「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
小さな楽器屋


すごく欲しいギターの一つである"L6-S"。再生産のセットネック版はシュミとちゃうんですよ。

http://davesguitar.com/より
 先日、夕刻に所用で出掛けることがあった。

 ちょっと時間まで間があったので駅周辺をウロウロしてたら、裏通りの如何にもシケた飲み屋等が途切れて民家に変わる辺りに小さな中古楽器屋の看板を見付けた。何故か昔からこうした楽器屋って古い雑居ビルの2階にあるものと相場が決まってる。もちろんテナント料とかで一等地の1階には店が出せないからだろう。そぉいや高校の頃に通い詰めた北野田の「K.G.Country」もそんな店だったことは昔書いたっけ・・・・・・まぁあそこは一応新品も置いてたが、どれも常連客が遠慮会釈なく弾き倒すもんだから中古に近かった(笑)。

 何となく懐かしい気持ちになって狭くて急な階段を上がると、商売っ気があるのかないのか、控え目な切り抜きシールで木のドアに店の名前が貼られてる。これも同じような感じだ。
 入ると、ヒマそうにTVを観てた店主がちょっと気の抜けた感じで「いらっしゃぁ〜い」と、「如何にも接客に向いてない人が精一杯の愛想笑いしました」ってな風情で迎え入れてくれる。この感じが良い。何となく職人気質で寡黙なマスターがやってる古びた喫茶店に入る感じと似てる気がする。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 15畳くらいのガランとした店内の壁には中古のギターやベースが2〜30本ほど吊るされている。アンプやエフェクターの中古もチラホラ。不思議なコトに中古屋では何故かフェンダー系のアンプを見ることが多いように思う。それもツインリヴァーブとかの王道よりは、プリンストンとかヴァイブロデラックスとか、ちょっと外した感じであることが殆どだ。一方、マーシャルに代表されるハイゲインスタック系は酷使し過ぎた個体が多いからなのか、あるいは箪笥ほどもあって場所を取り過ぎるからなのかあんまし見掛けない。後は弦だとかペグ、ブリッヂ、ピックアップといったリプレースメントパーツが少々。

 これだけヤフオクやハードオフが隆盛を極めてる御時世に、今さら個人でこんな商売始めて大丈夫なのか?と思う方も多いだろうが、それは杞憂に過ぎない。そこは蛇の道はヘビっちゅうヤツで、今は「デジマート」とか「J−Guitar」といった中古楽器屋ポータルサイトに登録しさえすれば、全国から問い合わせが来るシステムがあったりするのだ。後はどれだけ魅力的な品物をコンスタントに仕入れて妥当な値段で提供できるかだけに懸かってる。
 中古販売だけではしかし、そうそうカンタンに食えるほどの商売にならないので、こういった店はたいていリペアにも力を入れてたりするのが相場だ。だから預かり品で電装品をみんな外されて鶏ガラ状態のボディとか、マスキングテープでゴテゴテになったネックとか、パッと見フツーなんだけど、ヘッドの突板がめくられちゃってるとか、知らない人が見たらただのガラクタの山にしか見えないのが沢山転がってるのも特徴と言えるだろう。残念ながらウデの方はこれだけでは判断できないが。

 中古楽器もまた古道具の一種なワケで、独特の匂いが店内には漂っている。もちろん、現状渡しでもない限りはキチンとポリッシュで磨き上げ、ネック調整やフレットのファイリング、指板のオイル仕上げ、オクターヴ調整、弦高調整等々の作業は一通りキッチリやってるハズだから、そんな「前のオーナーのタバコの匂いが染み付いて」なんてコトは決してないにも拘らず、独特の古びた匂いって不思議とあるのだ。でもそれはまんざら悪いものではない。ヴィンテージ品に「匂い」ってとても大切な要素のように思う。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ゆっくりと陳列されたギターを見て行く。モノホンのギブソンやフェンダーは数本、後はジャパンヴィンテージと呼ばれる90年以前の国産ブランドが15本ほど、その他は良く分からんオールドのビザーレ等。セミアコやフルアコなんかもキッチリ押さえてるのに店主のセンスの良さと拘りが感じられる。もっと高額なオールドを並べへんのかい!?なんて文句付ける人は、中古楽器屋が分かってない田吾作だ。高額なオールドを仕入れるには元手もそれだけ必要だし、そういった高額商品ほど回転が悪い。そんなんでやってけるのは渋谷のナンシーくらいなモンだ(笑)。街中の中古屋に於けるギブソン/フェンダーはいわば客寄せパンダに近いのである。

 これがハードオフなんかだと、メイビスだとかグラスルーツ、東南アジア生産に切り替えて以降のエピやフェル、イバの定価3万円コースなんかが無節操に溢れて興醒めなコト甚だしいんだけど、そこは独立系楽器屋としてのプライドか、フェンジャパくらいに留まってる。そうそう、フツーにはそれほどタマ数ないけど中古楽器屋に必ずあるギターとしてムスタングが筆頭に挙げられるのだが、やはりここにもありましたわいな。しかし、65モデルなのがヒネリが感じられて良い・・・・・・まぁ65だろうが69だろうがUSだろうがジャパンだろうが、扱い辛さは一緒なんだけどね(笑)。

 ・・・・・・いい感じやんか、と思った。

 店主は久しぶりの客に気を良くしたのか、レストア中のタイラーのサウンドチェックを兼ねてピロピロと弾き始める。手クセで弾きまくりなんだろうけど、いやもうこれがメチャクチャに巧い。おれは再びK.G.Countryを想い出した。店主のKさんだったっけ、小柄なちょび髭のオヤジがいて、たまに無聊の手慰みでアコギを手に取るんだけど、やはりムチャクチャに巧かったのだ。店名の通りにカントリーやブルーグラス系を弾くことが多かった記憶がある。元は大阪ではちょっとばかり知られたそっち系のギタリストだったらしい。

 大体に於いて、ハナッから熱い志に燃えまくって中古楽器屋を始めようなんて人はまずこの世にいないだろう。かといってミュージシャンを志したものの、才能も根気もなくて早々に門前払いを食らったようなヤツもまずやらない。そぉゆうのはおれみたくフツーにリーマンやってたりする(笑)。パンクだメタルだヴィジュアルだってカッコから入って早々に切り上げたのは飲み屋やったり、田舎に戻って家業継いだりする(笑)。
 実際は、ある程度までは腰据えて正統派のテク磨いて、頑張って頑張ってハコバンとかちょっとツアーメンバーに入ったりとかで、何とかプロとして食える一歩手前まで行ったくらいの人が、夢に見切りを付けはしたものの、どうにもツブシが効かず他に道が無くて転身するのがこの業界だったりするのだ。昔風の言い方をすれば「デモシカ」ってやっちゃね。
 今更勤め人をやろうにも歳食い過ぎてるし、かといってこれといった資格も無いし、田舎の親には勘当されて久しいし、でも音楽そのものには未練があるし、アクセク働くのも向いてはないし、ああ、そぉいや人脈だけは一杯あるから色んな伝手で仕入れは確保できそうだし・・・・・・と理由はいくつか考えられるものの、だからどこかに落魄とか敗残の翳がある。ただ、翳はあるけど暗くはないし明るくもない。何かブルーハーツの歌詞みたいやな(笑)。

 そう、一言で言えばどこかちょっと世捨て人みたいな縹渺とした雰囲気が中古楽器屋の主人には共通して漂っている。緩慢に、ぬるま湯の中で揺蕩いながら、微睡んでんだか失神してんだか分からないまま絶命して行くような感じ、とでも喩えれば良いかも知れない。カッコ良く言えばレイドバックしてる。

 誤解の無いようにお断りしておくが、断じておれはバカにしたり貶めようとして言ってるのではない。これもまた人生なのだし、ちょっとダウナーでローテンションな人生は、おれにとってはむしろ大いなる憧れだったりもするのだから。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 うわ!時計見たら約束の時間が近付いているではないか。おれは慌てて店を辞したのだった。

 もう家にはギターが溢れ返っており、これ以上増やすのはぶっちゃけ厳しい状況にある。それにギターの趣味も一周二周してしまい、今さら敢えてラインナップに加えたいと思うのはリッケンやグレッチ、L6−Sにファイヤーバード、後はセミアコとどれもヒネりが効いたモンだ。これらは一般的なレスポールやストラト等と比べると圧倒的に流通量が少ない。だから余程のことが無い限りあの店で買うことはないと思う。

 しかしそれでも出物があれば一本買いたいな、って気にさせる・・・・・・そんな雰囲気のある楽器屋だった。まずは常連になろうかな?

2017.03.06

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved