黄昏、ロック・・・・・・或るライブハウスにて


白熱する演奏!(笑)

 新幹線が繋がったことで北陸は随分近くなった。今までの越後湯沢乗り継ぎで北越急行経由の「はくたか」でも相当速かったんだけど、やっぱ乗り換えなしでビューンと1本で行き来できるのは気分的に随分違うらしく、それに乗って30年来の悪友K田が家族旅行で東京にやって来た。

 楽器、単車、カメラと道楽で被ることがとても多い彼は、おれなんぞが束になっても敵わない真のアソビ人・・・・・・もとい趣味人である。とにかく一旦やり始めるとトコトンまでハマる。それはもう徹底してる。単車も一体何台乗り換えたか、原付のハスラーから始まり、RZ250R、KL250、Z400GP、GPz750R、Z-1、ZX−10・・・・・・おれが覚えてるだけで7台はある。ギターもオルタネイトピッキングが出来ないって致命的な課題を抱えながら(笑)、レスポール1960にアメスタにEDS−1275にテレキャス(←要はジミー・ペイジ大好きなワケやね、笑)等々をマンションに並べ、カメラもペンタ一筋で一体全体何台買い替えたら気が済むのか?っちゅうくらいに買い替えて来てる。今はペンタ初の35mmフルサイズのK−1を筆頭に3〜4台持ってたんぢゃなかったっけ?レンズはもぉ何が何だか良く分からない。

 そんな彼と夜に落ち合って飲むことになった。若い頃は随分とお互いバカみたいに飲みまくってたモンだが、今はもうどっちもそんなに飲まなくなった。日本酒の美味い店でチョコチョコと肴を頼んで、2〜3合も飲んだらすっかりいい気分になれる。二人とも全く以てガキが抜けきらないままとは申せ、酒の飲み方くらいはちったぁ大人になれたのかも知れない。

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 そのままで別れるのもいささか寂しいので、ちょっとライブでも観ようか?って話になった。そぉいや二駅ほど入ったトコに小さなバー兼ライブハウスがあったのを想い出して行ってみることにした。営業してるのかどうかなんかも今はスマホでたちどころに分かるのがありがたい。調べてみると幸い店は開いており、今夜はいくつかのバンドが出ることが告知されている。この際ジャンルなんてモンはどぉでも良くって、スタンディングで缶ビールかなんかを呷りながらデカい音で音楽が演奏されてたらまぁエエんちゃうやろか。それにあの小さな店にコテコテのビジュアル系なんかが出て来る可能性は皆無だろう。

 駅を降りて暗い路地を行ったところに相変わらず驚くほどに狭い店はあった・・・・・・ったって伝説の「どらっぐすとぅあ」程ではないが(笑)。ライブハウスのお約束で防音のための重い扉を開けて中に入る。いつもはフロアに背の高いテーブルと椅子が並んでるのが綺麗に片付けられてあって20畳くらいのスペースが確保されてる。中には、10数名のむさくるしい男たち、女が2名。年齢層は30前後な感じでやや高めな印象。ドラムセットの前には少し小さめの40Wくらいのギターアンプが2台、ドラムの後ろ、トイレへの通路ギリギリのトコにベースアンプ・・・・・・それでもう店の奥まで一杯一杯で、行き場を無くしたPAのスピーカーは足場材を組んだ頭上にセットされてるのがなかなかアバウトで良い。
 カウンター近くにリズムボックスやベースマシン、何台かのエフェクターが並べられ、沢山のランプが明滅してるのもやはりこれから始まる演奏に使うのだろう。あまりデジタル仕掛けが似合う店の雰囲気ではないものの、これはこれでちょっと面白いかも知れない。

 1ドリンク付きで1,500円という今時珍しいくらいに安いチャージを払って缶ビールをもらう。壁にもたれて既に酔っ払って倦んだ眼で演奏が始まるのを待つ。

 ------何でライブって時間通りに始まらへんのやろなぁ〜?
 ------要は段取り悪いんとちゃうかな?ほやけどおれら、昔ワリとキッチリ時間守って初めてたで。
 ------そやったかな?
 ------大体、機材少なかったもん。それにそんなにセッティングに拘ってなかったしな(笑)。
 ------ハハハハ。いつもアッちゅう間に終わってたのぉ。
 ------おれもS年もMC嫌いやったから。1曲づつグチュグチュ喋るヤツ、フォークでも歌うとけて思ってた。
 ------ハハハハ。たしかにそやった。「こんばんは」っちゅうただけで後は30分くらいぶっ続けやった。
 ------いや、アイデアでは出たコトあんねん。MC20分、曲1分っちゅうのん(笑)。MCでMCという行為をコケにしまくる、と。
 ------ドツかれるで。
 ------そぉなんや!対バン、ハードコアやったりしたら洒落の分からんパンクスに蹴り入れられるかも知れんやろ。

 アホな想い出話を交わすうちに、リズムボックスのトコに如何にもヒップでホップなカッコのニーチャンが2人並んで、そうして無機質なリズムと太いベースラインが流れ始めた。どうやらライブが始まったようだ・・・・・・ん!?
 それは、言っちゃ悪いが80年代初頭のジャーマン系、それこそおれの大好きなリエゾン・ダンジュルースやらDAF、まぁ平たく言うとコニー・プランクの一党あたりに端を発し、その後世界的に広まったミニマルかつシンプルでいながら妙に生々しさを備えた、あの感じだ。テーブルの上にMS−20は無かったよな?(笑)それがディレイやイコライザー、時々挟まれるオカズ等で緩やかに変容しながら延々と続く・・・・・・え!?これだけダラダラ垂れ流して終わるつもりなのか?

 30年前に聴いてりゃぁ少しは熱狂できてたかも知れないが、今は2016年だ。ちったぁ新しいことやれよな。もぉ既視感バリバリの再生産されまくった果ての音響なんて、おれにはただの機器を介した自慰行為にしか思えなかった。そう、リズムボックスやベースラインはオナホールなんだ(笑)。それを人に見せるな聴かせるな。

 次のバンド、お!こりゃ見るからにパンクだねぇ!しっかし、道具だけは良いモン使ってやがるのぅ〜。ギターはモノホンのギブソンフライングV、泣き所のペグもゴトーのマグナムロックに換装してあってチャンと手入れしてるのがパンクぢゃないぞ!ベースは一時期売れまくったダンカンやんけ。
 演奏が始まる。激速のテンポ、タイトなリズム、切り返しの多さ、ボーカル以外はワリと男前なのに、デスボイスをがなりまくるのんだけがデブの醜男っちゅうのも観てて面白い。ペルウブがギズムのコピーしてるみたいだ(笑)。まぁ、横山SAKEVIもたいがい不細工だったが。そして1曲目が終わった。悪くない。

 ------ハァハァハァハァ(←息切れしてる、笑)、え〜、いつもこの店に来させてもらって遊ばせてもらってます。
     今日はこうして前でライブやらせてもらえて、ホントに・・・・・・

 ・・・・・・思わず足許にあった畳んだ椅子を掴んで、頭カチ割ってやりたくなったよ、おれ。最近の若いのに多いひたすら謙譲語野郎!オマエみたいなんは死ぬ時も「これから死なせて頂きます」っちゅうて死にやがれ。
 あとはもぉ言わずもがなで、1曲終わるたびにどうでもいいようなMCをタラタラタラタラ気弱にしゃべりくさってボケが。弾き語りでもやってろクソデブ!パンクならゴチャゴチャ言わずにダーッと一気にやれ!怒りも憎悪も無いまま嬉しそうにペコペコ頭下げながらカッコだけパンクやったってしょうがねぇだろぉが!?だからテメェはいつまで経ってもうだつの上がらん工員のままなんだよ!・・・・・・もちろん職業なんざわかるワケなかったけどね(笑)。

 3つ目、今度も4人組だ。ヒョロっとしたボーカルがアン直のエピフォンのカジノ抱えてる。緑のカラージーンズにテロッとしたレーヨンっぽいフラワープリントのシャツ、チューリップハットみたいな帽子・・・・・・何となく今は亡きクドミのオッサンが普段こんな感じのカッコだったなぁ〜、って想い出す。
 ギターはモーターヘッドのレミーっちゅうか、最近公開の「デスノート」の池松壮亮みたいな、っちゅうか、ちょび髭生やして小柄のクシャクシャ頭。何故かこぉゆうタイプは必ず黒いシャツで、そいでもってギターはちょっとヒネリ効かせたマニアックなんを弾く。何か決まりでもあるのかと思ってしまうが、コイツはテレキャスデラックスを抱えてた。ミック・グリーンかよ?ベースの風体は忘れてしまったが、提げてるのはこっちもちょとヒネリが入ってEBだ。あのモーモー鳴るヤツ。

 演奏が始まる。まぁ70年代っぽいフツーのロックだけどこれまた悪くない。悪くはないが、とにかく歌に対してバックの音がデカ過ぎて何歌ってるかちっとも分からない。そして曲が終わるとまたタラタラとMC。CD出しましたって、一体何枚売れたんだよ?・・・・・・そこで鈍いおれもようやっと気付いた。

 ・・・・・・このハコの中にフリの客はおれとK田しかいない。

 っちゅうか、オーディエンスは連れのネーチャン2人以外はみんな演奏するバンドメンバー自身やんけ!軽音サークルの発表会でもツレのツレくらいまで来たりしてもちょっとマシやで。
 代わりばんこで演奏して一体全体何が楽しいのだろう?コイツ等。内輪で和気藹々、ヌル〜く傷口を舐めあってるような状況は、あまりに見苦しくもキモチ悪くて耐え難い。それは程度の差こそあれK田も感じてるようだ。

 4つ目のバンドの演奏が始まる前に、おれたちは何となくいたたまれない気分で店を出たのだった。

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 もっと暗い暴力衝動に衝き動かされるようにしてロックはあった筈だ。それはパンクとかノイズとか如何にも暗かったりデストロイな雰囲気を湛えた危なそうなんばかりではなく、凡そあらゆるロックが多少なりとも底流に本来的に持ってたもんだとおれは思う。
 いやいや、暗い暴力衝動、とまで言っちゃうと何だか限定的になってしまうよな・・・・・・もちょっと間口を広く構えて言えばそれは「リビドー」、それもフロイト的な性衝動ではなく、ユングの言う「単純な衝動」としてのリビドーと言って良いかも知れない。それがもぉ完膚なきまでに、無い。それでもやはりロックなのか?バンドなのか?ライブなのか?

 其々が見た目のカッコも含め、きっちり出来上がったジャンルやらカテゴリーの中に納まって、その狭苦しいフレームの中でチマチマと手堅く演奏する。あまつさえオーディエンスはツレばっかし。なんでわざわざライブハウスでやる必要がある!?この状況はどぉ考えても閉塞状況やろ?そして息苦しさを自覚しないままの閉塞状況なんてサイアクだろ?
 すべてが繰り返し繰り返し再生産され、ただのスタイルとして様式に帰結した中で、原初の最も大切な衝動を失ってちゃ世話ないっちゅうねん。

 今やおそらく、チャックベリー以降のあらゆるロック、それだけでなくポストロックとか呼ばれるテクノやハウスやインダストリアルなんてモンまで含めた、要するに若者がハマる音楽の一切合財が、大いなる黄昏の時を迎えつつあるのではなかろうか?衝動はどこへ行った?どこへ向かった!?

 ・・・・・・そこまで考えた時唐突に、砂漠の彼方に硝煙の立ち昇る風景が見えたような気がした。

2016.11.03

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