「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
歪みの追求


市販されてる中ではかなり凶悪に歪むと言われるROCKTRON”Metal Planet”

http://www.musiciansfriend.com/より

 星の数ほどあるギターエフェクターの中で最も選択が難しく、つい何台も何台も買い替えてしまうと言われるのが、オーバードライヴやディストーションといった歪み系であることは、ちょっとでもエレキギターにハマったことのある方ならお分かりいただけるかと思う。ちなみにこの場合の歪みは「ゆがみ」ではなく「ひずみ」と読む。
 ワリと機材に無頓着なおれでさえ、これまでに入手した歪み系エフェクターはマルチに含まれてたのも1台と勘定すると10台近くになる。安物とは申せ真空管アンプ入手したのだって結局はナチュラルで深く、滑らかで太いディストーションを求めてのことだった・・・・・・プリ管2本ではストック状態だとちと厳しかったが。

 それに比べるとコーラスやディレイといった空間系とか、ワーミーやリングモジュレーターに代表される変態飛び道具なんかは、そこまで理想を求めて彷徨するってなケースはあまり聞かない。買い替える理由にしたって、ノイズが乗るのがイヤとかあまりにS/N比が悪いとか籠るとか、それなりにスジの通ってることが多い。
 しかし歪み系となるとみなさん「何か違うんだよね〜!」などと、どこまで信用してよいのか良く分からん感性モロ出しのセリフでどうにも拘ってしまうのである。ことほど左様に歪みに関しては十人十色の理想の音があるワケだ。分かる気はする。だから最も各社から種類が出てるのもこの歪み系だったりする。

 そもそも歪みとは何ぞや?っちゅうと、本来はサイン波っちゅうて穏やかなポーンとした響きの音の波形なのをドンドン増幅させていくと、あるレベルを越えたところから増幅しきれずに波形が潰れて上の方がカットされ、波形そのものが変わって矩形波に近付いてしまう(つまり音色が変わる)ことを指してる。これをクリップっちゅうんだけど、そんな現象を人工的に作り出すのがエフェクターの役目だ。つまりアンプって一定音量まではヴォリューム上がるけど、限界超えたら音が大きくなる代わりに歪み量が増大する、って理解してもらって構わないと思う・・・・・・昨今のデジタルアンプはどうやら際限なく増幅するみたいだけど。
 原理的にはそれほど難しくなく、ある一定電圧以上の電流しか通さないような回路を拵えて、波形の上の方(電圧の弱い部分)を削っちゃうワケだ。これをどれだけ細かくするか、波形のプラスマイナスでクリップの具合を変えるか、上手い具合に削るかが各社のウデの見せ所ってコトになる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 結論から言って申し訳ないが、歪みはアンプで作るのがやっぱし一番だ。真空管、それも出来ればプリ管3本以上とかのゴツいアンプ使って、足りなければブースターも突っ込んで、そいでもってパワー管も含めて気前良くフルアップにするのがやはり最も美しい歪みだろう。歪んでて美しいっちゅうのもヘンかな?(笑)。ともあれその前では所詮エフェクターなんてのはまがい物に過ぎない。
 ただ、言うまでもなくこれだと凄まじい轟音が出る。やかましくって仕方ない。おれの現在所有してる僅か4W、20cmのスピーカー一発のアンプでさえとんでもない爆音を放つんだから、100W級でスピーカーが何発も入ったのでやるともぉ家が倒れるような音になる。何かが爆発したのかと近所のババァに警察や消防車を呼ばれかねないくらいにデカい。到底、自宅での普段の練習とかではムリな音量だ。そしてチョーシ乗って弾き倒したりなんかするとすぐにどっか壊れる。往年のギタリストがマーシャルの三段積みを2〜3セット並べてたのにはそんなワケがある。使ってるのは1セットだけで、あとは予備なんですよ。
 それに激しく歪むようにアンプをセッティングしちゃうとやはり、どれだけギターのボリューム絞ったって綺麗なクリーンは難しい。ラインセレクターを入れて、クリーン用のアンプと歪み用のアンプに分岐させるなんて凝ったテもあるけれど、それだと大掛かり過ぎる。エフェクトループでプリ段とパワー段の間に空間系を入れたりしてると、そこを二重化させる必要さえ出て来てしまう。

 そんなこんなで歪み系のエフェクターが必要になって来たりするワケだ。これなら1台のアンプで取り敢えずクリーンも歪みもバッチリだし小さな音でも良く歪む・・・・・・と。

 歪み系と一言でいうとそれまでだが、病膏肓でオーヴァードライヴ、ディストーション、ファズってなカテゴリーでさらに細分化されてたりする。歴史的には書いたのと逆の順で古い。
 オーヴァードライヴは真空管の暖かみのある歪みをよりリアルに再現することを目的に作られたもので、何とBOSS”OD−1”が元祖だったりする。おれも昔、ターボなんちゃらってのを使ってたことがあった。歪み量としてはそれほど多くなく、ツヤとかピッキングへの自然な追従性、原音のキャラクター、コンプ感といったものを如何にリアルに再現するかに重点が置かれた製品が多い。イバニーズ(要はマクソン)のチューヴスクリーマーとか伝説のケンタウルスとか有名なのが他にいくつももある。
 ディストーションも似たような思想で生み出されたものだけど、どっちかっちゅうとファズの不自然さを何とかせんと、ってな考えが強かった気がする。元祖はMXR”Distortion+”だ。ランディ・ローズ愛用で有名な黄色いの。歪み量ではオーヴァードライヴより多く、やや人工的な感じがする。これまたPROCO”RAT”とかBOSSのオレンジ箱とか有名なのが沢山あるが、実は中身の回路的には多くがBOSSのクローンだったりするのは・・・・・・それは言わない約束でしょオトッツァン!(笑)。
 そいでもってファズ。歴史的にはこれがいっちゃん古く、歪みのエグさだと一番だ。60年代のオサイケな音楽に欠かせないジージーチーチーガーガーと耳に障るうるさいヤツ。ノイジシャンにも使ってる人が多いのはむべなるかな、だな。トーン絞って低音弾くとズーズーモーモー言ったりもする。アーもスーもなく歪むがとにかく人工的で何だかシンセっぽく、ピッキングニュアンスもヘチマもなく潰れてノッペリと歪むのが特徴だ。髭生やした土方オヤヂみたいなアービター”ファズフェイス”が元祖らしい。他には往年の定番であるエレハモの”ビッグマフ”や、バットマンカーみたいなロジャーメイヤーなんかが有名だが、まぁ、上記のオーヴァードライヴやディストーションほどに各社の違いは感じられない。基本どれもジージーチーチーガーガーだし(笑)。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 マクラが異様に長くなってしまった。

 冒頭に書いた通りおれはクランチ(浅い歪み)があんまし好きではない。歪ませる以上は深く歪んでるのが好きだ。一方、歪みの質には粒が粗い/細かいってな区分があって、これはクリーミーで滑らかな粒の細かいのが好きだったりするが、実はこの2つの要素は相反するのだ。この両立がどうにも難しいのである。
 実は現在の真空管アンプにブースター咬ませるのが、これまでの試行錯誤は何やってん!?っちゅうくらいいい感じ出てるし、ちょっとだけ歪みの路線は違えどRATだって持ってるんだし、バンドやってライヴで踏み変えにゃならんってなケースもなく、敢えてもう足許の小箱を買い足す必要なんてこれっぽっちもないんだけど、それでもついつい激歪みとか聞くと食指が動いてしまう。

 最早、激辛の食い物と一緒やね。そう、歪みの追求とは辛さの追求に似てるところがある。果てしが無いし、だからって唐辛子を過激にブチ込めば良いってモンでもない。唐辛子の種類だって数え切れないくらいあるけれどこれでなくちゃダメ、ってのもない。色んな有名ギタリストが色んなエフェクターやアンプ使って極上のトーンを出してるのと一緒だ。バーモントカレー甘口にだって唐辛子入れれば辛くなるように、工夫と追い込みでどうにでもなるって結論は出てるのだ。それなのに、ああそれなのに・・・・・・。

 ・・・・・・またもややらかしてしまった。

 たまたま所用で出かけた折に道草食って楽器屋に入ったら、極悪歪み系で有名なロックトロンの”メタルプラネット”がワゴンセールで在庫限りの投げ売りになってたのである。値札は5千円と、何年前だったかに初めて日本に入って来た頃の定価からすると7割引きくらいになってるではないか。ディスコンなのかな?
 これ、極悪系では超定番のBOSSの”METALZONE”、通称メタゾネより歪むって噂を聞いたことのある、ヘヴィメタ専用みたいな幅の狭いエフェクターだ。カレーで言うならLEEの限定40倍みたいなモンだろう。禍々しく”ハイオクタンディストーション”なんて実に子供騙しで如何にもなキャッチコピーが付いてる。燃えるんか?爆発するんか?エンジンに繋ぐんか?(笑)

 10分後くらいにニヤニヤして店を出る不審な50男が一人・・・・・・あまり長時間は道草食ってられないしね。

 ワクワクしながら家に帰って、夕食もそこそこに早速繋いでみる。なるほど、バカみたいに激しく歪むワリに音痩せも少ない。ここまで歪むと通常はコードの分離が悪くなるんだけど、それも巧みに抑えられてる印象だ。オマケにノイズゲートでも入ってるのかノイズがひじょうに少ない。イコライザーの可変幅が驚くほど広く、ドンシャリだのズンズンだのなんだのメタラー御用達ないろんな音がカンタンに出せてしまう。チープでローファイなブラックメタルの音まで素で出せそうだ・・・・・・ありゃ録音が良くないんだよな(笑)。RATに感じてた独特の塩辛い感じもない。
 2〜30分、弾きながら6つのツマミを弄ってるうちに大体自分の好みのポイントが分かった。ツマミは3つしかないけど歪みとフィルタの関係に独特のクセのあるRATよりは決まりやすい印象だ。
 ただ、歪みの深さからすると明らかに不自然なくらいにサスティンが伸びてくれない。本来この二つはリニアな関係にあって、歪みが深いほどサスティンは伸びるものなのだ。やっぱしノイズゲートなのかなぁ?とも思うものの、特有のプツンと切れる感じでもないんで違う仕掛けが施されてるのかも知れない。これだけはどうにも馴染みにくく、奇妙で違和感が残る。逆にどんなに頑張ってもサスティンの少ないダンエレで弾いたらどうなるんだろ?まぁひたすら16分音符が連続するだけのバッハ弾くにはあまり影響もなかろうが・・・・・・!!

 阿呆なおれはここに至ってようやっと気付いたのだった。

 ・・・・・・結局、作った歪みがアンプで作ったのともRATで作ったのともさほどの大差なく、それに細かな音色の差異よりも何よりも、まずはテク磨け、ってコトにだ。

 これまで何度同じことを思い知らされたか・・・・・・歪み系ぢゃなくこれではルーパーだな(笑)。不惑も過ぎて一体全体いつになったら反省は活かされるのだろう?シオシオのパー。



オッサン顔したARBITER”Fuzz Face”。名作ですな

2017.09.10

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved