「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
トリオ


ラッシュの往年のライブ。ゲディ・リーがベース弾きながら歌いつつ、さらにフットシンセ踏んでるのが分かる。
メンバー増やす、ってコトは考えなかったんでしょうかね?(笑)


 トリオ編成のバンド、つまりメンツが3人ぽっきりのスリーピースバンドが大好きだ。

 古くはクリーム、ジミヘン&エクスペリエンス、BB&Aことベック・ボガード&アピス、先日取り上げたロリー・ギャラガー(名演はトリオの時が多い)、キーボードの山の元祖なELP、史上最強のトリオだったポリスはもちろんのこと、何だかトリオの本道から外れてる気もするものの、メンバー全員が驚嘆すべき食い倒れ太郎状態のカナダの雄・ラッシュもやっぱ好きだし、パンクとヘビメタをボーダレスにした漢なモーターヘッド、みんな仲良く40年、愛すべきテキサスの髭親父軍団・ZZ−TOP、ジャムやその名もトリオのスカスカ感だって好きだった。日本でも大御所と言えるジョニルチャことピンク・クラウド、近いトコでは変拍子パンクの元祖的存在のヴァンパイア(いつでもライブの1曲目が7拍子で、「わったっしはヴァンパイア♪わったっしはパラノイア♪わったっしは吸血鬼♪」って始まるんだわ、これが)や少年ナイフ、まだヨースコーがベース弾きながら歌ってた時代のコブラなんかもどんぐりの背比べっちゅうか、十把一絡げ的なハードコア/Oi!の中では抽んでた存在に思えて気に入ってた。

 ・・・・・・要は3人だったら大概好きになるのである。妙な無節操もあったもんだ。唯一、YMOはそれほどでもなかったが(笑)。

 ともあれこれよりメンバーが少ないととかくやはり不足感が先に立ってしまって、シーケンサーだとかリズムボックスだとか、今ならコンピュータだとか機械の力を借りないとどうにもスカスカ過ぎて味気ない音になってしまう(もちろんルインズとかの恐るべき例外はあるが)。この点でトリオ編成とは人力で演奏するバンドがバンドとして成り立つ最小単位ではないかと思う。だからとてもミニマムなのである・・・・・・ラッシュは別として(笑)。
 そしてそのミニマムであることが無駄のなさと独特の緊張感を生む。3人でできることはやっぱ4人には負ける・・・・・・ラッシュは別として(笑)。だからこそ、1つ1つのやることが活きてくるワケだ。

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 高校生のときに初めて組んだバンドもトリオ編成だった。1コ下のベース兼キーボード兼ヴォーカルの可愛いオネーチャンを全面に出して、おれはギター兼ヴォーカルで足許に借り物のシンセ置いてフットベース代わりにしてた・・・・・・っちゅうコトは以前書いたな。後はキーボード兼ドラムのタメ歳のヤツの3人。まぁ当時はポリスが大流行だったのでそのコピーが大半だったが、無理矢理ジェネシスやらのナンバーも入れるもんだから大変で手が足りない。仕方ないからドラムレスなんてぇ事態にも陥ってた。つくづくアホでしたガキでしたタコでした、と思う。3人でリズム隊をキッチリ確保できる曲を選ぶなり、もっとアレンジするなりしてりゃぁ良かったのである。

 何でトリオ編成にそんなに拘るようになったかとつらつら思い返せば、そもそものキッカケは周囲がいかにも高校生にありがちな、リードギターにサイドギター、キーボードにベース、ドラム、ヴォーカルみたいな5人も6人もゾロゾロと仲良く連れ立ってやるスタイルが何とも野暮ったく思えて気に喰わなかったコトにある。ダサさが癇に障った、と言っても良い。
 5人編成はハードロックやプログレの基本中の基本と言えるのだけど、やっぱポリス聴いたことの影響が大きかったんだろう、テンコ盛りで大仰な音の壁より、いかに空間を最低限の音で、しかし広がりを持って埋めて行くかの方がソリッドでタイトに思えて来たのだ。思えば時を同じくしてタイコのシュミもシンプルな3点セット(ただし金物だけ沢山は譲れない、笑)みたいなのを求めるようになっていた。今だから告白するが、それまではデカい2バスで6インチから16インチまでタムが8つも9つも並んだようなんがエエと思ってたのだ。どうか笑ってやってください。あ〜恥ずかし!!

 しかし、トリオは最小限だけに一切の誤魔化しが効かない。さっき「1つ1つのやることが活きてくる」などと書いたが、逆にチョンボはとにかく目立つ。だから技術的には沢山メンツが揃ってるよりよっぽど難しい。みんなが弾き倒せばエエ、っちゅうワケでもなく間合いみたいなのもひじょうに重要になってくる・・・・・・ラッシュは別として(笑)。
 メンバー全員が息を合わせて一生懸命やらないと上手いこと行かないのは当然だが、かといってムリムリと肩に力が入ってても3人らしさが出ないだけでなくたどたどしい。おれは今はとてもヘタなのだけれど、昔は、っちゅうとこれがもっとヘタだった。絶望的なまでに(笑)。他の連中も似たようなもん。
 そんなんだから結果的におれの画策した3人バンドはただ単に音数の不足した、それでいてミスだらけでノリもドッタラペッタラしたまことに情けない代物と成り果てたのだった。

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 ドラムがヴォーカルなのはレアケースなので割愛するとして、3人バンドではギターがヴォーカル取るか、ベースがヴォーカル取るかで随分性格が変わってくる。やはりギター弾きながら歌うスタイルだとギターはオブリガード入れるくらいであまり凝ったことができない。各楽器のソロの応酬を前面に打ち出すならともかく、歌モノでトリオやるならベース兼ヴォーカルの方がギターが自由に動き回れ、中〜高音域で歌以外の仕掛けやヒネリを加えやすく融通が利く。だから、全体としてはカラフルになる傾向が強い・・・・・・まぁ、いずれにせよ調性感はヴォーカルに依存することが多いので、音痴ぢゃどぉにもこぉにもならんのはギターがヴォーカルだろうがベースがヴォーカルだろうが一緒だけどね(笑)。

 ・・・・・・ってなことをこれまたつらつら考えながら、大学生になったおれはバンドを再び画策してたのだが、当たり前のように困ったことが起きた。おれがギターで別にヴォーカルがいて、んでもってベース・・・・・・となると、あとはドラムで必然的にメンツは4人になる。ヴォーカルはギターを提げてないとどうにも調子が出ないっちゅうからギターは2本だ。これだとフツーにギターガチャチャやってちゃトリオ編成の「いい感じにスカスカの音」にはならない。いっそダサさの極致のツインリードでもやろうってか(笑)。
 4人でトリオな音というのは簡単そうで意外に難しいのである。ってーか、このままだとタンジュンにおれが浮いてまうやんか(笑)。

 解決のヒントは、当時流行り始めてたシーケンサの導入だった。その嚆矢は70年代半ば、THE WHOがライヴに導入したあたりではないかと思うが、80年代を迎えてそれこそ泥臭さが身上だったZZ−TOPまでがこれを大フューチャーして、ちょっと垢抜けた路線を打ち出したりしていた。しかし買う金はないし、大体シーケンサ入れてしもたらおれはさらにすることがなくなってしまう。何もしないでウロウロしてるだけのメンバー、っちゅうのもネタとしては面白いとは思うが、やっぱ自分的にはいくら何でも間が持たない・・・・・・ならば、ギターの一本をシーケンサ代わりにして、ギターらしくなくしてもたらエエんちゃうやろか?と。
 もちろんその時、ディシプリン期クリムゾンの正確無比で無表情な高速シーケンスパターンや、ポリスの名曲「孤独のメッセージ」での強烈にワイドストレッチなマイナー9thの分解アルペジオパターンなんかが頭にあったのは言うまでもない。それに思えばおれはタメとかそぉゆうのがからきしダメで、ミニマルで機械的な反復パターンが元々好きなのだ。

 おれはそれまでの1度5度8度のパワーコード主体の弾き方を止めた。んでもって電気仕掛けのソロバンみたいなちゃっちいカシオトーンのステップメモリーで拵えてたシーケンスパターンをネチネチとギターでコピーし直して、ベースのフレーズ(不思議とこっちの方がアイデアが浮かぶのだ)と合体させながら曲に膨らませてった。どっちも断片ばっかなものの、数だけは相当出来てたからいくらでも曲はできた。
 ギターがヴォーカルだからベースラインは少々音数増やしても大丈夫、逆にギターはギャリギャリとカッティングをたまに入れるだけでちょうどいい感じ。あとはちょっとショボいが人力シーケンサがピロピロと鳴り続ける・・・・・・ってな、当時は我田引水で悦に入りつつも、冷静に考えるとひねくれてけったいな路線の曲が持ちネタの2/3くらいを占めてたと思う。
 出来上がったのはなるほど他にあまり類例のない音ではあったが、でも、おれとしてはトリオ編成的な音がやりたい、っちゅうだけで、別にギターでシーケンスパターンを弾きまくることはどうでも良かった。そりゃナンボ人力には味があるとはいえ、俯いてひたすら反復パターンを弾き続けるのはメチャクチャしんどいんだもん。機材が進歩して安くなった今、同じことするなら間違いなく機械にやらせるだろうな〜。おらぁスイッチ押すだけ、クリックするだけ、ハイ皆さん頑張ってね!みたいな(笑)。

 いずれにせよいつもの悪いクセで、新味を求めるあまり、技術論的な部分で自縄自縛な観念論に陥ってたワケだ。

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 今は優れたトリオ編成のバンドは日本に多いような気がする。思いつくままテキトーに列挙してもブランキー・ジェット・シティ、人間椅子、Hi−STANDARD、ギターウルフ、惜しくも解散してしまったゆらゆら帝国、ブサ男キャラ全開なサンボマスター、これまたヴィジュアル的に双璧とも言える(笑)イースタンユース、セールスで金字塔を打ち立てたモンゴル800、GO!GO!7188、同じくガールズなチャットモンチー、今は2人になったが基本はスリーピースなくるり、凛として時雨、トライセラトップス、レミオロメン・・・・・・etcetc、メジャー/マイナー問わずいくらでも出てくる。

 そのほとんどがパンキッシュで荒削りな疾走感を押し出した路線なのはまぁご愛嬌としても、多いどころかちょと世の中に溢れすぎとるんちゃうんかい!?ってツッコミかましたくなるほど、実はトリオ編成、わが国では大流行してるのである。とてもいい傾向だと思う。

 トリオとはバンドの基本にして、そして究極の形だ。


もはや永平寺の修行僧みたいな(笑)EASTERN YOUTH。
タンジュンなメロコアの枠に収まらない情念が感じられて好き。タイコの組み方のセンスもいい。


2010.08.15

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