「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
幻惑されて・・・・・・LED ZEPPELIN


全盛期のライブの模様。メロトロンやらオルガンまで置いて、密かにいっちゃん頑張ってるのはJ・P・ジョーンズだったりする(笑)。

 レッド・ツェッペリン(LED ZEPPELIN)が再結成するそうである。

 おれの記憶が確かなら、80年代に2回ワンショットでやって、その後、「プラント&ペイジ」でやったりもしてるので、何のかんので4回目の再結成ってことになるハズだ。伝説・伝説言いながら、根が苦労性っちゅうか、ロック界の守銭奴と陰口叩かれるJ・ペイジの金銭感覚ゆえか、意外にマメにやってはるんですよ。
 まぁ、チケットは間違いなく売れるのだろうけど、おれ個人としてはちょっとも見たいと思わない。過去の栄光にすがってるジジィなんて最早ロックぢゃないから・・・・・・ではない。

 間違いなく演奏が、聴くに堪えないほどにヘロヘロだから、だ。

 もう20数年前のことになるが、1回目の再結成の模様をおれはTVで観た。メンバーの死という悲劇的なバンドの終焉から数年、その息子を代役ドラマーに仕立ててのハマースミスオデオンかどっかでの1回こっきりのライブだ。おれはまぁ昔から再結成はあまり好きではないが、それでも70年代を代表する彼等である。かなり愉しみにしてTVの前に陣取り・・・・・・そして泣けた。

 無論、感涙に咽んだのではない。例えば有名な「Stairway To Heaven」。ギターだけ取っても前半のアルペジオはミスタッチだらけ、肝心のソロに入るトコではディストーション踏み忘れて、フレーズは指がついていかずにもうモタりまくり・・・・・・と、散々。ゆうたら悪いけど、おれ並にヘタだった。「天国への階段を買ってる」ってアータ、もう2・3段登ってるんとちゃいまっか、みたいな(笑)。リリリのラリリ入ってたんかもしれんな。
 バンドのアンサンブル自体も散漫で、R・プラントの声にしたって全然伸びてなかった。多分、一番キチンとマトモにやれてたのは、現役時代から日陰の人で、そのときも隅っこで黙々とベース弾いてたJ・P・ジョーンズだけだろう。
 正直、人間現役離れるとこんなにも早く衰えるものか、と情けなくなったものだ。

 その後何年かして、おれは行ってないのだけど、悪友のS年が上記掘っ立て再結成ユニット「プラント&ペイジ」の公演を見に行った。大阪城ホールだったかな?そのしばらく後、会って飲んだ時、彼は飲みながらボヤくのだった。

 ------アンコールで「Rock & Roll」やりよってんけどな、もぉソロとか全然指が付いて行ってへんのや。
      R・プラントは『チュチュチュチュ、ママ・ママ』だけは相変わらずゆうとったけどな。
      まぁ、どぉしよぉもなかったわ。ホンマもうヘロヘロでっせ〜!あんな姿、見とうなかったでぇ〜!

 余談だがこの「プラント&ペイジ」、名前のとおり2人だけで後の面子はゲストミュージシャン。地味なジョーンズ君は声掛けてもらえなかったらしい。一説には解散後、プロデューサーやアレンジャーでもっとも頑張ってた彼を、2人がちょと煙たがってハミゴにした、なんてまことしやかな噂もあった。実際この頃、J・P・ジョーンズは「狂乱のギリシャの歌姫」、ことD・ギャラスと組んで意欲的な作品出したりもしてるし、あながちウソでない気がする。
 この点で、音楽的志向性こそ違え、セックスピストルズの初代ベーシストだったG・マトロックと何だか似てる。グレン君も曲のほとんどを書いて、もっともその貢献は大だったのに、妙に地味で生真面目だったせいかバンドを追い出される憂き目に遭ってるモンな。


知らん人のために。D・ギャラス


一人マジメな雰囲気のマトロック君(左端)

 話を戻そう。ツェッペリンのヘタさ加減についてだった。

 会社に入ってからの友人にも一人かなりコアなツェッペリンファンがいるのだが、彼も飲んでふと漏らしたことがある。

 ------いや〜、好きなんだけどさぁ〜、でもさぁ〜、ヤツ等むちゃくちゃヘタだよね〜!ライブは特にひでぇよな。
      R・プラント、ネタ詰まると『ママ、ママ』とか『プッシュ、プッシュ』しかいないしさぁ〜。

 ・・・・・・奇しくもSと一致。おれの周りには似たような感覚の連中が集まるのか!?(笑)。いやいや。

 おれたちとまったく同じ感想を、日本ノイズ界の重鎮・非常階段のJOJO氏も「心の歌、最後の歌」っちゅうエッセイに書いてる。「アキレス最後の戦い」のライブ映像見て、「こんな最後の戦いしてたら殺されまっせ〜」とか何とか・・・・・・おれは読んで、チャチャの入れ方まで関西ノリでいっしょ、っちゅう点も含めて大笑いさせてもらった。ちなみにその映像、79年のものだったらしいから、つまるところ解散前からもうかなりヘロヘロになってたワケだ。

 要はみんなそう思ってたのだ。そう思ってなかったのは・・・・・・渋谷陽一くらいだろう(笑)。

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 実際ヘタだ。ツェッペリンは。

 「永遠の詩」だっけ?73年頃のライブを基に作られた、妙チクリンな映画での演奏もヘタだ。タイコはドッタラペッタラ(技術的には息子の方が上手いんとちゃうかな?)だし、ギターはグジャグジャッと弾き倒してるだけだ。だけど、それでもまぁ、ヘタとはいえさほどひどくない・・・・・・っちゅうかまだ見れる。
 歌舞伎の大見得みたいなハッタリの効いた決めポーズも決まってるし、テルミンやらバイオリンのボウでの小手先ギミックもクダらないけど楽しませてくれる。どうやら、許容範囲を超えてメロメロになったんは70年代半ば以降のことなのだろう。
 とは申せ、実のところ彼らは、最初からテクニック的にはかなりショボかった。おまけに曲にしたってけっこう露骨に色々パクッたりカバーしたりしてて、本当のオリジナルナンバーはどれだけなんや?ってー問題もあるし。

 でも、彼らが70年代を代表する偉大なバンドであることもまた揺るぎなき事実だ。レコードセールスにしたって、ビルボードチャートにしたってすごかった。パンクやニューウェーヴ、オルタナがミュージックシーンを席巻する中、もうアカンとか終わったとか言われつつも結局、最後までその人気には絶大なものがあった。

 何でやねん?

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 彼らの音楽について、アレンジャーとしてのJ・ペイジの才覚がどぉとか、あらゆる音楽スタイルを飲み込んでツェッペリン流に昇華させた、とかいろいろ言われるけど、まったくもって的外れだと思う。そんな高尚なことで大衆的な人気が得られるかぁ〜、っちゅうねん。
 もちろん、彼らに音楽の才能がなかったなどという気は毛頭ないけれど。

 ちょっとおさらいすると、彼らの出だしは「爆音で暴力的に演奏するブルース」である。そりゃぁ音の歪み具合もデカさも、今の感覚からすれば可愛いものだが、当時としては相当過激でカッとんでいたろう。2ndをまったく1sっと同じキープコンセプトで出したのも、結果的には音の面でのバンドイメージの確立に効を奏した。しかし、それだけではダメだ。

 ここで各種大見得の類が活きてくる。本人も大好きだというヨーロッパ中世神話の勇者のように胸を張るR・プラント。おそらく姿見の前で相当ポーズの研究をしたんだろうな。普通に提げてもあまりギター上手くないのに、ムリして股下にまで目一杯低く構え咥えタバコのJ・ペイジ。あくまで地味だけど周囲にキーボード群を並べたJ・P・ジョーンズ・・・・・・これは沈着冷静な「賢者」だな。フツーに町で見かけたら単なる肥満体のオッサンだが、怪力と豪快が服着て歩いてるような体型のJ・ボーナムは格闘家・・・・・・って、お前らドラクエキャラの御一行かぁ!?ほたらペイジの職業は何や?遊び人か?(笑)

 このようなケレン味たっぷりのいでたちとキャラの立ち方で、派手なアクションで演奏すれば、インパクトはあるに決まってる。そしてヘタであることにが輝き始める。つまり、意味が与えられる。否、ヘタだからこそと言えるかも知れない。ロックにおいて「上手い」なんて実はそれほど大したことではない。

 「たどたどしい」は「荒々しい」になる。
 「もたつくドラム」は「重いビート」になる。
 「音数多いだけでハッキリしないギター」は「疾走感」になる。
 「思いつきだけで消化不良なアイデア」は「才気溢れる着想の妙」になる。
 「テルミンひよひよ、見せ掛けバイオリン奏法」は「音へのあくなき探究心」になる。
 「換骨奪胎」は「類はまれなるアレンジ」になる。

 黒魔術への傾倒も、ツアー中のホテルの部屋を破壊するのも、グルーピーのネーチャンのアソコにサカナ突っ込む、なんちゅうご乱行(交?、笑)も、全ては伝説の肥やしになった。

 ・・・・・・心理学用語でこれは「ハロー効果」って呼ばれる。後光効果とも言われるこの現象は、要はいったん何か一つにアテられてしまうと、他の全てのものまで何でもスゴく見えてしまうことだ。アバタもエクボ、なんちゅう諺もこれに近いかもしれない。

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 ツェッペリンのアルバムで発売当初に一番売れたのは何か?と訊かれれば、フツーはみんな「W」って答えるだろう。上述の「Stairway To Heaven」が収められてる、アレだ。何とまぁあのカラヤンも絶賛したとか・・・・・・ホンマかいな?どんな耳してるねん?(笑)

 答えは×。

 通算セールスでは「W」だけど、発売当初に限ると、正解は信じられないことに「Physical Graffiti」なのである。おれは今稿を書くに当たって調べてみたが、記憶に間違いはなかった。いや、こうして書いてる今だって信じられない。ひたすら冗長でだらしなく、ひたすらワンパターンで垂れ流しなあのアルバムがだよ。スタジオ盤でこの体たらくは何や!?と言いたい出来栄えのアレ、がだよ。

 ・・・・・・ってなコトほざきつつ、実はおれのモストフェバリットはこの2枚組の超駄・・・・・・あ、大作だったりするのだけど、それは真っ当にハードロックとして聴いてでないのは言わずもがなだろう。
 おれがこのアルバムを高く評価するのは、どれもこれも「ダウナーなドラッグソング」だからだ。全編を貫く異常なまでのかったるさは、FAUSTの1stなんかよりよっぽどサイケでアシッドでローテンションだ。シラフで聴いたってちょっとも面白くもおかしくもなんともない。あの年代で言うとそぉだな〜、「CAN」なんかもたいがい冗長でワンパターンだったんだけど、彼らには奇妙なグルーブ感があってよっぽどポップだし、高揚する。
 ちなみにこの辺の見解も冒頭に登場した面々全員に共通する。JOJO氏などこのアルバムを「ノイズミュージックより難解」と述べておられる。

 そんなおれ達の感覚を特別だとは思わないし、また、決して間違ってもいない。断言してもいい、「Physical Graffiti」はダルだし、ツェッペリンはヘタだ。単に同時代を生きなかったお陰で、判断にバイアスがかかってないだけである。

 そう、あの時代、みんな「幻惑されて」たのだ。


「Physical Graffiti」ジャケット。

2007.10.05

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