「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
DANO/ダブルネック/Father'n Mother


好事魔多し!

 ダノ、ことダンエレクトロに、それも悔しさ交じりでそのダブルネックに惹かれてることはこれまで何度も触れてきた。ある意味、おれのB級指向の極北にイコンとして位置するのがダノのダブルネック、それもできたらばロングホーン・・・・・・所謂「ギターリン」のダブルネックなのである。

 普通のダブルネックは5〜6年前まではたまに見かけた。12弦と6弦、バリトンとレギュラー6弦、4弦ベースと6弦ギター、と実にヴァリエーションは豊富なものの、フォルムが最も一般的なダブルカッタウェイの1959モデルばかりでいささか物足りなく思ってるうちに市場からは消えて行った。輸入代理店だった共和商会も倒産してしまった(今はキクタニが扱うようになったみたいだ)。
 実はその後、1959モデルでもいいや、って気になってかなり執念深くデジマートやj−Guitarで探してたことは探してた。しかし、元々のタマ数が少ない上に、廃版になると急にみんな放出するのが惜しくなるのか、ヤフオクでの高騰を狙うのか、滅多に市場に出回らない。たまに出ても人の足許を見たような値付けで、おいそれと手が出せなかったりする。

 同じようなB級ダブルネックには、ビザーレを意図的に狙ったItaliaの全面パーロイド巻きや、ZO−3やピグノーズのスピーカー内蔵タイプのものがあげられるだろう。それらも悪くはなかったんだけど、やっぱおれとしては基本のダノが欲しく、せいぜい試奏する程度だった。しかし、これらもある時にはフツーに店頭に並んでたのが、急に無くなってしまった。ダブルネックなんてそんなに数が売れるワケでもないので、1ロット作ったらそれっきりになってしまうのだろう。

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 邂逅とか奇遇、ってこぉゆうことを指す。

 先日、所用で寒い中、住宅街をトボトボ歩いていたら、こんなところに!?と訝しんでしまう場所に小さな楽器屋があった。あまり期待できなさそうな佇まいだったものの、ちょっと気分がクサクサしてたのもあって冷やかしで入ったら・・・・・・鎮座してたのである。ダノのダブルネック、それもパールホワイトのが!デーンと!一瞬、我が目を疑ったね。すぐにデジマートやj−Guitarで調べてみるが載ってない。そこは今時珍しくいずれのネットワークにも参加してないの楽器屋だったのである。
 見てみるとほとんど弾かれた形跡がない。たとえどんなに丁寧に扱ったとしても、ギターはやはりフレットやブリッヂ回りに、人に弾かれた痕跡が出てしまうものなのだけど、それは新古品といっても良い状態だった。

 ぶっちゃけ即決ではなかった。伝家の宝刀のクレジットカードも考えたんだけど、トーチャンあまり無駄遣いしてちゃ家族が干上がってしまう。それでなくても最近は子供も大きくなって何かと金が掛かるのだ。仕方なくその日はそのまま帰った・・・・・・いや、正しく言うと、うなだれてスゴスゴと虚しく引き上げざるを得なかったのだった。
 しばらく漫画に描いたように脳内で天使と悪魔の問答があり、葛藤と逡巡があって、しかし結局おれは買ってしまった。悪魔の勝ちやね(笑)。底値かどうかは分からないが、値段がかなり手頃である。何せタマ数が少ないから、この先上がることはあっても下がることはまずないに違いない。すぐに価格交渉。現金やったらナンボ引くねん!?ってな感じでエグく迫って安いのをさらに3千円ほど引かせて交渉成立。
 そもそもがベニヤ板張り合わせで安っぽさが身上、音色がどうこう言うようなギターではないから、試奏もそこそこにおれは馬鹿デカいソフトケースに収められたそれを抱えて店を出ていたのだった。

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 早速ストラップ付けて提げてみる。何せガランドウのベニヤだけあって見た目よりははるかに軽い。芯までキッチリ詰まったグレコのレスポールとあまり変わらない印象だ。その分ヘッド落ちがスゴい。そらそうやわな、2本のネックに合計18個もペグが並んでるのだから。右手で抱え込むようにしてないと、どんどん左側が下がって行く。また、軽いとはいえ大きさはそれなりにあるから、6弦側を臍ちょっと下にした通常のギターの高さにすると、12弦側はまるでサンボマスターか田端義男状態になる。

 トグルスイッチも、ダノを特徴付けるボリュームとトーンの同軸ポットも、何だかグラついてて怪しい。思いっきりひねったりするとポロッともげそうな気がするぞ、こりゃ。
 さらにすごいのは6弦側のブリッヂ。チャチなのは知ってたけど、こうしてジックリ眺めてみると、もはや「秀逸」と言いたいくらいに簡素な構造になってる。まぁ、これこそがダノのアイデンティティなのかも知れない。ともあれ安っぽさ大バクハツで、鉄板にローズの破片を乗せただけ。さらに横からよーく見ると鉄板が弦のテンションに負けてしなってるやないか!おまけにそれを支えるスタッドボルトは単なる細い木ネジ。こんなんで本当にもつんだろうかと不安になる。ピックガードは今時下敷きでも見ないようなペラペラのプラ板だ。

 ネックだけは案外マトモだ。ローズも最近の導管が粗くて窪みがあちこちにあるようなのではない。それがかなり厚めのスラブボードでメイプルに貼り合わされている。ヘッド部分も強度を稼ぐための割り剥ぎになっていたりする。再生産初期のオリジナルに忠実なプラスチックのボタンペグは流石にチューニングに難があったのか、実用性重視でGOTOHのトルク調整タイプが付いてるのも好印象。しかし、このナットは何や!?6弦側なんて傾いてるやんけ!(笑)。それに正面から見たら2本のネックは平行だけど、提げて上から見ると何となくツライチになってない。ネックポケットでキチンと平行が出てないのだろう。まぁ、大した誤差ではないからいいか・・・・・・。

 まずは手慣れた6弦からだ。アンプに繋ぐと、意外にもクリーンはナカナカ行ける。テレキャスとムスタングの悪いところを足して2で割ったような(笑)、とでも言えば良いのか、カリカリしながらサスティーンの少ない、ある意味とても素直で素朴な音だ。歪ませてもこれはこれでそんなに悪くない。そのままでファズが効かせたような平板でジージーした独特の歪み方をする。クリーン同様サスティーンはあまり伸びず、どこかノイズゲートを強力に掛けたような感じがする。これまた悪くない。「カシミール」弾いたら、パコパコしながらもギャリッとした「あの」音が出た。

 続いて12弦。えらく苦労してチューニングを合わせてまずは、やはり最初はお約束の「天国への階段」っしょ。ジャカジャーン♪ジャカジャーン♪ジャカジャーン♪ジャーン♪ジャーン♪ジャーン♪・・・・・・って(笑)。そいでもって12弦っちゃぁジェネシスだ。「Musical Box」に「Cinema Show」、「Supper’s Ready」と段々ハイフレットのとこも弾いてって・・・・・・そうして激しく音程が合ってないことにおれは気付いた。9フレットくらいまでは少し♭気味かな?くらいで我慢できるが、そこから上は全く笑えるほどに合っていない。15フレットあたりまで来るともはや半音近くズレちゃってる。
 買った当初に張られてた弦なんてどうせすぐ交換するんだし、弦12本の調整なんてそのうちめんどくさくなるに決まってるから、おれはオクターヴピッチを合わしてしまうことにした。弦緩めてはドライバーで駒をコチョコチョ動かして、また締めてチューニング。それにしても合わない。実音側が異常に低い。どだい19フレットのハーモニクスが20フレット近くでないと出ないとは、どんなけフレット音痴やねん!?これ以上駒を前に出したらネジ抜けるやんけ!とボヤいたところで、初めてようやく気付いたおれはドアホである。思わずウワッ!と声が出た。

 ・・・・・・そもそもブリッヂプレートの取り付け位置が根本的に間違ってたのである。現状渡しのワケがここに至ってようやく分かった。繰り返す。おれはドアホだ。

 冷静に考えると12弦も6弦も同じスケールなんだから、弦が駒に乗っかってる部分は、ネックエンドから見て概ね一緒の位置でなくてはならないはずだ。それがどうしたことか12弦側は目測で2cm近く後ろになってる。これぢゃそりゃどれだけ駒をネック側に動かしてもチューニング合わないわな。
 ダノは25インチ(635mm)という、ギブソンよりは若干長く、フェンダーよりは短い特殊なスケールなのに、明らかに12弦側はフェンダーの25.5インチ(648mm)くらいで取り付けちゃったとしか思えない。
 そこまで考えて思い当たるフシがあった。12弦は主弦の6本をテレキャスターのようにボディ裏通しでセットするようになってるのである。想像するに、チャイナかコリアか知らんが、多分そこの工場はありとあらゆるパチモンギターを造ってて、それも楽器の知識なんてこれっぽっちもないような連中が作業に従事してて、裏通しはたしかこれだったっけ?などとテキトーかつ勝手に思い込んで、25.5インチ用の治具でドリルの位置決めしちゃったんだろう。

 これが10万20万のギターなら激怒もし、悲嘆にも暮れようが、何せこれはダノだ。チャチでチープが命!な、いっちゃ悪いが玩具一歩手前の製品なのである。ズレてるなら正しく付け直せば良かろう。

 そんなこんなでいきなり大病院で手術を受けることになり、ようやっとマトモにチューニングが合うようになって戻って来た。今はおれの横で専用スタンドに立て掛けられ、いつでも弾けるようになっている。オクターヴもぴっちり合っていて繊細なアルペジオが綺麗に映える。結局、裏通しの穴は開け直しせざるを得なかった。だから今は、ボディを裏返すと実に12個の穴が並んでいる。これはかなりの壮観であると共に笑える。もし盗まれても特定しやすかろう。ボディトップの穴埋めの跡はそのうちインレイステッカーでも貼って、さりげなく隠してやることにしよう。

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 そろそろオチに持ってかなくてはならない。

 正直に告白するならば、この前に書いた通りの両親の悶着に否応なしに巻き込まれてワチャワチャする中、たまたま見付けたダノのダブルネックに、おれは何となく自分の父母を重ねて見てしまっていたのだった。

 一見、見た目豪華だけどまったく中身は空っぽ、重厚そうなワリに安っぽい音、あちこち綻びだらけの造り、改善すべき点が多数あるにもかかわらず50年以上まったく変わらない頑ななまでの進歩のなさ、ベッタリ並んで一緒に居るのに永遠に平行線のままで決して交わることのないネック・・・・・・それらは正に父母の姿そのままやんけ!と。
 だから金なくてピーピーしてるのにそれでも買った、っちゅうのはちょっとある。そしたらさらには何たる偶然か、激しくピッチはズレて狂っていた。

 持ち物や気に入ったものに勝手に名前を付ける・・・・・・俗に言う「ネンネン趣味」はおれにはない。しかし、この奇妙に因縁めいていささか薄気味悪いシンクロニシティを思うと、やはり今回入手したコイツにはどしたって名前が必要な気がした。もちろんそれは「Father’n Mother」である。そして、どれだけ頑張っても心の底から友好的になれなかった、愛せなかった二人の代わりに、せめてこの双頭のダノをこれからちったぁ大切にすることで、おれ自身の内なるの帳尻を合わせなくてはならない気がしたのだった。

2012.05.31

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