「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
そこには敬意があった・・・・・・国産ドンズバコピーへの頌歌


本家もコシ抜かす出来栄えの81年製グレコ。

www.thegearpage.net/より
 正直、昨今のジャパンヴィンテージとか言われる、「とにかく昔の国産エレキはなんでも良かったぜ!」的な判断停止に陥ったムーブメント、およびそれに伴う中古相場の高騰にはかなり辟易している。そりゃムック本見るとどれもこれも良かったですね〜、みたく書いてある。でも、それは出版社としてはおそらく色んな付き合いやしがらみがあったりして、そこはまぁ大人の姿勢を見せて、ってな感じで悪口言ってないだけのことだ。なのにそれを真に受けるだけでなく、あれこれ訳知り顔に言うのは如何なものか、と思ってしまう。
 たとえばVIVAの二光の通販のオリジナルブランド「トムソン」や「トーマス(←きかんしゃかよ!?笑)」なんて、少なくとも中学〜高校当時の周囲の友人が買った数本をいじくりまわした実感からすると、粗悪品と断定して差し支えない代物だった。また、一般ブランドでも低い価格帯のものは、そりゃぁ国産贔屓のおれとしては出来ることなら褒めてあげたいけど、やっぱまぁそれなりのデキでしかなかった。

 盲目的なクオリティ信仰はそろそろ止めた方がいいと思うし、あの時代にちょうどギターにハマってたおれたちの世代が、いささか過熱気味な今の状況に関して、決してそんなこたぁないよ、と否定的に発信することはそれなりに意味があるのではないか?とさえ最近では思ってる。

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 のっけから辛口に書き始めたのはいつものテであるからしてご容赦願いたいと思う。

 今日は、特定のブランドではなく、ジャパンヴィンテージと呼ばれる往年の国産ギター、とりわけドンズバコピー(デッドコピー、クローン、レプリカ)に対する自分なりの意見である。記憶違いや思い込みが多々あるだろうけど、その辺は軽く読み流して欲しい。

 国産コピーモデルがどれだけリアルにコピーされてたか----所謂コピー度の高さ----について、おれとしては78年、ちょっと割り引いても77年以前はどっこもドングリの背比べだったと思っている。似てはいるけどコピー度・リアル度はそれほど大したことはなかった。何をもってコピー度が高いとするかはそれぞれ意見の分かれるところだろうが、その辺までは「有名ギタリストが使ってるモデルに似たモノを出す」ことに各社腐心していたからだ。カタログに細かいスペックがクドクド述べられてることもなかった。
 だから、取り敢えずストラトならラージヘッドのメイプルネックの黒か3トーンサンバーストが主力だったり(もちろん、誰のか分かるよね!?笑)、レスポールならとにかくスタンダードのレッドサンバーストでハムバッキング2個、でキマリだったりした。そもそもオールド自体あまり顧みられることはなく、むしろギブソン・フェンダーの現行モデルをコピーすることの方に熱意が注がれていた記憶がある。

 顕著な例はアリアプロUのギブソンコピーのネックだろう。メイプル3ピースだったのである。これは当時のギブソンと同じ構造だ(最近になって知ったのだが、当時荒井貿易はギブソンの代理店だった関係でそんなことが許されたらしい)。おれが持ってたのもこの当時のだったから、とにかく頑丈、ヘッド掴んでグイッとネック全体ベンドさせてもまったく問題なかった。今のギブソンでこれかましたらイッパツで折れるだろうな(笑)。ストラトならブリッジ駒はダイキャストが標準、2トーンのタバコサンバーストなんて何ぢゃいそれ?だった。ジャズベースならポジションマークはブロック、グリップ激細。テレキャスはお手本そのものに余り時代変化がないけれど、やはり70年代以降の3ピースの白ガードが主流、丸いストリングガイドなんて(ストラトもだけど)知らんがな・・・・・・ってなトコだ。

 要は求められる価値観の軸が違ってたのだと思う。少なくとも買う方にもオールドか否か?っちゅう考え方は全くなかったと言って構わないと思う。そもそも大体似てりゃ良かったのだ(笑)。だーれもそこまで気にしてなかった。

 では、ここに「オールドと寸分違わぬデッドコピー」っちゅう新たで厳格な価値観を持ち込んだのはどこなんだろう?今回、必死で思い出そうとしたけど、もう一つ記憶がアヤフヤだ。何となくだが、トーカイがアタマ一つ早く、ほぼ同時にフェルナンデスが追随したところ、そこに以前からオリジナルモデルに力を入れ始めてたため却って出遅れた格好のグレコが最大手の意地で一気に反撃に出た、って図式だったように思う。ネックの角度がどうとかこうとか、回路がどうのこうのとかややこしい能書きをカタログで謳いだしたのが一等早かったのが確かトーカイだったような気がするのだ。

 ともあれ、そっからこの三社間で雪崩を打ったように凄まじい勢いでコピー度が上がって行く。アルニコがどうとか、ヘッド角は17度だとか、ジャズベの糸巻きは逆ネジだとか、プレスのブリッジ駒だとか、ベークライトがどうだとか、ピックガードのネジ穴の数とか、コンデンサがどうとか、挙句はこれまで何度も書いたことだけどネジ山のピッチとかロゴがデカールだとか・・・・・・そりゃまぁスゴいこたぁスゴいけど、冷静に考えればどう考えたってちょっとも音に影響しないような下らない些事に至るまで、如何に50年代のギブソン・フェンダーの仕様を忠実にコピーするか!?ただもうその一点で恐ろしいほどの情熱が注がれたのである。針小棒大が身上のカタログであるから、ホントはもっとアバウトだったのかも知れないが、字面だけ見てるとホントそれは、ちょっとアタマ狂うてんちゃうん?と訊きたくなるほどの情熱だった。

 ただ、このドンズバ絶頂期でも普及品までそのクオリティ、もといコピー度だったか、っちゅうといささか?だろう。下級モデルでは木が安物だったり、中身ハリボテは仕方ないとして、色んなパーツにしたって従前のモノが使われたりと明確な差別化が図られていた。だから、当時の品番で末尾の数字が400とか500(それが価格を表す)なんちゅうのに大枚払おうとするそこのアナタ!十分注意した方がいいっすよ!!(笑)。

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 その他のブランドは、実はこの気違いじみたレプリカ戦争に加わっていない。これは間違いない。アリアはコピーモデルそのものに見切りをつけ、80年ころを境にラインナップをオリジナル中心に切り替えるし、ヤマハは元々コピーモデルが言い訳程度にしかなく、資本力で劣るカスガは早々に消え、キャメルは規模的に小さく話にならず、その他グヤ・ダイオン・カワイあたりはドンズバブームが起きた頃には既にブランド自体ほぼ市場から消えかけてた。元々廉価ブランドのフレッシャーは中途半端にオールドに色気出しておかしくなり、同じく安物のウェストミンスターなんてーのもこの頃には消滅していた気がする。
 つまり、本当にドンズバを名乗れる資格があるのは上記、トーカイ・フェルナンデス・グレコの3社、それも78年から・・・・・・んん〜、最大限よいしょしてもせいぜい80年代半ばあたりまでの10年弱の期間に作られた中位モデル以上の製品だけだろう(ま、いつでも乗り遅れる共和商会系のアーガスはかなり後だけど、笑)。たしかグレコではドンズバ系につけた「ミントコレクション」って名前を90年代初頭まで用いてたと思うが、80年代半ばから急に使用材が落ちたり、コピー度がガクッと下がって行ったんぢゃなかったかな・・・・・・またまたいい加減な記憶で申し訳ない。それと、早くも80年過ぎからは、トラスロッドのカバーの形やヘッドのインレイのデザインで言い訳のようにドンズバを止めた製品が出回り始めていた。

 業界事情は知らないけれど、おれ的にはドンズバコピーのきっかけは、特にトーカイあたりがオリジナルモデルをほとんど揃えてなかったことにあるんぢゃないかと睨んでる。フェルも状況は似たり寄ったりで、基本的にどちらもそれまでは長閑にユル〜いコピーモデルで食って来たのが、それでは将来生き残れなくなる、って危機感が社内に生まれてたのではないか、と。
 大手のグレコは既にMRやGO、ブギーといったオリジナルのラインナップを充実させ始めている。荒井はんトコかてPEやRSっちゅうて色々出してるやおまへんか、小さいトコは危ないゆうてますしな、どないしまひょ・・・・・・って、大阪弁ちゃうか、楽器屋には中部地方が多いから、みゃぁみゃぁみゃぁみゃぁかまびすしく議論したんだろう。いや、あくまでおれの推論だよ(笑)。

 きっかけはともあれ、結果として行われたことは、形だけでなく本質の、極めて日本的に勤勉で、蒙昧とも言えるほどに愚直な追求だった。とにかく舶来の本家が絶対的に優れた最高水準としてあり、それをとことん忠実にコピーし、本家でさえ気づかなかったことまで掴み取って凌駕する・・・・・・その対象物がエレキギターだった、っちゅうだけで、思えばそれはモノ作りにおける戦後日本の歩みと同じであり、そしておそらくは最後の顕現だった。
 単なる猿真似とは違う、オリジナルへの憧憬と敬意がそこにはあった・・・・・・とまでいうと誉め過ぎか(笑)。

 ドンズバコピーが終焉を迎えたのは、フェンダージャパンやオービルといった本家肝煎りの国産ブランドが現れて、意匠権の問題を突かれるとやましいところ満載のその他ブランドはもはや立ち行かなくなったこと、何よりテクノ・NW/パンク・ヘヴィメタ等が盛り上がる中で、オールドなんてオッサン臭くてダサいだけで歯牙にも掛けられなくなったことあたりが要因だろう。マーケットがなくなりゃそらあきまへんわ。良材の払底からドンズバが一部の高価格ラインにシフトする一方で円高が進み、本物との価格差が大してなくなったこともあるな。

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 このドンズバブームは意外な結果をもたらすことになる。

 立派にそれが商売になると知った本家本元の方で、オールドのドンズバコピーをやり始めたのである。言うまでもなくカスタムショップとかヒスコレ、と呼ばれるラインだ。何せ本家だ、正々堂々と大手振って本物のロゴが使える。パテントあるわな、そら強いわな、ってなワケで他社のコピー品は訴訟で脅して駆逐し、スタンダードラインからすると目の玉の飛び出すようなベラボウな価格で売る、なんちゅう素敵でエグい商法を編み出した。誰ももちろん文句言えない。そしてそのまま現在に至る。
 国内の名もないギター職人たち(・・・・・・実は隅々まで知悉してるのはホンの一握りで、大半は言われるままにこしらえてたのだろうとは思うけど)が、本物を超えたとまで世に言わしめた優れたドンズバを生み出した往時の活況はもう戻っては来ない。工場だって激減してる。有名なマツモク工業だって、今は公園になってる、っちゅうではないか。

 この先どうなるのかおれにも全然予測はつかない。ま、現時点で言い切れることはただ一つ、本家ドンズバを買う気も買える余裕もおれにゃぁない、ってコトだけっす。チャンチャン♪


これも素晴らしい!82年製フェルナンデス。

www.jpstingrayguitars.com/より

2009.02.07

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