「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
小型チューブアンプなんて嗜みさ


おれの買ったVOX"AC4C1-BL"

 「・・・・・・ひ、歪まんがなっ!」

 チューブアンプ買って直結で繋いで弾いたときのおれの第一声だ。買う前からある程度分かってたコトとはいえ、予想以上にクランチでバリバリ乾いたロケンローなオーバードライブサウンドに苦笑・・・・・・もといぶっちゃけいささか失望した。そう、おれは深く、そしてシルキーに歪んだ音が好きなのだった。それをチューブだけで得るにはプリ管4〜5本、パワー管も最低2本、それらをフルアップする必要があるコトも分かってたのに。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あれほどアンプなんて爆音出りゃなんだっていいって力説してたのが買ってしまったのである。真空管アンプ、っちゅうヤツを。言行不一致もここに極まれりだ。声高に反原発を唱えながら、ぬくぬくとモダンで便利な都市生活を謳歌する連中と変わらんわ、おれ。
 言い訳はさせて欲しい。だってさぁ、持ってたアンプのチョーシ悪くなったんっすよ。それにおれももういい歳ですやん。やっぱ真空管って「大人の機材」っちゅう感じしますやん。現に「大人の科学」の付録にも真空管アンプキットってありましたやん。ほれ、ブティック系なんてアホみたいな回路をハンドワイヤードとかゆうて付加価値つけて、目ん玉飛び出すような値付けしてますやん。それに一生に一度くらいチューブアンプのオーナになったかてバチ当たらんっしょ?

 決め手となったのはVOXから新たに出た4Wのアンプが何ともマニア心をくすぐる構成になってたコトだ。ナイトトレインはいささか図体がデカく、かといってぬりかべみたいなAC4TVはプリ管1本であまりにシンプルすぎるよなぁ〜、と思ってたところにクラスAとはいえプリ管2本の2V2T構成でニューモデルがリリースされたのである。
 他にもいろいろ考えてたのはあった。しかし、音家イチ押しのブゲラは何だかすぐ壊れそうだし、フェンダーのチャンプはあまりに何も付いてなさすぎる。ブラックスターやVHTは同じクラスでもっと歪むことは知ってるが、どうやらエフェクターまがいの回路が中に仕込まれてるらしく、それでは似非チューブで潔さに欠けるだろ!?って気がしてた。それらを消去法で引いていくと、何となくギミックの少ないVOXが如何にも真空管らしくて良さげに思えて来たのだ。これでアッテネーターがあればパワー管も全開のブレイクアップにできてもっと良かったんだけど、それは贅沢ってモンだろう。

 オマケに安い。イチキュッパの19,800円である。30何年前、初めて買ったPIGGYっちゅう謎のトランジスタアンプでも1万2千ナンボした記憶がある。バンドやってた頃になけなしの金をはたいて買ったローランドのCUBE60はたしかサンキュッパだった。それでも出力からすれば随分安く感じたものだ。当然これもトランジスタ。当時は真空管アンプとしては国産で唯一グヤトーンから、成毛滋氏が開発に加わったと言われるFLIPっちゅうのが出てたけど、たしかプリアンプのみチューブのいっちゃん安いモデルでもすごく高かった記憶がある。マーシャルやフェンダー、ハイワットなんて貧乏人には夢のまた夢、メサブギーなんて実物にお目に掛かれることさえ滅多になかった時代である。それがちっこいとはいえアータもぉイチキュッパ!大変な時代だ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 最初に書いた通り、歪みが足りなくて結局シミュレータ通して弾いたりしてたんだけど、それはそれで面白くない。何のための真空管アンプか分からないではないか。そんなんでRATUをかましてみるが、どうやらブースターとしては効かないみたいだ。仕方なく今度はコンプレッサーのレベルを上げてみるが、どれも入力信号そのものをあまり持ち上げてはくれんみたいで、歪みの深さに大きな変化は起きない。
 結局めんどくさくなって直結に戻した。これはこれなんだから、その範囲でしばらく遊んでみようと思ったのだ。カッコ良く言やぁ、「素材の持ち味を引き出す」っちゅうやっちゃね(笑)。

 そうしてアンプとギターだけでいろいろやってると見えてきたことがある。

 先ず何よりトーンレンジが異常に広い。ギターのトーンってこんなに変化したっけ?っちゅうくらいに絞れば籠るし、開けばキンキンする。これはアンプ側のコントロールも同じで、大袈裟なくらいに変化量が大きい。音量も同じで大きく変わる。
 さらにはピッキングへの追従性が良いような気がする。好意的に言えば生々しくニュアンスが出しやすいのだけど、アラが目立ちやすいとも言える。巷間伝えられるごとく、上手な人ならピッキングのタッチで歪み量だってホンマに自在にコントロールできるかも知れない。そういやぁ昔は音の粒立ちを揃えるためにコンプレッサーは不可欠だったんだが、近頃はあまり流行ってないみたいなのも、アンプシミュレータが増えてあまり気にする必要がなくなったからではなかろうか。

 比べればアンプシミュレータは多種多様な音が出る割にすごく実は幅が狭い。例えばアンプモデルにツインリヴァーブ、って選んだら、たしかにあの「煌びやかなクリーントーン」は出る。しかし、それはツインリヴァーブのティピカルな部分だけを限定的に切り取っただけの音である。どうにもそのセッティングからの可変幅がどうにも少ないっちゅうか、何をどう弾こうがその音に固定されるような感じがある。何だか音色のテンプレートに無理やりはめ込まれるような感じだ。
 だから、そこにエフェクターでディストーション掛けたって、ツインリヴァーブを歪ませた音には簡単になってくれない。もっと言うとツインリヴァーブにディストーション繋いだ音にさえなってくれない。そらまぁ工夫すれば出せるんだろうが、そんなことするならツインリヴァーブ買ってフルアップにした方が早いんちゃうか!?と思えるくらい面倒だ。逆にメサブギーのレクチファイヤーなんか選ぼうもんなら、どれだけギターのボリューム絞ったって歪みまくる。どうにも手、特にピック持つ方の手に対してのリニア感がない。

 あと、サスティーン。これは文句なしに伸びる気がする。粘りのある音とでも言おうか、大して歪んでもないのに丁寧にヴィブラートかけたらシッカリ音が伸びる気がする。良く分かんないけど仕組みが原始的な分、トランジスタやデジタルが切り捨てるような些細な部分まで愚直に拾ってるのだろう。その代りノイズはいささかデカい。

 これらはすべて多分に弾き手だけが分かる感覚的なもので、数値的に表せば大差ないのかも知れないが、とにかく丁寧に扱わないとちゃんと鳴ってくれないような難しさが全体的に感じられる。一言で言って不便なのである。昔のギタリストがしょっちゅうボリュームやトーンを弄りまくってたのも分かったような気がした。だってホンのちょっとつまみを回すだけで大きく音色が変わるのだから。

 明らかに誰でも分かる違い、それは音圧だろう。もう圧倒的にトランジスタとは違う。以前、楽器屋で2Wのリルナイトトレインをフルアップにさせてもらってその轟音に驚いた記憶があるのだけど、このAC4C1−BLっちゅうのも、「マジでこれ4Wっすかぁ!?」とマヌケな問いを発してみたくなるほどに音がデカい。ラウドに響く。フルテンならちょっとしたライブハウスだと、マイクで拾ってPA通さなくてもイケるんぢゃなかろうか?っちゅうくらいにデカい音がする。外部スピーカーアウトに12インチ4発エンクロージャーでも繋いだら恐ろしいことになりそうだ。

 要はその素朴とも言えるローテクぶりがナカナカ味わい深くも面白いのである。未だにトーンのセッティングには悩んでたりもする。ベースとトレブル、たった2つのツマミなのに。そのうち、ロシアや中国のチューブがどうたらとか気になりだしたらどうしよう?

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 では、小型のこういった真空管アンプをみなさん・・・・・・とりわけ若い方々に勧めるか?と言えば、特には勧めない。いくら安くなったとはいえイチキュッパである。例えば同じVOXならアンシミュ内蔵のVT40+にフットスイッチ付けてもお釣りが来る。それに使い回しも利いていいと思う。それこそ成毛さん伝説で、真空管アンプで練習した方が上手になる、ってーのがあったが、それは昔のジージーしたトランジスタアンプの時代の話であり、今のシミュレーターは限りなく本物に肉薄しつつあるのが実態だ。
 畢竟、ギターアンプにおいてもオーディオ同様、真空管アンプの面白さは好事家としての面白さ、旦那芸の面白さに極めて近いのである。つまりジジ臭い。若さがない。嗜み、っちゅうのに近い。

 ・・・・・・などと批判しつつ、残念ながらおれも歳を取った。しょうむない知識や経験の垢も身についてしまった。真空管アンプって面白いやんか、と思った感覚はどこか、P−90の付いたSG買って、ソープバーっていいよな、と思ったあの感覚に近い。客観的にP−90はどう考えてもPAFよりは劣ってるのである。SGにしたって独特の軽くてスカスカした感じはレスポールに負けてる。でも、とてもいい。この良さはある程度いろんなギターを渡り歩いた人になら理解してもらえる良さなのだけど、そこには「大人の上がり」的な道具に対する特有のペダントリーがどうしたって混じってしまうでしょ?
 だから勧めたくないのだ。若いうちは勢いに任せて、なんか機能てんこ盛りで安いのをガーンと鳴らして、ほいでもって一生懸命金貯めてマーシャル3段積みでも買った方が健全でっせ。

 ともあれ家でチマチマ弾いてても仕方ないので、雪降る前に山に持ってって、それこそSG直結で本当のフルアップでかき鳴らしてやろうと思ってるのだが、一つおっかないことを想い出した。真空管の回路は昇圧トランスなんか使ってて内部電圧が高いので、キチンとアース取ってやらないと感電するリスクがあるのだ。電源はクルマのシガーソケットから増設した安物の100V電源だ。どう考えてもマトモにアースしてるとは思えない。どだいクルマって絶縁体であるゴムで地面に接してるものだ。どう考えてもアース線を取らんまま山の中でフルアップ、は手の込んだ自殺行為になってしまう可能性がある。エエ歳こいた不細工なおっさんが死に方だけ山田かまちになっても恥ずかしいことこの上ない。

 今度ホームセンターでアース線用に銅線買って来よ〜、っと。


【附記】
 結局ブースターは買った。繋ぐと見違えるような音になった。もちろんモダンハイゲインではなく、70年代的なのだが、実に太くもエロい音が出る。どうやらチューブの数の少ない小型真空管アンプで原音活かしつつシッカリ歪ませるには、ブースターやプリアンプの類は不可欠のような気がする。

2012.08.26

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved