「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
本当の実験精神・・・・・・This Heat

 
1stと2nd、歴史的名盤と断言できます。

http://blog.diskunion.net/より

 ディス・ヒート、ったって、もう知ってる人はそんなに多くないだろうし、それに彼らについて書こうとしてるおれにしたってそんなに詳しいワケぢゃない。何故なら正式のアルバムは上に掲げた2枚、あとは数枚のシングルしかないし(他は全部解散後の未発表音源の発掘)、いわゆるコマーシャリズムに対してもトコトン背を向けていたために、とにかく情報が少ないのだ。

 まったく名前を知らないって人のためにおさらいをしておこう。ディスヒート(This Heat)とは、70年代末期から80年代初頭に掛けて活動したイギリスの3人組のバンドである。
 元々カンタベリー一派に属するクワイエット・サン(Quiet Sun、P・マンザネラも在籍)のタイコだったチャールズ・ヘイワードっていささか変わり者のオッサンが、これまたチャールズなバレンさん(ギター)と組んだ実験ユニットを母体として、そこに音楽はまったくシロウトの画家・ガレス・ウィリアムズが合流して76年ごろに活動を開始した。
 79年に1st、81年に2nd「Deceit」を発表するものの、ガレスがインドへダンス修行に出てしまってバンドは解散。良く言えばやるべきことをやりつくした、っちゅうか、ネタが尽きた、っちゅうか。

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 その音は一言では説明しづらい。元祖「音響工作派」として捉える向きも多いように思うし、実際アプローチ的には似たものを感じる。要はスタジオ、っちゅうか納屋であーでもないこーでもないと何年にもわたって録音したテープを元に、それをリミックスしたり、新たな演奏をかぶせたりしながらロック的な作品に組み上げていったのである。いわば「既成のイデオムを解体して新たな地平を探る」って手法が、「脱・構築」なんて叫ばれた時期とも重なり、また、初期パンクの嵐が一巡し、オルタナティヴムーヴメントが起こり始めて、直情径行型の3コードとシャウトに食傷気味だったちょっとスノッブな連中を中心に大いに受けたのだった。
 ・・・・・・って、実際ディス・ヒートの音楽って難解っちゃ難解だけど、ものすごくロック的にカッコいい。

 一方で歌詞はワリと単純だ。今の時代からすると学生運動っぽい、と言えば良いのかな?当時の米ソ両大国に対する反帝国主義、反戦・反核といったテーマのことが繰り返し歌われる。ちょっとアオいよね、これって(笑)。カンタベリーからR・I・Oやレコメンデッド系に共通する特徴かな?T・ホジキンソン率いる「The Work」とか・・・・・・あ、そもそも元締め格のR・ワイアットがガチガチのコミュニストみたいだしねぇ。

 ま、おれはコミュニストは好きではないが、歌詞ってどぉでもいい方だし、どだい英語は聴き取れないんで気にならない。音そのものなんです。
 でも、実際この青いアルバムを聴いたとき、おれは何だかよく分からなかった、というのが正直なところだ。1stを初めて聴いたときの衝撃は忘れられない、とか書ければちったぁカッコいいのかも知れないが(笑)。

 ピピピピーピロピロピロ〜、みたいな1曲目から始まって、再び最初のピピピピーピロピロピロ〜に戻って終わるこのアルバム、すでにノイズ〜インダストリアル系にドップリ浸かってたので、正直あまりインパクトのある音にも思えなかった。今だから白状できるけど、当時はどれだけピーピーガーガー鳴ってるか「だけで」判断してたことは否めず、ノイジーで重く、キモチ悪い音だけど全体としては極めて抑制の効いた構成はも一つ物足りなく思えたのだ。若気も汗顔もどっちもあわせて至り、っちゅうヤツだ。あ〜、恥ずかしい。

 彼等のスゴさを理解したのは、実際に音楽を作り始めてからだ。

 しばらく後になっておれはバンドをやり始め、無い才能と智恵を絞って楽曲作りに励むようになったのだけど、実際、曲作りなんてものは無から有を生み出す作業ではない。頭の中にすでにありはするものの、どうにも錯綜してなかなか形を結んでくれないイメージを果てしないもどかしさでもって掴んだり、汲み取る作業である。だからギターがしゃがしゃ弾いてどうなるもんでもない。

 さて当時、1万円くらいで買ったカシオトーンのサンプリングキーボードをおれは持ってた。ピアニカくらいの大きさで、右上についたマイクで何かを録音すると(限界がたしか2秒くらいだったかな?)それを鍵盤で音階にしてくれる。あとはプリセットでピアノやオルガン、ストリングスといった一通りの音色が入ってた。生意気なことにポリフォニック。
 もちろんオモチャだから、音質云々はお話にならないが、サンプラーなんてものが出始めてちょっとおもしろそうだったのと、いくら弾けないにせよ、キーボードでピコピコやるとギター弾きではひねり出せないパターンが出たりするので買ったのだ。でも、そのチープさは実際、サンプラーっちゅうより「笑い袋」に近かったな。

 最初はちゃんちきおけさぢゃないけど皿叩いたり、マイクのところで絶叫したりしてたのだが、言うまでもなくそんなんではそのうち飽きてしまう。キーボードとしてはボチボチ使っても、サンプラーとしてはサッパリ使わなくなってしまったのだが、ある日、ちょっとしたイタズラ心でステレオで鳴ってるレコードをスピーカーに押し当ててサンプリングしてみた。
 限界の長さまで録ったのを弾いても単なる曲の断片だったが、速いパッセージなんかを一瞬だけサンプリングして、スロー再生し、さらにオクターブ上や4度・5度を重ねたりすると、とんでもないリフやシーケンスパターンが出てくる。それをさらに整理して譜面に起こしたりするとカッコいいパターンはホイホイ生まれてくる。

 ・・・・・・ずいぶんこの闇雲な作業におれは熱中した。したけどしかし、結論を言ってしまうと曲として結実したもののはほとんどなかった。機械仕掛けの偶発性にそうやすやすと神は宿ってくれないし、何より根気と気力が続かない。
 よく中途半端なミュージシャンが能の無いのを棚に上げてインプロヴィゼーションだのチャンスオペレーションだの口走って単なるムチャクチャをやるけれど、いろんな意思の力、みたいなモンが欠けてるとそれは単なる雑音に過ぎない。それといっしょ。

 しかし、ディス・ヒートはやっちゃったのだ。そんな手法でものすごいアルバムを2枚もこしらえてしまった。単なるおれの勝手なアテ推量だが、彼らがボツにした音源ってアルバム100枚分とかあるんぢゃないだろうか。解体と再構築はよほどのタフさがないと行えないし、ましてやそれを鑑賞に耐える作品へと仕上げるには、信じられないパワーを必要としたに違いない。
 本当の実験精神、とは彼等にこそ捧げられるべき言葉だろう。

 もう発表されて30年近くたったけど、言わずもがなの必聴だ。間違いない。日本はいい国で、こんなマイナーなバンドでも未発表音源やライブ、ブックレットを加えた豪華絢爛ボックス入りが再発されてたりする。

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 最後に余談をいくつか。

 昨年亡くなった北村昌士が編集長やってた「Fool’s Mate」の内容がプログレ中心からオルタナ中心に変わって行った頃、イチ押しってーか三押しになってたのがTGとこのディス・ヒート、そしてレモン・キトゥンズ(Lemon Kittens)だった。毎号毎号何がしかこの辺のヨイショ記事が載ってた気がする。無論、おれもそれで知ったのだったが、不思議なことにレモン・キトゥンズにはハマらなかったなぁ〜。D・ダックス美人でエクストリームだったんだけどなぁ。今から気合入れて聴き直そうかなぁ。

 ディスヒートへの賛辞を惜しまないミュージシャンやバンドはかなりの数に上るが、その中に忘れちゃいけない「あぶらだこ」がいる。1st「木盤」に「この人は、この人は、この人はディス・ヒート!」なんて人を喰った歌詞があったし、たしか1st全曲を完コピする、なんちゅうにわかに信じがたい離れ業のエピソードがあったりもしたはずだ。

 ちなみにヘイワードさんは未だ現役で頑張ってるようだ。同じ一統のF・フリスの「マサカ(Massacre)」再結成メンバーになったりしてる(話はそれるけどまさかマサカまで再結成するとはね〜。81年の「Killing Time」は狂ったテンションの変態ジャズパンクハードロックの名盤だっせ。これまた必聴)。バレンさんのその後はよく知らない。実は最も変人だったと思われるガレスさんは数年前、北村氏同様まだそんな歳でもないのに亡くなってしまった。
 したがって、もう彼らの再結成はありえない。ただし、彼らまでが再結成するようになっちゃ世の中おしまいだとは思うけど。
 




メンバー近影。こんな画像しか見つかりませんがな。
ヘイワードさんは「くりぃむしちゅー」の有田にちょと似てる。


2007.01.17

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