「シズカナカクレガ」ヘヤフコソ
辺境にあり続けて・・・・・・VirginPrunes


狂ったような全盛期のライブパフォーマンスのショット

http://www.virginprunes.com/より

 アイルランドのダブリンは優れた2つのバンドを生み出した。背景に永年続くシリアスな宗教的・政治的緊張があったことも何らかの影響を及ぼしているのかもしれないが、バンドに限らずこの町出身の優れた芸術家は数多い。
 1つは言うまでもなく2度のグラミー賞に輝き、今や世界的な存在となった存在となった「U2」・・・・・・で、もう一つは、っちゅうとこれが今回ご紹介の「Virgin Prunes」なのだ。

 そんなバンド知らんわいっっ!!と一蹴されてしまいそうだが、たしかにU2が正統派ロックの王道とするならば、ヴァージンプルーンズはロックの辺境を歩み続けたバンドといえる。実際、彼らの作品タイトルには「Pagan(異教徒)」「Heresie(異端)」といった言葉が冠せられているものが多い。それゆえ知名度は圧倒的に低い。バンドとしての活動停止は1986年、すでに20年の月日が経った。

 驚くなかれ、何とU2とこいつ等は兄弟バンドである。たしかギター同士は実の兄弟だったし、バンドのメンバーの多くはガキの頃からの遊び仲間というから恐れ入る。U2のボノやエッヂ、ヴァージンプルーンズのゲヴィンやグッギというメンバーの名前も、元はといえば彼らの仲間内でのアダ名である。何とまぁ不公平なことに神はアイルランドのごくごく狭い地域に、それもまた同時期に才能あふれる人物を作りすぎてしまったのだ。
 ちなみにU2の1stや3rdの坊やと、プルーンズの2ndシングルの左端に出てくる坊やは同一人物。どっちのバンドだったか忘れたがメンバーの末の弟らしい。小学生の弟をライブに引っ張り出したほぶらきんと変わらんなぁ(笑)。
 もう一つ。確証がないのであくまでおれの私見だが、ヴァージンプルーンズ末期のシングルのジャケットに写ってる、ラージヘッドのメイプルネックに黒ボディ・黒ピックガードのストラトは、初期U2でエッヂが弾いてたのと同型に思われる。兄弟で全く同じギターを買うとも思えないし、これは同じものではないだろうか?知ってる人がいたら教えて欲しい。

  
U2の1st、3rdとVirginPrunesの2nd7”シングル。世界一顔写真が出回ったお子様。

 ま、U2との関係はこれくらいにしとこう。

 出だしからして彼等は異様だった。ギターとベースとドラムにボーカル3人(笑)。時代はオレンジレンジのメンバーが生まれるか生まれないかの頃のことだから、ドゥワップ以外でこんなコトするのはほとんど反則だな。この編成だけでもどれだけヘンなバンドかお分かりいただけるだろう。聴き始めたのはたしか、フールズメイトに小さくデビューシングルが紹介されたのと、よく顔を出してた難波のレコード屋のニーチャンに奨められたのがキッカケだったと思う。

 -------コイツ等、何かヘンでおもろいで〜。

 まったく説明になってないが、若気の至りでヘンなものに飢えていた者にとっては、「何かヘンでおもろい」、この言葉だけで十分である。
 この1stはあろうことかほぼリアルタイムで日本版が出た。ちょうどニューウェーヴ・オルタナティヴってーのが盛り上がりつつあって、ラフトレード(イギリスの元祖インディペンデントレーベル)の販売を徳間音工が引き受けたからみで、ポロッと出ちゃった感じ。何とオトクなことに33回転で4曲入り。無理に音質に劣る輸入盤買っても仕方ないんで、おれはこっちの日本盤を買った。


このジャケットからやってることが正しく想像できるヤツがいたら尊敬します。

こんなんですぅ〜(笑)。

 ウサギと戯れるヴィクトリア朝っぽい雰囲気の少女・・・・・・??????凶暴でどぎついジャケットワークが目立つパンクやらニューウェーヴやらの世界で、このデザインセンスがまずむっちゃくちゃにヘンである。
 早速家帰って聴くと、ますますよく分からない。1曲目は約束事を破ったパンク、みたいな曲、みんなでワイワイゆうとる。2曲目は何かほとんど楽器なくて舌足らずな語りのみ、3曲目はマッタリしたテンポのリズムボックスと単調なギターをバックに、同じボーカルがキモチ悪い歌い方。最後は深いエコーのかかったシンセにこれまた深いエコーのボーカルが重層的にかぶさる、環境音楽に無理やり歌をくっつけたような曲。

 ??????

 おれは混乱した。ここには「脈絡」とか「一貫性」っちゅーものが全くない。もうちょっと言えば、バンドとしてのスタンス、がサッパリ分からない。それに何でこの音でこのジャケットなんだ?こぉゆう時おれは黙って10回20回と聴くことにしてる。理解したって仕方ない、そぉゆうモンなんだ、と「諒解」することが大事なのだ。そしたらハマッてしまった。
 すぐさまおれは上に挙げた2ndも買った。これはだいぶフツーのロックしてる感じ。それにしてもわずかシングル2枚で異常に多彩だ。

 さらに矢継ぎ早に問題作がリリースされる。「A New Form Beauty」と名づけられた連作で、1作目が7インチ、2作目が10インチ、3作目が12インチ、4作目はライブカセット、とここまではおれはオリジナルをわざわざオーダーして取り寄せたので、ブツはたしかに存在したのは間違いないが、5作目のビデオ、6作目の本は結局出なかったと思う。7までリリースされる予定だったのだが、どのようなメディアを最後に持ってくるツモリだったのかは不明のままだ。
 内容はこれまでのバラバラなベクトルがさらに拡散した感じ。日本民謡みたいな曲まである。それをオフホワイトで統一したシンプルなジャケットで一まとめにして「美の新様式」と来たもんだ。

 少し分かったような気がした。彼等は要はアンチクライストで、異教や不具、畸形、白痴、片輪、犯罪者、賤民といったあらゆる辺境の聖性を形にしようとしてるのだ。実際ボーカルのヘンな歌い方するヤツは、ガキの頃の病気が原因で上手くしゃべれないからそぉゆう歌い方になってしまうらしい。なぜ、主催するレーベルが「Baby」って名前なのか、子供の写真がジャケットに使われるのかも、つまりは幼い子供がキリスト教的な(これは欧米においては「社会的な」と換言しうる)秩序に毒されてない「イノセント」な聖性を有した存在だからだ。子供のやることに脈絡はない。彼等は「聖なる異端」を子供に見たのであろう。

 さらにフランスのアンビタシオンスーシッドから豪華絢爛ブックレットつきボックス入り10インチ2枚組「Heresie」がリリースされる。タイトルからしてさもありなんだ。何だか徐々にヴェールをはいで全貌を現してきた感じ。片方が長い組曲、もう片方がライブ盤となったこれが、おれ的には彼等の最高傑作ではないかと思っている。
 余談だがこのレーベル、フェティッシュな作品をちょびっとだけ出すので有名で、買うのにたしか5,000円位かかった。ちょと法外ではあった。

 ほぼ間髪を入れずにフルアルバムも出される。何ちゅう旺盛な創作意欲か。しかし、思えばこれがケチのつけ始めだった。

 「If I Die,I Die」と判じ物のようなタイトルのこのアルバム、何がいけないってプロデューサーがそもそも最大の人選ミスだわ。元Wireのコリン・ニューマン。パンクシーンの中では、凍りついたような、っちゅうかクールに醒めた、ある意味モダンで抽象的な音が身上だったバンドである。解散後、ソロでも活動しながら、プロデューサーとして引っ張りだこになっていた。実力はだからあった。
 でも彼等の世界にはまったく合わなかった。ビシバシ4拍踏みのバスドラとドラム缶のようなスネアがよく通るタイコ、あくまでソリッドなギターの音色、整理された音数と曲の構成、分離のよいクリアーなミックスダウン・・・・・・その後の主流となった音作りだが、このオカゲでドロドロした割り切れなさとワケの分からなさがきれいさっぱり失われてしまった。
 ホームレスを風呂に入れて床屋に連れて行けば、ただのちょっと怪しいだけのオッサンになるのといっしょだ。かくして彼等は奇妙なメロディーライン以外は、全く普通のバンドになってしまったのである。

 皮肉なことに彼等の活動は段々認められてきてポジティヴパンク、なるムーヴメントが起きる。ちょっとカテゴライズしてしまうには志向性がバラバラで苦しい部分もあるが、まぁ、ヴァージンプルーンズのパンクっぽい要素だけを取り出したような感じと言えばよいかも知れない。セックスギャングチルドレン、サザンデスカルト、アメリカ西海岸のバンドなのに日本人ベーシストがいてフランスから作品を出し続けたクリスチャンデス・・・・・・

 しかし本家の彼等自身はどんどんつまらないバンドになっていったのだった。

 ゲスの勘繰りをさせてもらうならば、正直、彼等自身にもメジャーになることへの色気があったのは事実だろう。目指した方向は違うとはいえ、幼友達は今や世界的な成功の階段を着々と登ってるワケだし、難解で異様な路線ではポピュラリティの獲得はおぼつかない。
 しかし、この作品を機とした路線変更が、結局バンドの自壊を招いたような気がする。最終的には、ハッキリ記憶にないがオリジナルのボーカルが三人とも辞めてしまい、名前もヴァージンを取っ払ってただの「プルーンズ」として出直しを図ったものの、それでも上手く行かずに活動を停止したような気がする。おれは最後までは聴いていない。

 辺境を歩み続けてこそ、だったのだ。

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 最後に蛇足をいくつか。

 驚いたことに彼らの公式ホームページが存在する(http://www.virginprunes.com/)。画像はそっから借りてきたものだ。潔いことに再結成なんてコトは考えてないようで、あくまで過去の活動記録をキチンと整理しておこう、って態度は好感が持てる。また、重要なことだ。メンバー個人のサイトもそれぞれあって、近況を見ると各人それぞれソロアーティストとしてかなりメジャーらしく、盛んに活動しているようだ。何だかうれしい。

 独特の美意識に裏打ちされたヴァージンプルーンズの世界は、ポジティヴパンクを挟んで、インダストリアルやメタルとの融合等、いろいろな変遷を経てすっかり原形をとどめてないものの、未だに一つのカテゴリーとして存在し続けてる。言うまでもなくいわゆるヴィジュアル系〜ゴスがそうで、この系譜の末裔に相当する。まぁ、ここまでの綿々とした流れを全てリアルタイムに体験してるのって、オートモッドのジュネくらいだろう(笑)。

 ちなみにおれは一つ一つ楽曲そのものにはあまり影響は受けなかったが、ごった煮的な彼等の創作のあり方には、自分自身そのような傾向も備わってたのもあり、正直かなり大きな影響を受けている。
 実のところ、色んなテーマや方向性を一つのサイトに詰め込んだここもそうなのだ、ってコトを告白して終わることにしよう。


今のヴィジュアル系バンドのジャケットと言っても通じそうな「Heresie」。必聴!!

2006.03.20

----Asylum in Silence----秘湯 露天 混浴から野宿 キャンプ プログレ パンク オルタナ ノイズまで
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