「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ファイヤーバード欲しい病




ファイヤーバードファミリーもいつの間にか大きくなったもんだ・・・・・・一番下は近年の怪作”X”。殆どビザールの世界。

 ファイヤーバードはギブソンの数ある失敗作の中でも、特にどうにもならんものの一つだと思う。

 いや、最初に世に問うた時にはすんげぇリキ入ってたんですよ。既にロートルになってたとはいえデザインは戦前のクライスラーに在籍してたレイ・ディートリッヒに依頼し、オリジナルのピックアップを開発し、先進的なスルーネックボディに搭載したのだから、造りに関しては極めて保守的だったギブソンとしてはムッチャクチャに頑張ったのだ。それは間違いない。

 しかし、頑張って一生懸命作ったものが必ずしも良い製品、売れる製品にならないことはこれまであらゆる歴史が証明している通りであって、このファイヤーバードも見かけ倒しの使えない一品として火の鳥どころか閑古鳥で人気は低迷し、すぐに生産中止の憂き目を見ることになってしまったのだった。
 何がいかん、っちゅうてとにかくまずそのボディバランスがよろしくない。ディートリッヒさん、なるほどデザイナーとしては優れていたのかも知れない。エクスプローラーを丸っこくしたようなそのボディシェイプは流麗かつ優雅でカッコいい。しかし、肝心の「楽器としてギターはどうあるべきか!?」についてはサッパリ分かっていなかったようで、ムチャクチャにヘッド側が重いのである。SGもアタマでっかちでヘッド落ちの宿痾を抱えているのだけれど、ファイヤーバードは巨大なヘッドと重たいペグのせいもあって、さらに提げた時のバランスが悪い。

 オリジナルのミニハムバッカーもフェンダーを意識し過ぎたのか高域寄りのキンキンの音で、ボディの大きさからは想像がつかんくらいに線の細い音が出る。スィートスポットの極端に狭い使いにくい音、とでも呼ぶしかない。ボリュームポットもどんな風になってるのか、急に全開になるような音の立ち上がりでスムースさに欠ける。さらに何を考えたのか通常のギブソンの4つノブのコントロールと配列が違うのも理解に苦しむ。

 さらにはそのボディ構造。ウォルナットとの積層でスルーネックになっているのはどうでもいいとして、そのことを強調するためかスルーネック部分が一段高く盛り上がっているため、ボディ面からの弦高がひどくある。感覚的なもので実際の演奏性に影響がないとはいえ、何となく違和感が絶えず右手に付きまとう。オマケに重い。ネックも今はどうなったのか知らんけど、これまでおれが何度か弾かせてもらったのは50年代ギブソンを思わせる丸太みたいなシェイプだった。
 余談だが、このボディにもギブソンがいかにこのモデルに気合入れたかが伺える見えない工夫がある。エンドピンのあたりからジックリ見ると分かるのだけど、真ん中のスルーネックと左右の板材の接合部分はV字になっているのである。接着面積を稼ぐとともに全体の鳴りを良くするためにそんな涙ぐましい努力さえ傾注したのだ。

 フェンダーっちゅうよりは往年のテスコを裏返しにしたような巨大なヘッドは最大の難物である。大きさゆえにヘッド落ちの原因となってるのは言わずもがな、バンジョーペグと呼ばれる裏側にペグが並んだ糸巻は壊れても入手困難だし(そんなんで最近はスタインバーガーのギアレスチューナーに仕様が変更されたらしい)、何よりもヘッド折れのトラブルが異常なまでに多い。ファイヤーバードの中古品リストを見ればすぐにわかるが、それでなくても良く折れるギブソン系の中でも群を抜いている。これにはいろんな原因が指摘されている。左右非対称で倒れやすいボディ、マホガニーそのものの脆弱性、6連ペグの弦張力の左右バランスの悪さ、ヘッド角を浅くしたことでトルクロッドの穴やナットで不足気味な0フレット付近の材の量がさらに少なっていること・・・・・・おそらくどれもが正解なのだと思う。ほとんどこれはリコール対象としてもいいくらいの欠陥と言えるだろう。

 こんなのを使いこなすジョニー・ウィンターは凄いを通り越してちょっと変態なのかも知れない(笑)。

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 かように素性としてはあまり宜しくない・・・・・・どころか、いいトコがほとんど見当たらないと断言せざるを得ないファイヤーバードなんだけど、何だかんだでしぶとく生き残ってるのもまた事実で、1976年のアメリカ建国200年の記念モデルに選ばれたりもしている。昔、富田林の近鉄の線路沿いの楽器屋でこの200周年モデルが売られてるのを見たのが懐かしい。思えば近所で高級な楽器を置いてるトコってここしかなかったのだ。ピックガードの端っこに星条旗を模したトリコロールの鷲ワークがインレイされてたっけ。
 昔話はともかく、最近はカタログ落ちすることもなく、何と60年代半ばに売れないからってヤケ気味にフォルムを裏返しにしてリリースされた珍品のノンリバースモデルまでがレギュラーラインに加わるほどだから、それなりに安定して堅調に売れてるのだろう。
 ちなみに楽器としての扱いやすさはノンリバースの方に軍配が上がる。ヘッド落ちもなく、P−90の太さとコシのあるトーンは何にでも合わせやすい。唯一の問題は、何とも不細工なコトだけだろう(笑)。

 つまり、見た目のカッコよさ以外には何もないのがオリジナルファイヤーバードのファイヤーバードたる潔さなのだとおれは思う。過激なフォルムの割に弾いてみると意外なほどにプレイヤビリティが高く、音色的にもクセのないフライングVやエクスプローラーよりもこの点は遥かにピュアかも知れない。そんなファイヤーバードが最近つとに欲しくなってきたのである。「・・・・・・である」ってエラそばるほどのことでもねぇか(笑)。

 ・・・・・・あ!そぉいや、そのフォルム自体はもうすでに1本所有してんだった。エピフォンの「マンドバードW」っちゅうヤツだ。ちゃんとファイヤーバードの流儀に倣ってモデル名の後ろにローマ数字が付くのがニクい演出である。エレクトリックマンドリンで弦は複弦になってない。だから4本で「W」なのだ。判じ物みたいだな(笑)。ちなみに複弦モデルもあって、こっちは「[」になる。大きさはファイヤーバードを1/2にしたくらいの大きさしかない。バンジョーペグでもないし、デタッチャブルネックだし、ピックアップはプレシジョンベースのを半分だけ使った妙なものだし、ブリッヂ周りもハードテイルのストラトのを弦4本分にしたようなんがついて、あまつさえ弦はテレキャスターもビックリの裏通し・・・・・・と、本物とはフォルム以外は似ても似つかぬ安っぽい仕上がりである。立てかけた時のバランスの悪さだけがソックリの怪作だ。

 しかし、これはやはりどこまで行ってもマンドリンなのであって、決してギターではない。弦の数だけでなくチューニングも異なる。おれはギターでのファイヤーバードが欲しいのだ。

 使い物になる/ならんで行ったら絶対にならない。音もペグ以外の仕様変更は受けてないみたいだから、相変わらずキンキンしたマホガニーボディからは想像もできないトレブリーな音なのも分かってる。オマケにかなり重い。座っても立ってもどうにもバランスが悪いのも納得済だ。唯一マトモなファクターであるチューニングの安定性もヴァイブローラ付きだと怪しくなるだろう。スタンドだって500円の安物の鉄パイプ製のではムリで、何千円もする吊り下げ型のが専用に要るだろう。さらには付属のハードケースの巨大さに往生することも見えている。ちょっとした畳くらいの大きさがあるのだ。ムスタングも大概ひどい出来のギターだけど、スケールが若干短いとか、ピックアップの繋ぎ方によってはブッとい音出せるとか、可搬性が高いとか、実用性において見るべき点はまだある。

 ・・・・・・だから欲しい、としか言いようがない。不死鳥の名前とは裏腹に生まれて50年になるというのに、未だ一度もメインストリームに乗ったことのない、B級ギターの極北のコイツのオーナーになってみたいのだ。

 そもそも論で一体全体、コイツの居場所、立ち位置はどこなのか?

 へヴィメタやるにゃ丸っこすぎる。
 オシャレな音楽やるにゃ重苦しい。
 カントリーやるにゃモダンすぎる。
 ジャズやるにゃトレブリー過ぎる
 パンクやるにゃ値段高すぎる。
 スタジオミュージシャンにゃ幅が狭すぎる。
 ブルースやったらジョニーさんのパクリだ。

 かつては西海岸のサーフミュージックの連中に愛されたとも言うけれど、その同時代に生きてないおれにはどうもも一つピンと来ない。確かにいろんなミュージシャンがファイヤーバードを手にしてるのは写真で見たことがある。クラプトンしかり、ブライアン・ジョーンズしかり、フィル・マンザネラしかり、レーナード・スキナードの何たらゆうギタリストしかり、エアロスミスのジョー・ペリーしかり、最近ではオアシスのどっちか知らんがギャラガーしかり、クレイジー・ケンバンドの山田ルイ53世みたいな人やレミオロメンも「粉雪」がヒットして小銭が入ったか使ってたな、珍しいトコでは「裸のラリーズ」の水谷孝も弾いてたはずだ。しかし、トレードマークと言えるほどにメインで使ってるギタリストをおれはジョニー・ウィンター以外は寡聞にして知らない。

 買うならやはり白かな?しかし所有するギターの大半が白ばっかになってしまったから、ここは最もオーソドックスな茶色のサンバーストにしても好いかも知れない。ノンリバースは使いやすいことは分かってるけど、どうにもカッコが気に食わないから駄目だ。たまに限定色でエキセントリックな色遣いのが出るのも面白い。ストラップはやっぱ幅広だ。アンプのセッティングはどんな感じだろう?あえて弦のゲージを太くしてみたら面白いかも。あ!昔フレッシャーから出てたエフェクター内蔵ギターにもファイヤーバードシェイプのがあったっけ・・・・・・。

 ・・・・・・かくして空想だか妄想だかは果てしなく広がり、またもや始まった「欲しい病」で秋の夜長は更けて行くのである。あ〜も〜、いつになったら治癒することやら。ノピョピョピョピョ。


忘れちゃいけない迷走期ギブソンの代表作”R&D”もファイヤーバードファミリーと言って良いだろう。

2012.10.22

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