「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
弦の話


なんのかんのでいっちゃん使ってるような気がする。

 一時期、ギターの弦に凝ってみたことがある。あ〜でもないこ〜でもないと取っ替え引っ換え各社の弦を試してみるのは楽しかったが、結論は「たしかに若干の差はあるけど大差ない」だった。チューニングの安定性がどうとか言われるけど、ネックそのものが不安定だったりするワケだし、そんな弦一人が頑張ったってどうなるもんでもなかろう、っちゅうのが目下の結論である。ブランドに拘るより、小まめに新品に貼り替えてやった方が結局は何かといいような気がする。だから今はメインのギターはだいたい2週間に一回の割で交換してる。単なるサラリーマンで平日はほとんど弾けない状況を勘案すると、これはそこそこマメな方だろうと思う。

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 近頃世の中だんだんうるさくなってきて・・・・・・っちゅうか、総ヲタク化現象が進んできて、こんな消耗品の弦でさえ恐ろしく多種多様の製品が各社からリリースされている。シグネチャーなんてモンまである。結構な御時勢だ。老婆心ながらそんなにマーケットあるんかい!?と思ってしまうほどに楽器屋にはさまざまの種類が並ぶ。最近はまるでレトルト食品みたいに真空パックになったのや表面コーティングされたモンまである・・・・・・って、アース取れるんかいな??。
 おれが初めてギターに興味を持った頃は、どこにでも置いてあるのは黄色い紙パッケージのヤマハで、あとはフェンダーやギブソン、アーニーボールなんかがチョコチョコっとある程度。どれも高嶺の花だった。そう、最も普及品であるヤマハでさえ1セット1,000円くらいしたのである。

 だから弦が切れるのが恐ろしく、2音チョーキングなんてかなり勇気のいる行為だった。それでもまだ、予備が付いてる1弦などまだいい。2弦や3弦が切れるとどうするか?
 今ならさっさと新しいセットに張り替えるだろうが、実にセコいことに当時はバラで1本だけ買って来て、切れた弦だけ交換するのである。もちろん、他の弦はいい加減延び切ってくたびれてるから音にハリがない。そこに新品のが混じるからナンボ下手糞なおれでも、どうにもバランスが悪いのモロ分かり。それでも練習なんだからと我慢して、せっせと「小林克己ロックギター教室」をお手本に、Piggyのトランジスタ丸出しの安物アンプで爆音鳴らしてコピーに励むのだった。理由は良く分からないけど、おれは2弦を切ることがとても多かったから、結構モノ入りだった。同じような連中は多かったみたいで、今よりも楽器屋の弦のバラ売りコーナーはもっと大きく取ってあった記憶がある。

 弾き始めた当初は、最も一般的な009−042のセットを使ってた。高校で他にエレキ弾いてるヤツの間では、柔らかくてチョーキングしやすいって理由で008−036の極細を使うのが流行ってたけれど、おれはどうもチューニングがすぐに狂うのと、低音がブニュブニュになるのがイヤであまり使わなかった。あと、かきむしるようにコード弾くとすぐに切れるのも難点だったな。
 ある日、友人の誰かが件の高嶺の花、フェンダーのセットを買ってきた。自慢のグレコのGOだったかアリアプロUのTSだったか、張り替えてひとしきりピロピロ弾いて、本人いささか顔をしかめた。借りてみてその理由はすぐに分かった。彼はヤングギターか何かの情報を鵜呑みにして、ボトムライトな珍セット010−038を買ってしまってたのである。細い弦ほど硬いこのセット、実に扱いづらい代物だった。今でもカタログにはあるんで、興味のある人は試してみてはいかがだろう。サイズ表示が「TR」っちゅうヤツがそれだ。

 弦の巻き方についても、それこそこばやっさんが「なるだけポストに多く巻きつけるようにしましょう」なんてヌかしてるのを真に受けて、異様に沢山巻きつけてた。今なら300円でプラスチック製のストリングワインダーが買えるから楽勝だが、そんなもんまだ普及してなかったんで全部ネチネチと手でペグ回すしかない。ひどく骨の折れる作業であった。
 それに6弦など太いもんだから3周も巻くとすぐにポストの根元に弦が到達してしまう。それでもこばやっさんが沢山巻け、っちゅうとるもんだからまだまだ弦はユルユルだ。逃げ場をなくした弦は渦巻き状に外周に広がって行くことになり、見た目、何だか独楽に紐を巻きつけたみたくなってしまう。「おっかし〜な〜」と首をひねりつつチューニング。もちろん余分な部分が多いからナカナカ合わない。そぉいやギブソンタイプのポストに横穴の開いてるタイプ、通した弦を折り曲げて元の下をくぐらせてさらに折り、しかる後に巻き始める・・・・・・なんてもっともらしく解説してあったけど、それも忠実に守ってたな。まるでアホや。

 弦を巻くときの余裕なんてせいぜい一つ置いた隣のポストまでの長さ・・・・・・つまり5cmもありゃぁ十分だし、ポストへの巻きつけも1周目は通した弦の上、2周目以降は下に巻けば済むことだ、ってコトを知ったのは随分後になってからだった。ああ、恥ずかしい。

 それでチューニング狂うか?って!?全然OK!張ったらすぐに良く引っ張って、ナットとブリッジに油注しときゃまず大丈夫。アロンアルファくらいの量で物凄い値段の専用ナット潤滑オイルが売られてるけど、そんなんよりホームセンターの300円のシリコン油でまったく問題なしだと思う。

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 さて、バンドやり始めてしばらくして、おれは弦のサイズをワンサイズアップした。010−046ってサイズだ。理由は高速のシーケンスパターンをクリーントーンで弾き倒して行く時に、細いとどうも音にクリスピーさ、っちゅうかきらびやかさが欠けるのと、弦がクニャクニャとピックにまとわりつくような気がしたからだ。それでもまだ低音が頼りなく思えて、ボトムをさらにワンサイズ上げた010−052なんてぇヘビィゲージを張ってた時期もある。

 弦の響きにハリを出すには他にも手がある。スケールを長くし、さらになるだけナットとブリッジでの弦の角度が小さくなるようにするのだ。つまり張力(テンション)を上げてやるワケである。そうなって来ると、弦長が628mmのギブソン系より、648mmと心持ち長いフェンダー系の方が都合がいいし、弦高もやや高めにして、さらにテンションを稼げば良い。2本目のギターにテレキャスターを選んだのは半ば必然的な帰結だったと言える。スケールは長いし、弦はボディの裏通しだからネックの仕込み角は無くともテンション高い。それをさらにはブリッジ高目にしたりなんかして、今思えばずいぶん弾き辛いセッティングにしてたもんだ。ほとんどアコギやんか。

 実は結構最近までそんな風にしてた。ちょっと前までメインにしてたビル・ローレンスのストラトを修理とフレット擦り合わせに出して、店の人に「弦高たかいっすね〜!」と驚かれてしまったから、多分ロックギターとしてはムチャクチャに高かったのだろう。

 ・・・・・・ああ、書きたいのはそんなことぢゃなかった。弦が高かったんぢゃなく、弦の値段が高かったことだった。

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 いつの頃からかエレキの弦はとても安いものになって行った。初めて1セット500円のフェルナンデスの弦を楽器店で見かけた時は猛烈に感動したものだ。それが年を追うごとにますます安くなってって、今では6セット1,000円なんてーのも手に入る。全てはメイドイン韓国・中国のおかげである。切れやすいだのチューニングが安定しないだのすぐ錆びるだのと陰口叩かれてるけど、おれの個人的感想からするとベシャベシャのアーニーボールあたりと大して品質的には変わらない気がする。

 それにバッタモンだけでなく、所謂昔ながらのブランド品だって随分安くなった。どれも500円からせいぜい1,000円だ。昔はアーニーぢゃダルコぢゃダダリオぢゃロトぢゃGHSぢゃ、っちゅうたら張ってるだけで羨ましがられたモンだが、今はハッタリにもならない。5セットパックとか10セットパックにすればもっと単価は下がる。初めてギターを手にしたころの物価水準からすれば、どっかおかしいんちゃうか、っちゅうくらいに安い。コーティングした特殊なのでも大した値段ではない。殊、楽器だけに関して言えば円高万歳、熱烈歓迎だとしみじみ思う。

 冒頭で一時弦に凝ったと書いたけど、ホントは弦の性能にさほど差なんてないことは初めから分かってた。そんなん、ナンボゆうたかてやはり音色を決めるのはギター本体であり、ピックアップでありアンプ、そして何より本人の技術なのであって、弦の順位なんてかなり低いのである。それでもおれはやった。蕩尽した。分かってて色んなブランドの弦を買い漁ったのだった。
 その理由は他ならない、若い頃のルサンチマン・・・・・・すなわち買いたくても買えなかった恨みを晴らしたいがためである。そうしてカタルシスは終わった。

 ちなみに修理の結果戻ってきたギターの余りの弾きやすさに感動して、どれも今はすっかり弦高はベタベタだ。弦も柔らかめの009−042にしてテンションも弱くなるように調整したものを、ナイロンの硬すぎないピックで舐めるように弾いている。いやもう快適快適。それで支障はほとんど感じてない。これまでのおれの30年はなんだったんだろ?(笑)。

2008.12.24

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