「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
アコギ再び


型番に変遷はあれど、基本構成は何も変わってません(これはネットで拾ったPT406K)。

 初めて買ったアコースティックギターは厳密にいうと、純粋なアコギではなかった。タカミネのエレアコだったのである。エレアコ・・・・・・つまりエレクトリックアコースティックっちゅうヤツで、見た目はフツーのアコギなんだけど、中にピックアップが仕込んであってアンプで増幅することができるのである。

 タカミネはこのエレアコの世界での元祖的な存在である。今では一般的になった、ブリッジの下に仕込まれた圧電素子かなんかを使ったピックアップに9Vバッテリーで駆動するプリアンプを組み合わせた構成をずいぶん昔からやっている。最初の人気は海外から火が点いたんぢゃなかったっけかな?この世界ではハイテク満載なオベーションも老舗だけれど、音がも一つ冷たいっちゅうか、所謂ハコのギターの音色からすると特に生音で違和感のある音なのに対し、タカミネは昔から自然さがウリだった。

 詳細は過去にも触れてるんで割愛するが、南海高野線の北野田駅近くの喫茶店の2階にあった「K.G.Country」って怪しい店で、大学に入って集まった祝儀やなんやでおれはこのタカミネを買った。おれにとっては2本目のギターだった。PTN006って面白くもなんともない型番のである。マーチンの俗に「ニューヨーカー」と呼ばれるちょっと小ぶりなボディサイズを元にしたシェイプで、ヘッドがクラシックギターみたいになってるのと、材にハワイアンコアって赤茶で派手な木目のを使ってるのが最大の特徴だった。もう店には2年くらい吊られてあった。大学受かったら必ず買うから、って取っててもらったのだ。

 オッサン曰く、「これはこのモデル初めて出した時の最初の10なん本のうちの一本なんや!ほやからムチャクチャ作りに気合が入ってんねん!」とのことだった。その割には指板のローズに割と目立つクラック状の節理があったりして、どこまでホントか怪しいもんだったけど、実際その小さなギターは他のしょうむないドレッドノートよりも遥かにハリのある音で鳴ってたのは事実である。だから欲しくなったのだ。値段は専用ハードケース込みで定価7万円のトコを、確か5万チョットで買ったように思う。散々みんな弾きまくって立派な新古品状態なんだからもちょっとマケてくれと頑張ったが、「これはこれ以上は負けれん!」の一点張りで、ホレた弱みで言い値で買ったのである。

 実際生音はとても良かった。低音が締まって太いのはコア材特有のものなのかも知れない。小さくて抱えやすいボディに加え、特に何のメンテナンスをせずともネックはシッカリしてるんで、ズーッと近くでいつでも手に取れるようになってた。思えばバンドの曲作りでも、基本のリフやら変則アルペジオのシーケンスパターンなんか、これ弾いてて思いついたものがけっこう多い。
 一方、アンプ通した音はあまりにも硬く、フィンガリング時の擦過音ばかりがキュキュキュキュ目立って、正直使いづらいものだった記憶がある・・・・・・って、これは当時のおれが無知だっただけだ。エレアコにはギターアンプよりベースアンプやキーボードアンプの方が向いてるってことを知らなかったのである。ま、今みたいにエレアコ専用アンプやエフェクターなんてモノの出る遥か以前のことだ。

 ともあれ純粋にアコギとしても申し分なく、長年に亘って愛用してきたのであるが、海やら山にまで持ってって直射日光の下とかでガンガンに弾いたり等の酷使が祟ってか、ある日、ブリッヂのトコからローズとコアの両方ともパックリ割れてしまったのだった。楽器屋に持ってったら買い直した方がよほど安いくらいの、目の飛び出すような値段の見積もりを告げられた。当時はまだ経済的余裕なんてこれっぽっちもなかったので、泣く泣くおれはそれを捨てたのだった。

 余談だがこのモデル、今でもしっかりカタログに載っており、タカミネを代表するモデルの一つと言える。ちなみに今の型番はPTU431Kと言って、値段は11万ナンボもする。すっかり高級モデルに仲間入りしてしまった。

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 商売気のなさと、必ず数本は心の琴線に触れるのがある品揃えが気に入って、こっちに来てからちょっと懇意にさせてもらってる中古楽器屋に先日立ち寄ってみると・・・・・・うわ〜っ!あるやおまへんか!タカミネのコイツが!

 壁にぶら下げられたそれ、歳月は流れ幾星霜、型番はPT408Kとなってたが、基本的な作りは昔のままだ。それにしても相変わらず無味乾燥な形式名だなぁ〜(笑)。
 小さなボディにハワイアンコアのボディは材が払底してるのか往年ほどのバリ杢ではないけれどやはり派手で、ピックガードレス、スノーフレークのポジションマーク、特徴的なスロテッドヘッド・・・・・・変わったと言えばロゴマークにプリアンプ、それとネック付根にストラップピンの新設、あとはナットが接着剤で固定されてたり、糸巻の形状やポストの弦を通す穴の数といった些細なトコくらいなもんだろう。

 それにしても状態がいい。殆ど新品同様でロクに弾かれないままに放出されたんぢゃなかろうか。打痕もなければピックのスクラッチ傷、塗装剥げもなく、フレットの減りもない。ネック反りも全く問題なし。ボリュームのスライダーのボッチが取れちゃってるくらいしか問題点が見当たらない。昔買ったモノよりこっちの方がよっぽど新品に見えるぞ(笑)。

 手に取らせてもらって弾いてみる。う〜ん、やっぱしいいギターだ。マホガニーバックともちょっと異なる独特の太い音は変わらない。アンプ通してみる。プリアンプはずいぶん進化したみたいで、イコライザーは3バンドになってるだけでなく電子チューナーまで付いてる。昔はサウンドホールから手を突っ込んで電池交換しなくてはならなかったのが、今は蓋を開けてポンと放り込むだけで良くなってるのも使いやすそうだ。
 そいでもって肝心の音、おれはそれに少なからず驚いた。だって、イコライザーフラットだと生音をほぼ忠実に増幅するんだもん。この何十年かで最も進歩したのはどうやらプリアンプだったようだ。それでいてトレブルを持ち上げると昔ながらのキンキンジャリジャリした音も出る。ベース持ち上げると・・・・・・ボーボーハウリング起こして慌てておれはスライダーを元に戻した(笑)。
 不思議なもので、昔、アコギで練習したフレーズが、すっかり忘れてたにもかかわらず自然と出て来る。何年か前にアコギはヘッドウェイのパーラーギターを買ったのだけど、その時にはついぞ出てこなかったフレーズを、指が想い出したのだった。何だかボケ老人みたいだな。

 2日後、嬉しそうにケース抱えて店を出るおれがいた。値段はミントに近い状態からすれば恐ろしく安かった。

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 今度のは出来れば一生モンで弾き続けたいと思う。弦についてはあまりネックに負担掛けるのがイヤなのと、押弦をラクにするために買ってすぐに2サイズ落とした。010始まりなんて、まるでもうエレキ弦だ。もっと顕著に音に影響出るかと思ってたら大して変わらず、いささか拍子抜けした。アンプ通すとゲージの違いはさらに分からなくなる。
 今はたとえ夜でも律儀にアンプを通すようにしてる。やはり増幅してこそのエレアコでしょ。それとロクすっぽアンプ通したらんかった初代への、自分なりの贖罪みたいな気持ちもそこには少し、ある。

 実のところ、室内で弾くだけならエレアコなんて本来的には要らない。本来、ステージでアコースティックな音を大音量で鳴らすことを目的に生み出されたモノなのだから、ナンボ趣味のギターそのものが無用の用とはいえ、家で弾くには無用の長物っちゃそれまでだ。
 分かってる。ファンクショナルな観点からすれば、エレアコなんて今のおれには最早まったく必要ないモノなのだ。でも、どうしても買わずにはおれなかった。自分の中には捨ててしまったことへの後悔があって、どこかで引き摺っていたのである。

 思えばおれは最近先祖返りしてるのかも知れない。P−90を搭載したSGを買い、タカミネを買う。次にテレキャス買ったらまんま、かつての購入順序と同じだ。ホント、楽器巡りは一周しちゃったのだろう。それが何を意味するのかは良く分からないが。

 ともあれ、秋の夜寒に酒でも啜りながら、久しぶりにボトルネックでも持ち出すことにするか・・・・・・。

2012.11.05

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