「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
1個系!!


Gibson "Les Paul Jr.". Double Cutaway・・・・・・世界一「1個系」の似合うギターだと思う。

 大震災以来、自粛!自粛!の大合唱でいささか息苦しい。夜が暗くなったことは大変喜ばしいのだけれど、なんだか気分までチンマリさせられるような今の雰囲気はあまり宜しくないことのように思う。まるで「贅沢ハ敵ダ」「欲シガリマセン、勝ツマデハ」である。戦後60年、日本人は相変わらず津波だけではなくスローガンにもすぐ流される。

 まぁ、今までは這ってでも行けそうな目と鼻の先のスーパーにクルマ出してるクセに、そのスーパーの袋を小洒落れた布袋に変えたくらいでえらそうにエコだのロハスだのゆうてた欺瞞だらけの連中が、本性剥き出しで血相変えてガソリンスタンド並んだり、買い占めに狂奔したりする様を見るのはナカナカ痛快ではある。しかしながら、それはかなり捩れた隠微な愉しみなのであって、やはり辛気臭いことには変わりない。

 今回はそんな自粛ムードの世の中の雰囲気に合わせて、「1個系」っちゅう切り口でウダウダと書き連ねてみることにしたい。

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 「1個系」とは、要は弦の音を拾うピックアップが1個しかついてないエレキギターのことだ。何!?知らない!?・・・・・・そらそうだろう、おれが今、勝手に総称してみたのだから。

 エレキギターがエレキギターである以上、ピックアップはどしたって不可欠なわけで、従ってこれ以上シンプルなものは造れない・・・・・・って、シンプルといえば聞こえはいいが、要は貧乏臭い。通常エレキギターには少なくともフロントとリアの2個のピックアップがくっ付いてるものだからである。ストラトは3つだ。かつてのギブソンでは、ピックアップが3つ付くのは豪華版である証で、カスタムなんて呼ばれてインレイまでもが派手で豪華になったりしたもんだ。実を言うと、3つ同時に鳴らすとフェイズアウトしまくって、箸にも棒にも掛からんペケペケの音になるんだけど(笑)。

 自作キットのストラトボディにペタッとハムバッキングをボディ直付けにした自作のオンボロギターを抱えた革命児、エディ・ヴァン・ヘイレンが登場して以来、ようやく1個系はマトモに評価されるようになったのだけれど、それまでは所謂「スチューデントモデル」と呼ばれる、言っちゃ悪いが子供や初心者向けギターの代名詞みたいなモンだった。
 ただし、例外はあって、ジャズのアーチトップのフルアコの場合は1個系がむしろ標準である。ボディのアコースティックな鳴りを殺さないためにボディにザグリ入れるのを最低限にしようとしてのことらしい。同様に鳴りの阻害を嫌ってピックアップをネック末端やピックガードに取り付ける、なんてことも行われたりする。
 しかし、いずれにせよロックのフィールドにおいては1個系は何かちょと足らんオモチャギターってな扱いだったワケだ。

 フェンダーで言えば以前にも取り上げたミュージックマスターがその最たる例だろう。なぜかフロント側に1個だけ付いてる。ネックも子供向けでひじょうに短い。オリジナルフェンダー末期からCBS時代にかけての徒花であるブロンコ、ってーのもある。元々スチューデントモデルのムスタングをさらに廉価版にしようと生み出された1個系で、なまじトレモロが付いてるのがより貧乏臭さを際立たせるっちゅう悲しいギターだ。
 量産ソリッドギターの元祖であるテレキャスターにも、その前身にピックアップ1個系のエスクワイヤっちゅうのがあった(正しくは2個ヴァージョンが名称変更でブロードキャスター〜テレキャスターになったみたいだけど・・・・・・)。ピックアップは1個しかないのに何故か切り替えスイッチが付いてる。せめてもの親心(?)なのか、フロント側にするとトーンを絞り切ったパコパコの音、真ん中で自分で合わせたトーン、リアだとトーン回路をバイパスしたただでさえキンキンの音が余計キンキンになる、という理解不能なサーキットが組み込まれてあるのだ。まったく今の時代、実用の役には立たない。

 ギブソンはフェンダーよりも本格的な木工の香りがする割に、この手の1個系はむしろ多いかも知れない。スチューデントモデルであることを示す「Jr.」の名称が付く・・・・・・いや、名称としては「レスポールJr.」しかないんだけど、ボディバリエーションが無闇に多い。いかにもレスポールなシングルカッタウェイのものから、ダブルカッタウェイ、SGシェイプなどがある。ただ、どれもピックアップは共通で、ソープバーとかドッグイヤーなんて呼ばれる名作P−90がリアに1個だけついてる。その時その時の間に合わせで造ったとしか思えない。フェンダーの向こうを張ってか3/4モデルと呼ばれるショースケールのも造られたが、セットネックだから子供が大きくなってもネックは交換できない(笑)。そぉいや宿敵フェンダーに打ち勝つための切り札として出された豪華機種であるはずのファイヤーバードにだって、「T」ちゅう廉価版の1個系は存在した。

 さらにギブソンにはJr.のさらに下行く(笑)珍作・メロディメーカーがある。どうしたことか近年復刻されてレギュラーモデルとして売られてるのが凄い。もぉペラペラのウルトラチープな作りがプリチーでビューチホー!これまたボディバリエーションがいい加減で、今はレスポールに準拠したフォルムだけど、過去にはやはりシングル・ダブル・SGといろいろあって、ペカペカのトレモロ付きとか、無理矢理豪華にした2ピックアップ版とかがあった。
 何が凄いって、そのピックアップだ。P−90でさえない。これ専用の見た目もひどくチャチなのが付いてる。専用たって新たに金型起こしたりなんかはしてない。ハムバッキングの2つあるボビンを1つにしただけのものなのである。アンプ直結だと、素直と言えば聞こえはいいが、何とも情けない細くて小さな音がする・・・・・・おれは好きだが。

 その他のメーカーにも1個系廉価版はあって、リッケンには#425なんてーのが存在したし、豪華で派手な作りが身上のグレッチにもあった。元々がウルトラチープなあのダンエレクトロにだって1個系は存在した。

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 さて、1個系はそもそもはそのような出自でまことに貧相なのだけれど、ぶっちゃけアンプやエフェクターでの音作りや色付けが一般的になった今の時代にはむしろマッチしてる。だって、弾いてる側からするとフロントはちょっと分離が悪いな、とか、リアはハーモニクスが出しやすいけど音の角が立ち過ぎるな、とか分かっても、聴かされる側からすれば音だけでフロントだとかリアだ、なんてまず分からんでしょ?いや、よしんば分かったところであまり大勢に影響はなくて、アンプやエフェクターの差の方が遙かに分かりやすいでしょ?

 おれもストラトならほぼフロント、フライングVではセンターに入れっ放しで、ピックアップの切り替えなんて面倒なことはあまりしない。いや、そこまで気が回せないからできない、っちゅうたほうが正確だ。そんなんだからすぐにスイッチ系統からガリが出る(笑)。少し前にレスポールの3ピックアップ買ってはみたが、それは純粋に見た目で買っただけである。未だにイマイチ気に入った音が出ないんでたまに弄ってはいるものの、通常は概ねリアに入れっ放しである。
 要するに、2つも3つもピックアップが付いてるからそんな風に要らん工夫をするワケで、もし最初から1発しか搭載してなかったら、それはそれで何とかするだろう。

 ステージで弾き倒す道具としての使い勝手からすると、余分なでっぱりがない分、1個系の方が遙かに扱いやすい。基本直結でちょこまかとフロント・リアを切り替えまくるオールドスクールなリッチー・ブラックモアにしたって、ピッキングの邪魔になるからってセンターはボディ面一杯までベタベタに下げてる。シングルコイルでそんなんだから、これがベッタンくらいあって大きな3ピックアップのハムバッキングだったりすると、センターなんてもぉ障害物以外の何物でもない。件のレスポールも買ってから真ん中に鎮座するピックアップにはウンザリした。

 ピックアップが増えればどうしたってスイッチやノブの類も増える。増えると手が触れて切り替わったり回ったりすることがある。上述のエディは回路を通ることによる音質劣化を嫌ったのと、手が触れるのがイヤで、トーンまで取っ払ってボリュームノブ1個だけにしてしまったのだ。実戦に本当に役立つのは多機能な武器より単純な武器、ってことだろう。

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 コンポーネント系のキッチリ造り込んだ1個系が今では数多く作られている。使用する材も加工も組み込みも電装系も、楽器としてのデキは非常に良い。ヘビメタ御用達のクレーマーやジャクソン、日本ではESPやキラーなんかが有名どころだろう。でも、何か違う気がする。

 1個系の神髄はやはり貧乏臭さにこそありだとおれは思う。その点でおれがもっとも心惹かれるのは、究極の安っぽさ(実際本物のギブソンなのに実勢価格が4万円を切るんだからホンマに安い)を誇るメロディーメーカーなのである。まぁひでぇモンだわ。塗装はガサガサでムラだらけ、ネック周りの仕上げも雑、耳を省いた妙に幅の狭いヘッドに付いた糸巻きはプラスチックだ。トラスロッドカバーが真っ直ぐ付いてる方が珍しかったりもする。オマケにストップテールピース。ピッチ調整のイモネジは果たしてあるんだろうか?(笑)それでも手間のかかるセットネックで、塗料も見た目はまるでポスターカラーだけど実は一応はニトロセルロースラッカーだ。見た目よりはちゃんとチューニングも合うし、素直な音は工夫次第でいくらでも作ることができる。さらには、ペラペラのボディのおかげで比類なき軽さを誇る。要は弾きやすいのである。

 自粛コールの吹き荒れる今こそ買っちゃおうかな?・・・・・・え!?そもそも無駄遣いするな、って!?(笑)


Gibson "Melody Maker"・・・・・・32,000円で買える時に買っとけばよかった。

2011.03.27

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