「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
我、B級ギターを偏愛す(Ⅶ)・・・・・・Danelectroの巻


再生産モノのLonghorn

 今回はB級の帝王・元祖ビザーレとでも言うべきダンエレクトロについてだ・・・・・・と、前フリなしで素っ気無く始めてみよう。

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 「B級の帝王」とはかなり矛盾した表現なんだが、「ダノ」のニックネームまで持つこの愛すべきギターに少しでも触れたことがある人なら、おれの言いたいことは分かってもらえると思う。

 ダンエレクトロ(以降「ダノ」)は元々50年代から60年代にかけてアメリカで作られた。
 ギブソン/フェンダーよりも安くて大衆向けのギターを、ってことでコストダウンが最優先されており、そのため合理的を通り越してとんでもない構造になっている。ボディは建材で使われるハードボードを張り合わたセミアコ・・・・・・っちゅうと聞こえはいいが、要は単なるがらんどう、ボディサイトのバインディングも建材用のテープ、加工を最小限に抑えるためボリュームとトーンが同軸になったノブ、ウソかマコトか口紅の筒を流用したピックアップ、そのキャビティを単純化するために裏からネジ止めとなったマウント方法・・・・・・ユニークというよりはチャチの極み、楽器製作のイデオムを無視した手段を選ばない過激な工法は、当初「板をネジで止めただけ」と揶揄されたフェンダーなんかも遥かに凌いでいた。
 一方で最初からちゃんとネックにトラスロッドが組み込まれてたり、指板のローズウッドに意外に高質なもの(ハカランダ)が使われてたりする。安さ一辺倒、ってワケでは必ずしもなかったようである。そうそう、先進性もあって、エレクトリックの多弦ベースやバリトンギターの嚆矢はここである。

 このオリジナルダノ、保存状態の良いのが少ないせいもあって(安くて通販で売ったりするもんで、子供へのプレゼントとかそんな用途に大売れし、乱暴に扱われてすぐに棄てられたりしたのだ)、今ではけっこうなプレミアがついていっちょ前にヴィンテージ扱いされている。おいそれとは手を出せない。おれがマトモに触ったことがあるのはもっぱら90年代以降にリバイバル発売されたモノだ。

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 本題の俗に「リイシュー」と呼ばれるものについて語る前に、少々脱線するが、以前も取り上げた謎のダブルネックについて今一度、詳細に触れておきたい。こいつだけはホント、買いそびれたことを深く深く後悔してる。

 それを見かけたのはバンドやってた頃だから、80年代半ばである。場所は大阪「なんばシティ」の南の端の方にある「新星堂ロックイン」っちゅう大きな店だった。ここは楽器屋兼レコード屋で、マイナーな輸入版はずいぶんここのお世話になったものだ。一方、楽器の方はそれほど面白い品揃えではなかったが、まぁ定番の国産ギターを中心に数は沢山揃ってた。
 楽器屋の常として、入口に近いところには初心者用の格安ギターを並べる。当時はフレッシャー等の国産廉価メーカーがコリアンメイドの有象無象のコピー紛いに駆逐され、コーナーを占有され始めてたころだった。そこにそいつは鎮座していた。衝撃的な形だった。

 ダノにギターリンとかロングホーンと呼ばれる、恐ろしいことに31フレットまであるモデルがあるが、その12弦と6弦ダブルネックなのである。元は竪琴の形を模したと言われるが、ただの温泉マークにしか見えない。トリプルネックならもう完全に「」だ(笑)。ボディーカラーはちょっとクリーム色で周囲がオレンジにぼかされたダノ特有の色。値段は忘れもしない39,800円。ブランド名は正しく「Danelectro」と書いてあったかどうかぶっちゃけ自信がない。何せ「Rickenbacker」そっくりに「Rock’nroller」とか「Rockerlennon」とか書いたようなパチモンが平気で出回ってた時代だ。ただ、コントロールはダノの特徴である同軸ポットになってたし、ピックアップも件のリップスティックがついてた。ヘッドも特徴あるコークボトルだったし、糸巻きもツマミが白いプラスチックの安っぽいのだった。だからコピー度はかなり高かった。

 その奇妙奇天烈な格好に一目惚れして早速試し弾き。ビックリするほど軽い。ダブルネックのクセに当時所有してたレスポールのコピーより軽く感じた。そいでもって音はペケペケのペナペナでパコパコ・・・・・・要するにロックギターに求められる芯も張りも太さもサスティンも、何も備わってない音。要は安物の音(笑)。オマケに何だかチューニングも怪しい。
 しかしそんなことはどうでも良かった。全曲これでライブはキツいだろうが、色物でイッパツかますのにこれほど映えるギターはないだろう。

 おれはそのとき持ち合わせがなく手付けが打てず、家に戻って何とか金策して翌日行ったら、もうそれは売れてしまっていた。それっきり見かけない。ダノの正式な再生産は90年代に入ってからだから、おそらくは韓国エレキの何でもあり・やったもん勝ちの黎明期にゲリラ的に小ロット作られたモノではないかと推測している。あるいは当時、ダノの他モデルのコピーを見た記憶はないし、本家にロングホーンのダブルネックは存在しないから、ひょっとしたらダノの再生産(これも韓国製なんですわ)を始める前にありそでなさそな型を試作したのが市中に流れた可能性もある。

 とにかくすべては謎のままだ。悔しくてずいぶんその後も探したのだけど、見かけたのは後にも先にもこの時だけ。ネットで調べても見つからない。

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 ・・・・・・脱線が過ぎた。本物のダノについてだ。

 再生産もオリジナルもうるさいマニアはその違いについてゴチャゴチャ言ってるけど、安物で安物な音しかしないギター、っちゅう点では実はそう大差なかったりする(笑)。どだい基本構造が上に列挙した通りなんだから、そぉゆう音しかしないのは理の当然だろう。

 もう10年以上前になるだろうか、突如楽器屋の店頭にダンエレクトロの新品が大量に並び始めた。一等最初に出たのはジミーペイジが「カシミール」をライヴでやるときに弾いてるタイプだったと思う。ダノの中ではロングホーンと並んでポピュラーな型だ。値段はたしかイチキュッパだったと思う。
 安さに釣られたのとB級大好きの血が騒いで、見るからに安っぽいルックスのそれをおれは手に取ってみた。温泉マークを試奏して以来だ。中身がらんどうだけあってやっぱし軽い。ストラップ掛けたワケではないのでヘッド落ち(ネック側が重くてバランスが悪く、だんだんヘッドが下にズリ落ちていく現象)の有無は分からなかったものの、なによりストラップピンがものすごく安っぽい樹脂製なのがそもそもおっかない。良く見るとブリッジがローズウッドの破片みたいなモンでできている。店員に頼んでアンプに通してみるとやっぱりペケペケのペナペナでパコパコ。

 店員が揉み手のえびす顔で訊いて来る。

 ------どうですか?
 ------いや~、ま~、スゴいギターですよね~・・・・・・チャンと音が出る(笑)。
 ------でしょう!見た目よりはマトモです。(件のチャチなブリッジを指差しながら)これで意外とオクターヴも正確なんですよ。
 ------(3弦12フレットと1弦15フレットを同時に鳴らしてみて)あ!ホンマや!合ってますね~。
 ------そうなんですよ。これで良く合うなと思うんですけど、大体どれも合ってます。
 ------(人差し指と薬指で適当にパワーコードを弾いてみて)ラフでラウドな感じは悪くないっすね。ファズ似合いそう。
 ------そう、これの歪み方は他にはないです。お客さん、どうですか!?
 ------(ファズは何つないでもジージーゆうやろうが)んん~・・・・・・いいっすね~、これ。

 ・・・・・・って、結局おれは買わなかった。ものすごく個性的だし魅力的なのは良く分かる。どんな高価なギターをもってしてもこの音は逆に出そうたって出せないだろう。いかにも安物なのに過去の著名なギタリスト達に可愛がられたのかが何となく分かった気もした。しかし、当時は今ほど暮らし向きもラクではなく、ここまでクセの強いギターを買うのは正直かなりの勇気が要ったのだ。それにあの温泉マークを一度でも体験した身としては、黒くてフツーのダブルカッタウェイのそれはいささか凡庸に思えたのである。

 それから今に至るまで、かなりの数のダノをおれは店頭で試した。結局欲しいんやんか(笑)。ロングホーンや何か五平餅を叩きつけたようなヘンなカッコのヤツ、ベースも試した・・・・・・全部音は変わらなかった。ペケペケのペナペナでパコパコ。当たり前だ、形こそ違え基本構造もピックアップもみんな一緒なのだから大きな違いの出ようはずがない。そのうち、いくら何でもローズウッドの破片ぢゃマズいってコトになったんだろうか、ブリッジはマトモな金属の各弦が独立したものに改良されたが、それでも根本的な部分で音は何も変わらない。

 しかし不思議な魅力があるのは事実だ。子供の落書きみたいな大雑把なフォルムもチープな色合いも魅力的だし、エレキギターの原初の音とでも言えばよいのだろうか・・・・・・といっても、国産コピーモデル初めて買ったときの感動なんてもんではない。そんなん上等過ぎる(笑)。安いフォークギターに、なけなしの金をはたいてシールみたいな安いコンタクトマイクつけたのをアンプに突っ込んで、ピーピーキーキー鳴るハウリングもお構いなしにガチャーンとコードを弾いたときの感動、アレだ。アレが甦るようなそんな音だ。なるほどペケペケのペナペナでパコパコなんだけど、今時クソ安いパチモンでさえ洗練され水準が上がってスッカリ喪われてしまったエレキギターのパワーや生々しさ、下品さが確かにそこにはある。実に良く分かる。

 ・・・・・・それでも、チキンなおれは未だ買うだけの勇気が出ないままである。

 Oh!Dano! I Want You!
 誰かおれの背中を押してくださいな。
 たぶん、一押しですから・・・・・・。


現行品でもダブルネックはあるんだけどね・・・・・・。

2009.11.27

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