「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
カシオトーンに乾杯!!


偉大な歴史はここから始まった!(笑)

 ピキポポ♪ピキポポ♪ピキポポ♪ピキポポ♪
 ダ〜ダ〜ダ〜♪

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 たしか高校の初め頃だったと思うがYMOに代表される「テクノブーム」がやって来た。各社からは判で押したように定価98,000円のモノフォニックシンセが売り出され、楽器屋に行くと学生服来たガキ(おれもそんな連中の一人だったんだけどね)が「ライディーン」の1節なんぞ弾いてたりしたもんだ。
 今はヤブ医者の中学以来の友人は、イシバシ楽器が売り出した、ドラムのリムにネジ止めする格安シンセドラムなんぞを通販で買った。タイコ叩くと振動検知してヒョンヒョンヒョヒョヒョン、ってなアホみたいな音を出す・・・・・・っちゅうか、どんだけ工夫してもそんな音しか出ない。あまりに音色にクセがありすぎて、2〜3度使うと飽きてしまうキワモノだった。

 そんな頃、「世界最小のシンセサイザー」っちゅう良く分からん触れ込みで登場したのが、今となっては名作のCASIO「VL−1」だ。たしか9,600円だったと思う。おれは鍵盤が弾けないけれど、弾けなくても遊べそうだし、何より比較的容易に手の届く値段だったので早速買い込んだのだった。
 ・・・・・・しかし、泣けた。あまりにも音がチープなのである。いくらテクノがピコピコとはいえ、こりゃねぇだろ!?って言いたくなる音色なのだ。リズムボックス機能も付いてる、っちゅうのがウリだったが、これまたとてつもない音色。どだい、楽器を名乗るにはやや無理がある。だって電卓機能が付いてたりするし、鍵盤部分はどぉ見たって電卓のボタンだし(笑)・・・・・・当時はまだ大仰なプログレ少年だっただけに、大いに落胆したものだ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しかし、大学に進んでバンドやり始めた頃からコイツは俄然活躍し始める。極めて原始的で音数の上限が100音という制限はあったものの、何とシーケンサー機能まで付いてたのだ。ゆっくりポツポツ弾いたのを記憶させ、右端の2つのボタンで弾くと再生される仕掛けだった。
 ほとんどの曲の反復パターンをおれはこいつでこしらえ、それをギターでコピーして弾くなどという、今から思うと気の遠くなるほど回りくどい方法で曲に仕立てていた。
 それだけではない。ライブのギミックにも使えた。名前は忘れたが音色の一つにビョギョギョギョ〜、ってなヘンテコリンなのがあって、そのままでは煮ても焼いても使えないのだけど、スピーカー部分をギターのピックアップに押しつけて、ファズ踏んだ状態ででたらめに弾くと意味不明でカッコいい爆音が出せるのである。一発芸としてこれはかなり面白い。

 相前後してややこしい系の音楽にもハマって行ってたのだが、この「VL−1」、相当海外でも人気があったようで、結構あちこちで使われていることにそのうち気付き始めた。
 冒頭は最も有名な例で、世界的にヒットしサントリーのCFにも使われたTRIOの「DA・DA・DA」だが、ここではおれが使い物にならないと見限った死ぬほど安っぽいリズムボックスが全面的にフィーチャーされている。同じくドイツのMARALIA!のアルバムでも何曲か聴かれるし、フレッド・フリス率いる「MASSACRE」では、推測だけど、件のヘンテコな音色がイントロに使われてると思しき曲があったりする。ちゃんと音楽に使えるのである。
 パンク〜オルタナティブはテクより何よりそのスピリットだとか歯の浮くようなこと口走りつつ、買って何年もしてからようやく活用方法を思いつくようなおれに欠けてたのは、技術よりも才能よりもむしろその自由な精神なのだろう。あ〜、ナサケない。

 残念なことにこの「VL−1」、ギターや他のエフェクターといっしょに盗まれてしまった。今でも取り戻したい素敵なオモチャだ。 


ずいぶん遊んだなぁ〜・・・・・・

 さてそんな80年代も半ばとなり、時代はアナログからデジタルだ、と言われていた。聴く世界ではそれまでのレコード盤がCDっちゅうのに代わるらしい、そうなるとヒスノイズも劣化も何もないクリアーな音になるんや、と言われてたし、楽器の世界においては、まずその流れはディレイ/エコーマシンあたりを皮切りに現れた。それまでの巨大なテープ式が70年代半ば過ぎからBBD素子ってものを使ったコンパクトなものに移り、でもそれでもやっぱアナログ式で信号劣化があるからってデジタルのが登場し、そしてもっともっと高性能でコンパクトになってきたのである。

 その技術でもってサンプリングキーボードなんてモンも現れた。何かの音を録音し、それを音階として再生する仕組みだ。それまでは録音するっちゃテープしかなかったのが、電子的に捉えれるようになったのである。当然ながら目ン玉の飛び出すような値段がした。
 メロトロンを近代化したようなモンかいな、とおれは思ってた。あれは内部に7秒分のストリングス・フルート・コーラスと3チャンネルになったオープンリール用のテープを切ったものが鍵盤の数だけ入ってる。鍵盤を押すとそれらが再生され、手を離すと巻き戻されるのである。原理は違うが、考え方はいっしょだ。

 ・・・・・・で、ここでもやってくれましたがな、カシオはん。何と、ビンボー学生には高根の花だったこのサンプリングキーボードを、実に12,800円で売り出したのだ。「SK−1」って名前だった。サンプリングキーボードだからSK、安直な名前ではあったが品切れ続出のムチャクチャな大ヒットとなった。もちろんソッコーで買った・・・・・・そして、また泣けた(笑)。

 理由はいっしょ。ホンマにもぉ学習能力なさすぎやね、おれ。あまりにもサンプリング音がチャチで劣悪なのだ。今の表記方法で言えば8bit/4kHzくらい、ってなクオリティしかなかったんぢゃないのかな?電話の受話器の声を録音したような低域も高域も欠けた、ガサガサしてる割にこもった音質と言えば分かりやすかろう。それに、単に再生速度の違いで音階に変化を付けてるだけだから、1秒間の長さの音源も1オクターブ上がると0.5秒になってしまう。下がると当然2秒だ。
 右上にあるマイクに向かって怒鳴ったり、口笛吹いたり、鍋を叩いたりして色々試してみたがすぐに飽きてしまい、そのうち単なるミニキーボードとしてしか使われなくなってしまった。

 ところがある日ふと気づいたのである。この、音階に対する機械的な長さの比例は何かに使えるんぢゃなかろうか?と。早速、フライパンを叩いて録音。そして2オクターブの幅で2つの「ソ」あたりを押し続けてみる。何だかガムランのような、あるいは銅鑼とか鉦を使ったようなエスニックな8ビートになった。今度はオクターブでド・ファ・ドとやってみる。ますますガムランっぽい不思議な3拍子になった。ぢゃ、ド・ファ・ソはどうだ・・・・・・すっかり味をしめて、おれはこのチャンスオペレーション的でもあり細切れ剽窃的でもある作業に熱中した。あまり複雑なフレーズではダメで、シンプルなリズムや緩やかな動きの和音なんかをテキトーにサンプリングして1度・4度・5度・8度を中心に再生させると、まったく元からは想像できないリズムやリフが偶発的に生み出される。ずいぶんいろんなモノをサンプリングして曲の元ネタにしたものだ・・・・・・ま、それもそのうち飽きたけど(笑)。

 この「SK−1」、最後はどうなったか覚えていない。卒業を迎えて下宿を引き払う時に誰かに譲ったような気がする。


密かにロングセラーとなってます

 その後もスクラッチが流行れば、ターンテーブルもどきのモノをくっつけて回すとキュコキュコ言わせられる製品だとかなんとか、我らがカシオはまことに時宜を得た、安っぽくてしょうもないけれど愛すべき製品を送り出し続けている。実用で使うにはひと工夫もふた工夫も必要だが(そもそもアウトプットジャックがなかったりする)、一種の手軽なスケッチ帳としては侮れない能力があると思う。

 先日、実に20年ぶりくらいにそんなカシオのミニキーボードを買った。MIDIの打ち込みやサウンドチェックに使うためだ。「GZ−5」といってDTMやDAWやる連中の間では手軽な定番品として有名らしく、改廃の激しい電子楽器の世界にあって、10年以上の長きに亘って売られてる。
 これまた過去のひそみに倣ってか恐ろしく安い。電器屋でポイント使ったのもあって3千円ちょっとで買えた。大きさ的にはピアニカより小さく、そして遥かに軽い。家に帰って、プリセットサウンドでまずは弾いてみる。いやもう相変わらず安っぽくてチャチな音だ。泣ける。でも、今回はちょっと嬉し泣きである。

 おれは、外部MIDIコントローラーとしての本来の使い方ではなく、このチープ極まりない音をマイクで拾って録音に使ってやろうかと目下画策中だったりする。 



※「カシオトーン」という名称は今は正式には消滅している。
※VL−1についてはコアなファンがいて、音色をシミュレートしたVSTiまで存在する(http://www.polyvalens.com/)が、作者本人が動作性についてちょっと頼りないこと書いてるので、怖くてまだ使っていない。


TRIO「DA・DA・DA」・・・・・・たしかにVLだ!!

2008.10.13

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
Copyright(C) REWSPROV All Rights Reserved