したってコトだ。恐らくは中埜からのOEMだろうけど、そもそも中埜自体は企画・販売会社なので、実際の製造元はどっか別にあったんだろうな。

 この手裏剣ピック、英語では「プロペラピック」と呼ばれてるみたいだ。パッと見は異様だけど、良く見ると実は昔ながらのマンドリンピックを三方向に重ねたような形をしてる。そんなんで次はマンドリンピックを巡る話。

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 まずは黒い”Pettine”から始めよう。ギャラリーのキャプションで触れたように、これは間違いなくアメリカのマンドリニスト・ジュセッペ・ペッティーネのことだ。この人は演奏者としてだけでなく、マンドリンの教則メソッドやら色んなグッズで大きな足跡を残した人らしい。日本で言えば「新堀ギター」みたいなモンだろうか?(笑)・・・・・・で、いわばこれはペッティーネのシグネチャーピックなのである。

 ついでに言うと、このマンドリンピック特有の細長いオーバルシェイプは「ナポリタン」と呼ばれてるってコトも初めて知った。拙い英語力でいろいろ読んでたら、「伝統的な尖ったイタリアンタイプ」ってな言い方があったんで、ナポリタンとはまぁアバウトにイタリアのイメージで付いたのだろう。
 ただ、マンドリンピックの種類っちゅうのも相当なもんで、変わったのでは笹の葉みたいなのもある。これは「エンベルガー」って呼ばれてるらしい。これまた調べてみたところ、マンドリンの伝説的ルシアーにルイジ・エンベルガーって人がいて、どうやらその人に由来してるみたいだ。そうそう!神田で20円で買った、惚れ惚れするほどに粗悪な菱形のピックも、恐らくは有象無象のマンドリンピックの一つだろう。

 そうして昔のピックを調べてる内に膨らんで来たのは、現代のフラットピックのルーツの多くがマンドリンにあるのではないか?って疑問だ。だって50年代のアメリカのヴィンテージピックなんかを見てると、殆どがマンドリンタイプなんだもんな。オニギリやティアドロップなんてあんまし見当たらない。ヘルコにしたって#40X系の5種類のシェイプのうち2種類がマンドリンタイプだしね。
 だから最近ではスッカリ見かけなくなって、ジョン・スコフィールドやスティーヴ・ルカサーのシグネチャーくらいしか思い付かないオーバルタイプなんかが、実はギターピックとしてはより古い形に近いんぢゃないかと思われる。フュージョン全盛時代はネコも杓子もオーバルだったことを思うと隔世の感があるなぁ・・・・・・。


ペッティーネとテンポ。

 そうそう、ヒョロ長いマンドリンタイプがだんだん太ってオーバルに進化する過渡期な雰囲気の”TEMPO”ってピックについても判明したことがある。テンポって、今は亡きマツモク工業が輸出用に作ってたギターのブランドなのだ。いつ頃から始まっていつ頃終わったのかは判然としないが、現存する個体の雰囲気やコピー度からするに70年代初頭くらいには消滅してたのではないかと推測される。ただしピックはもうちょっと前のかも知れない。世界は広いモンで、こんなマイナーなブランドのコレクターのサイトが存在するのには少なからず驚いた。
 同じような雰囲気の”REED MUSIC”なるロゴのピックについては未だに分からず仕舞いだ。少なくともポール・リード・スミスは関係なかろう(笑)。ルー・リードも関係ないよな。誰かご存じの方がいたら教えていただきたい。

 まだまだ分からないことは沢山ある。例えばワリと珍しいシェイプである高崎晃のシグネチャーピックとオッチャンの店で見つけたヴィンテージセルロイドの形や硬さがすごく似通ってるのも気になってる。彼は数駅離れた北田辺の商店街に実家があるので、チャリか近鉄かは知らないが天王寺まで出てはこの店に通ってたのかも知れない。
 また、ヤマハのナイロンピックとK-LICKSのナイロンの関係なんかもひじょうに気になってたりするし、最も謎な豚皮で出来てると言う半透明で薄黄色なデコボコのピックについても、未だに何も判明してない。由来を知ってどうなるモンでも無かろうが、そんなどうでも良いコトほど知る愉しみがあるとおらぁ思うな。

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 随分と駆け足、かつ雑駁に色んなニワカの見聞を強引に纏めてみたが、こんな小さくてペラペラした零細なモノにだって多くの人間模様や歴史、思いが詰まってるってコトは御理解いただけたかと思う。やはり「たかがピック、されどピック」、これはこれで実に奥深い世界があるのだ。
 甘い音、切ない音、激しい音、暗い音・・・・・・それはギターだけが奏でるのではないんだろう。

 ・・・・・・なぁ〜んて珍しくキザなオチが付いたところで今日はお仕舞い。



【参考サイト】
”maybe i will”---http://maybeiwill.music.coocan.jp/---
"Vintage Guitar Picks And Things"---http://anniespicks.weebly.com/---
"Tina's Pick Collection"---https://www.tinaspicks.com/---
"Tempo Guitars"---https://www.facebook.com/Tempo-Guitars-270236316338506/---
"Marilynn Mair Mandolin"---https://www.marilynnmair.com/---
・・・・・・and more
2018.04.26

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