「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
我、B級ギターを偏愛す(X)・・・・・・Fenderの巻


恐ろしく状態のいい61’ミュージックマスター。子供が落書きしたフェンダーって雰囲気。

フェンダー最大の怪作、スィンガー。どこかのスーパーの景品として作られたらしい。

http://www.kisweb.ne.jp/GENZO/index.htmより

 あ〜あ、やっちゃった!!神をも畏れぬ所業でフェンダーまで血祭りに上げようとしてるよぉ〜・・・・・・でもさ、その独特のB級性あればこそ、おれはフェンダー党なんだわ。ラブなんだわ。だから許して!草葉の陰のレオさん!前に「ストラトがサイコー」ってタイトルでトリビュートも書いたぢゃないですか。

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 フェンダーのB級性には二つある。

 言うまでもなくフェンダーは企業としてギブソンと並ぶ押しも押されぬA級である。アメリカ本国、メキシコ、韓国に工場を有し、パテント契約だかなんだか日本フェンダーもある。傘下にはグレッチ・ギルド・サンその他多数の子会社を持ち、歴史に残る素晴らしい銘品の数々を生み出し、今なおトップクラスの販売力も持っている。エンドースユーザーは数知れず、フェンダーの音なくしては存在しえなかった名盤、名演もあまたある。
 それまでのギター製作のイデオムを打ち破るような革新的な構造・材質。ギブソン系のエレキが古典的な弦楽器製作の方法論の延長線上にあったのに対し、フェンダーは極めて合理的かつ独創的といえるギター作りを行った。作りがチャチ、板をボルトで止めただけ、って批判はあるが、それは従来のギター作りの流儀に則ってない、ってことに対する拒否反応に過ぎない・・・・・・でもまぁ、実際ヘンっちゃヘンだ。

 どこか、「余ってた何かの部品から適当に寄せ集めてこしらえたような雰囲気」が漂っているのは否めない。事実、テレキャスの前身であるブロードキャスターの部品にはラヂオ屋さんだったレオが、家にあったもので適当にこしらえたのがのがあるらしい。これがフェンダーのB級性の第一だ。冒頭に述べたB級性もこの雰囲気のことを言っているが、語りだすと長くなってしまうので今回は触れない。

 そしてもう一つのB級っぽさ・・・・・・それは「スチューデントモデル」と呼ばれる一群のエントリーモデルの存在だ。これだけ大ブランドにして大企業のクセに、どれもどえらくちゃっちぃ作りである。

 モデル的に言うと、ミュージックマスター・デュオソニック、ムスタング、ブロンコ、リードT・U、アッちゅう間に消えたブレット、現行ではサイクロンあたりがこれに相当する。いずれもショート〜ミディアムスケールでピックアップが何だかちょっと少ない感じなのが特徴だ。
 最近は、スクワイヤブランドでストラトやテレキャスのエントリーモデルを格安で売りまくってるので、いささか事態がややこしいけれど、これらも除外しよう。B級ギターとしての愛情が湧かないのだ。材質がどぉこではなくて、何か作り手側の創意工夫が見えてこない気がする。「いや〜、韓国で作らせて人件費も削ったし、パッと見ぃは変わらへんで。でも、ちょっとここまでチープにしたらナンボなんでもフェンダーの看板つけれんなぁ〜、ぢゃスクワイヤってしとこ」みたいなカンジかな?

 往年のスチューデントモデルには、急増する日本製エレキに対抗するために、知恵と工夫でコストを限界まで下げつつ、メーカーとしての良心を保とうとしたけど、ありゃぁ〜、どうしようもなく安っぽくなっちゃいましたぁ〜!!みたいな雰囲気があって、何ともB級のほほえましさを感じるのだ。

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 まず、比較的マトモなとこではムスタング。言うまでもなくチャー大先生が長年ご愛用で有名なヤツ。そんなワケで本国ではとうに製造中止になってるが、フェンジャパではいまだにレギュラーラインで作られたりしてる。何と、廉価モデルのクセにトレモロユニットは専用設計で新たに作ったっちゅうから、気合は入ってたのだろう。
 しかし、根本的な問題がある。このトレモロ、チューニングがムチャクチャ狂いやすいのだ。これについてはヨッちゃんこと野村義男が「ダウンの後に一回アームを引っ張り上げればいい」なんて申してたが、いえいえなかなかどうしてどうして。狂わないようにセッティングを出すのは非常にむつかしい。
 あと、低音がスカスカ、サスティンが弱いって問題もある。ショートスケールだから仕方ない部分もあるが、上記のトレモロの構造に加え、元々ピックアップコイルの巻き数をコストダウンのために大幅に減らしたことが原因といわれてる。スイッチも何だかチャチなスライドスイッチで、音色は多彩だがピックアップの切り替えは異常にめんどくさい。ま、当時の最高級ラインであったジャガーにも同じようなスイッチがついてるけどね。木もアッシュやアルダーではなくポプラが多用されてるのもコストの問題だろうし、初期モデルではボディーのコンター加工もコストダウンのために省略されている。ペグもプラスチック・・・・・・・縷々書いてるうちに欲しくなって来たぞ(笑)。
 ちなみに、ネックだけ付け替えてさらにショートスケールにしたモデルも若干だが存在する。どうやら「カラダが大きくなったらネックだけ付け替えると長く使えるよ」みたいな趣旨で作られたものらしい。セットネックではこんなマネは絶対できないので、デタッチャブルの利点を生かしたメーカーの良心と言えるだろう。
 中古で手に取ってみたことがあるが、パーラーギター並みにスケールは短かった。残念ながら予備のネックはついてなかった(笑)。


58’デュオソニック、初期モデルはピックアップの角度に特徴

これがブロンコ

ムスタング。これは日本製のもの

 続いてミュージックマスター・デュオソニックの出来損ないブラザーズ、異母兄弟のスィンガー。今でこそヴィンテージが高騰しておいそれと手が出せないけれど、二昔前くらいは本家といえどもこの辺はヴィンテージ扱いされてなかったもんな(笑)。コイツ等スチューデントモデル、っちゅうよりピューピルモデル、って呼びたい内容で楽しい。もちろんショートスケール、通常のムスタングよりかなり短いんぢゃないんかな。
 ミュージックマスターは上掲の通りピックアップが1個、それもフロントだけ。ジャズギターかよ?(笑)。
 デュオソニックはそれにリアピックアップを加えただけだが、そこはフェンダー、ちょっとヒネリがあって、スイッチをセンターにするとハムバッキングになるところが一工夫。いずれも、ブリッジやテールピースはペケペケで、極限までコストを切り詰めたことが歴然としてる。
 特にすごいのは幻のモデル・スィンガー(※)だろう。どこぞのスーパーの景品用に作られたと言われるモデルで、ミュージックマスターをベースにヘッドストックの加工さえ省略されている。でもナカナカ近未来的なデザインはカッコいい。どんな音するんやろう?

 ※同型でミュージックランダー、って名前のもあるらしい。スインガーに「スワップマニア」の意味があるから改名したのかも知れない。

 んでもってブロンコ。ムスタングをさらに簡素化した感じ。たしかこれは案外新しいモデルで、CBSに経営が移ってからのリリースではなかったか。そのため、これまでの職人気質な感じより、コスト削減一点張りの安っぽさが先に立つ。ピックアップは時代を反映してか、リアに1個。おそらくはムスタングの流用だろう。トレモロユニットは何だかよく分からないチャチな仕組みで、おそらくはムスタングよりさらにコストを下げるために新たに作ったものと思われる。ほとんど利かないのがご愛嬌。その分チューニングの狂いは少ないかもしれない(笑)。

 このブロンコと上述のミュージックマスターについては想い出がある。昔、雑誌の裏見返しによく載ってた「二光の通販」って覚えておいでだろうか。「VIVA」とか書いてあったのだが、いまだに意味はよく分からないアレだ。
 二光っちゃぁビザーレな「トムソン」「トーマス」で有名だが、その同じ白黒ページに「君にもホンモノのフェンダーが買える」とかのキャッチコピーで、この2機種が載ってたのだ・・・・・・ってーか、楽器屋の店頭で滅多にミュージックマスターやブロンコは見たことなかったので、国内で流通したほとんどは、案外この通販でサバかれた分だったのかも知れない。
 しっかし、大枚はたいて「ホンモノのフェンダー」とやらを買って、家に届いたダンボールとプチプチの梱包ほどいてこれだったら泣きまっせ、ホンマ。何かもう、聘珍楼行って、焼き飯だけ食って出てくるようなモンやね。普通の中華料理屋でいろいろハラ一杯食べた方が絶対楽しい(笑)。

 リードについてはCBS末期の怪作と言えるだろう。スケールは普通だったので、スチューデントモデルとは呼べないのかもしれない。フェンダーのお家芸であるトレモロを省略し、シングル2個もしくはハムバッキング1個のどちらかが選べた。だからTとUってモデル名(※)。案外戦略モデルだったのかも知れないが、ものの見事に売れなかった・・・・・・とは申せ、おれ的にはこれのメイプルネックの黒ボディーなんてシンプルでカッコいいと思ったけど・・・・・・いずれにせよブロンコ同様、廉価版であることを前面に出しすぎた作りがどうにもウケなかった。
 このリードもホンの数年前までは5万円以下、ヘタすりゃ3万円台でかなり程度のいい中古品が買えたものだが、出回るのがたいていワインレッドのモデルなのと、持ってみるとフェンダーとは思えないくらいに重たいのが気になってイマイチ食指が動かず、そのうちそのうち、と思ってる間に相場が高騰してしまった。

  ※最終的には「V」というテコ入れモデルも出された。

 ブレットについては語れるほどの知識も体験もない。80年代初頭に一時期売り出されて数年で消えたモデルだが、おれも実物は数度しか見てないし、何かブサイクなギターだったなぁ〜、くらいしか記憶くらいしかない。スチューデントモデルかどうかもよく分からない。

 最後にサイクロン。これは現行モデルで、たまに楽器屋で手に取ってみたりするけど、あまり良く知らない。フロントがシングル、リアがハムバッキングでサウンドレンジは広そう(※)。ムスタングに似たボディにストラトと同じトレモロユニット。メキシコで生産されるムスタングの後継機種といえるモデルで、まぁまぁ好きだが、こいつも見た目のワリには重い気がする。木が良くないのかもしれない。
 でも黄色とかオレンジとかのポップなのならガシャガシャコード弾くのに1本欲しい。市場では意外に人気あるみたいで、元々廉価モデルのクセに今はスクワイヤから格安のモデルが出てたりもする。

 ※シングル×2、シングル×3、ハムバッキング×2等のモデルもある。

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 ・・・・・・と、ここまで駆け足でフェンダーの底辺を支えるB級モデル群について述べたが、以前も書いたようにぶっちゃけ実用ではストラトかテレキャスがあれば充分だ。やはりこの2本は完成度が高い。
 ムスタングやリードならメインギターにできる気もするが、ミュージックマスターやブロンコでは、いくらヘタなおれでもメインに据えるには躊躇してしまう。音の問題と言うより、そこまでしてフェンダー弾きたくないやい、って感じかな。そりゃまぁ、そこにはちょっとエエカッコしぃの見栄もあるけどさ。

 でも、家にこれらのお子様向けが2〜3本ある生活を想像すると楽しい。何かデキの悪さと、それでも一生懸命頑張ってるケナゲさに、「おうおう、オマエもいいトコあるんだよなぁ〜。おお、ピックガードだけはアノダイズドか、オマエもリッパになったもんだ〜。んん〜、相変わらず低音が弱いのう。よし、ぢゃ今度は弦のゲージを変えて太くしてみようかのぉ〜。」ってな愛で方をしてしまいそう(笑)。
 デキの悪い子ほどかわいいと言うではないか。それも、グレてるならともかく、何か素直だし、いじらしい感じしません?

 そう、フェンダーのB級スチューデントモデルには、「子ゆえの闇」にハマりかねない危険な魅力があるのだ。


今見るとスリムでめっちゃカッコいいLeadU。ESPのチャーモデルに酷似。


薄倖のブレット。ほとんど印象おまへん。作り間違えたテレキャス??


サイクロン。基本形のこれがいっちゃんカッコエエかも

2006.03.21

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