「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
わたしのエフェクター遍歴


今でも持ってる人いるんだ!?アリアプロU「APE−1」

http://www.re-fx.net/multiより/

 初めて買ったエフェクターはエレキやアンプと同時に購入したマクソンだった。MAXON・・・・・・GibsonとMXRを足して2で割ったような,パチモンの香り溢れるブランド名の国産B級エフェクターである。ウォーターゲート事件かよ!?・・・・・・ってそりゃニクソンだな。

 実はBOSSが欲しかったんだけど、欲しくても値段が高くて買えなかったのだ。当時既にBOSSは国産どころか世界のトップブランドで、MXRなんかは老舗っちゅうだけで不振に喘いでた。その分、値付けもかなり強気だったのである。それでマクソン。買ったのは多分オーバードライブだったと思う。丸いボッチのフットスイッチではなく、チロルチョコくらいのサイズの小さな四角い電子スイッチの付いた、明るい緑色の筐体だった気がする。ツマミは3つ付いてた。ひょっとしたらD&SUだったかも知れない。でも、いつの間にかどっかに行ってしまってホントはどっち買ったのか今はもうよく想い出せない。

 とにかくこいつをトランジスタアンプの間に噛ましてギュンギュン鳴らしてた。しかし、歪むことは歪むけどどうにも耳に障る音だった。レコードで聴くハードロックの伸びやかで充分歪みながらも太くて甘いディストーションサウンドとは異なる代物だったのである。
 ハッキリ言おう。悪いのは「小林克己ロックギター教室」(笑)である。そのアンプやエフェクターのセッティング例が今から思えば、かなり間違ってたのだ。加えておれの無知も手伝ってた。真空管アンプとトランジスタアンプではサウンド特性は天と地ほど異なることが分かってなかったのである。ギターもアンプもトーン全開ではそらキンキンするに決まってる。トーンを絞り込む、って発想が当時はどうにも出なかったのだ。

 しばらくはこの歪み系の小さなハコ一つでやってた。やってた、っちゅうても自宅で弾くくらいである。高校1年生での文化祭の掘っ立てバンドはイベント終了とともにすぐに空中分解し、他所でやる機会は無くなってしまってたのだった。それに何より、おれには圧倒的にテクニックが欠けている。まずはマトモに弾けるようにならなくてはならない。地道な練習に多彩な音色は不要だ。

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 次に買ったエフェクターは、今や珍品としてそこそこの高値で取引されてるビッグジャム(BigJam)、っちゅうブランドのフランジャーだった。たしか、ローランドの前身とも言えるエーストーンから出されたものだった記憶がある。今から思えばものすごく意欲的なエフェクターで、厚みが通常のハコの半分くらいしかない上に、すべてのコントロールがグライコいたいなスライドスイッチだったのである。定価13,800円かなんかのを10,000円前後で買ったと思う。どこで買ったかは忘れた。ただ、買う前にDIYで拵えるAMDEK(現在のRolandDGが出してたブランド)っちゅうのとどちらにするかで真剣に悩んだことだけはハッキリ覚えてる。

 当時、フランジャーはフェィザーとコーラス、リングモジュレータの機能が一つに収められてるってな宣伝のされ方で、それぞれをバラで買う金銭的余裕のない連中には人気のエフェクターだった。おれも取扱説明書と首っ引きで、いろんな音を出して遊んだ。今でもコントロールの左右の両端をMAX、真ん中の2つをMINにするとコーラスになる、なんてのを想い出す。
 このビッグジャム、1つ1つのコントロールの可変範囲が異常に広くて多彩なのはいいけれど、そのスライド幅が狭すぎるっちゅうのが最大の欠点だった。3cmくらいしかなかったんぢゃないかな?そんなんだから薄暗い所で乱暴に踏むと爪先が当たって音色が激変するのだ。

 それでもエフェクターを取っ替え引っ替えする経済的余裕なんてあるはずもなく、しばらくはこの2台だけで凌いでた。もちろんACアダプターなんて気の利いたものもなく、チマチマと006P電池をモノ惜しそうに交換しながら使ってた。そのうちポリスにハマってディレイが欲しくなったが、当時はテープ式で恐ろしく高く到底高校生の身には無理だった。しかし、思えば当時は機材が日進月歩で恐ろしい勢いで進化してた時代で、間もなくBBD素子ってのを用いた遅延時間が最大300msのが破格の安値で売り出された。ただ、そんなんでも定価39,800円だったから如何に遅延系がバカ高い値段だったか良く分かる。ちなみにこのBBD式のディレイこそが、今でいうところのアナログディレイだ。高域の劣化がひどいのが特徴で、それが今では「暖かみ」などと称されて持て囃されてんだから良く分からない。

 出たばっかりのこれを金持ちの息子が買いやがったんだわ。そらもぉむっちゃくちゃ羨ましかったっすよ。高2の文化祭はそいつからこのディレイ借りてポリスのカバーを何曲かやった。1曲終わるごとにディレイタイムを調整する、なんて間抜けなやり方で・・・・・・(笑)。

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 さて、ポリスっちゃぁピート・コーニッシュのエフェクターボードである。いやまぁ、今のコンパクトなデジタルからすれば笑っちゃうような、畳ほどもある大きな黒い鉄板だった。だが、これがその後の世の中のエフェクターの流れを変えたと言っても過言ではない。そこには市販品の組み直しとはいえ、歪み系やら揺らし系、空間系のいろんなエフェクターが1つに詰め込まれ、一踏みで全く異なる様々な音色を呼び出せたのである。所謂「マルチエフェクター」のハシリであった。それまでは、足許にいくつも並んだエフェクターを忙しく踏み変えるしかなかったのだ、プロもアマも。

 大学に入ってバンドやり始めるちょっと前だったか、画期的な値段のマルチエフェクターが売り出された。ちょっと他より安いのが魅力の永遠の貧乏人の味方、アリアプロUが出した「APE−1」っちゅうのがそれで、何と、コンプレッサー・ディストーション・コーラス・ディレイの4つがオールインワンになって、当時としては信じがたいニィキュッパ、で売り出されたのだ。さらに信じられないことに歪みと空間の間にはエフェクトループまで付いてて、それもスイッチングに組み込めた。
 おれは一も二もなく飛び付いた。ひょっとしたらこいつを買うのと引き換えにマクソンとビッグジャムは売り飛ばしたのかも知れない。今から思えば惜しいことをしたものだ。

 このマルチ、各チャンネルごとにON/OFFをスライドスイッチで切り替えて登録するシンプルな方式で機能的には非常に使いやすかった・・・・・・が、そこはほれ、やっぱしニィキュッパ(笑)、どうにも欠点があった。とにかく音ヤセが酷い上に歪み系が箸にも棒にも掛からんのである。歪みの音色ではない、その深さだ。たとえファズみたいにジージーモーモーでも深く掛かってくれたらまだ救いもあったろうが、当時はフュージョン等の上品な音が流行ってたせいかあまりに効きが薄くて上品すぎたのである。

 それでも5〜6回のライブはこれでこなしたと思う。ポンと踏むだけで3〜4パターンの音が切り替えれたからたしかに便利だった。

 アナログディレイが組み込まれたマルチは後にも先にもこれしか存在しない、ってコトで、今はこのAPE−1もこれまた結構な高値で取引されてるらしい。実に下らない。ジャパンビンテージなんていい加減なモンだわ。

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 ある程度バンド活動がコンスタントになってきて、APE−1のチープさが気になり始めたおれは、コンプ・オーバードライブ・コーラス・ディレイの基本一式をゴッソリBOSSに変更した。ボリュームペダルも前段に入れた。つまりここでいったんマルチから離れたのだった。

 同時期に買ったのが、これまでも折りにつれ触れてきたローランドの「ファニーキャット」だ。天王寺の茶臼山の麓の楽器屋の店頭で、ビニールでぐるぐる巻きになったのが段ボールに山積みになって1,000円均一で売られてたのである。何種類かあった中からコイツを選んだのだけど、あまり深い意味はない。エイドリアン・ブリューが登場してブッ飛びな音をおれも目指してた時期だったので、いっちゃん変わってそうなこれにしたのだと思う。全種類買っとけば良かった。ともあれここはとにかくヘンな店で、60年代のテスコやグヤ、エルク等のビザーレギターだとか、他の店では見ないモノがフツーに売られてて、行くと必ず奇妙な発見のある面白い店だった。

 ・・・・・・で、そのファニーキャット、まだBOSSブランドができる以前の、鉄板を折り曲げて作った弁当箱ほどもある怪作で、フットスイッチが2個付いてた。片方がファズやブースター、もう片方がトレモロとオートワウを組み合わせたようなものだと思う。ちなみにツマミは踏み面側ではなくジャックの刺さる妻面側に5〜6個並んでた。また、ON/OFFのインジケータみたいな気の利いたものは付いてなかった。ホンマ、鉄の箱だ。
 その音たるや凄まじく、ファニーキャットっちゅうよりは化け猫(笑)、ミギョギャギョギョエェェ〜〜!ジョワジョワジョワジョワァァ〜!ってな何とも言えない、まったくフツーの用途では使えない耳をつんざく音がした。だからノイズジェネレータとしては秀逸ではあった。ただ、音が異常にペラペラになるのには困ったが。
 コイツの便利だった点はどっちのフットスイッチだったか忘れたけどブースターがアホみたいに強力で、踏めば一発でハウリングを起こせたことだろう。ブレイクの裏からピヨヨヨヨ〜、なんてハウリングを起こしたりといったトリッキーな使い方が自在だったのである。

 この国産エフェクター黎明期の異常な製品であるファニーキャットも今や超の付くプレミア品らしい。こないだ楽器屋で29,800円ってな猛烈な値付けで売られてるのを見ておれはぶったまげた。そりゃまぁ他では出せない音がするのは確かだろうが、他にこれといった使い道がないのも事実だ。

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 気付けばいつしか足元には6台ものエフェクターが並んでる。今でいうところのシューゲイザーよろしく、おれは俯きながらテクの無さを奇妙な音でカバーすべくせわしなく踏みまくってた。しかし、どうにもやはり踏み変えは大変だ。そこで知り合いの電気工作の巧いヤツに頼んでスイッチングボードを拵えてもらった。要はそこにエフェクターを繋ぎ込んで、4つのチャンネルであらかじめON/OFFを設定しておけるってものだ。原理的にはAPE−1やピート・コーニッシュと同じである。

 出来上がってきたそれを見ておれは一瞬言葉を失くした。信じられないほどゴツくて重く、巨大な代物だったのだ。これをベニヤ板に張り付けてボードに仕立ててたらそれこそ「畳」になってしまう。機動性悪すぎ。かくして次のライブに持ってこうかどうしようか思案してるうちに練習場所から機材一式は盗難に遭ったのだった。バカでかいスイッチングボックスは下宿に置いてあったおかげで難を逃れたが、これだけではどうにもならない。

 ライブの約束があるので仕方なく買ったのが、当時倒産処分で投げ売りセールの真っただ中だったトーカイ。いや〜、タルボといいここには随分お世話になりました・・・・・・全部倒産後だけど(笑)。コンプとオーバードライブ、コーラスが梅田のナカイ楽器で1,000円均一で売られてたのだ。ディレイも買いたかったが、あいにく売切れてたような気がする。
 今はこのオーバードライブまでもがかなりのプレミアついて取引されてるけど、どぉなんだろ?ぶっちゃけおれ的には大したことないと思ってる。要は歪みの掛かりの悪いブースターみたいな代物だ。それなのになぜかこの3つは売り飛ばされることもなく、今こんな想い出話をグダグダ書き連ねてるおれの足許に転がってたりする。案外世評通りの知る人ぞ知る名作なのだろうか(笑)。

 エフェクター3つならスイッチングボードが登場する必要はない。結局、一度も本番では使用されることのないまま巨大なそれはお蔵入りの運命を辿った。ひょっとしたら今でも実家の押入の中に転がってるかも知れない。

 ともあれバンド活動はここまでだったものの、エフェクター遍歴はまだ続く。

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 90年代の半ば、日本橋の電気屋で偶然見かけたのがBOSSのマルチの名作「ME−6」だ。歪みはアナログ、空間系はデジタルってな構成で、飛び道具系のエフェクトは実装されてなかったものの基本構成はキッチリ押さえてあり、音色も多彩かつ実用的で使いやすく、さらには値段のお手頃さもあって爆発的に売れまくった。思えばこの頃になってようやくマトモに使えるマルチが大衆レベルで普及したと言える。

 おれもすぐに飛び付いてこれを買った。サラッと書いたけど、当時は絵にも話にもならん貧乏だったので、2万円足らずのこれ買うのも大変だった記憶がある。性能的に特に不満はなかったが、パラメータの設定変更がめんどくさいのと、電子スイッチの隙間に埃がたまりやすく、10年以上使ってるうちにだんだんあっちこっちの接触が悪くなってきたこともあって、ZOOMの激安バカ売れシリーズである「G2.1u」に乗り換えた。やはりデジタルマルチの課題である設定変更のめんどくささ、フットスイッチが2個しかなくてチャンネルのアップダウンしか選べないのがいささか不満なだけで、音自体は昔からするともぉ信じられないくらいに高品質だ。ノイズも音ヤセも高域の劣化もない。おまけにオーディオインターフェースに、ダウングレード版とはいえDAWの名作・Cubaseまでついて、かつてのフランジャー1個分と大して変わらない値段で売られてる。いい時代になったもんだ。

 なのに何でだろ?その便利さ、イージーさにだんだん倦んで来たおれがいることについては前回も書いた。そして思わず買ってしまったのだ。「今ならTシャツのオマケ付き」の甘言に釣られてプロコの名作「RATU」を。
 実態はオペアンプが違うだけで回路的にはBOSSのディストーションのクローンらしいこのRAT、有名ミュージシャンにも愛用する人が多いことで知られる。しかしながら、音が良いかどうかと問われると少々疑問ではある。ただ、使えるか使えないか?で行くとひじょうに使いやすい。細い弦がやたら太くなるのだ。逆に太い弦が頼りないのとミュート掛けるとエラく小さい音に聴こえる欠点はあるが、塩煎餅のように飽きの来ない味わいがあっていい。甘くて太い、のではなく塩辛くて太い音っちゅうこっちゃね(笑)。セッティングの幅が狭いなんて意見もあるが、全然そんなことはない。要は歪みの深さとフィルタの掛かりのバランスに独特のクセがあるから若干の馴れが必要ってだけのことである。

 四半世紀ぶりにコンパクト買って、やはりあーでもないこーでもないとツマミを回すのって楽しいと思った。今は前段に件のトーカイのコンプ噛まして鳴らしてる。なんとも懐かしい音がする。

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 先日、「牛込パン」http://ushigomepan.cool.ne.jp/)っちゅうホームページの中でエフェクターについての至言と呼んでもいいような素晴らしい意見を見つけた。おれはこれまでのあっち流されこっち流されの自分のエフェクター遍歴を甚く反省すると共に、恐らくこれは全てのエフェクター・・・・・・否、あらゆる電気仕掛けの音楽機材に通用する真理なのではあるまいかとさえ思ったのだった。ちょっと紹介してみよう。

     ●回路は単純
     ●機能は不完全
     ●それを使う側の工夫で補う

 けだし卓見である。そうなのだ。だから、今のが壊れるまではとことん弄って使い続けてやろうと思う。


これがマクソンのオーバードライブ。このタイプのスイッチはごく短期間しかなかった気がする。


これも未だに持ってる人がいるのにビックリ!BigJamのフランジャー

http://www.studio1525.com/,http://www.soundmagician.pgw.jp/より

2011.01.03

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