「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
無口そうで饒舌、病弱そうで精力的・・・・・・The Durutti Column


初期の名盤・「LC」


かなりヒットした「Amigos Em Portugal」

 70年代末期に1stアルバムをリリースして以来だから、もう30年以上も続くThe Durutti Columnはバンドっちゅうよりはヴィニ・ライリーのソロプロジェクトに近い存在である。T.M.Revolutionが西川貴教のソロプロジェクトなんと同じようなものと考えていただいて構わないだろう・・・・・・「である」と書いたんだが、今は正しくは「であった」というべきかもしれない。
 実は数年前、彼は脳卒中で倒れ、幸い一命は取り留めたものの、身体に麻痺が残ってギターがマトモに弾けなくなってしまったのである。しばらくしてリハビリを兼ねてだろうが、ガレージパンクっぽいアマチュアバンドに混ざってたどたどしく「サティスファクション」かなんか、コピーナンバーのリフを引いてる姿を動画で見たが、残念ながらそこに往年のスタイルは微塵も感じられなかった。それはもうあまりに痛々しくて、おれは途中で見るのを止めたのだった。
 それでも今もなお公式ページはちゃんと存在しているし、後遺症でヘロヘロとはいえ新しい音源がMP3でアップされてたりもする。

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 The Durutti Columnもまたポストパンク/オルタナティヴの潮流の中で出て来たことは間違いないが、その紡ぎだす楽曲は極めて静謐で内省的なものであり、他のどんな連中とも異なったものだった。ほぼ全曲がリズムボックスの単純なビートをバックに、コーラスとディレイの掛かったクリーントーンのエレキギター、あとはせいぜいエレピがチョロッと、殆どはインストゥルメンタル。たまーにボーカルが入ることもあるがボソボソと呟くようなんばっかり。ジャズよりはもうちょっと分かりやすくてスッキリしたメロディーラインをソロギターで弾くような感じ、っちゅうのが近いような気がする。
 同時に出て来たチェリーレッド系のベン・ワットやトレイシー・ソーンに代表されるちょっと懐古的なネオアコとも異なる・・・・・・っちゅうか、これはこれで他に類例のないユニークなスタイルであったことは断言して良かろう。決して過激でムチャクチャで暴力的なばかりがオリジナリティではないのである。
 Youtubeでちょっと検索すれば過去の楽曲はいくらでも見付かる。興味のある方はおれの舌足らずな説明読むより聴いた方が手っ取り早かろうと思う。

 機材的には極めてお手軽にできちゃうので、色んなフォロワー・エピゴーネンがワーッと出て来そうになった・・・・・・が、どれもこれも長続きしなかった。その理由はカンタンである。誰もヴィニほどの尽きせぬメロディーセンスと卓越したテクニックを持ち合わせてなかったのだ。よしんばそこまでギター弾けちゃえる人だともっとテクニカルで派手なジャズやフュージョン、あるいは超絶技巧系のヘビメタを目指したりしがちで、こんなモノローグのようなっちゅうか、淡彩のパステルや水彩画のようなっちゅうか、要は薄口で地味な世界には止まらないのである。この点でもThe Drutti Columnは唯一無二にして孤立した存在と言えるだろう。

 一聴すると、すごく音数が少ないように聴こえ、オマケにメロディがハッキリしてるので誰でも簡単にコピーできそうな気がする。実際、メロディだけならワリとすぐに出来る。ところが、低音弦でベースラインも入ってたり、素早いオブリガードがさりげなく添えられたり、ビミョーに複雑なテンション系の和音が混じったりするのが気になってあれこれポジションを探し出すと、どぉ弾いてるのか良く分からなくなって来る。昔は動画なんて気の利いたモノはナカナカなかったんで、実際に目の前で弾いてるのを見るまではてっきり多重録音でもしてるんだろう、と思ってた。っちゅうか、上に述べたような卓越したテクニックなんて想像もしてなかったのだ。その点で、安易にニューウェーヴ系=ヘタ、と思い込んでたおれが浅墓だったのである。

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 どこからどうしてそのチケットが回って来たのかは忘れてしまったが、The Durutti Columnの来日公演が予想外の大盛況で、急遽追加公演が銀閣寺のCBGBで行われることになり、チケットを入手したおれを含めた与太音楽仲間5〜6人はステージの真ん前に陣取ったのであった。目の前30cm位のところにヤマハのCPだったかフェンダーローズだったか、エレピが置いてある。手を伸ばせばおれも鍵盤叩けるくらいの距離、所謂「かぶりつき」状態(笑)。機材はシンプルそのもので、ギターにはジャズコの120Wにディレイがくっ付いてるだけ。つまり、あのコーラスは単純にアンプにビルトインされたエフェクターだけで出してたのだ。ピアノはPA直結だったかな?とにかくシンプルだった。

 こっから先はたしか過去に触れたことがある気がするのであまり詳しくは書かないが、その時の編成はヴィニに加えてほぼ固定メンバーとして参加してた盟友・ドラムのブルース・ミッチェルに、さらに数曲はサポートのヴァイオリンとペットかなんかのオニーチャンがその時だけ出て来たような気がする。
 アングロサクソン系としてはひじょうに小柄でガリガリ、なんとなく萎びたような雰囲気のヴィニが、クソ重たい赤いレスポールカスタム提げて出て来た。一方のブルースは何だか「仕事探しに職安にやって来た酒飲みの小太りのオヤジ」ってな風貌で、小ぶりのドラムセットの近くに陣取って、そしておもむろにリズムボックスのスイッチを押した(笑)。20曲近く演奏して実際タイコ叩いたのは半分も行かなかったか、これでギャラの取り分半分ならムチャクチャおいしい。後はおっさん、ヒマそうにビール飲みながらスルメを齧ってやがる。海老一染之助・染太郎でもここまでではないだろう。

 ・・・・・・で、ヴィニだ。一応はおれもギターを弾く身であるからしてその奏法がどうなのかはひじょうに気になる。1曲目が始まり、それは概ね判明した。何と、ほぼ全てコードフォームによってルートと五度あたり基本的に確保しながら残りの指でメロディラインを弾き倒していくっちゅうモノだったのだ。
 ピックは使わずすべてフィンガーピッキングだ。単なるアルペジオでもスリーフィンガーでもないフリーな右手と、左手はかなりハイポジションまで律儀に人差し指はバレーしたまま目まぐるしく指板を行き来する。ジャズギタリストの弾き方にかなりそれは近い感じ。全てはロックのイデオムとは全く異なるフィンガリング。そら分からんわな。音数はレコードよりはるかに多く感じられる。
 時折挟みこまれる速弾き系のリックも難なくこなすわ、成毛滋もビックリの、右手でピアノのコードをボーンと叩いてそのままギターに移ってみたり逆にギターでコードをジャラーンと弾いてそのままピアノのフレーズに行ってみたり・・・・・・正直、大道芸的な要素まで兼ね備えたバカテクと言っても差支えのない演奏力だったのである。オマケに最初から最後までバッキバキに弾き倒し。

 静かにクリーントーンで美しいメロディを奏でるアルバムのイメージとは裏腹に、十分にエモーショナルでパワフルな演奏だった。人は見かけで判断しちゃいけない。曲は雰囲気だけで判断しちゃいけない。

 アルバムもこの数年は上記理由もあってかリリースが止まっちゃってるものの、何だかんだでこれまで16枚も出てて、決して寡作の人でもない・・・・・・どころか真逆で、とても精力的なのである。ただ、セールスに恵まれるタイプの音でないことは事実であろう。マイナー一筋で40年近くやり続けてることになる。これだけでも尊敬に値することだ。
 作風はシーケンサを取り入れてみたり、バンド的な音にシフトしてみたり、ディストーションサウンドでやってみたりといろいろ変化もあるが、ミニマルで内省的で透明感と浮遊感のある、実際の音数よりも少なく聴こえるような独特の雰囲気は一貫して変わっていない。何とか頑張って完全復活を遂げて欲しいものだ。

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 そうそう、The Durutti Columnがアナーキスト闘士の名前から取られた(・・・・・・但し、スペル間違ってたりするんだな、笑)って由来はけっこうよく知られているんだけど、彼はなぜそんな名前を付けたのか?ウロ覚えで申し訳ないが、昔読んだインタビューでこんなことを話してた記憶がある。
 元はヴィニもパンクムーヴメントにアテられてフツーのパンクバンドをやってたそうなのだ。ワン・トゥー・スリー・フォー!3コードでギャギャーンみたいなん。しかしすぐにワーワー騒いで無意味に怒り狂うだけで、内実がちっとも伴わないパンクに深く失望して、まったく対極のスタイルを模索してたらこのようになったらしい。勿論、小さい頃からピアノやジャズギターを学んで素養があったことも大きく役立った。

 つまり、抑制されて静謐、内省的であくまで淡い色合いの音楽世界の裏には、凡百のパンクバンドががなり立てるよりも余程激しい怒りと反骨精神があったのである。この点でThe Durutti Columnは紛れもなくポストパンク/ニューウェーヴ/オルタナティヴの中でも極めて先鋭的な旗手であったと言えるだろう。


ちなみに近年はストラトばっかし弾いてはります。

2014.07.17

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