「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
クラシックだぜ!


ズーッとこれに挑戦中。

 「CANON ROCK」っちゅうのが密かにブームらしい。クラシックのスタンダードとして有名な「パッヘルベルのカノン」を超高速のヘビメタ風にアレンジしたものがYOUTUBEに投稿されて以来、これに挑戦する連中が後を絶たないのだそうな。おれも見てみたが、ルーズソックスのいかにも女子高生のカッコでやってるオネーチャンのヴァージョンがいっちゃん笑えた。TAB譜は手に入れたのでそのうちおれも挑戦してみよう。スウィープとトレモロピッキングの部分さえ何とかなれば乗り切れそうな気がする。
 これだけでなく、最近はクラシックの曲をロックにアレンジした教則本なんかもけっこう出てたりする。どうやら「ロックでクラシック」はちょっとしたブームらしいのだ。

 ・・・・・・で、おれは、っちゅうと、これがバッハなのである。この数年、ひたすら湯浅丈一「ロックギタリストのためのJ.S.BACH曲集」っちゅうのに取り組んでる。

 今日はそんな話だ。

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 開口一番言いたいのは、この本がもぉ実に難しいのなんの、ってコトだ。多分一生かかっても1冊全部はマスターできないだろう、っちゅうくらいに難物である。この手の本のキマリとも言えるが、だいたい後の方になるほど過激に難しい。「パルティータ#3」なんてどないしたら弾けるねん!?ちゅうくらい猛烈な難物だ。

 全体を見てもロングトーンを活かした曲なんて数えるほどしかなく、ひたすら延々と16分音符を正確無比にスケール上下行しながら弾き倒して行くタイプのが多い。エレキの定番、チョーキングもプリングオンもオフも、グリッサンドもあんまし出てこない。とにかくフルピッキングであまり表情を付けず淡々かつビシバシと弾き倒す。ほれ、フツーはロックとかどんなけ難しい曲でも「力の抜きどころ」てありますやん。ボーカルのバックでまったく弾かんでええパートとか、ソロの途中でも弾きまくった後にはちょっと息抜きできたり、とか。

 それがまったくっちゅうて良いくらい、ない。それに同じメロディや指遣いが二度と出て来ないのがこれまたシビれる・・・・・・って、まぁ出て来なくはないのだが、どれも必ずと言っていいくらい2回目・3回目には何かちょっとヒネリが入ってるのだ。そんなんだからまずもって全体が容易に覚えられない。低音から高音まで行きつ戻りつする複雑怪奇な運指で、新しい曲に挑んだ初日なんて譜面追っかけるだけでもう指は引き攣るわ、肩は凝るわ、腱鞘炎気味になるわで大変である。
 今やってるのは「無伴奏チェロ組曲#1」なんだけど、空間恐怖症ちゃうんか!?と言いたくなるくらい間断ない。途中にフェルマータと8分音符がそれぞれ1ヶ所づつあるだけで、あとはガガガーッと♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬ばっかし。要はやはりクラシック、それもバロック期ならではの人の作品なのだ。

 ・・・・・・そんな大変な代物、どぉしてオマエは一生懸命に取り組むねんな?一文の得にもならんのやろ?と疑問に思われた方、アナタはエラい。そしておそらくは正しいし、なおかつオトナだろうと思う。

 御説御尤も、ってぇヤツで、必死になって四十肩とも闘いながらこれらの楽曲をマスターしたって、まったく一文の儲けにもならない。社会的な名声を博するワケでもない。逆に「あそこの御主人、休みで家にいる時はギターばっかり弾いてるらしい、いい歳して変な人だ」などと近所から後ろ指さされるくらいが関の山だろう。
 オマケにアンプつないで深く歪ませてやるもんだから、どんなに小さくボリューム絞ってもやかましくてTVの音が聴こえん、と家族に疎んじられるわ、夏場などクソ暑いのに窓閉め切らんといかんわ(エアコン入れろや、ってね、笑)、晩メシの支度その他にヨメが精出してるときであれば「ちょっとは手伝い~や」と嫌味言われるわ、等々惨憺たる有様だ。それに家ではおれ以外まったく弦楽器に興味がないので、孤独でもある。一つもいいことはない。

 それでも一心不乱に練習するのは、おれがギター好きで、マスターするのが楽しいからだ。そしてバッハの曲は美しくカッコいい。

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 実はこっからが本題なのだけど、ブラックモア翁やデブムスティーンが言うとおり、ギター用にアレンジ済みとはいえバッハの譜面に接してみると、なるほどバッハはロックしてると思う。

 ペンタトニックの手癖丸出しでウダウダ弾くよりは余程、ハイテンションだしキャッチーだしトリッキーだしポップだ。全てを口ずさむことは容易ではないが、イントロの数小節だけなら諳んじることができる曲は枚挙にいとまがない。それはつまりポップで親しみやすいメロディを有してることの証左だろう。そしてロックに不可欠な「リフ」に通底する、ある種の単調な執拗さまでも備えている。

 具体的な例で「平均律クラヴィーア曲集1#2」を挙げてみよう。この曲、1小節目の下降パターンでの機械的な16分音符弾きまくり8音シーケンスパターンが手を変え品を変え、途中2小節だけ上昇パターンになる以外は24小節目まで延々と続く。つまり384個の音を出だしから一気に弾くワケだ。否応なしに弾き手にも聴き手にもこの下降シーケンスパターンは強く印象付けられる。これを執拗と言わずして何と言おう。
 もちろん、基本テーマを手を変え品を変えっちゅうのがクラシックの定道とはいえ、通常ならサラッとコード的に解決に向かいそうなところでもう1~2回ひねって焦らせて、畳み込むように延ばす。奥田民生の曲進行みたいだ(笑)。4小節で済むところを8小節、16小節なんてやり方は、それが音数の少ないフレーズならバロックらしい小粋な仕掛けだろうが、ビッシリ音の詰まった反復フレーズでやられると、かなりしつこい濃口だなぁ、と思ってしまう。

 それってロック、それもハードロックそのものですやん。間違ってもアンビエントとかにはなり得ない。

 同じような傾向は上記の無伴奏ナンタラでも顕著だ。これも8音1セットの16分シーケンスパターンがコードを変えながら何度も何度もウンザリするほど出てくるし、後半(具体的には31小節目)からは、1回で済みそうなメカニカルな動きを3回ほどグニャグニャ繰り返し、それが今度はほとんどロックンロールちゃうんかい?っちゅうようなG7の分解フレーズに変奏して、さらにはクロマチックな上昇パターンになだれ込んでいく。小品のクセにこれまたかなり暑苦しくもコッテリした構成でハマる。

 どう考えたってバッハは見事にロックしてるのである。それをアタマ振り振り一人で弾きまくってる中年のオッサンの姿は見苦しく、いささかロックぢゃないけれど(笑)。

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 何のかんのでしかし、この本もいつの間にか半分以上マスターしてしまった。思えばこれまで教則本なんて買っても三日坊主がいいトコで、数曲やったら飽きて中途半端に放り出すことばっかりだったのに、なぜかこの本だけはえらくジックリ取り組んだものである。そうして残った曲は正直、おれの技術ぢゃ手に負えなさそうなややこしいピースばかりだ。

 そんなワケで新たに同様の趣向の教則本を買うことにした。やはりヤマハから出てる「ピックで弾くクラシック[ロックラ]」っちゅう本だ。何と300ページ以上、タップリ82曲も入ってお買い得(笑)・・・・・・でも、バッハについては大半がかぶっちゃってるのがちょと残念かな。あと、模範CDが付いてないのも難儀っちゃ難儀だが、まぁ有名な曲ばっかだから何とかなるだろう。
 いずれにせよこれだけあれば相当長期間の取り組みになることは間違いない。マスターした頃には四十肩どころか五十肩・・・・・・いやいやそれどころかリューマチの一つくらい出てるかも知れぬ。でもまぁエエやんか、それも。

 指先の運動は俗にほれ、ボケ防止にもなるとも言うしね。老いの手遊びにはピッタシちゃいまっか(笑)。


ヤマハが出版元だけあって載ってるギターもヤマハ。

2008.11.29

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