「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
続・たかがピック、されどピック


これが関西では誰でも知ってる「黄金糖」。要は鼈甲飴の一種です。

島村楽器オリジナルのウルテムピック。実際はもっと黄色みが強くて似てる。

 ピック、とはギターを弾く小さな板状のものだ・・・・・・なーんて、前回の出だしと同じなんて横着なコトしちゃダメだよね(笑)。

 ってなワケで、今回は前回と切り口を変えて、近々の話に加えて素材や形状に関する私見をひとくされ書いてみようと思う。ただし、おれはハッキシ言ってギターが上手な方ではない。謙遜してるのではない。ホントにヘタなのである。だから、あくまでこれから述べることには巧い人からすれば噴飯ものの内容も多々あるだろう、ってコトを最初にお断りしておく。どうか笑ってお許しを。

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 まずは形について。

 ちょっと丸みを帯びた所謂「オニギリピック」と呼ばれる三角形を基本に、ティアドロップだのオーバルだのジャズだのペンタゴンだの、と色んな形が存在するのだけど、最近は形状よりも弦が直接触れる先端部分の角度と尖り方が大事なんぢゃないか?って気がして来てる。

 弦に対して完全に平行にピックの面を当てることってそうない。通常、弦を弾くときはちょっと斜めにピックは当たってるハズだ。この傾向は肩に力の入りがちな初心者ほど顕著だし、少し前までは速弾きるには弦に対して斜めに当てろ、みたいに言われてたモンだからこのように弾き倒す人はひじょうに多い。すぐにピックが削れてしまう「ゴリゴリピッキング」と呼ばれるスタイルだ。
 さて、この際、昔ながらのオニギリピックでは先っぽが鈍角な分、ピックのエッヂは弦に対して滑るように当たる。だから少々角度をキツめに当てても滑らかな当たりになる。つまり、ギクシャク感が少ない。このことが握りやすさを含めてオニギリピックが初心者向きと言われる所以ではないかと思う。

 ところが、ある程度上達してピックを正確に弦に平行にヒットさせることができるようになると、先端が鈍角であればあるほど、弦に引っ掛かる面積は大きくなる。大きくなるってコトは抵抗が大きくなる、ってコトだからキチンと弾き抜くにはそれなりに力が必要になる。
 もちろんこれは一長一短で、それだけ力強く弦を弾くことができるという捉え方もできるが、それだけ鈍重になる、という風にも考えられる。速弾きにオニギリが向かないと言われるけれど、それはある程度上達して弦に平行なピッキングのできる人にのみ当てはまる言葉なのかも知れない。

 ずいぶん長い間、普通のオニギリやらちょっとだけ尖ったデルリンの三角ピックをおれは使って来て、1昨年くらいからティアドロップに乗り換えたことを前回書いた。これは、おにぎりに較べると随分尖ってる。本来、大抵が曲線で形作られるピックに「何度」と言っても始まらないけれど、感覚的には75度くらいに見える。まぁ、昔に較べたらちったぁおれも弦に対して平行にピックを当てることができるようになったのかも知れない。そう言えば、以前は弾いてる時は手の甲が見えてたのが、最近は掌が見えるように右手を構えるようになったから(気持ち的には大袈裟に言うと肘を曲げてギターを下から抱え込むような感じ)、何か意識しないうちに変わったんだろう。

 ちなみに、先端の角度と同じことはピックのエッヂの丸め方にも言える。板をポンと打ち抜いただけのようにピックの縁が角張っていると、弦に斜めに当たった時に引っ掛かり感があるが、ナイフの刃のように薄くしてあると弦に対して滑りが良い。これも上達して弦に平行にピックを当てることができるようになるとどっちでも良くなって来る。縁の角が立ったジムダンロップのトーテックスピックなんかで試してみると分かりやすい。

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 次は厚みについて。

 ・・・・・・と書いといて矛盾しちゃうんだけど、ピックの厚みそのものは極端でなければ何だっていいことのように最近は思ってる。では大切なのは硬さか?それもちょっと違う。 厳密に言うと「しなり」みたいなもののように思うけど、それにしたってピック持つ手の力の入れ具合でどうにでもなるような気もする。まぁ、いずれにせよ弾いた後の戻り方の素早さみたいなものは大事かも知れないが。
 元々、ある程度硬めでしなりの少ない方が好きだったけれども、エクストラヘヴィとかの余りにガチガチなのはどうにも力任せな感じがするのと疲れるので好きになれない。あと、分厚過ぎると却って指の間でズレやすくなって握りにくく感じる。

 ところで、デュガンとかの石や角を使ったピックだと厚さが5mmくらいもある。エッヂ部分は若干薄くなってるとはいえ、それでも一般的なものに較べるとムチャクチャに分厚い。殆どもう碁石でピッキングするようなモンだ。弦と弦の間隔はブリッジ付近でおよそ1cmだから、弾く時はさほど広くもない隙間をピックが埋めるような格好になる。細かいフレーズだと厚みの分だけ手首や指の動きが大きくならざるを得ないんで、理屈から言えばこれはとても弾きにくい・・・・・・っちゅうか、1音1音をハッキリ弾こうとすればするほど指板面に対してかなりの角度を持って、いわば「ピックを押し込むような」弾き方にどうしてもなってしまう。ベースで言えばスラップみたいになるワケだ。
 思うに、分厚さゆえの硬さから、っちゅうのもそりゃあるだろうが、むしろ厚み自体の制約で自ずとピッキングの方向が通常とは変わってくることで力強くアタッキーな音になるのではなかろうか。人によりけりだろうけど。

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 最後に素材。

 よく「鼈甲は最高だ」と言われる。おれも大好きだ。表面はツルッとしてるのに不思議に指に吸いつくように馴染む感覚、摩耗の少なさ、独特のクリスピーで張りのある音、タッチの良さ・・・・・・と長所を挙げだすとキリがない。しかし、値段がベラボウに高い。目下のところワシントン条約によって素材自体がもう手に入らないので希少価値が加わってるのだ。職人の数も減る一方らしい。タイマイ養殖の研究はされてるものの未だ成功していないので、今後はますますマイナーな存在になって行くのだろう。それにたとえ養殖に成功したところで、甲羅の縁のホンの一部分を採取するだけのためにカメさんの命が奪われるのもなんだかなぁ〜、って気がする。やはりここは人工素材を使ってくしかない。

 昔は人工素材、っちゅうたかてセルロイドとナイロンくらいのもんだった。それが今はどうだ。デルリン、ポリアセタール、レクサン、カーボンナイロン、セルテックス、ウルテックス、金属と千差万別である。それぞれに特性があるが、目下のおれのお気に入りはウルテムっちゅう素材、それも有名なクレイトンに使われてる不透明なものではなく、島村楽器やローデンから出てる、まるで黄金糖(昔から大阪ではポピュラーな飴)みたいに透明なのが使いやすい・・・・・・とゆうかこいつはかなり鼈甲に肉薄していると思う。大体、鼈甲って透明でまっ黄色なのが一番の上物とされるのだから、よほど世間に流通してる茶色まだらの本物よりウルテムの方が見た目的にも上等なのだ(笑)。

 一方で、おれは鼈甲の対極とも言えるナイロンのモッタリ感も大好きだ。何せ柔らかいからアタックに乏しい、籠り気味のポコポコした音が身上で、ひたすらメロー。低音側は独特のペチンペチンした弾き心地になる。ただ、しなりに対する反発も乏しいので、フレーズが速くなって来ると、何となくピックが弦にまとわりついてるような、いわば鈍重な感覚がある。ピックを弦にヒットさせてもワンテンポ遅れて弾かれるような、弾いた後もピックが振り抜けてないような感じ、と言えば分かっていただけるだろうか。よく「弦離れが良い/悪い」などと言われるけど、弦離れが悪い、ってこぉゆうことを言うのだろう。

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 冷静に考えると「弦を弾く」、ただそれだけのためによくもまぁこんなにも沢山の種類ができたものだ。そしておれも、バカみたいにそれに付き合って試したモンだと思う。

 そんなこんなでまたもや愛用ピックは変わって、今は島村楽器オリジナルのウルテム製のジャズ型ピックを使ってる。値段はホンの少し高いが、摩耗しにくいからコストパフォーマンスは悪くない。そうして使い始めて3ヶ月ほど経ったある日、ふと思い立って久しぶりに昔ながらのセルロイドのオニギリのハードを手に取って弾いてみた。
 そしたら何のこっちゃない。多少の違和感はあるものの、ごくフツーに弾けたのだった。

 ・・・・・・少し寂しい気がした。

2009.03.07

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