「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ヴェルヴェッツ・チルドレン・・・・・・追悼、ルー・リード


歳取ってからもシブいロックンロールジジィしてはりました。

 先日、ルー・リードが71歳で亡くなったとかなり大きく報じられていた。何でも永年肝臓を患っており、今年の初めに生体肝移植手術なんかも受けたりして一時は快方に向かったみたいだったが、ついに力尽きたのだという。

 彼が世に出たのは言うまでもなくバナナジャケットで有名なヴェルベット・アンダーグラウンドでの活動だったが、これについては以前に触れたことがあるので、ここで改めて繰り返す気はない。間違いなくパンクロックの大きなルーツの一つであり、その後に連綿と続くテレビジョン、パティ・スミス、ジョニー・サンダース、トーキング・ヘッズ等々のニューヨークアンダーグラウンドの系譜の直接の開祖であった、とでも書いておけば充分だろう。

 ・・・・・・って、まぁその辺のことはまぁ散々報じられてるので、今回はどれだけ多くのアーティストがヴェルヴェッツ、またルー・リードを敬愛してるか、ってな観点で、可能な限りカバーしてるアーティストを列挙して行こうと思う。有名順とかではなく、おれの主観で気の向くままであることは予めお断りしておきたい。

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 意外なトコから始めると、Psychic−TVだ。初期のライブでムッチャクチャな音痴で「Sunday Morning」の出だしを歌ってるのがあった。たしか、ローマ法王の顔をジャケットにしたTGのブートレグについてた長大なインタビュー(おそらくは何かの音楽雑誌の再掲だろう)でもジェネシス・P・オリッジは彼らがフェバリットバンドだ、ってなコトを語ってた記憶がある。Youtube見ると、ワリと最近のテイクで「Foggy Notion」をスタジオでレコーディング中の映像も見つかる。随分歌は上手くなったなぁ〜(笑)。さらに調べると「Candy Says」のカバーもあった。狷介固陋な変態のワリにヴェルヴェッツへのリスペクトに関してはかなりミーハーなようだ。

 同時期のバンドってことではジョイ・ディヴィジョンが、イアン・カーティスが縊死する直前に録音されたアルバム「STILL」の中で「Sister Ray」をカバーしてる。独特のウェーウェー言うような低くて太くて陰気な声で、これまた恐ろしい音痴で、さらに恐ろしいことにはオリジナル以上のヘタな演奏をバックに(笑)、ノリもテンションもダラダラのままでお経みたいに歌ってるのが鬼気迫る感じだ。
 彼の没後、残ったメンバーはバンド名をニュー・オーダーに変えたのは有名な話で、曲調も大変身して打ち込み系のエレクトロビートを前面に押し出し、大ヒット連発で一躍、押しも押されぬメジャーになるんだけど、やっぱしこの曲は好きだったみたいで、相変わらずカバーしてたりする・・・・・・そして相変わらずヘタだ。

 キャブスことキャバレー・ヴォルテールは何と、ペラペラにチープなシンセサイザーをバックに「Here She Comes Now」をカバーしてる。あの曲はヘタとはいえ味のある繊細なアルペジオあっての名曲なのだが、とことん劣化コピーですべてぶち壊しの台無しになってるのが、いかにもどこまで行ってもも一つパッとしなかったキャブスらしくて却って良い(笑)。

 さらにはニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズやクリスチャン・デス、バウハウス、ジャパン、シスターズ・オブ・マーシー、エコー&ザ・バニーメン、ゲイリー・ニューマン、オーケストラル・マヌヴァーズ・イン・ザ・ダーク、元ストラングラーズのヒュー・コーンウェル等々、ニューウェーヴだオルタナだパンクだポジパンだエレポップだテクノだとかますびしかった時代の錚々たる面々がカバーをしてる。ね!?これってスゴいコトだと思いません?

 ちょっと面白いトコでは、ガーターベルトの下着姿でシャウトするシェリー・カーリーの姿が一世を風靡した、あのランナウェイズだってファースト・アルバムで「ロックアンドロール」をカバーしてる。同じように見た目の過激さばかりが喧伝されて人気を博したニナ・ハーゲンも負けてはおらず(?)、「Sunday Morning」をカバーしてるのもかなり面白い。歌い方はどっちも意外なまでに真っ当だ。フィメールボーカル、ってトコではスージー&ザ・バンシーズもライヴでカバーしてるのが聴かれる。
 さらに意外なのは、あのデュランデュランまでがカバーしてるってコトだ。同じエレクトロアレンジでも野暮ったいキャブスとは異なり、見事に彼らのスタイルに消化しきってるのが流石と言えるだろう。

 もうちょっと古いトコだと、盟友とも言えるデビッド・ボウイ、グラム繋がりでブライアン・フェリー、モット・ザ・フープル等も、仲間でありながら一歩時代を先んじてた彼へのリスペクトを込めてカバーしていたりする。

 90年代以降のグランジ、シューゲイザー、ポストオルタナ系に属するであろうベック、R.E.M.、スマッシングパンプキンズ、ソニック・ユース、ニルヴァーナ、レディオ・ヘッド、ジム・オルークあたりがカバーしてるのに意外性は全く感じないが、中でもベックのカバー率は異常に高い。よほど好きなんだろうな。あと、ケイト・モスの旦那のバンド、ザ・キルズもかなりいろいろカバーしてる。ザ・ブラック・クロウズがカバーしてるのはちょっと意外だったな。

 ぢゃぁ直系と言えるニューヨークアンダーグラウンドではどうなんだろ?っちゅうと、パティ・スミスは割りとストレートにリスペクトを表して「ペイル・ブルー・アイズ」はじめ何曲かをカバーしてる。トーキング・ヘッズの派生バンドとしてこっちはこっちでかなりの人気だったトムトムクラブは比較的原曲のイメージそのままに「ファム・ファタル」をカバー・・・・・・って、それくらいしか見付からん。
 テレヴィジョンなんて昔、ストーンズやボブ・ディランをカバーしてるライブブートレグを聴いたことがあるが、絶対に影響を受けたであろうヴェルヴェッツのカバーは寡聞にして知らない。トム・ヴァーラインってすんげぇプライド高そうだし、素直にフェバリットですっちゅうのがイヤだったんではなかろうか?(笑)

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 ・・・・・・と、カバーしてる連中のみをここまで取り上げたんだけど、これだけでかなり物凄い数に上ることがお分かりいただけたかと思う。日本ではも一つ人気の薄いヴェルヴェッツなんだが、欧米では一種のスタンダードナンバーとして広く認知されている曲が多いってコトの顕れだと思う。

 また、直接カバーはしてないけどソックリの芸風というバンドも多い。

 まず忘れちゃならないのはドイツロックの雄・ファウストだろう。特に2枚目の「So Far」は、アルバムほぼ全体がヴェルベッツへのよじれてひねくれたオマージュと言える怪作だ。アルバムジャケットは明らかに「White Light/White Heat」だし、いかにもヴェルヴェッツな単調なバスタム連打をバックにした1曲目や、ヂーヂーギーギーした「No Harm」では人食ったように「Daddy Takes A Banana Tomorrow Is Sunday」なんて歌ってたりして笑ってしまう。バナナだぁ!?サンデーだぁ!?(笑)。
 おれもヴェルヴェッツの最大の特徴として8拍目にスネアを入れる単調なエイト・ビートがあると思うが、ファウストはこのパターンがよほど気に入ってたらしくその後の「Kraut Rock」なんかでも取り入れられている。

 日本だと絶対に外せないのが「裸のラリーズ」だろう。こう言っちゃうとミもフタもないけど、30年以上の長きにわたりマイナー一筋で、「Sister Ray」だけをやり続けてたようなモンだ(笑)。どの曲もまぁ要は元ネタこれでしょ!?みたいな(笑)。初期の水谷孝のルックスはジョン・ケールそのものだしね。もぉいい加減どぉでもいいような神格化は止した方が良いわ、ラリーズは。
 ああ、そうそう、以前書いた宮西計三もヴェルヴェッツまんまやったなぁ〜。

 イギリスでも80年代中頃に、ヴェルヴェッツの暴力的かつポップっちゅう点だけを取り出して純化したようなバンドが現れている。ジーザス&メリー・チェーンである。大量のフィードバックっちゅうよりは単なるハウリングと、キャッチーで親しみやすくポップなメロディーってなムチャクチャな組み合わせのデビューシングル「Upside Down」やアルバム「Psychocandy」聴いた時は、こりゃ完全にヴェルベッツの再来やんけ!!って思ったもんな。

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 生涯でのアルバム販売枚数でどれくらいだったのかは知らないが、そんなビートルズやストーンズほどではないことは間違いないと思う。しかし、こんなにも多くのミュージシャンのリスペクトを集めたことは間違いなく事実である。この点で素晴らしいミュージシャンズミュージシャンだった。

 とは申せ、ヴェルヴェッツの暴力性や実験性はジョン・ケールに依るところが大きかったし、独特のドラムはモーリン・タッカーが要はヘタだったからこそ生まれた唯一無二の個性である。実のところルー・リード自身は世紀の怪作「メタル・マシーン・ミュージック」を除くと、むしろオーソドックスなロックンロールやフォークソング、R&B、ゴスペル等が底流にあった人で、それほどエキセントリックな音楽性ではなかった。歌詞だって、当時は衝撃的だったかもしれないが、今の時代から見ればそんな文学的だなんだと大騒ぎするほどのモノでもない・・・・・・キャンディが言うにはさ〜、リサが言うにはさ〜、シスターレイが言うにはさ〜、だもん。では彼の個性を際立たせてたのは何か?

 「声」そのものである、一聴しただけで彼と分かる、ちょっと鼻にかかって粘り付くようなんだけどハスキー、太いんだけど決して低くはないあの「声」だ。あの忘れられない声が、凡百の人間が歌えば単に素直でポップなメロディーのみに終始するだけのところを、ダークで背徳感、頽廃感溢れる怪しい魅力たっぷりの歌に仕上げ、今なおおれたちを魅了して止まないのである。この点でルー・リードは希代の、そして不世出のヴォーカリストだった。

 あ〜もぉゴチャゴチャ、クドクド書き過ぎちゃったな。これ以上はいいだろう。本当に惜しい人を亡くした、要はおらぁ衷心からそぉ言いたいのだ。

 R.I.P. Lou ! 

2013.11.16

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