「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
軽いが一番


一度はオーナーになってみたい音なんですけど・・・・・・

 あの高中正義が長年トレードマークとなってたヤマハSGの使用を止めて、最近はもっぱらストラトばっかり弾いてる。フェンダーからは実際シグネチャーモデルも出されたりしてる。理由は歳のせいでSGの重さが辛くなってきたからなんだそうな(笑)。

 たしかにヤマハSGはハンパなく重い。基本的な作りはレスポールのコピーからの発展形なのだろうが、Wカッタウェイであるにもかかわらず、スルーネック構造とオリジナルより厚みがあって胴のくびれの少ないフォルムもあってか異様にズッシリしてる。まぁ、それがサスティンたっぷりででブッとく、それでいてカチッと芯のある音の元になってるワケだから、一概に悪いことではない。リックニールセンも何かのインタビューで言ってたが、何本も所有するレス・ポールの中で最も音が気に入ってるのは一番重量のあるヤツなんだそうな。でも、最近は彼もライブはフライングVとか軽いのばっかり使ってるようで、やはり重さがしんどいのだろう。

 ・・・・・・ってなワケで、今日のテーマはギターやベースの重さについてだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 結論から言うと、ギターやベースは軽いに越したことはない。重いととにかく取り回しが大変だし、肩もこる。いくらストラップを太いのにしたってかかる重量が変わらなければ、結局同じことである。

 ところが軽いってことは木材の場合、密度が低くて柔らかいということなので、やはり低音の締まりがなくなってボケるだけでなく高音域までこもってしまう。おれの所有するギターで言うと、前に書いたとおり軽くてスカスカなマホガニーを貼り合わせて出来てるフライングVは、アルミボディのタルボに較べると所謂「ヌケ」が悪い。いくらピックアップを交換したってギター本体でこの特性だけは変えようがない。金管楽器よりも木管楽器の方がくぐもった音がするのと同じ理由だ。

 もし、軽くても硬い材があれば、良く響いて低域から高域まで綺麗に抜けるボディが作れるんだろうけど、実在する木にそんな都合のいいものはない。木以外、あるいは人工素材を使うしかない。
 メゾナイトとかルータイトとかいって木材チップを固めたもの(要はハードボード)、あるいはグラファイトやポリウレタンなんてモンを用いた例があるが、残念ながらそのほとんどはコストダウンのために採用されたのが実態だろう。
 有名なところではビザーレギターの代表選手・ダンエレクトロがある。なるほど軽いけど、でもそれはハリボテで中身がガランドウになってるからで、素材自体が軽いのかどうか良く分からない。音はまんまペケペケ。これを使いこなしたジミー・ペイジは違う意味で偉大だわ。
 かつてイバニーズの一部の廉価ラインにもあった。これは軽量だけでなくデッドポイントがないことを謳っていたが今は消滅した。やはり鳴りが良くなかったのかも知れない。デッドポイントはないけど、全部の音が詰まる、とかね(笑)。

 現役ではヤマハのRGXってーのが、おそらくはポリウレタン系の素材を使ってるものと思われる。コイツはムチャクチャに軽く、2.5kgしかない。実用に耐えうるものとしてはおそらく世界一軽量だろう。徹底的に軽量化にこだわってペグにアルミ削り出し材を使ったりしてる。それでいてさすが巨大楽器メーカーの製品だけあって、重量からは想像できないほど音が良い。サスティンも音の芯もあって、ヌケも良い・・・・・・と、まぁ、どこをとっても魅力的なのだが、「10年前の近未来のイメージ」のようなダサいデザインセンスだけはどうにもいただけない。


せめて意味不明の縦線と横線の柄は止めて欲しい。

 実はタルボにしたってそうだ。「良く響く軽くて硬い素材」を求めてトーカイはアルミに辿り着いたのだ。ただし、いくらアルミとはいえ中身が詰まってたら尋常でない重さになるから、一種のセミアコになってる。
 わざわざ砂型起こした鋳造で金属そのものを一種の発泡状態でさらに軽くして、できたボディはモナカの皮みたいに表と裏を貼り合わせてから内部にウレタンスポンジを充填する、なんちゅう凝りに凝った構造になってる。余りに鳴りが良すぎて、ハウリング起こしやすいからだそうな。

 これだけ努力したにもかかわらず、しかしやはりタルボはムチャクチャに重い。軽さと硬さの両立はどうしたって課題としては困難なのだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 実はおれも昔は重たいギターの方がカッチリした音が出ていいな、と思ってた。レスポールとSG(あ、ギブソンのね)比べてもそうだし、テレキャスとストラト比べても、より重くて中身の詰まってる前者の方がアンプ直で弾き比べるとガッツのある音がしたからだ。

 しかし、何年ぶりかで新しいエフェクター買っておれは考えを改めた。買ったのはZOOMのデジタルマルチだったが、これを通すと見事にどんな音でも出せる。1万円そこそこでよくもまぁこんなスゴい内容のもの出せるモンだと感心しつつ、おれはギター自体の持ってる個性が希薄になってることに気付いた。つまりどんなギターつなごうが、だいたい同じようになってしまうのである(厳密には差異はあるけど)。
 そりゃそうだ、つないでもないのにアンプはマーシャルぢゃツインリバーヴぢゃメサブギーぢゃ、マイクの角度・距離は何ぢゃ、ってなトコまでシミュレートするんだから、小さな箱の内部ではとんでもなく様々な変換が行われとるワケだ。ギター本体がどうのこうの、っちゅう時代ぢゃなくなったことをおれは一抹の寂しさと共に思い知ったのだった。

 ギターなんてしっかりサスティンが伸びて、ピッチに狂いがなければ何だっていいんぢゃないかと思い始めたのはこの時からだ。そう、音なんていくらでも作れるのだ。いや、そしてそれは別に今に始まったことぢゃない。

 有名な話だが「ホテルカリフォルニア」の後半のギターソロ、いかにもレスポール使ったような粘りのある音だけど、あれってテレキャスターで弾き倒されてるらしい。誰だ!?ギター雑誌の解説で「いかにもハムバッキングの音だ」ってエラそうに書いたのは!?
 テレキャス、っちゃぁツェッペリンは4枚目までは全部テレキャスで録られてる。つまり「天国への階段」のソロもテレキャス、っちゅうこっちゃね。サンバーストのテレキャスのイメージの強いアンディ・サマーズだけど、ライブビデオではヘイマーのエクスプローラー弾いて「あの音」出してたりする。白黒ストライプのボロボロの自作ギターの印象が強烈なヴァン・ヘイレンだけど、「ユーリアリーガットミー」のギターソロは、イバニーズのエクスプローラーのコピーモデルが使われてる。あんなに黒の3ピックアップのレスポールカスタムのイメージの強いロバート・フリップだって、アルバムの中では実はストラト弾いてたりする(・・・・・まったく似合わないけど、笑)。いつだったかチャーのコンサートに行ったらトレードマークのムスタングはおろか、最近よく使ってるバーガンディミストのマッチングヘッドのストラトもほとんど出番はなく、ほとんどゼマティス1本を弾きまくってた。でも音に差は感じなかった。
 高中正義だってストラトに持ち替えて何か変わったか、っちゅうとまったくもって見事にこれが変わってない。相変わらずの高中節である。弘法はやはり筆を選ばないのだ。

 ・・・・・・ま、そんなもんだ。だからギターは軽いに越したことはない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ちなみにムチャクチャに重いことで有名なギブソン・レス・ポールの生みの親はもちろんジャズギタリストのレス・ポールさん。この人は90何歳になった現在も健在で、何と毎週ライブをやってる。実に矍鑠たるもんである。んでもってその愛機はなんと、ただでさえ重たいシリーズ中でもとりわけ重たいと言われる「レコーディング」。おれは実物を持ったことがないので仄聞に過ぎないが、個体によっては重量はほぼ5キロ、ととんでもないバケモノらしい。

 ・・・・・・大したモンだわ。


これがレスポールレコーディング。70年代迷走期の怪作

2008.11.03

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved