「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
合わない・伸びない・響かない・・・・・・我がムスタング格闘記


ムスタングっちゃぁやっぱこの人、Char・・・・・・っちゅうか他にほとんどいなんだな、これが。

 先日、ついつい出来心でムスタングを買ってしまった。フェンダージャパン製で65年型ドンズバの状態のいい中古がかなりの破格値で出てるのをネットで発見して、矢も楯もたまらなくなってポチッてしまったのだ。色は最も一般的なオフホワイトに赤い鼈甲柄のピックガードのヤツだ。

 届いた梱包を開封して少なからずおれは驚いた。ヘッドの先端あたりにちょっとクリアの欠けがある以外は全くの新品と言って好い代物だったのである。フレットの減りどころか、ピックガードの表面の薄いビニールシートもそのまま残ってるし、第一、そこにピックスクラッチの跡さえない。弾かれた痕跡がほとんどないのである。安っぽいソフトケースのポケットには、アームやレンチと共に最初に買った店で作成された保証書が残っている。見ると、およそ1年前の正月明けの日付が記入されてあった。

 想像するに、最初のオーナーはワリと初心者で、「けいおん!」とかそんなんにアテられて、集まったお年玉を元手に勢いで買ってはみたものの、見た目の可愛さとは裏腹の恐るべき扱いにくさに業を煮やしたか嫌気がさしたか、ちょっと爪弾いた程度で早々に売り飛ばしてしまったのではあるまいか。

 ちょっとここでヲタな説明をしておくと、おれの買った65年ドンズバっちゅうのは、型番をMG65という、ボディにポプラ材を使ったモノだ。ちなみにこいつの塗装のトップコートをラッカーフィニッシュにしたのがMG65VSPという型番で、ムスタングの分際で10何万もの値段がする。そして実のところ、USフェンダーのカタログに載ってるクラシックムスタングっちゅうのはまったくこれだったりする(笑)。そんなにタマ数の出るモデルでもないから(ムスタングの人気が異常に高いのは日本だけ)本家がジャパンメイドを輸入してるワケやね。フェンダー傘下のグレッチの上級ラインが実は寺田楽器で作られてるのと同じようなケースだろう。
 ほいでもって従来からあったのがMG69っちゅうて、69年型のちょっと不完全なコピー。ボディの裏にコンター加工入ってたり、ブリッヂの駒がショボかったり、木の材質がバスウッドだったり、アームの形状、指板のローズの張り合わせや糸巻、電装系が違ったり・・・・・・と細かいこと言い出すとキリがないんだけど、まぁそんなのはどうでもいい。だいたいバスウッドの方が材としてはポプラより数段良いって言われるくらいなんだし。それでもおれがこのMG69がどうにも気に食わなかったのは、白が紫外線で焼けて黄ばんだ感じを無理やり表現しようとした嘘くさい黄色がとても安っぽくも貧しいレリックに思えたかである。それでこれまでイマイチ本気になれなかったのだ。ほんなん、黄ばみと黄色は違うやろ!?と。

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 早速チューニングを合わせてみる。イッパツで合ってくれないのは百も承知なので別にイラつきはしないけど、それでもこのどこまで糸巻巻いてもトレモロユニットが張力に負けて音程が思ったより上がらないような、クニャクニャした感覚は独特だ。
 驚いたことにオクターヴ調整はキッチリされてあった。通常、中古屋は現状渡しのところが多いので、最初の店が調子出したのかも知れないが、トレモロの付いてないおれの他のギターより余程キチンと合わせてある(笑)。

 余ってたストラップを付けて提げてみる。うん!いい感じやんか!鏡に映すとストラトより何だかカッコいいぞ!ムスタングのオーソリティーであるチャーが「ジャストフィットなジーンズみたい」というのが何となく分かる。図体からするとアンバランスなほどに大きなヘッドのせいで実は全長だけはストラトよりも僅かに長かったりするんだけど、スリムでショートスケールのネックと、幅が狭く、厚みも8割くらいしかないボディのお蔭で、軽くて取り回しがラクだ。

 さらにはネックがボディから突き出してるのがおれ好みだ(人によってはローポジションが遠くなる感じがイヤだなんて言われるのだが)。ストラトって恐ろしく完成度の高いギターと思ってるのだけど、けっこう身体に対して右寄りにブリッヂがあるために、どうも右手の場所がおれ的には決まりにくいのが昔から難点だった。それに比べるとムスタングはかなりフライングVやSGみたく、左に寄ってるのがいい。
 しかし、蒲鉾板のようにフラットな指板に慣れ親しんできた身からすると、久しぶりに接したオールドフェンダー系のRの強いそれはかなりの違和感がある。元々持ってるビルロレンスのストラトはモダンな仕様で指板Rはギブソン的なので、この感覚は今は帰省先に置きっぱなしになってる初期タルボ以来かも知れない。どうにも1〜3弦が見えづらい。弦高もチョーキング時の音詰まりを避けるための定番セッティングでかなり高めになっている。まぁ、これは慣れの問題もあるだろうけど。

 アンプに繋いでひとしきり弾いて、そして改めて思った・・・・・・やはりムチャクチャなギターだわ、ムスタングは。

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 最大の問題は「小指一本でアーミングできる」とまで称される余りに動作が軽くてセンシティヴな独特のトレモロユニットと、それに伴うチューニングの狂いやすさである。たしかにダウンした分アップさせれば大体は回復するとはいえ、やはりどうも微妙に狂う。ナットやブリッヂに油差してもやっぱし狂う。
 何時間も弾き倒して分かったのは、特に3弦と4弦が狂うとどうしようもないってコトだ。1弦2弦はチョーキング一発でもかなりハデに狂う代わりに、アーム引っ張ればそこそこ正しい音程まで戻ってくれるし、狂いも♭に下振れしてるから何となく収まってしまうのだけど、3弦4弦は引っ張ると逆に#して固まったりするのだ。シャープはいけない。音感のないおれが聴いたってどぉにも調子っぱずれだ。その対策なのかどうか、弦は通常ポストから下に向かって巻き上げて行くものなのに、届いた状態では3〜4弦だけ上に向かって巻かれてあった。効果のほどは分からない。
 さらにはブリッヂとテールピースの弦の張力となんともギリギリの力加減でバランスしたような頼りなさもむつかしい。ストラトのシンクロナイズドトレモロの節度感からするともぉグニャグニャである。ちょっとブリッジやテールピースに手を当てたりするとそれだけでチューニングがズレる。ミュート一つするにも気を遣わざるを得ない。

 クニャクニャとかグニャグニャというのがムスタングを形容する上で一番近い言葉かもしれない。掴みどころがなくて、バネっちゅうよりはゴムの感じだな。チョーキングしてもトレモロが僅かに倒れ込むせいか、弦を持ち上げた分だけ音程が上がる感じが少なく、テンションの低さもあって何だかゴム紐を引っ張ったような感じがどこか付きまとう。

 サスティンの少なさもいやらしいほど伸びるギブソン系に馴染んでると、かなり違和感がある。言葉を変えれば歯切れがよいってコトになるんだろうが、ピックアップの馬力の無さもあって、ペンペンペケペケした音はフェイズアウトで弾くとある意味リッケンバッカーに近いモノを感じる・・・・・・とは申せあそこまでツンツン・キラキラなクリスプ感もなく、いささかくぐもってダークな感じ、っちゅうかまぁあまり個性がない(笑)んで、ちょっとホメ過ぎかも知れないな。
 ともあれジャンジャカではなくジャッジャカな、特にミュートしなくてもスタッカートしたような音。正直、このサスティンの少なさはダンエレクトロよりもスゴい。この点でムスタングはもっとボーカリストに支持されて良いように思う。歌モノでこれ抱えてコード弾きに専念すると似合うに違いない。

 そしてとにかく音色が細くて頼りない。殊に低音の薄さは、あらゆるギターの中でも一・二を争うだろう。アンプ側で補正しようにもどうにもならん。元々の音に加え、通常はいろいろ混じって豊かに響く重要な要素である倍音も少ないのか、何ともか細く響く。これは薄いボディとトレモロユニット、元々はコスト削減のために巻数を減らしたために出力の低いピックアップ等、様々な要因が絡んでるらしいのだけど、ブースター目一杯かけてもおれのクラスA回路のVOXではやや強めのオーバードライヴ程度にしか歪まない。深い歪みなんてわしゃ知りまへん、みたいなガシャッとした歪み方だ。そのくせ絶えずどこかにノイズが混じっている。トレモロユニットのスプリングかも知れないし、独特のブリッヂ構造がもたらすのかも知れないが、「細いんだけど決してクリーンではない音」と言うしかない。
 ともあれこれでトーン絞り込むと、唯一無二の情けない音がしてくれる。特に2〜4弦あたりのペーッってな響きはチャルメラのように個性的だ。

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 ぢゃ、ムスタングはダメなギターか!?っちゅうと断じてそんなことはない。たしかに扱いにくいムチャクチャなギターではあるけれど、独特の魅力に溢れていることは断言できる。とにかく見た目は素晴らしいんだし。提げた感じとかはいいんだし。指板Rは好き好きとはいえネックの感じもいいんだし、音だって音だって・・・・・・嗚呼(笑)。

 そんな使えないと定評のある音だって、畢竟、弾き手の側の気合と使い方一つなんだろう。サスティンは少ないわ、チャルメラみたいに情けないわとは申せ、最近のお題のバッハをこれで弾くと、意外なことに一音一音のツブ立ちが良く聞こえるのも一方で事実なんだし。
 野村義男の意見の受け売りみたいになるけど、チューニングが合わないのなら狂わないようにソーッと丁寧に弾き、アームも慎重に扱えばいいのだ。伸びないのなら、シッカリと左手でヴィブラートかけてやればいいのだ(・・・・・・どしたって減衰は早いんだけど、笑)。それでも足りなきゃファズ噛ましたり、フィードバックやハウリング起こせばいいのだ(笑)。響かないのなら、もっと弦のゲージやピッキング、アンプのセッティングを工夫してカバーすりゃいいのだ。似合う曲を作ればいいのだ。だからピックアップ交換なんて実に勿体ない。何がハムバッキングだレースセンサーだ。以ての外だ。このパワーのないショボい音あってこそのムスタングでしょ!?まずは黙って2〜3年、ストック状態で弾き倒せ、っちゅうねん。

 「万婦みな小町なり」と言うではないか。
 「蓼食う虫も好き好き」と言うではないか。

 とことん可愛がりまくったヤツだけがようやっとまともに使いこなせるギター・・・・・・ムスタングにはそんな不思議な魔力がある。おれがその域に達せるのかどうかは知らないけれど、とにかく次に弦交換する際には各部のチェックも兼ねてバラしてみて、徹底的にいろいろ調整してみようと思う。

  
・・・・・・なのにマンガの世界ではやたらと愛されてる。

2013.03.02

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