「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
テレキャス欲しい病


目下、最もイメージに近いのがこれ。

 以前、ブログで書いたことがあるのだけれど、エレクトリックギターを始めた人間ならば、そのうち必ずと言ってよいほど罹患する業病の一つが「テレキャス欲しい病」である。

 この病気、一見快癒したように見えても実はちっとも治っておらず、周期的に発作に襲われるという実に厄介な難病で、特効薬の投与しか治療法はない。つまりは購入するのである。ただし、中途半端にプレテクやフォトジェニのコピー物なんかを投与したら、却って悪化してヘンな薬物耐性が付いてしまい、目の玉の飛びだすようなフェンダーカスタムショップとかでないと効かなくなるので注意が必要だ。ホント、健康保険が使えるようにしていただきたいと切に行政にお願いしたいほどの大変な病である。

 実のところ難病指定されるのは、あとは「リッケンバッカー欲しい病」くらいで、レスポールやストラト、その他諸々のギターでこの病気は発症しない。何故か?それほどまでにテレキャスターというギターの個性が強烈だからだ。平たくゆうと、扱いにくい。だから、テレキャス使いのギタリストは何だか尊敬してしまう。

 今日はそんなテレキャスへのオマージュである。

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 テレキャスターの歴史はあまりに有名で、今更ここでおさらいしても仕方ない。詳細は適宜ネットで調べてもらえれば良いと思う。要は、世界最初の量産型のエレキギターで、それまでのギター制作のイデオムを卓袱台返し、っちゅうか無視したような革新的な構造が特徴である。広く普及した結果、いろんなジャンルで愛用されてるものの、一般的にはカントリーやウェスタンのイメージが強いギターだ。テンガロンハットが似合う。ヘビメタで使われてるのは寡聞にして知らないし、あまり似合わなさそうでもある。
 今では当たり前となった数々の機構がこのギターで初めて採用されている。例えばネジ止め式のデタッチャブルネック、指板材を別に貼り付けないメイプルワンピースのフィンガーボード、片側一列になった糸巻、中にキャビティ以外の空洞を持たないソリッドで平たいボディ、オクターヴ調整を可能にしたブリッジ(オリジナルの3ウェイだと余りチャンと合わないけど、笑)、ボディ裏通しの弦、角度を持たないフラットなヘッドとストリングガイド、コントロール類のモジュール化・・・・・・レオ・フェンダーという人のアイデアには凄まじいものがあった。ってーか、この人、本職が電気屋さんなのでギターの伝統的な作り方を知らなかったのだ。だからこそここまで思い切ったことができたのである。

 しかし、無条件に良いギターなのか?っちゅうとそこはかなり微妙だ。あらゆる道具の原初の形には得てしてクセがあって、使いにくいのもまた事実なのである。テレキャスターはその点でクセの塊だ。ますは何よりその音。トレブリーという表現が良くなされる独特のジャキジャキした鳴り方は際立っていて、リアでアンプ直の生だと確かにキンキンしてる。ところが、か細いのかっちゅうと、意外なことに結構太い音でもある。
 まぁ、とは申せそれは今の時代、エフェクターやらアンプのセッティングでどうにでもなるワケだけど、単に高域が出てるってだけではなく、ひじょうに音の拾い方にセンシティヴな感じがある。ちょっとしたピックの当て方や強弱、タッチのバラつきがそのまま如実に出てしまう・・・・・・つまりニュアンスが出過ぎてしまう感じが強く、とてもシビアなのである。だから弾いてると、独特の生々しさが他のエレキに比べて際立ってることが分かるし、おれみたいな下手くそだと扱いにくく感じてしまうのだ。ギブソン系、殊にハムバッカー搭載モデルはこの点がアバウトっちゅうか、良い意味でのルーズさが備わっていて、とっつきやすい。言葉は悪いが、女性同様、あんまりエキセントリックなよりはある程度、凡庸なくらいな方が疲れないのだ。
 さらに今のいろいろ改良されたモデルはともかく、昔のはすぐにハウリング起こす個体が多かったし、ノイズもひどかった。前後のピックアップの何かアンバランスな感じも扱いにくさを助長してた気がする。

 おまけに、提げた感じが実のところあまり宜しくない。取り回しが良くない、ってヤツだ。周囲が角ばってる上にくびれが少ないのと裏面にコンタード加工がないもんだから、高く持つとボディが左の肋骨にゴツゴツ当たったりする。それと、けっこう厚みがあって芯までキッチリ木が詰まってるもんだから見た目の印象よりはかなり重い。材にもよるのだろうけど、軽いスワンプアッシュやバスウッドでもそれなりにズッシリ来る。この点、ピックアップやトレモロのキャビティでザグられまくってあちこち空洞だらけな上に、さらにコンタード加工で周囲がバッサリ削られたストラトは軽い。さらにはシングルカッタウェイなので、握り込んで弾く人だとハイポジションは慣れるのにちょっと時間がかかるだろう。
 よくボーカリスト、特にアコギから持ち替えたような人がロクに弾きもせんのにテレキャスターを抱えて歌ってるのを見かけるけれど、おれはあれがどうにも解せない。コードをチャカチャカ弾く程度なら何弾いても一緒なんだし、もっと軽いダンエレクトロやSG、リッケンの#325や#450にでもした方がいいのに、って思ってしまう。

 あと、これはあくまでおれの個人的なイメージの問題だと思うが、見た目的になんか大きい音がしなさそう、ってのもある。ピックアップはあまり存在感がないし、デザインもシンプルでプレーンっちゃ聞こえはいいが、単純でどうにもノッペリしてて、轟音とか爆音出したり、あるいはテクニカルで複雑なことがいかにも出来なさそうに見えるのである。

 オマージュなのに悪口列挙しても仕方ないか、ともあれそんな原初の荒削り感を今なお全面的に残すテレキャスなんだけど、原初の姿ゆえの清々しさが感じられるのもこれまた事実だし、クリーントーンでは比類なき煌びやかさがある。また、トーン絞り気味でキツ目に歪ませるとかなりガッツのある音も出せる。必ずしもチキンピッキングの似合う乾いた音ばかりが身上でもない。ダークでダーティーでナスティな、十二分にロックな音が出るのである。もちろん、轟音も爆音も出せれば、上手な人が弾けば超絶フレーズだって繰り出すこともできる。リッチー・コッツェン見りゃイッパツで分かんじゃんかよ。

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 何度か書いた通り、おれは2本目に所有したギターがテレキャスターだった。詳しくは、ビルローレンスについて書いたところを読んでいただければありがたい。結論から言うと、ありゃもうメチャクチャ完成度の高いギターだった。当時の水準としては、オリジナルの欠点を見事なまでに払拭していたと言える。ハウリング起こしにくいし、前後のピックアップのバランスも良かった。流石は最も好きなギターはテレキャスターだと公言するローレンスさんだけのことはある。それが何で、ギブソンに在籍してたのかは謎だけど・・・・・・(笑)。
 ただし、やはりテレキャスターとしての強烈な個性っちゅうかクセはキッチリあったので、粒立ちを揃えて、ある意味アタックを均質で平板にするために、当時はハヤリで定番だったのもあるけどコンプレッサーは深めの掛けっ放しにしてたし、歪みのトーンはかなり絞り込んだセッティングにしてた。

 でも、盗られてしまったことは大袈裟に言えば自分の中で大きなトラウマとなって残り、もう一度テレキャスに手を出す気にはどうにもなれなかったのも事実である。毒を以て毒を制すとでも言えば良いのか、片や周期的に襲い来る「テレキャス欲しい病」の発作に苛まされつつも、パクられた体験っちゅう心のしこりがワクチンとなって抑止効果を果たしていたのである(笑)。
 さらには弾く曲の志向が、クリーミィで滑らかな歪みで以て滑らかに弾き倒すようなヴァイオリン曲ばっかしにシフトしてきたのも、キャラ的に程遠いテレキャスターに向かわせなかった、ってーのもちょっとはあるだろう。テレキャスでバロックには、ネバダ砂漠の真ん中で泥鰌すくいを踊るくらいの違和感がある。行ったことはないけれど。

 とまれしかし、あの泣ける体験からもう四半世紀以上が過ぎた。所有するギターも何だかんだであれこれ一巡した感がある。そして本家のギブソンは数本所有するけど、フェンダーは持ってない。そんな今・・・・・・

 ・・・・・・嗚呼、テレキャスが欲しい!

 みなさま、大きな声でご唱和ください(笑)。

 ・・・・・・嗚呼、テレキャスが欲しい!欲しいったら欲しいんぢゃぁぁぁぁ〜っ!!

 ネックは絶対の絶対の絶対にメイプルだ。カラーはブロンドだと悪友・K田とカブッて面白くないので、ここはA・サマーズばりのバインディング付きのサンバーストが宜しかろう。ピックガードはホワイトだ。もしそれがダメなら、ブロンドにマーブル柄のピックガードが欲しい。ブリッヂはブラスの6wayで、ピックアップは前後とも弄らずにシングルだ。指板はオリジナルのRのキツいのは弾きにくいからダメだ。9.5インチか12インチの平らな今風のがいい。フレットも太い方がいい。丸ボタンのストリングガイドでなくたっていい。ロゴがどぉこぉなんて全然拘らない。ルックス的なイメージとしては現行のアメリカンデラックスがかなり近いかも知れないが、ボタン一つでハムバッキングなんてサーキットは余計なオマケだ。

 音質なんてもぉ今更どうでもいい。クドいようだが、きょう日、チューニングがカチッと合ってサスティーンさえ伸びれば、あとは音色なんていくらでも補正できちゃう時代なのだ。それはイヤっちゅうほど分かってる。それでも、それでも、だ。ただもう純粋に見た目、テレキャスターのあの素っ気ないほど実用一点張りで、まるでバウハウスの家具のように武骨なのに洗練されたシンプル極まりないフォルムをおれは手許に置いておきたいのである。

2012.01.09

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