「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
新・爆音出せりゃそれでよし!!・・・・・・赤熱の裏切り篇


目下最も欲しい”THUNDERTWEAK WAVYWATTER”・・・・・・自作するしかないのが欠点。

 ・・・・・・クソッ!!

 悔しいけどやっぱエエんだわ、真空管って。

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 これまでアンプについて、おれはソリッドステートばっかし使ってきた。歪みなんてエフェクターで作ればいい、って思ってきた。たまに出演させてもらってた大阪・西成のエッグプラントっちゅうライブハウスだけはフェンダーの名作「ツインリバーヴ」しかなく、かといって自分のアンプを持っていくには遠すぎで、それで仕方なくあのアンプの使い方もけっこう覚えたのだが、インプットはLOW側でゲインは目一杯下げ、歪みは全てエフェクターで拵えてた。真空管アンプの正しい所作とは到底言えないセッティングだ。
 何でそんなんにしたんか?っちゅうと、普段練習場所で使ってるJC-120に近い音にするにはそれが一番だったのである。個人で持ってた同じローランドのCUBE60ってサイコロみたいなアンプもほぼ同様のセッティングで、インプットはやはりLOWでマスター側を全開にして、ゲインで音量を調整するような使い方をしてた。極力歪ませたくなかったのだ。
 クリーンサウンドが魅力のフェンダーでそれだから、マーシャルしか置いてないライブハウスに出たときなんかはもう泣けた。とにかく歪みやすいし、真空管っちゅうワリにキンキンするし、普段の馴染んだ音を出すのにものごっつ往生した。
 そんなんだから、真空管が飛ぶ寸前までドライブさせた「ブレイクアップ」サウンド・・・・・・所謂ナチュラル・ディストーションなんてーのにはまったく無縁だったのである。

 何でそんなヘンなコトしてたんかと言えば、ただもう頻繁にクリーンとディストーションを切り替えなくちゃなんないから、1台のアンプでギョ〜ンと歪ませるワケには行かなかった・・・・・・それだけである。JCもプリアンプとかブースター、イコライザ噛まして入力を極端に上げ、さらにアンプについてる奇妙なディストーションのコントロール上げてやればかなりそれらしく歪むのだが、試してみただけで実際にそんなんで人前に出たことはない。それに真空管アンプは重くてデカいだけでなく、不安定だし壊れやすいし維持もめんどくさい。何より値段が高い。同じ馬力のトランジスタアンプと比べると当時で3倍くらいしてた。平たくゆうと、とても貧乏人が所有できる代物ではなかったのである。

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 真空管に対してあまりいい感情を持ってないのはやはり、子供の頃家にあった四つ足の白黒やその後の家具調のカラーテレビたちと、そしてその後買い直してやって来たトランジスタのカラーテレビのあまりの性能差が、鮮明に記憶に刷り込まれてるからだと思う。

 とにかく真空管のテレビは大変だった。まずとにかくバカみたいにデカくて重い。スイッチ入れてもすぐに点かない。真空管が暖まるのに時間が掛かるからだ。1〜2分するとジンワリとブラウン管に画面が浮かんでくるのである。熱気も凄かった。
 オマケに良くあちこちが調子悪くなったりする。今の精密な電子機器類に同じことしたら瞬殺だろうが、当時は本当にパッコォ〜ンと叩くと直ったりしたのである。さらに真空管には寿命がある。大体1年くらいだったような気がするが、いよいよ叩いてもウンともスンとも反応しなくなると電気屋に来てもらう。たいていの場合、原因は真空管が寿命で悪くなってるのだった。
 そうしてハードボードの裏蓋を開けて取り出された真空管は黒ずんでいた。蛍光灯も古くなるとだんだん黒ずんでチカチカしてくる。黒くなると死ぬのだ。後年、要らぬ知恵がつく年頃になり、ペストを黒死病と呼ぶってコトを知った時、何だか真空管とか蛍光灯みたいなもんなのかな?と思ったものだ。

 それに比べるとトランジスタのテレビは凄かった。すぐに点くし、小さいし、安定してるし、壊れないし・・・・・・と、もぉ良いコト尽くめなのである。ともあれ、そんな風にして真空管は家庭から駆逐されていった。
 日本の家庭からあらかた真空管が消えてしまった頃、亡命希望のソ連軍人の操縦するミグが函館空港に強制着陸するという事件が起きた。最新鋭と思われてたそのミグのあちこちに未だに真空管が多用されていることが、嘲笑と憐憫、それに多少の驚愕をもって報じられていたことを想い出す。真空管はアナクロニズムの代名詞となっていたのである。

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 ところが唯一、真空管の地位が揺らがず命脈を保った領域がある。言うまでもなく「音」の世界だ。

 トランジスタアンプの音の冷たさ、ギスギスした感じ、芯のない薄さは別に楽器用アンプだけで言われる問題ではない。オーディオアンプではズーッと遥か以前から指摘されている。理由はいろいろに言われる。真空管だと損失される高域が、トランジスタではあまりに忠実に増幅するので耳に刺さるだとか、自然な歪みがある種のふくよかさとか厚みに繋がるのだとか、歪んでない領域と歪んだ領域の間のところがいいんだとか諸説紛々なものの・・・・・・おれは実のところあまり良く分からなかった(笑)。それにまぁ、そぉゆうことを主張するのはちょっとアテられてる、っちゅうかプラシーボ入ってる気がしてイヤだったし。
 しかし音の世界は冥府魔道の世界である。オカルトである。宗教である。バカ高いベルデンのシールドなんかがバンバン売れちゃうのである。そんなんで真空管信者はひじょうに多いし、それに上等のブティックアンプとかたしかにエエ音しよるのである。オーディオマニアでも行き着く先はチューブアンプだ。

 おれもトランジスタアンプだと歪ませた時、ガーガーといかにもチャチな音がするのは最初に買ったPIGGYのアンプで思い知った・・・・・・否、それもまた勘違いであった。単に最初に買ったアンプがあまりに安物だっただけだ。その後、JCにBOSSのコンプと今は亡きターボオーバードライブ突っ込んだ音でおれは充分以上に感動してたもん。

 今はPEAVEYの15Wの小さなトランジスタアンプにZOOMのマルチエフェクターを繋いで使ってる。アンプもトランスなんたら、っちゅうて「アナログ回路で真空管アンプの特性を再現した」ってな能書きだから、単体でも昔のPIGGYよりは千倍いい感じに歪んでくれる。マルチがこれまた凄い。歪み系が元ネタの音と似てるかと問われればかなり疑問とはいえ、笑えるほどに多彩な音が1万ちょっとの値段で出せるのに驚いた。音量少し上げると綺麗にフィードバック掛かったりするのも心地良い。ホンマに世の中進歩したもんだと思う。

 ただ、「這えば立て、立てば歩めのなんとやら」で、そのうち少しづつ物足りなくなって来た。どぉ言えばいいんだろ、音色は多彩なんだけど一つ一つの音の調整幅っちゅうか可変幅が凄く狭いのである。ほいほい、マーシャルJCM800ですね、メサのレクチファイヤーですね・・・・・・ってな風にどこぞで聴いたようなそれらしい音はプリセットでパッと呼び出せるんだけど、最初から音質や歪み量なんかがガッチリ決められちゃってる印象なのだ。もっと深く歪ませようとダイヤル回してもあんまし変わらんし、弱めてもそのまま、みたいな。
 また、強く弾こうが弱く弾こうが、ギター側のボリューム絞ろうがやはり大して変わらない。何だかタッチセンスの付いてない昔のモノラルシンセを弾いてるような・・・・・・とまで言うと大袈裟だが、どうにも抑揚に乏しく平板で一本調子な感じがどこかある。それでもピックが当たった瞬間のキコキコした音なんかはチャンと出てるのが不気味だ。

 そりゃまぁ昔はコンプレッサー積極的にかけて、なるだけ不揃いなタッチを誤魔化すようにしてたくらいだから、この特性はおれのような下手くそには好都合っちゃ好都合ではある。音のツブが勝手に揃ってくれるのだから。しかし、今はもう家で一人で弾くだけなので、あまりに何を弾いてもフラットなのはやはり白ける。

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 最近、出力が5Wを切るような、大きさも値段も手頃な真空管アンプが流行って来ている。嚆矢はエピフォンから出たバルブジュニアってなあたりぢゃなかったかな。そのうちフェンダーからはチャンプの復刻版が出た。それからは各社いろいろ参入してきた。やっぱボリューム1個だけぢゃ扱いづらいから2ボリュームのが出たり、アッテネータ(スピーカーの直前で音量を下げるもの)付けたり、リバーヴだけはデジタル付けたり・・・・・などと、いろんなバリエーションが増えてきている。そのうち2チャンネル5ボリューム、3トーン、エフェクトループまで付いて、でも馬力は1W、とか出るかも知れない(笑)。

 楽器屋でたまに試奏させてもらってはいたものの、1ボリュームだとさすがに使いづらいな〜、と思ってた。歪ませるにはバキョーンと全開にするしかない。しかし、真空管で5Wフルアップっちゅうのはおよそ家庭内で耐えられる音量ではない。凄まじい爆音になる。それで深く歪めばまだいいが、このテの小型アンプの定番であるプリ管1本、パワー管1本ってな構成の限界だろうか、せいぜいクランチ(軽く歪んだ状態)くらいが精一杯なのだ。だからってわざわざブースター噛ますのもめんどくさい。真空管みたいな古い仕組みを敢えて取り入れるなら、ここはやはりアンプ直結で行きたいけど、こんなんなら今のトランジスタアンプ+マルチエフェクターの方がよっぽど使い勝手がいい。

 小型真空管アンプなんて結局、プチ金満オヤヂが「真空管はやっぱ音のツヤが違うねぇ〜」なんてしたり顔でのたまいながら、ペンペンペケペケと何も歪んでない音でベンチャーズとか小さな音で弾いて、そのうち飽きて家のインテリアになるくらいがオチなんかなと思ってた。

 先日、久しぶりに楽器屋を覗いてみたらVOXの”Lil' Night Train”が置いてある。ダンエレクトロのお家芸にも似たレトロキュートなルックスと馬力の割りに大口径のスピーカーなのががいい。出力は2Wだけどゲインとマスターの2ボリューム構成になってるのにも惹かれる。よほど興味津々の顔してたのだろう、スーッと店員が近付いてきて、試奏してみますかと声かけられた。電源入れながら、さらに彼は、これは小さいアンプにしては珍しく、プリ管が2本になってるんですよ、などと言う(※)。2本ありゃかなり深く歪むやろなぁ〜・・・・・・。

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 ・・・・・・正直、そこまで出来のいいアンプではなかった。何かリバーヴ掛かったような感じがあるし、マイクロフォニックっちゅうのか、絶えずハウリング起こしたようなキーキーしたノイズもある。でも、ガチャーンとコード一発弾いたときの生々しさ、いい感じの歪み、そして歪み量の割りに伸びるサスティン・・・・・・シミュレートした音にはない生々しくもラフでラウドな感じがたしかにある。
 おれは全開にして良いか訊いてみた。どうぞ、っちゅうんでえいやっ!とマスターもフルアップ。どこが2Wやねん!?ってな音圧で爆音が鳴り響く。パワー管まで歪ませるとホントにいい。ギターのボリューム絞るとスッと音量と歪みが小さくなるし、強く弾くと強く歪むのはやはり心地いい。右手にリニアで忠実なのだ。
 オンナと一緒である。マグロが困るのはそら当然として、何をやっても同じような調子でヒィヒィ嬌声上げて悶えられるのもウソ臭くて詰まらない。こっちのアクションに対してリニアなのがいっちゃん楽しい。

 弾き終えて筐体のパンチメッシュのグリルから覗くと、小さいクセにいっちょ前に真空管はほんのり赤くなっている。何だかそれはとてもエロチックに思えた。

 これまでアンプなんて爆音出せりゃ何でもいいと思ってきた。いや、今でもそう思ってる。アーでもないコーでもないとマニアックなゴタク並べてる暇があったら、何でもいいからブチュッとシールド突っ込んで鳴らす方がクールだ。
 それでも、だ。真空管の原始的ともいえる単純な回路を通った音はやはり、いい。いや、もっと厳密に言うと、音の出る際のシチュエーションがいい。今はもう家で一人でチマチマ弾くだけなんだから、それくらいのヲタは許されていいだろう。

 ・・・・・・嗚呼、そのうち欲望に負けて買ってしまいそうだ。



※註
  正しくはプリ管の1本がパワー管を兼用してる。だから使われてるのは合計3本ではなく2本。


これがVOX"Lil' Night Train"

2010.11.27

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