「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
我、B級ギターを偏愛す([)・・・・・・Gibson(但しベース)の巻


実は悲運の名機と言えるリッパーベース。
重量やピックガードのデザインをもっと考えてたら、その後は違ってたように思う。


 何かの祟りではないのか?と疑ってしまうくらいにギブソンのベースはイケてない。販売数では圧倒的にフェンダーの後塵を拝している状況がもう何十年も続いている。バカ売れしたモデルなんて一つもない。
 一体全体、どこがそんなにアカンのやとツラツラ考えて、恐るべき事実におれは行き当たった。

 ・・・・・・全部アカンのである。何一つ見るべき点が見当たらない(笑)。

 まず、あまりにベースとしては華奢すぎる構造だ。ヘッド折れは材としては比較的軽くて柔らかいマホガニーを用いるギブソンの宿痾と言えるが、太いベース弦の張力ではさらにこのリスクが高まる・・・・・・ってーかヘッド角といい、力学的にそもそも無理があるように見える。セットネックも接着面積の狭さが強大な弦の張力に見合っていない。これは根本的な欠点、いや、欠陥と呼んでもいい。
 それが証拠に、古いギブソンベースの出物は元々のタマ数が少ないことに加えて、このネックの弱さが災いしてか、現存するものがひじょうに少ない。70年代の一時期、硬質な材であるメイプルボディにメイプル3ピースネックで拵えられたリッパーやグラバーはそれでもそこそこ見かけるが、マホガニーのものはあまり出回っていない。
 まぁ、メイプルだから安心ってワケでもなく、60年代の一時期のフェンダーベースのネックのグニャグニャさはヴィンテージマニアの間では半ば常識と言われる。一方、マホガニーも標高の高いところで育ったものにはけっこう密で重く、硬いのがあるらしい。同じ木でもある程度、硬い軟らかいの違いがあるってことだろう。

 次にそのカタチだ。フォルム、っちゅうこっちゃね。これがまたどぉにもならん。ファイヤーバードのベース版であるサンダーバードなんかはなかなかカッコいいなぁ、って思うが、後はどれもこれも箸にも棒にも掛からぬカッコ悪さ、っちゅうか単にギターのフォルムをベースに置き換えただけで、例えばフェンダーのジャズベースのような「機能を追い込んでいった先の必然性」みたいなんがちょっとも感じられんのである。大体、バイオリン型だろうがSG型だろうがセミアコ型だろうが何でも「EB」ってな型番を付けた辺りに、既にそもそものヤル気のなさが現れている。

 もっとも致命的なのが肝心カナメの音だ。ベースは低い音域を受け持つ楽器(ギターの2オクターブ下)なんだから、重低音が出しやすいマホガニー材とかギブソンのお家芸のハムバッキングピックアップは有利に作用するだろ?と思ってしまうのが素人の浅はかさ・・・・・・っておれも素人やんか(笑)。とまれ、ベースは出音に高音成分もキッチリ持っていないと、何が鳴ってるのか曖昧な、所謂「パンチがない」とか「ヌケの悪い」とか言われる音になってしまう。
 もし、身近にピアノがあれば試してみるといい。ピアノには1つの鍵盤に対し基音の太い弦に加えて1オクターヴ高い細い弦が2本、合計3本の弦が張ってある。この細い2本を誰かに押さえてもらって低い音の鍵盤を弾くと、低いだけでまことに情けない音しか出ないのが分かるだろう。マホガニーやハムバッキングっちゅう構造は倍音が出にくい。だから、これと同じような音になってしまうのである。
 また、多くのモデルで採用されている30インチのショートスケールも通常の34インチのロングスケールに比べると張力が低い分、何となく音程感に欠けたグニョグニョ・ブヨブヨした音になる。これはギターも一緒で、ムスタングがまさにそうだ。弦にはある程度のテンションが欠かせないのである。弦の太さを変えずにダウンチューニングにしたら、張力が下がって特に低音弦での音程感が著しく悪化するのも同じ理由だな。
 俗に「引きずるような」とか「沈み込むような」、あるいは「地を這うような」と言われるギブソンベースの音は要するに、音のハリとかクリアさに欠けてるって事実の換言に他ならないのである。まぁ、ネックが短い分、とても弾き易くはあるんだが・・・・・・。

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 それでも70年代くらいまでは有名ミュージシャンの中にもギブソンベースの愛用者がちょこちょこいた。有名なところではクリーム時代のジャック・ブルースはSG型の、悲劇的な最期を遂げたマウンテンのフェリックス・パパラルディはバイオリン型のEB、キッスのジーン・シモンズがグラバー、そぉいやスージー・クワトロはリッパーベース弾いてたっけ。あ!そぉいやスロビンググリッスルのジェネシス・P・オリッジもSGタイプをたまに弾いてたな。実にマイナーな話だが(笑)。

 それが今ではスッカリ見かけなくなったのは、やはりベースに求められる音色や役割が変わったからだろう。それまではベースなんてまぁ、低音域をズモモモ〜ッと地味に何となくカバーしてるだけでよかったのが、ハードロックが現れ、さらにはテクニック命!なプログレやフュージョンが台頭することで、より明るく、立ち上がりが鋭くトレブリーで、輪郭のクッキリした音でなくてはならなくなってきたのである。広い音域で主張して前に出る音が必要になったのだ。
 またファンクにルーツを持つスラップ(昔はチョッパーなんて呼んでた)奏法も、ビキビキバキバキとパーカッシヴで派手にヌケる高域がないとどうにもならない。ラリー・グラハムがもしギブソンベース弾いてたら、スラップに到れたかどうかははなはだ疑問だと思う。大体ギブソンだと、指で引っ掛けて弦を引っ張った瞬間にネック折れたり外れたりするかも知れんがな(※)。

 これらの音楽に対して本来のギブソンベースのブーミーな音はあまりにも不利だった。いずれにせよその凋落と、ベース弦の主流が倍音成分が少ないフラットワウンドから、明るい音色のラウンドワウンドに移ったのは軌を一にしているとおれは睨んでいる。

 ただ、ギブソンも指を咥えて状況を座視してたわけではない。それが証拠に70年代初頭、ギブソンの特徴っちゅうか欠点を克服すべく意欲的なモデルを出す。上述のリッパーとグラバーってヤツだ。どっちも形は同じだが、ピックアップが異なっており、後者はなんとピックアップの位置がスライド式に動かすことができる、っちゅう斬新なものだった。ビザーレギターのアイデアっぽくもあるけど(笑)。
 しかし、大ゴケした。あまりにデザインがダサかっただけでなく、死ぬほど重かったのだ。そりゃ全身みっちりメープルで、なおかつ胴が異様なまでに膨らんだタヌキの腹みたいな形なんだから推して知るべしだろう。とはいえ、音は従来のギブソンのものとは一線を画した明るくてハリのあるもので、いかにもモダンでコンテンポラリーなものだった・・・・・・が、そんな音なら敢えて無理にギブソン買わなくてもフェンダーがとっくの昔に実現してたのである。アタタタ。

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 今でもギブソンからベースは出されている。レスポール、SG型のEB改め単純にSG、そしてサンダーバードだ。もう、明るくてハリのある音を追及しようなんて気、さらさらなさそうである。そんなん楽器本体では出せなくともエフェクターやアンプシミュレータの進歩で欠点は大方カバーできるようにもなったから、あまり拘泥する必要もなくなったのだろう。見た目がいかついのが多いからパンクやヘビメタ系で使用するミュージシャンも少しづつ増えてきた。ご同慶の至りだ。

 しかし、残念ながらバカテクなミュージシャンの愛器として使われてる、といったケースはおれの知る限りない。まぁハッタリや見栄を切るための道具に留まってる、と言うといいすぎかもしれないが、楽器そのものの音が愛されて売れてるようには見えないのが実態だ。また、最近では特に珍しくもなくなった5弦・6弦といった多弦ベースや、よりクリアで輪郭のハッキリした低音を得るための36インチ等のスーパーロングスケールにも一向に手を出す気はなさそうである。ギターではロボットギターぢゃなんだと、未来的な機能を搭載した挑戦的っちゅうか実験的なのをリリースする一方で、ベースは明らかに超保守的なのである。どこまで行ってもギブソンベースがB級であることをメーカー自身、骨身に染みて分かってるのだろう。おそらくリッパーやグラバーみたいな冒険は二度としないに違いない。

 しかし、そんな不器用で幅が狭く、垢抜けない一群のベースが何だか妙に愛おしい。そりゃ〜、ギターも腰抜かすような高速フレーズやスラップビキバキには向かないかもしれないが、黙々と低音パートを彩りの少ない音色とルート主体のラインで埋めていくといった、まるで生活雑器や農耕道具のように野暮なんだけど堅実な感じ、それはそれで悪くないと思う。ある意味、それはベースの原初の姿だ。

 ・・・・・・誰かおれに恵んでくれないかな?6点のバリトーンスイッチ付きのEB−3かなんか。あのチョーだっせぇの。



※勢いでこう書いてしまったが、実はもう一人のスラップの雄、ルイス・ジョンソンはかつてはリッパーベース使ってビキビキバキバキ言わしてたんだな、これが(笑)。スンマセン。


こんなカスタム仕様のEBもあったんだな〜。意外にカッコええやんか。

http://www.vguitar.com/より

2010.10.30
----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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