「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
ゲルニカ、昭和歌謡におけるマニエリスム


1st「改造への躍動」のジャケット

 最近トンと噂を聞かないなぁ〜、と思ってたら頑張ってはりました。キモカワイイCMで一躍ブームとなったキューピーのタラコの歌、あれ、上野耕路の作曲なのね。たしかにあのクロマチックに下がっていく感じの微妙に強迫的でキショク悪くも耳につくポップなメロディセンス、そぉ言われるとそんな気がしてくるわ。♪た〜らこ〜た〜らこ〜、た〜っぷ〜り〜た〜らこ〜♪と。

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 ゲルニカとは上野耕路・戸川純・太田蛍一の三人からなるバンドっちゅうより、ユニットだった。作曲して音出す上野、歌う------むしろ「唄う」って書いた方がいいのかな?------戸川、そしてコンセプトや歌詞、ジャケットデザインを手がける太田・・・・・・なるほどこれぢゃいささかバンドとは呼びにくいわな(笑)。
 80年代初頭に活動しアルバムを1枚出し、しばらくの休止期間を経て一時的に活動を再開、今度は続けざまに2枚リリース、再び休止してそのままになっている。その後、完全版ボックスセットかなんかが出たので、まぁ今はもう解散してると理解してかまわないのだろう。何で途中に活動休止期間があるのかというと、その間に戸川のヤプーズや女優としての大ブレイクがあったからだと思うが、実はその部分での彼女の活動にはおれはあまり興味がなかったりする。ゲルニカ、っちゅう異様に人工的でウソ臭い懐古趣味の塊のような存在の一員としては大好きだったけれど。

 上掲の画像はデビューアルバム「改造への躍動」だが、どことなく古賀春江の絵画+昭和20年代までのポスターを髣髴とさせるジャケットからして、もうコテコテに昭和歌謡マニエリスムが炸裂してる感じ。たしか細野晴臣が主催するナントカっちゅうレーベルから出たような記憶がある。おれはバンドのベーシスト、Mから借りてカセットテープに落としてしょっちゅう聴いていた。いやもう、未だに歌詞を全部諳んじることができるくらいに、このアルバムは聴き込んだ。

 何がそんなに気に入ったのかっちゅうと、要は緻密な打ち込みによるオーケストレーションの一方で、もっぱら機材不足によるものだろうが、いかにもYMO以降星の数ほど表れたテクノバンドに共通する、「泣けるほどチープでペラペラな音色」っちゅうアンバランスなバックに、大仰な戸川のボーカルと時代がかった詞がさらにアンバランスに乗っかることで、唯一無二の音世界が展開されていたからだ。
 実際、ライブではヴァイオリンも弾き倒していた上野はおそらくはガキの頃からキチンと正統派の音楽英才教育を受けた、かなりのボンボン系だろうと思う。そぉいやぁ曲の中にストラヴィンスキーの「春の祭典」がさりげなく引用されてたりもした。一説によるとゴジラで有名な伊福部昭に師事したこともあるとかいうが、ホントやろか?ちょっとデキすぎやもんな〜。
 そしてさらには、単独での絵画作品ほど前面に打ち出されてないとはいえ、太田のグニュグニュ歪んだ怪奇趣味が、あちこちに振りかけられる。

 誤解のないように申し添えると、あの有名なウォッシュレットのCMに始まり、時代の寵児となっていった戸川の「イッちゃった系」の強烈な個性(しかし、それが本来のものかどうかは知らないが・・・・・・)は、ゲルニカにおいては見事に封印されている。あくまで彼女は太田と上野が作り出した舞台の上で、歌手というロールを忠実に演じる女優にすぎない。ある時は渡辺ハマ子であり、李香蘭であるような・・・・・・。

 しかし、おれが熱心に聴いたのはこの一枚目だけだった。その後の作品も頑張って聴き込んだけれど、どうもも一つ好きになれなかった。

 つまりは音が良くなりすぎていたのだ。機材が進歩したり、実際の生楽器を入れるようになったことで、普通の懐古趣味歌謡曲になってしまったようにおれには思えた。あくまであの薄っぺらなシンセ群と、おそらくはローランドのDr.リズムと思われるトンツクトンツクした安っぽいタイコ、そしてカセット4トラか何かのこもった音質あってこそのゲルニカだった。すなわち、「80年代初頭」というパンクやテクノ、オルタナを一通り通過した地平から照らした戦前歌謡、っちゅう突出して異様な世界の面白さだった。おれが「マニエリスム」と呼びたいのはそこだ。

 いやいや、そんなテクニカルタームだけはないのだろう。

 1stに溢れていたのは、いわば「若気の至り」であった。これまでにない、そして今の状況の中にもない、何か面白いこと・新しいことをやってやろう、という強い意志だ。作品としてのまとまりは2枚目以降に較べると寄せ集め的だし、2曲目の「カフェ・ド・サヰコ」なんかがそうだが、必ずしも昭和歌謡になっていない曲もある。
 それでも、このアルバムは素晴らしい。機材の不足や録音技術の稚拙さを補って余りある、荒削りな若々しさが横溢しているからだとおれは信じている。

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 もう20年以上が過ぎたが、寡聞にしてゲルニカのフォロワー、あるいはエピゴーネンが現われたという話は聞かない。それだけユニークな存在だったってことの何よりの証だろう。

 冒頭に紹介したとおり、上野はちょっとマニアックなミュージシャン、また、コンポーザーとして今でも現役で頑張っている。太田は到底メジャーにはなれない画風だが、むしろ海外での評価の高いアーティストでこれまた頑張ってる。
 しかし、戸川純は・・・・・・もうあえて詳しくは書かないけど、その辿った路は、「アングラの歌姫」という呼称に踊り踊らされ、色んなものをすり減らして、結局は自壊して行った道程だったような気がする。不幸なことだ。

 平成ももうすぐ20年、ゲルニカのことを考えると、昭和が二重の意味で遠くなってしまったことを悲しく思い知らされる。
 


こっちはソロの方ね。シングルカットされたこれはかなりヒットしたなぁ〜。

2007.06.09

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