「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
オレンジドロップだバンブルビーだとうるさいわい!・・・・・・あるいはプラシーボの幸せ(U)


これが通称「オレンジドロップ」

 この前、世に蔓延するテンションについての珍説をコキ下ろしてみたんだけど、珍説は他にも幾らでもある。いやいや、病膏肓ってヤツで、ギターだけでなくおよそあらゆる趣味の世界には神がかったっちゅうか、ちょっとキティガイ入った珍説がまことしやかに流布してるものなのだ。
 それらはどれもまるで、夫婦仲が悪いのも子供がグレて家庭内暴力振るうのも仕事が上手く行かないのも、全部背骨のせいです、なーんて澄ました顔でヌかす怪しい整体師に近い胡散臭さである。そしてたいへん情けないことに、そんなトンデモな説を信奉する人がゴマンといる。

 これらの根本は要するに、それだけアタマの悪い人が世の中に溢れてる、ってコトに尽きると思う。義務教育で習った程度の数学や理科の内容を正しく理解し、かつ自分の知性やアイデンティティなんてどれほどのモンでもないと謙虚にしておれば、そのような誤謬は一蹴できるんだろうけど、コトはそう上手くは運んでくれないもので、今日も珍説およびその信者はあらゆる世界で増殖していくのだ。

 今回はこれまた信者の多いコンデンサについて述べてみたいと思う。

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 コンデンサはギターやベースのトーンコントロールに高域のフィルタとして使われている。何でコンデンサを噛ませると高域がカットされるのかはからきし電気系に弱いおれには良く分からないけど、ツマミを右に回しきった時が全くコンデンサ側に電気が流れてなくてキンキンした音、絞り込んだ時がコンデンサ側に電気流した音、ってな具合になってたように思う。正直分かりまっしぇん。

 ・・・・・・で、このちっこいパーツ一つで劇的に音が良くなるのだという。

 そんなんだから50年代のデッドストックなんて、目の玉の飛び出すような値段で売られている。交換したらギターが見違えるようになったと熱く語るブログやホームページはワンサカ見付かる。曰く「高域のヌケが良くなった」「音が太くなった」「ギター本来の音が出るようになった」「音の艶が違う」・・・・・・音源をサンプルにつけてるケースも良く見かけるけど、ぶっちゃけおれには良く分からない。いっそ使うピック替えたり、アンプのセッティング変えた方がよっぽど変わるような気がする。

 とは申せ、現在のおれはトーンをかなり絞り込んで弾くことが殆どなので、そのキモのパーツであるコンデンサ交換に興味がなかったと言えばウソになる。やはりちょっとでも良い音で鳴ってくれたら嬉しいなったら楽しいな、それが少しでもヘタな技術をカバーしてくれればそれに越したことはないよな・・・・・・と思うのは人の情ってモンだろう。

 しかしながら一方で、たかがコンデンサ一つでそこまで音が変わるんかい!?と疑る狷介なおれがいる。大体、50年代のデッドストック、っちゅう辺りからして妙に怪しい。何故なら、コンデンサは電気部品の中では抵抗なんかと違って寿命のあるものだからだ。古くなってきて壊れかけて、ただもう高域をカットする性能が失せて来てるだけぢゃねぇのか!?と思ってしまうのだ。

 なるほどたしかにエレキギターの電気信号はムチャクチャに繊細で、ちょっとした細工でいくらでも高域のヌケは変わってくる。リクツは分からないけど、例えばストラトでピックガードをアノダイズドというアルミ板に変えると、かなり籠った感じになる。これをカッコ良く言うと「中低域が強調された太い音」になるのだが・・・・・・(笑)。それはともかくザグリの中一面に導電塗料をタップリ塗ったり、銅板をビッシリ敷き詰めても同じような結果になる。

 そうなるとやっぱコンデンサ一つで或いはホントに劇的に音は変わるのかも、と思え、永年悶々としてたのだった・・・・・・とまで言うと大層か(笑)。

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 この疑問についても、いつだったか懇意にしてる楽器屋さんで世間話のついでにぶつけてみた。

 そしたら大将は奥からいかにも自作っぽい小さな箱を取り出してきたのだった。スイッチセレクターとツマミが三つ付いており、インプットとアウトプットのジャックがある。

 ------これね、コンデンサで音なんて変わらないことを証明するために作ったんですよ。3種類のコンデンサを切り替えられます。
 ------へ!?まったく変わりませんか!?
 ------はい。こうしてオレンジドロップやら普通の安物並べて、瞬時に切り替えてみても何も差はありません。ストラトのリアはトー
     ンがバイパスなんで、これを通すとコンデンサの違いがハッキリ分かるハズなんですが・・・・・・。
 ------オレンジもバンブルもビタQも全然違いは分からない、と?
 ------見事に一緒です。
 ------でも、お店にアフターパーツでオレンジドロップとか置いてるぢゃないですか。
 ------それを指名買いで求められるお客さんがいますから〜・・・・・・ま、その人を満足させるのも商売のうちですしね。
 ------アハハハ。大枚はたかなくて良かった〜。
 ------面白いんですよ。信奉者の人ほどこの箱使って試そうとしないんですよ。幻想が壊れるのが嫌なんでしょうね。それと、こ
     んな外付けの箱でホントのコンデンサの性能は出ない!って怒り出す人もいますし。
 ------完全に宗教入っちゃってますねぇ〜!
 ------そうなんです。でも、そういう人がお金落としてくださるから我々の商売も成り立ってるワケで・・・・・・。

 大将は実に穏やかかつしたたかな大人だったのである。

 彼の説によると、ギターの出来/不出来はネックの良し悪し、ボディの木のアタリハズレとパーツの組み込みで大体決まるものであって、ブリッヂやナット、ピックアップ替えたって音質はそりゃ変わるかも知れないけど、それですごく音が良くなるとかはまやかしだと言う。それに何より出音は弾き手の技量が大半を占めてるもので、ギターの音の良し悪しなんて二の次三の次と言っていい、否、良し悪しなんてそもそもなくて好きか嫌いかがあるだけだ、とも。
 「ただ、これ言っちゃうと商売そのものが成り立たなくなっちゃうんで、仲良くなった人にしか言わないようにしてるんですよ〜」とちょっと悪戯っ子のような表情で彼は付け加えるのも忘れなかった。そらそうだわな(笑)。

 おれもその説には大賛成だ。

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 畢竟、エレキギターなんてとてもヤクザな楽器なのである。基本の部分で、磁界の乱れによっておこる微弱な電流を拾って、ものすごい低い出力をものすごい高いインピーダンスで吐き出す、ノイズまみれで原始的な楽器なのである。
 だから音色がどうのこうのなんてゴタク並べたって仕方ない、と今は考えている。まずはキチンと基本の機能だけ備わっておればどぉだっていいのだ。それが何かと言えば、これまで繰り返し述べてきたように、ピッチがシッカリしてサスティーンがある程度伸び、チューニングが狂いにくく、弦高が高過ぎず、提げた時のバランスが良いこと・・・・・・それだけである。あとはもう丸かろうが尖ってようがどんな形だって構わないし、どんなパーツだって構わない。シングルだろうがハムバッキングだろうがピエゾだろうが、アルニコだろうがフェライト、はたまたセラミックだろうがそれなりの音でちゃんと鳴ってくれるのだ。
 たしかルー・リードが同じようなコト言ってた記憶があるが、極論しちゃうとギターで大切なのはネックが自分好みになってるか?重量やバランスが自分にとって適切かどうかだけで後はどぉでもいい。そのどぉでもいい部分にグチュグチュ拘ったってさしたる結果は得られないのである。

 おれの場合だと、指板はフラットで弦高がベタベタに低め、フレットは太目で標準かやや高め、ほいでもって握った感じが普通のCグリップっちゅうんですか、断面が薄いかまぼこ型になってる・・・・・・つまりは現代においては最もありきたりな仕様になってるのが一番弾きやすい。スケールは24.75インチでも25.5インチでもPRS系にあるような25インチでもあまり拘らない。24インチはちょっと短すぎていささか違和感あるけど、それでも5〜10分弾けば何となく馴染む。

 そんなこんなで最近、ギターに関しておれはますます無頓着になって来た。

 コンデンサーや配線材、ハンダの類にまで拘る人に、止めろっちゅう気はサラサラない。なるほどその飽くなき拘りと執念に神宿ることだってあるだろう。あるだろうけど、一方で大半はプラシーボなんだっちゅう冷徹で醒めた視線がないと、楽器屋の店員の口上に乗せられて要らぬ金ばかり遣ってしまったり、ただの卑小でスノッブなノーガキだらけの小金持ちの鼻持ちならない成金趣味に陥ることになる。それはそれで揺るぎない事実だ。


これが通称「バンブルビー」。蜂のお尻みたいだから。

2013.03.24

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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