「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
Tomson/Thomas奇譚

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http://jipang0108.blog89.fc2.com/より

 あれこれと国産エレキについてのちょっと消えかけつつもある記憶を文字に起こすことで手繰り寄せてくと、どうしても触れずにはおれないブランドがある。

 トムソンとトーマスである・・・・・・って、前者については今では赤瀬川源平が名付けた無用建築と思われる方が殆どだろうし、後者についてはやっぱし「きかんしゃ」のコトだろうと思う方が殆どだろうと思う。
 どちらも今は亡き「二光の通販」のPBだ。70年代の明星や平凡、あるいは週刊漫画誌ではなくちょっと高年齢を対象にした月刊漫画誌等のナウなヤング(笑)向け雑誌の裏表紙はここかブルワーカーの広告って相場が決まってた。

 ・・・・・・で、トムソン/トーマスである。後年に至ってハリーとかホーリーってなブランドもあった気がする。ブランドの棲み分けがどうなってたのかは良く分からない。どっちかと言えばトムソンが高級(笑)ラインを受け持ってたような印象があるけど、それは見た目だけの話で中身で言えばB級と言うのさえおこがましい、C級の粗悪な製品が揃ってた記憶がある。流石にキワモノ大好きなおれも買おうと思ったことはない。
 ちなみにこの二光の通販、ギターだけでなく、アンプにドラムセット、サックス・トランペット等の金管楽器、とんでもないところでは三味線や尺八といった和楽器なんかまで何でも揃ってた・・・・・・っちゅうか、何せ通販屋さんなんでありとあらゆるものを取り扱ってたと言うのが正解だろう。
 覚えてるのは、寺田町の駅の近くにVIVAって楽器だけの直営店があったコトだ。さらにその近くに総合結婚式場の「月華殿」っちゅうのがあって実はそこ、母方の遠い親戚が経営してるらしく、何度かそこを借りて親戚会みたいなんが催されて、招かれて出掛けてく途中に見掛けたのだが、店内に入ってはない。ともあれどっちもとっくの昔に無くなってしまったが。

 こんな胡乱なバッタブランドでさえ今では研究が進んでるんで、型番がどうとか製造元がどこだったといった情報は各自ネット上で調べてもらえれば宜しいかと思われる。おれが今回語りたいのは、どうしようもなくパチモン臭をプンプンさせてとことんパッとしなかったこれらのブランドを巡る些少で極私的な記憶だ。

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 二光の通販の特徴は、とにかく安いことと月賦販売、そして超絶的にダサい紙面作りとキャッチコピーにあったと思う。

 月賦なんてーのも今や死語の世界の仲間入りしつつあるコトバだろう。今でいう「分割ローン」っちゅうやっちゃね。それを、これならビンボな青少年でも何とか買えるんちゃうやろか?ってなマコトに微妙か絶妙か良く分からない価格設定で売るのである。基本は10回払いで、端数は初回に足し込んで、総支払額だと一括よりは1割弱くらい高くなるような金利設定だったと思う。
 で、その一括の価格と言うのがこれまた微妙で、どぉだろ?一般的な国産ブランドのエントリークラスを9掛けにしたくらい、とでも言えば良いのか、結局分割払いにしたら総額では何だか良く分からないあたりに設定されていた。もちろん時代と共に製品作りも少しづつ変化があって、一般的な国産ブランドがコピー度を高めるのに歩調を合わせるようにちょっとづつ安かろう悪かろうから高級(?)志向な製品も増えたりはしたが、まぁやはり基本は怪しい製品ばっかしだった。

 おれがよく覚えてるのは、15,800円かなんかで、ギターとアンプ一式がセットになった最安値のモデルと、キッスやチープトリックが流行った影響か、ラインナップに突如加えられたフライングVとエクスプローラーのコピーだ。
 前者は60年代のビザーレギターを今に伝えるような奇妙な代物だった。テレキャスっちゃテレキャスに似てるがかなり稚拙な出来栄えで、子供心にも全然ちゃうやんけ!ってツッコミ入れたくなるヘンなトレモロが付いてた。後者は一括価格29,800円でたしかにそれらしい形はしてるんだけど、カラーリングが本物とは似ても似つかぬ奇妙なサンバーストに塗り分けられたモノだった。

 それより何より強烈だったのは、いくら70年代のナウなヤング(笑)でもさすがに時代遅れで読んでて恥ずかしくなるような直截なコピーの数々である。改めてネットの画像から拾ってみると、今さらながらやはりこの言語感覚はスゴい。

 ------全国の買った方から感謝の手紙殺到!
 ------最新流行のファッションギター ギブソン最高級ドブモデル ← そりゃ「ダブ」やろうが!?(笑)
 ------超弩級またマタ驚くこの安さ! ← そらまぁドレッドノートボディだから間違いではないわな。
 ------ケンラン豪華ウェスタンギター新発売! ← なぜか「フォークギター」ではなく「ウェスタンギター」と呼ぶのが流儀だった
 ------お買得品ゼッタイニヤスイ!
 ------ミリョクいっぱいのトムソン新製品!
 ------トムソンだからできるこのネウチ この安さ!
 ------倍のネウチ!
 ------音ノノビバツグン
 ------堂々たる風格 買いよい価格
 ------ナウなフィーリングで大流行のファッションギターがこの安さ

 ・・・・・・何だか明治時代の薬の広告みたいなセンスでしょ?これらがなるだけ安い出稿料で最大限の宣伝をするためなのか、たいていはモノクロの製品画像と共に見開きで空間恐怖症の人が描いた絵のようにビッシリ埋められてる、っちゅうのが基本スタイルだった。なるほどカタカナは今みたいに太字での強調が一般的になる以前、恐らくは活版の活字の都合もあったんだろうが、何かを強調したいときに良く用いられる手法ではあったとは申せ、どう考えてもヤリスギだよネ!?
 実はおれの文章で頻用されるカタカナって、この二光の通販の影響を受けてるのではないかと思う時がある。それくらい子供ゴコロにもノコる異様なセンスだったのだ。あるイミ、トラウマに近い(笑)。

 そんな二光の広告の最高の怪作は何と言っても、チャーが大人気となった頃に出された稚拙なムスタングコピーを中核とする入門セットの広告だろう。カラー版とモノクロ版で何種類かあったと思うが基本構成はどれも同じで、島田洋八をさらに細くして貧乏臭くしたような工員っぽいカーリーニーチャンが「YMCA」とプリントされたダッセェTシャツにGパン姿で(当然シャツはイン!)、陶酔の表情でギターを弾くっちゅう、当時でも既に10年くらいズレたデザインだった。そして、当然ながらキャッチコピーがスゴい。もはや常軌を逸している。

 ------一人きりのコンサートinマイルーム
 ------誰に聞かせるのか、キミの愛を・・・

 ・・・・・・「誰に聞かせるのか」ってアータ、こっちが逆に訊きたいわ!この広告の効果は絶大で、当時中学生だったおれは、死んでも絶対に二光だけは買うまいと固く心に誓ったのだった・・・・・・ハハハ、逆効果っちゅうやっちゃね(笑)。

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 そんなトムソン/トーマスなんだけど、何度か実際に弾いたことがある。最初は中学の時、以前想い出ネタで書いたK山っちゅう色キチガイが買った赤いレスポールカスタムのコピーである。まぁフレッシャーと変わらない程度だったと思う。何となく軽くてボディトップを叩くとポコポコと音がしたんで、ダンエレみたいに中は空洞だったのかも知れない。

 次が大学の時、誰かの部屋に酔っぱらって乱入した時に部屋の隅っこに転がってるのを見付けた時だ。友人のそのまた友人みたいなヤツの下宿の別の部屋・・・・・・つまりアカの他人(笑)だったと思うが、未だに思い出せない。
 それは上述の最も粗悪な「見ようによってはテレキャスに見えなくもない」ってな安物だった。ちょうどその頃、おれは農家の納屋から見付かったっちゅうフレコミの60年代のテスコをバイク屋のシャチョーから貰ってレストアしてたまに弾いてたのだけど、それとひじょうに良く似てた印象がある。バカみたいに太いネック、死ぬほど高い弦高、ハリガネみたいなフレット、巨大なヘッド、妙チクリンなトレモロ、本来クリア塗装のハズなのにに濃い色に塗られたネック・・・・・・とにかく劣悪としか言いようが無かった。

 三本目は会社に入って何年かした頃、寮で仲良かったヤツが、帰省のついでに持って帰ってきたのはトムソン/トーマスではなくたしかハリーだった。聞くと中学の頃に同級生からもらったらしい。二光もそれなりに時代に合わせる努力はしてたようで、何と一世を風靡した高崎晃のランダムスターのコピー物である。真っ青なボディにローズネック、バナナヘッドだったと思う。
 いつも酒奢ってもらってるせめてもの礼に分解整備してやったんだけど、ボディは相変わらずベニヤだわ、トレモロユニットは真っ直ぐ付いてないわ、金属パーツは嫌がらせのようにチャチだわで、お世辞にも誉められたクオリティではなかった。本人はちょっと自慢げなので本当のことが言えなかったが・・・・・・。

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 そんな二光通販、一時期はテレビショッピングにまで進出してたのが最近トンと見掛けない。とっくに倒産したものとばかり思ってたのだけど、調べてみると西武グループに吸収される形で形式的には存続してるらしい。もちろん通販事業は止めてしまい、今はグループ内への人材派遣を細々とやってるようである。
 余談だが、二光の成功にあやかろうとしたか、当時は同じくらい胡乱な通販広告を出してたミュージック三田、なんてぇのもあったことを想い出す。エピゴーネンが出て来るとは、ある意味通販業者としては一流だったのかも知れない。製品は三流以下だったが(笑)。

 また、直接の創業者である宝利貢氏(あ〜、だからホーリーなんてブランド名付けたんだ!?)は今も存命で、西武グループに事業譲渡後は「光ネット商工協同組合」って実態があるのかないのか良く分からない団体を立ち上げて、今はそこの理事長を務めてたりする。組合員の企業はどれもかつての二光の流れを汲むと思われる、これまた実態があるのかないのか良く分からない怪しげな会社ばかりだ。現在はどうやら健康食品や精力剤、介護用品等に注力してるっぽい。数年前には消費者庁より誇大広告のカドで行政処分を受けたりもしてる。そりゃぁ昔のあのキャッチコピーのノリのままで続けてりゃ今は完全にアウトだわな。

 トムソン/トーマスの系譜は売る商品こそ変わったものの、「怪しさ」のただ一点においてのみ今なお脈々と受け継がれてるようなのである。いっそ、再発したら面白いのに・・・・・・まぁ、買わないだろうけどさ(笑)。

2016.10.06

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