「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
マホガニー!マホガニー!マホガニー!


次はこのどっちかだな〜!また買うなら絶対に白、やな。

 以前書いたとおり、昨年、ちょっと小銭が入ったのをきっかけにギブソンのフライングVを買ったんだけど、いやもうこれがいいんだわ〜。最高!

 これもその時書いたので繰り返しになるがこのフライングV、色んな意味で「幅」がものすごく狭いギターだ。フォルム優先で作られた大胆なボディーラインのせいで座って弾くことができない。立って弾くにしたってギターの位置が高いとどうしようもなくマヌケだから、勢い腰だめの低めにして提げるしかない。放たれる音もアタック感に乏しく高域のヌケない、まるで昔のモノラルのAMラジオみたいな音色だ。
 オマケに本家のクセに工芸品としての出来もイマイチである。塗装は細かいトコが雑だし、009−042と標準より細いセット張ってるにもかかわらずネックはちょっとチューニングしたままで置いておくと順ゾリしてきやがる。だから、毎回弦は緩めてやらなくちゃならないのだが、これも緩めすぎると逆ゾリしてビビリが発生したりする。取り扱いには細心の注意が必要だ。
 そぉいったあまたの欠点を押してなおしかし、このギター、おれが過去に所有したエレキギターと比べてもやはり、いい。

 一言で言って、「エロい」のである。

 音色のエロさについてはもはや言わずもがなであろう。トーン全開で歪ませると、腰の抜けたレスポールのような、あるいはアタック感とクリスピー感のないストラトのような、要はどっちつかず、っちゅうかあまり特徴のない音なのだが、これをトーンゼロにすると途端に色気が出てくる。もぉウーマントーン専用ギア、って感じで泣きまくる。
 殊にピックアップセレクターをミドル(つまりフロントとリアのミックス)にしたときのクセのある倍音はたまらない。コモってばっかりの音とちゃいまっせ〜!と言わんばかりに、リングモジュレータやフェイザーを若干掛けたような、っちゅうか、ストラトのハーフトーンをもっとパワフルにエグくしたようなメタリックな響きが適度にプラスされる。ひょっとしたらストラトみたいにフェーズアウトしてるのかも知れないが、あんなパワー落ちはない。とまれ、この音の素晴らしさを知ってから、セレクターは真ん中に入りっぱなしだ。

 ・・・・・・と、手放し絶賛モードで褒めちぎったが、こんな欠点だらけのギターであるからして問題がないわけではない。いやむしろ、大杉、っちゅうヤツである。何より、ピックアップが安物なのか何なのかパワフルなだけでイマイチ歪み方に品がない。オマケに世間で言われるほど中域だけのギターではなく、低域の元気も良すぎるくらいに良いもんだから、5〜6弦中心に弾き倒すと音がツブれて何が鳴ってるんか分からなくなる。さらには明瞭ではないものの、デッドポイントが1弦解放のE音あたりにあって(つまり2弦5フレット、3弦9フレットも)、若干音が詰まったりもするのも困りモノだ。

 さて、そんな調子なんだけど、買ってから毎日毎日弾いてるうちにおれはいくつかのことに気づいた。

 まず、良く鳴ってくれる日とあまり鳴ってくれない日があるのだ。ほんなんゆうたかてオマエ、たかがエレキ、電気仕掛けで何がちゃうねん!?と言われそうだけれど、たしかにある。音の張りが微妙に違う。鳴らない日は弦が急に古くなって死んだんぢゃないか、というようなベシャッとした感じになるし、ヌケが悪くなる。
 原因をあれこれ考えたのだが、結局何のことはない、天気、とりわけ湿度が大きく影響しているらしい。雨の降る前はなんだか音に元気がなくなる。前線が通過する前になると古傷が痛んだり、神経痛が出る年寄りみたいだな(笑)。もちろん、アンプのスピーカーのコーン紙も湿度の影響は受けてるだろうけど、これまでのギターでは違いを感じなかったから、やはりおれが買ったフライングV固有の現象なのだろう。まぁ、国産に較べて塗装がチャチで薄いから、エボニーの(その後知ったのだが、ボディーカラーがホワイトのモデルだけはローズではないらしい)指板だけでなくボディ全体が吸湿・排湿をしてるのかも知れない。

 次に気づいたのは、音のバランスの問題だ。上に書いたとおり、高域が苦手で中〜低域に特性を持った音色なのだけれど、買った当初はあまりの低域の暴れぶりに、通常フルテンにしてるアンプのBASSを6〜7くらいまで絞り込んで弾いていた。そうでもしないとリフなんてグジャグジャになってしまう。
 でも実際のところ、こうしてエラそうに書けるほどにおれは持ち歌が多くないから、勢い弾く曲はワンパターンになりがちだ。毎日似たようなのをビヨビヨと一人鳴らして悦に入って、1カ月ほど経ったある日、低域が以前より収まりが良くなってることに気づいたのだった。いや、率直にいえば少しパワーが落ちたように思えた。
 アンプのBASSツマミを10にして以前のようにフルテンにする。なんだ〜!やっぱし相変わらず低域出てるやん・・・・・・しかし、出てるのだが、グッとバランスが良くなりタイトに響くような気がする。手のつけようのなかった粗野なジャジャ馬が、ちったぁ言うことを聞いてくれるようになったような気がした。そう、何だか「調教」しているような気分になったのだ・・・・・・ね!?どぉ考えてもこれってエロでしょ?

 その後もこのフライングV、音のエロさは確実にアップしながらも、より洗練された方向に向かって行ってる。可愛がるほどにエッチになってくのは付き合う女性では最高のパターンである。ギターだっていっしょだ。おぅおぅ、愛い奴め♪

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 しかしそうして愛でながら、なんでこんな風に音が進化するんだろう?と、おれはいささか奇異にも感じた。今までの国産ギターは初めから安定して鳴ってくれたけど、何年経ってもあまり変化は感じなかった。それがこいつは買って2〜3ヶ月でこの変り様だ。

 ここから先はあくまでおれの推論だが、理由としては4つほどあるんぢゃないかと睨んでる。
 1つめは天気で音色が変わることから言うまでもなく、やはり塗装の薄さだろう。高木ブーがウクレレについて確か「スピーカーの上に置いておくと音が良くなる」って述べてたのを昔読んだことがあるような気がするけど、ウクレレにせよギターにせよボディーは木でできてるから、振動させるほど内部に残った水分が揺すられて蒸発しやすくなるとのことらしい。その際、塗装が厚いと水分は逃げ場をなくしてボディ内に留まらざるを得ない。つまり、材はあと一歩乾かないワケだ。
 しかし、別にラッカー塗装(通気性があるそうな)でもないし、ナンボ塗膜が薄いとはいえ、木肌が直接外気に触れてはいない。まして、日本の夏場の湿度は木よりも絶対に高いハズだから、ちょっと俄かには信じがたいところもある。
 2つ目に考えられるのは作り方だろう。そこは元祖、っちゅうか本家だけあって、接着剤のニカワであるとか、木目の取り方、ほぞの切り方、ネックの仕込み方、圧着のし方等に何がしかの工夫があって、弾き込めば弾き込むほどに鳴るようになっている、と・・・・・・それならもっとネックしっかり作れよ、って(笑)。フライングVの弱点がヘッド折れであることは周知の事実だ。
 どうなんだろ?工作精度は素人目には大したものには見えない。それに今は国産だろうがUSAだろうがアジアンメイドだろうが、コンピューター制御のNCルーターでギャギャ〜ンと削るから、大きな差は出ないようにも思う。
 3つ目はピックアップの問題もあるだろう。弾かれることで、ピックアップの磁力の強さや磁力線、あるいはコイルの微妙なズレといったものに変化が現れた・・・・・・と。実はセイモア・ダンカン等の主張する「エイジング」とやらついておれは、ずっと眉唾ぢゃないかと思ってきたのだが、案外ホンマなんかも知れんな〜、と最近では感じてる。

 4つ目、これが最大のポイントだと思うが、材そのものの影響。いや、単板とかそんなんではない。ギブソンのノーマルライン、なかでもこのフライングVやエクスプローラ、SGといった「板を単に切っただけ」みたいなモデルは、カスタムショップやヒストリックコレクションといった上級ラインの端材を貼り合わせて作った板から作られるとも言う。文字通り「つぎはぎ」なワケだ。だから木の材質そのもの、ってコトになる。
 ではその材は?っちゅうと、これがマホガニーである。上等の家具なんかに使われたりする赤味がかった木だ。従来おれが馴染んでたギターに用いられてたメープルやアッシュ・アルダーと比べると南国育ちで成長が早いせいか、軽く、導管が太くて、木目の密度もスカスカしてるらしい。そのためだろう、見た目から信じられないほどに軽い。
 このスカスカさが、独特の中域の強調された音色を生み出すと言われるけど、それ以上の効果を生んでるのではないだろうか?繰り返す。これはあくまで推論・・・・・・どころか当てずっぽうだが、ギターが弾き倒されて振動することでこの疎な木の内部を水分が移動して、響きの最適化が促進されるのではなかろうか?そうでもなければ弾くほどに音がわずか数カ月で変わることなんてないと思うのだけど。

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 真相はそれこそ心電図でも取るみたいに、センサーをギター表面のあちこちに貼りまくって毎日データ化すればハッキリするだろうけど、どだい「音色が変わった」と喜んでるおれの感覚が間違ってる可能性だってある。単に「大枚はたいて買ったから」っちゅうのんで思い込んでるとかね。タンジュンでアテられやすいですから、ワタシ。

 確実に言えるのはただ一つ、これまで何となく敬遠してたマホガニーボディのエレキの素晴らしさにこの歳になって目覚めてしまった、ってコトだろう。材としては強度不足の問題が付きまとうとはいえ、とにかく軽くて、エロい。長年25.5インチスケールでやってきたからわずかに短い24.75インチスケールは快適だし、この手のマホガニー板ペラペラ系のギターの多くがネックがボディから突き出して仕込まれてるのもハイフレットが弾きやすく、また抱え込むようにして弾くとミョーにカッコイイ。

 人生最後のエレキのつもりでフライングVを買ったけど、あにはからんや。何だかこれをキッカケにマホガニー魔界巡りに足を踏み入れてしまいそうな今日この頃なのである。

2008.02.28

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