「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
永遠の出来損ない・・・・・・SG頌

 
P−90のSGっちゃ、やっぱおらぁこの人のイメージなんだな。

 この歳にしてようやくおれはSGが心の底から好きになった。いや、「なれた」と言った方が正しいかも知れない。

 きっかけは以前から欲しいと思ってたグレコの「EW−88」を買おうとして立ち寄った楽器屋で、偶然目に留まった最近のギブソンの猫の目刹那戦略の賜物である「リミテッドランシリーズ」の今年版、「’60sトリビュート」とやらを試奏したことである。ソープバー/ドッグイヤーの愛称を持つP−90が2発搭載されながら、スモールピックガードを採用したナカナカにシブい目の付け所のヤツだ。
 どちらかっちゅうとおれは昔からラージガードの方がよりダサく思えて、元々がイケてないSGは、だからこそラージガードに限る!って思ってたんだけど、付いてるピックアップがP−90だといささか話は違う。それに、最近はどぉゆう風の吹き回しか、世間的にラージガードの方が好まれる傾向にもある。そうなると俄然、天邪鬼な気持ちが頭をもたげて来て、逆張りして敢えてスモールピックガードってーのも面白いかも、なんて考え始めてたところだったのだ。

 いやいや、昨年のリミテッドランであるオールメイプルボディの「ローパワー」が出た時も、実はかなりグラッと来たんだった。個人的に大好きな70年代迷走期の意欲的失敗作(笑)である「L−6S」に近い音が出るんではないかと思ったのだ。しかし、SGシェイプのくせにメイプルボディが災いしてクソ重たいのと、ブリッジ横のザグりのあまりのいい加減さがどうにも気になって、結局購入には二の足を踏んだのである。その前の3ピックアップは、フライングVの3発と迷ってるうちにどっちも消えた・・・・・・なんだ、結構おれってSG好きなんぢゃんかよ。

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 お目当ての「EW−88」には少々失望させられた。出来が悪かったのではない。真逆だ。あまりに全体がソツなくカッチリと造り込まれていて弾きやすく、音的にもきわめて低域から高域までバランス良く、上品で、優等生的だったのだ。
 グレコの名誉のために申し上げておくならば、もしあなたがお金のない初心者で、これから1本だけで自宅練習からスタジオ、ライヴ、録音までこなさなくちゃなんないとしたら、間違いなくおれはこれを勧める。軽量でホールド感に優れたストラト系のコンタードボディにミディアムスケール、良く効くウィルキンソンのトレモロ、伸びるサスティーン、堅牢で丁寧な造り、クリアでクセのないハムバッキングピックアップ、美しい塗装・・・・・・現在、国内で7〜8万円台で買えるギターとしてはムチャクチャに完成度の高い製品の一つだろう。
 でも、今のおれは中年の、多少は小銭に余裕のあるオヤヂで、別にバンドやってるワケでも、ライブの予定があるワケでもなんでもない。家で一人弾いて悦に入りたいだけなのだ。だからあまりにも破綻のない万能選手のコイツは冷たく思えて、どうにもも一つ物足りなかったのである。それで、店内を見回すと、見慣れない色のSGがあった。

 手にしたのは箪笥みたいな色したナチュラルフィニッシュのである。グレコと同じく、小さいくせに激歪みで売れてるブラックスターに直結で突っ込んで・・・・・・そして一発でおれはその音に惚れてしまった。はしなくもニンマリとほくそ笑んでしまうような音、とでも言えば良いのだろうか、歪ませまくってるのにボディ全体の生音の響きが芯のところで残ってるような独特の鳴りが感じられる。それに妙に図太く、やたらねちっこい。昔、初めて買ったギターにもP−90は付いてたが、もっとカチカチに硬い印象だったのからすると、随分ふくよかに思った。また、ハムバッキングのSGだとただもう籠りがちなのが、シングルゆえにある程度のハリとブライトさが加わっているのもいい方向に作用してる。でもサスティーンの落ち方からすると、そんなにハイパワーでもないし、ノイズだって酷い。個性的っちゃ個性的な、とてもクセのある音だ。
 ぶっちゃけ工業製品としてはほとんどの点でグレコに負けていた。持ったバランスも音のバランスも、加工や仕上げの丁寧さも全然アカンとしか言いようがない。殊に特筆すべきは塗装のひどさで、最近のギブソン安物シリーズに採用されているウォーンフィニッシュは最悪と言っても構わないだろう。なのになのにああそれなのに、だ。欠点だらけなのに右手のタッチにリニアに喰い付いてくるような、この音は何なのだ?楽器造りの年季の違いか!?

 音そのものでこんなにギター欲しいと思ったのは久しぶりだ。以前書いた通り、ギターの音なんてモンは弾き手の感覚的な部分だけで、聴かされる方にしてみたらさほど違いの分からないものだし、今の時代、エフェクターの補正でどうにだって色付けはできる。それは分かってる。それでも、悔しいほどにギターそのものが主張する個性におれはやられてしまったのである。

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 場所は変わって、11月とは思えない暖かい雨の降る東京。おれは昼間から酔っぱらって一路楽器屋を目指していた。こちらでは箪笥色しかなく、値段もちょっと高目なので、所用で帰京した折に、予めデジマートで白色を置いてる店を下調べしておいて出掛けてったのである。再び試奏。アンプは違えど、やはり同じ音がした。これこれ、これ、この音!こうなりゃもぉ即決っきゃないっしょ・・・・・・熟柿のような酒臭い息で弾きまくる不審な中年男を、店員は絶対に奇異の目で見ていたことだろう(笑)。

 今、寒々とした一人暮らしの部屋で、そいつは3本目のギターとして鎮座している。

 有名なヘッド落ちの問題は相変わらずあるようで、提げるとネック側に重心が寄ってるのが分かる。造りの出鱈目さはホント素晴らしいまでのレベルだ。ブリッジのスタッドボルトが、ネジ山が甘いのか打ち込みが僅かに足りないのか、弦高が下げ切れなかったりもする。頻用する12〜15フレット付近のネック塗装にムラがあって木地がほとんど透けている。テールピース付近では木がそのまま見えてる箇所さえある。指板のローズ材は一体どんなんを使ったのか、レモンオイルで拭いたらペーパータオルは真っ茶色になった・・・・・・どれだけ染めてるんだか。そもそもホンマにローズなんか?パーフェローぢゃねぇのか(笑)。そんな一方で、接着面を増やして強度を稼ぐためか、セットネックの接合部分が19フレット付近まで伸ばされてるのは改善と言えるし、それが功を奏してか、気になるほどのデッドポイントは見付かっていないけれど、まぁとにかく全体としてはひじょうにチャチな印象だ。ちょっと当てただけでバラバラになりそうな、何とも脆弱な雰囲気がある。その分恐ろしく軽いのは救いだが・・・・・・。

 名作・レスポールの後継として生まれながら、生産性とコストダウン最優先で作られ、プロトタイプを見せられたレスポール本人が「クワガタみたいだ!」とたまげた逸話の残る奇妙奇天烈なフォルム、宿痾であるバランスの悪さ(マエストロトレモロ取り付けを前提にしているのでテールピース側が軽く作られているって説もある)とデッドポイント、プレイヤビリティ優先で強度無視したために、極端に嵌合部の面積が少なく、付け根から外れることさえあると言われるヤワなネック、ブリッジの倒れ込みやプラグジャック周りのボディ割れ問題、そして何より抜けきらない高音と締まらない低音、その一方でやたら元気な中域・・・・・・実にもうコイツは、素性としては野暮ったくも欠点だらけの出来損ないギターなのだ。

 トニー・アイオミやアンガス・ヤング等の偉大なる先達には申し訳ないけれど、正直、ハムバッキング搭載モデルの方はそうした欠点ばかりが目立ってる気がする。軽くて振り回しやすいってメリット以外に魅力ないもん。B級ギター大好きなおれがこれまで購入に踏み切れなかったのも、そこまで欠点我慢したくねぇや、って気持ちがどこかにあったからだ。
 ところがここにP−90が組み合わさった途端、それらの欠点を補って余りある音となって、魅力的な存在になるのも事実である。体験したことのない人は是非試してほしいと思う。壊しまくりもしたけれど、ピート・タウンゼンドが「歌うように響く」と大いに気に入って、一時期こればかり使ってたのが何となく分かる気がする。今残る画像を見てみると、色はもとよりラージ/スモール、ストップバー/チューン・O・マチックといった細かい違いにはまったく拘らず、実に数多くのモデルを弾いていることが分かる。そのためかあらぬか、P−90の付いたSGはヴィンテージでのタマ数が少ない。元々の製造数が少ないことに加え、60年代末から70年代初頭にかけて余りにも沢山彼が買い漁って・・・・・・そしてライヴの度にバキバキ壊してしまったからだ(笑)。

 SG、いいよ、可愛いよ、SG。

 ちなみに、数多いギブソンのラインナップの中で唯一、一度も製造中止の憂き目に遭ってないのは実はSGだけなんだそうな。ハハ、アメリカ人のセンスって良いんだか悪いんだか、ったくもって不思議な連中だ。


いや〜、ホンマええでぇ〜!(笑)

2011.11.13

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