「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
続・爆音出せりゃそれでよし!!


驚異・脅威のZT AMP"LUNCH BOX"。スタック用のスピーカーも同じサイズであります。

 もしあなたがギタリストやベーシストで、武道館やら東京ドームといった巨大ホールを満杯にできるだけのメジャーな人ならば、もはやアンプなんて要らない時代かも知れない。アンプシミュレーターの進化はとどまるところを知らず、そのレコーディングアウトと呼ばれる出力ジャックからシールド引いてPAに直結すれば良い。アンプのメーカーや特性、空気感、箱鳴り、マイク角度に至るまでフツーに聴いただけでは分からないくらいのレベルで完璧にシミュレートした音がいきなり、ウーファーやツイーターが会場の左右で山積になった巨大なPAセットから出せる。途中に介在したアンプもキャビネットもマイクも、もう何も要らない。ステレオアウトになってたらコーラスの揺れを会場一杯の幅で表現することも容易に可能だ。
 背中にアンプの壁がないのがどうにも心許なくて不安なら、ベニヤ板にマーシャル3段積みの壁の絵でも描いて、書き割りにして並べておけば気分も紛れるだろう。ライヴがなんだか時代劇や吉本新喜劇のセットみたいになってしまうが(笑)。ああ、ハリボテ拵えてもいいか。

 いやいや、巨大PAセットさえもう不要なのかも知れない。オーディエンスはイヤホンを会場のあちこちに設けられたプラグに挿す、あるいはワイヤレスで飛ばしてi−Phoneとかで受信することで音を聴くようにすれば、興味のない人にとっては不快な轟音でしかない音楽を、馬鹿デカい音で周囲に垂れ流すことなく聞かせることができてしまう。ステージでタイコ等の生楽器と歌う声だけがちょろっと聴こえる以外はウンともスンとも、何となくツクツクシャカシャカゆうてる音だけが秋の虫の音のように会場を包んでるライヴ・・・・・・ムッチャクチャ不気味だな〜(笑)。
 笑いごとではなく、すでにモニターはそんなんになってる。ちょっと前まではオーディエンスとアーティストの間にはレンタル屋の名前がステンシルで吹き付けられた、黒くて斜めになったモニタースピーカーが、靴跡なんかがベタベタついて並んでるのが常だったが、今はみんな耳掛け式のイヤホンでモニターするのが当たり前になった。

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 しかし世の中、そんな完璧なPAセットの備わった会場なんてまだまだ少ないし、マイナーな連中は数だけはワンサカいる。学園祭で教室で音を出すとか、ロクに機材の備わってないボロッちいライブハウスに出演するとかだと自分でアンプも持ち込まないといけない。そんなんだからまだまだアンプは必要だろうとは思われるが、そこにマーシャル3段積みを持ち込むのは大変だ。

 昔はバンドをやってある程度人気が出たりすると、それはそれは大変な難行苦行が強いられた。トランポが必要になるのである。トランポとは略語で、正しくはトランスポーター。要は移動用のクルマやね。これにメンバーだけでなく機材一式を積んで走ってかなくちゃなんない。やってる音楽がヘビメタなんかだともぉ大変。お約束の箪笥よりもデカいマーシャル3段積み、ドラムにしたってパンクやジャズなら簡素な3点セットでもカッコが付くが、何をするにも大仰なヘビメタではそぉゆうワケにも行かず巨大なツーバスとかが必要になるんで、いくら実用一点張りの広大な室内のワンボックスでもそれらを積み込むとほとんど人間の乗るスペースがなくなってしまう。それでも無理やり乗って、まるで身動きがとれないままヘロヘロになって次の会場目指すのである。およそバンドほど機動力のない集団はないな。

 しかし、ここに一つの新しい潮流がやって来た。デジタルアンプ、ってモンだ。

 何だ、またデジタルかよ〜、世の中デジタル化が進むのは味気ないのぉ〜、やっぱしアンプは真空管に限るやろ!?などとお嘆きのそこのアナタ!食わず嫌いは止して、一度試してみたらいい。音の良し悪し云々以前に、異常なまでの出力の大きさとサイズのアンバランスにまずは驚くはずだ。何がデジタルなのか?っちゅうと増幅させる部分がデジタルなのである。これによって巨大な整流器や変圧器ってな部品までもが不要になって、ものごっつ小さなサイズで信じられないくらいのパワーの製品が出せるようになったのだ。

 冒頭に画像を載せた「ランチボックス」ってアンプ、大きさはノートPCの中でも小ぶりな10.4インチ画面のものを3台くらい重ねたほどっちゅうか、少年ジャンプとかを4冊ほど重ねたっちゅうか、とにかくそれくらいの大きさである。スピーカーも15cmくらいのが1個ついてるだけで、サイズ的には従来の家庭用ミニアンプの範疇だ。ホント、弁当箱の名前は伊達ではない。重さも4キロちょっと。恐らくもっと軽くはできるんだろうけど、それだとギャーンと鳴らした瞬間に自身の音圧でスッ飛んでったり転がったりしてまう(笑)んでデッドウェイトを掛けてある・・・・・・だって、出力は200Wなんだもん。
 200W!!これは件のマーシャル3段積み2セットと数値的には同じである。単純に音のデカさ(デシベル)とワット数は正比例しないとはいえ(例えば真空管アンプは5Wくらいでもかなり大きな音がするし、スピーカーの数が多いほど大きく聞こえる)、やっぱそれなりにニアな関係にあるのは間違いなく、概ねワット数が大きいほど大きな音がすると思って間違いない。実際、ボリューム上げるとお笑いみたいなサイズから常人では耐えられないくらいの轟音が出せる。

 このデジタル技術によるちっちゃい化け物はベースアンプの世界では今や半ば常識になりつつある。残念なことにベースの重低音にはどうしたってある程度のスピーカー口径が必要らしく、今ある超小型デジタルベースアンプの多くはヘッド部分だけで、ランチボックスのようなバカバカしいまでに小さいコンボモデルはまだない。しかしそれでもPHIL JONESだとかMARKBASSなんてトコから出てるのは、往年の田舎の仏壇みたいな大きさのアンプからすれば十二分に小さい。そいでもってサイズからは想像の付かない300Wだ500Wだって馬力である。主流のヘッドアンプだけのモデルだとエフェクターに毛の生えたくらいの大きさからせいぜい1DINサイズで1000ワット(!?)なんてーのがゴロゴロある。

 つまり今は楽器とエフェクター少々、そしてそれらの小型アンプを年寄りの買い物カートみたいな引っ張り台車にくくりつければ移動はじぇんじぇんOKなのだ。可哀そうなのはドラムくらいか。なんぼスカスカの3点セットでもそれなりに嵩張るし、ミニドラムではいささかまともなライブにはしんどい。まぁ、ヘビメタはテンコ盛りにゴテゴテの見栄えと様式美がすべてだから、どれだけ時代が変わっても機材ギッシリでトランポなんやろな〜(笑)。

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 でも、よくよく考えたらデジタルアンプ化の波は別にギターやベースにのみ押し寄せてるワケではない。PA用のアンプにおいても超高出力、超小型化は急速に進んでるし、ミキサー卓だってそれこそ小さなハコでやる程度なら8チャンネルもあれば十分なワケで、それだと雑誌程度の大きさのが今はものすごく安い値段で買えてしまう。インストバンドならともかく、ボーカルの声を響かせるためにはどしたって最低限のPAは必要なんだからいっそバンドでPAセット一式買っちゃう、ってのもありだろう。誰かが脱退したり、解散したりした時、所有権を巡って揉めないようにさえしておけば。

 ・・・・・・となるとメジャーもマイナーもへちゃちゃもほちょちょも関係なく、もうメンバー各自の楽器専用アンプなんて要らない、って結論に至っちゃう。ステージは実にスッキリ広々とするだろう。
 元のアンプとマイクやラインでPA通した分との音量差に悩むことも無くなる。目立ちたがりのギターが途中で勝手にアンプのボリューム吊り上げて、イラッと来たベースが負けじと吊り上げ、段々音量合戦になってドラムとボーカルが置いてきぼりのバランス無茶苦茶状態になることは良く起きがちな話だが、ミキサーで音量固めてしまえば(ついでにリミッターでも掛けとけば)起きようがない。最初にタイコとボーカルのバランス取ってベース乗っけて、ギターとかキーボード乗っけて、チョコチョコっとイコライザでそれぞれの強調する帯域を分けて音の分離が良くなるように調整すれば完了、だ。

 10年以内くらいにそんな時代が間違いなく到来すると思われる。しかし、ぶっちゃけちょと寂しい。何本ものシールドが這えずり回り、もつれ合って、赤やら青やらいろんな機器類のランプが明滅し、アンプのパンチグリルの奥に並んだ真空管が薄ぼんやりと赤熱しているステージを見てきた者からすると、最低限のストンプペダルだけが足許にチョコッとあるだけなんて、どしたってガランドウで無機質で殺風景だ。

 おそらくこの時の寂しさは見た目の寂しさでだけではなく、ノスタルジーに近いモンだろう。機器類のデジタル化はきっと、ステージ風景までデジタル化してしまうのである。

 「で、オマエはどうなんだよ!?」と問われるなら、おれはタイトル通り、爆音出せりゃ〜どうだっていい、っちゅうのが結局は答えだ。まぁ、元々の性格的にはチマチマしたものがコチャコチャある、っちゅうシチュエーションが大好きなんだけど、いろんな小物が多いとどうしても悪いクセが鎌首をもたげて、1つ1つに拘ってしまう。しかし一方で猛烈なめんどくさがりでもあるので、途中で嫌気がさして自暴自棄になってセッティングを放棄してしまう公算が大だ。
 その点PA直結だと、途中に介在するものがなくてシンプルだからプリセットの沢山入ったエフェクターとシミュレータでサササッと音決めちまえば、後はお任せにできてさほど面倒くさくない。セレッションのスピーカーがどうとか、ゼンハイザーのマイクがこぉとか、一切関係なし。とにかくラクなのである。

 案外このデジタル化の波は、ヲタクな蘊蓄と能書き、思い入ればかりの閉塞状況に陥ってすっかり頭でっかちの虚弱児童みたいになったロックってモンに、お手軽に轟音と爆音を提供する・・・・・・平たくゆうと「知るかぁ!ヴォケッ!ドカーンといてコマシたるんぢゃわい!」的なノリを与える、っちゅう一点で大きく風穴開ける可能性を秘めてるのかも知れない。


BOSEから出てる簡易PA「L1」は何とこれで500人規模まで対応可能。
ただし、残念ながら今のところ、1つの楽器に1台必要なんで従来型のアンプに近い。

2010.10.17

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